『断崖』

連休中は、ブルーレイで『断崖』を見た。

断崖 Blu-ray

断崖 Blu-ray

  • 出版社/メーカー: IVC,Ltd.(VC)(D)
  • 発売日: 2019/11/29
  • メディア: Blu-ray
1941年のアメリカ映画。
監督は、『レベッカ』『逃走迷路』『疑惑の影』『白い恐怖』『ロープ』『見知らぬ乗客』『私は告白する』『裏窓』『泥棒成金』『ハリーの災難』『知りすぎていた男』『間違えられた男』『めまい』『北北西に進路を取れ』『サイコ』『鳥』『マーニー』『引き裂かれたカーテン』『トパーズ』『フレンジー』『ファミリー・プロット』の巨匠アルフレッド・ヒッチコック
製作は、『キング・コング(1933)』『風と共に去りぬ』『レベッカ』『白い恐怖』『第三の男』の大プロデューサー、デヴィッド・O・セルズニック
脚本は、『疑惑の影』のアルマ・レヴィルと、『レベッカ』『逃走迷路』のジョーン・ハリソン。
音楽は、『フランケンシュタインの花嫁』『レベッカ』『サンセット大通り』『裏窓』の巨匠フランツ・ワックスマン
撮影は、『イースター・パレード』『マイ・フェア・レディ』のハリー・ストラドリング。
主演は、『レベッカ』のジョーン・フォンティンと、『赤ちゃん教育』『泥棒成金』『めぐり逢い』『北北西に進路を取れ』『シャレード』の大スター、ケーリー・グラント
共演は、『ロープ』『十戒』のセドリック・ハードウィック、『レベッカ』のナイジェル・ブルース、『レベッカ』『白い恐怖』『見知らぬ乗客』『北北西に進路を取れ』のレオ・G・キャロル
モノクロ、スタンダード・サイズ。
穏やかなテーマ曲。
列車のコンパートメントで、ハンサムだがちゃらんぽらんな性格のジョニー(ケーリー・グラント)と、美人だが内気で野暮ったいリナ(ジョーン・フォンティン)が同席している。
リナは『幼児心理学』の本を読んでいる。
車掌が検札に来る。
リナはヘゼルディーニ行きの1等の切符を持っている。
ジョニーはヘゼルディーニ行きの3等の切符しか持っていない。
車掌から差額を払うように言われるが、所持金が足りない。
見ず知らずのリナから切手をもらって、差額分だと言って車掌に渡した。
もう、これだけでロクでもない男だということが分かる。
カネがないクセに、偉そうなスーツを着ている。
僕も学生の頃、分不相応にラルフ・ローレンでオーダー・スーツを作ったりして、カード破産寸前にまで行ったことがある。
リナが新聞に目を落とすと、目の前の男性(ジョニー)が上流階級の婦人と一緒に写っている。
彼は社交界の有名人であった。
で、目的地に着いた。
ジョニーは、上流階級の婦人達から記念撮影を求められる。
しかし、彼の目を引いたのは、男勝りに馬を乗りこなすリナであった。
周りの女性達に彼女のことを尋ねるジョニー。
彼女がお嬢様だと聞いて、「紹介して」と頼む。
彼女の父親はマクレイドロウ将軍で、大きな屋敷に住んでいた。
ジョニーは女性達とリナの家を訪ねる。
ジョニーが何気なくリナの本を手に取ると、中に例の新聞の自分の写真が挟まっていた。
皆で教会に行くことになったが、途中でジョニーはリナに、「二人で散歩しよう」と持ち掛ける。
軟派なジョニーは彼女を口説こうとするが、ガードは固い。
しかし、彼女が家に帰ると、両親が「娘は結婚するタイプじゃない」と話しているのが聞こえた。
そこへ、ジョニーが現れる。
リナは、とっさにジョニーに自分からキスをする。
食卓で、リナは両親に「ジョニー・アイガースを知っているか?」と尋ねると、二人とも眉をひそめる。
父親(マクレイドロウ将軍)は、「バクチでイカサマ、その上、女たらしで、ロクでもない」と言う。
しかし、リナは彼と3時に会う約束をしていた。
そこへ、ジョニーから電話が掛かって来る。
ところが、その後、幾らリナがジョニーに連絡しようとしても、一向に連絡が取れない。
木曜の夜7時には、マクレイドロウ将軍主催の狩猟会パーティーがあった。
しかし、ジョニーと連絡が取れないので、リナはそんなパーティーに行く気など全く起きなかった。
そこへ、ジョニーから「パーティーで会おう」という電報が届く。
一転、彼女は肩を出した大胆なドレスを着て、パーティーに飛んで行く。
ところが、会場に着いても、ジョニーはいない。
それもそのはず、彼はマクレイドロウ将軍から招待されていないので、会場に入れるはずがないのであった。
しかしながら、リナが飛んで来たので、彼はまんまと会場に入り、彼女と踊るのであった。
ジョニーはリナを外へ連れ出し、彼女の車でドライブする。
車内でキスする二人。
「女はたくさんいるが、君にはいちばんふさわしい」と調子のいいことを言うジョニー。
リナの家の前で車を停め、書斎でキスする二人。
クレイドロウ将軍の大きな肖像画が飾られている。
まるでジョニーを睨んでいるように見える。
「僕には信用がない」と嘆くジョニー。
リナは、父親の肖像画に向かって、「彼を愛しています」と告げる。
翌日、父親は怒っていて、家の中の雰囲気は大変気まずかった。
リナは用事で出掛けると言って、そのまま婚姻登録所へ行き、ジョニーと結婚してしまう。
ナポリモンテカルロ、パリ、イングランドと、二人は新婚旅行であちこちを回った。
そして、新居へ。
素晴らしく立派な新居で、お手伝いの女性も雇っていた。
リナはお金のことが心配であったが、その話しになると、ジョニーははぐらかす。
実は、ジョニーは新婚旅行のために、友人に1000ポンドの借金をしていた。
ドルじゃないから、ここはイギリスだな。
1000ポンドが現在の日本円で幾ら位なのか分からないが、1000万円くらいなのかな。
そして、ジョニーは文無しであった。
リナは、ジョニーが自分の持参金を目当てにしていたことを知って、愕然とする。
しかし、ジョニーは「ボロ家には住めない」などと、全く意に介さない。
駆け落ち同然で家を飛び出して来たリナが、両親にカネの無心など出来る訳がない。
ジョニーは、「どうしようもなくなれば、また借りるさ。」
こいつは、こういう生き方で世の中を渡って来たのだろう。
まあ、人間のクズだ。
こんな男に惚れてしまったリナも、見る目がなかったということだが、ちょっと可哀想だ。
この先、ずっと彼女は可哀想なままなのだが。
リナはジョニーに、「借金はもうダメ。働くの」と告げる。
「働く?」何を言い出すんだというような目で彼女を見るジョニー。
そこへ、彼女の母親から電話が掛かって来る。
父が結婚祝いをくれるという。
勘当されたのか思っていたリナは、大変喜ぶが、ジョニーは「お金のことも頼んでくれ」などと横から口を挟む。
「よくそんなことを!」
そこへ、結婚祝いが届く。
彼女が実家で大切に使っていたアンティークの椅子が2脚。
彼女は涙を浮かべて喜ぶが、ジョニーは露骨に「椅子なんか要らん」という顔をしている。
ジョニーは、従兄弟で不動産業を営んでいるメルベック(レオ・G・キャロル)の仕事を手伝うことにした。
が、彼女には「この椅子以上の物がもらえると思っていた」などと告げる。
ヒドイね。
そこへ、ジョニーの親友ビーキー(ナイジェル・ブルース)が訪ねて来る。
彼は、口が滑って、ジョニーが結婚した後も競馬場に入り浸っていることを話してしまう。
しかも、例の椅子がなくなっていた。
「競馬のカネのために美術商に売り飛ばしたんだ」とビーキー。
にわかには信じられないリナに、「あいつが賭け事を止める訳がない」と追い討ちを掛けるビーキー。
「結婚してから止めたはず。」
「あいつに椅子のことを聞いてごらん。信じられないようなウソをつくから。」
ああ、いるよね、こういう口から出まかせで生きているようなヤツ。
だが、ビーキーは、ジョニーはそういうヤツだと分かって付き合っているから、いちいち腹も立たないのであった。
案の定、リナがジョニーに問い質すと、「椅子はアメリカ人が持って行った。メルベックの友人。1脚100ポンドで。」
それを聞いたビーキーは、「メルベックはアメリカ人を知らないに10ポンド賭ける」と言う。
で、それはさておき、ビーキーは「1週間、ここに泊めてくれ」と言う。
次の日、買い物に出掛けたリナは、骨董屋の店先に、例の椅子が売られているのを発見する。
彼女は、ビーキーの言うことを信じなかったことを詫びる。
そこへ、ジョニーが、リナへのプレゼントとしてネックレス、毛皮のコート、帽子、更に、ビーキーには高級なステッキ、お手伝いの女性にも毛皮のマフラーなどを大量に抱えて帰って来る。
更に、ワンコまで連れている。
競馬で200ポンドが10倍になったのだと。
しかも、元手は例の椅子を売った代金だ。
「ノミ屋に借金があったが、200ポンドで帳消しにしてもらい、新たな情報を得た」と、全く悪びれる素振りすら見せないジョニー。
本当に人間のクズだな。
どんな神経なら、こんな生き方が出来るのか知らんが。
見ていて、イライラする。
もちろん、リナは怒るが、ジョニーは椅子も取り返して来たと言う。
彼女は一転、喜ぶ。
結局、このクソ野郎を甘やかすからいけないんだが。
彼女が甘いんだ。
で、酒を開けてパーティーを開く。
「最後の賭け事に乾杯!」などと、いけしゃあしゃあと言うジョニー。
が、ビーキーは酒が弱いようで、ブランデー一口で発作を起こす。
友人が苦しんでいても、何故か冷淡なジョニー。
翌日、ジョニーの友人の女性から「火曜日に競馬場でジョニーを見掛けたけど、休みだったのかしら」と聞かされ、不安になってメルベックの不動産屋を訪ねたリナ。
メルベックは、リナの顔を見るや、「告訴は止めにしました」と告げる。
リナには何のことか分からない。
聞くと、メルベックはジョニーを6週間前に解雇したという。
信じられないリナ。
帳簿を調べたら2000ポンド不足しているという。
返済さえしてもらえれば、告訴はしないという。
ショックを受けるリナ。
競馬で勝ったということすらウソであった。
「もう二度と会いません」という置き手紙をして出て行こうとするリナ。
しかし、結局、勇気が持てず、書いた手紙を破り捨てる。
彼女が優柔不断なんだよ。
そこへ、ケリーが戻って来る。
何と、リナの父親であるマクレイドロウ将軍が亡くなったという電報が届いたという。
さあ、これからどうなる?
この後、二人は実家に帰るが、駆け落ち同然で胡散臭い男と結婚したリナには、ロクな財産が遺されなかった。
金策に困ったジョニーが、彼女の保険金に目を付け、彼女は自分が殺されるのではないかという恐怖に駆られる。
展開は非常にスピーディで、後半は、正にヒッチコック調のサスペンスになる。
ただ、ラストが大いに問題だ。
本作の結末には、ヒッチコックも納得していないという。
映画会社からの要請や、検閲の問題などが絡んでいるらしい。
なるほど。
大変な時代だったんだな。
それを聞いて納得したのだが、とにかく、結末は、それまでのサスペンスを全て引っくり返してしまうものだった。
その点が残念。
アカデミー賞主演女優賞(ジョーン・フォンティン)受賞。

Suspicion (1941) Official Trailer - Cary Grant, Joan Fontaine Movie HD

『ロビンソン・クルーソー』を原書で読む(第152回)

(テキスト154ページ、19行目〜)

But as this is ordinarily the fate of young heads, so reflection upon the folly of it, is as ordinarily the exercise of more years, or of the dear-bought experience of time; and so it was with me now; and yet so deep had the mistake taken root in my temper, that I could not satisfy myself in my station, but was continually poring upon the means, and possibility of my escape from this place; and that I may with greater pleasure to the reader, bring on the remaining part of my story, it may not be improper, to give some account of my first conceptions on the subject of this foolish scheme for my escape; and how, and upon what foundation I acted.

as ~ so ~ ~のように~、~と同じように~
this(代)(指示代名詞)(すぐ前に言われたことをさして)こう、こういう、このこと
ordinarily(副)普通に、人並みに
fate(名)運命、宿命
head(名)(知性・思考などの宿る所としての)頭
reflection(名)熟考、内省、黙想
on(前)(関係を表わして)~について、~に関する
folly(名)愚かさ、愚劣
as(副)(前置詞句・副詞の前に用いて)~と同じように
exercise(名)(しばしばthe ~)(精神力などを)働かすこと、使用(of)
more(形)(many、muchの比較級)より多くの、もっと多くの
dear(副)高価に、高く(⇔cheap)
so(副)(接続詞的に/and soとして)それゆえ、だから、それで
with(前)(関係・立場を表わして)~について(の)
now(副)(過去時制の動詞とともに)(物語の中で)今や、そのとき、それから、次に
yet(副)(andまたはbutに伴って)それにもかかわらず、それなのに、しかもなお
so(副)(程度・結果を表わして)(so ~ that ~で)(順送りに訳して)非常に~なので~
deep(副)深く
take root(思想などが)定着する
my(代)私の
temper(名)気質、気性
that(接)(副詞節を導いて)(so ~ thatの形で程度・結果を表わして)(非常に)~なので、~(する)ほど
could(助動)(直説法(叙実法)で用いて)(過去形の主節の時制の一致により従属節中のcanが過去形に用いられて)~できる、~してよい
satisfy(他)(人・欲求などを)満足させる、(人の)意を満たす、(欲望を)満たす
in(前)(範囲を表わして)~において、~内で
station(名)(古)身分、地位
continually(副)断続的に、頻繁に
pore(自)じっくり研究する
means(名)方法、手段(of)
possibility(名)(またa ~)あり(起こり)うること、可能性(⇔impossibility)
escape(名)脱出、逃亡、逃避(from)
this(形)(指示形容詞)この(⇔that)/(近くの時・所をさして)
that(接)(副詞節を導いて)(目的を表わして)~するように、~せんがために
may(助動)(目的・結果を表わす副詞節において)~するために、~できるように
with pleasure 喜んで
to(前)(行為・作用の対象を表わして)~に対して、~に
reader(名)(特定出版物の)読者
bring on 持って(連れて)くる、もたらす
remaining(形)残りの、残った
it(代)(形式主語としてあとにくる事実上の主語の不定詞句・動名詞句・that節などを代表して)
may(助動)(不確実な推量を表わして)~かもしれない、おそらく~であろう(この意味の否定はmay not)
improper(形)(場所・目的などに)ふさわしくない、不適当な(=inapropriate)
give(他)(~に)(事実・情報・名前・意見などを)伝える、告げる、教える
some(形)(不明または不特定のものまたは人をさして)(単数形の可算の名詞を伴って)何かの、ある、どこかの
account(名)(順を追ってする詳しい)話 ・give an account of ~の話をする、~の顛末(てんまつ)を話す
conception(名)構想、着想、創案、考案
on the subject of ~ ~に関して、~について
this(形)この/(対話者同士がすでに知っているもの(人)をさして)
foolish(形)(物事が)ばかげた、ばかばかしい
scheme(名)(組織立った、公式)計画、案(for)
for(前)(目的・意向を表わして)~のために、~を目的として
on(前)(基礎・原因・理由・条件などを表わして)~に基づいて、~による
what(形)(疑問形容詞)何の、何という、どんな、いかほどの
foundation(名)(報道・うわさなどの)根拠、より所
act(自)(~に基づいて)行動する、(~に)従う(on)

I am now to be suppos'd retired into my castle, after my late voyage to the wreck, my frigate laid up, and secur'd under water, as usual, and my condition restor'd to what it was before:

be(助動)(be+to doで)(予定を表わして)~することになっている、~する予定だ
suppos'd→supposed(形)(~する(である))ことになっていて、ことが当然とされていて
retire(自)退く、去る、引きこもる、立ち去る
late(形)最近の、近ごろの、このごろの
voyage(名)(船・飛行機・宇宙船による)旅、船旅、航海、航行、飛行
to(前)(方向を表わして)(到達の意を含めて)~まで、~へ、~に
wreck(名)難破船、破船
frigate(名)(18-19世紀初頭の)木造の快速船(上下の甲板に28-60門の大砲を備えた)
lay up(船を)(修理のために)停船する(通例受身)
secur'd→secured
secure(他)(~を)安全にする、守る
under water 水中に
as usual いつものとおりに、例のとおり、相変わらず
restor'd→restored
restore(他)(人・ものを)(もとの状態・地位などに)戻す、復帰させる(to)
to(前)(限度・程度・結果などを表わして)~に至るまで、~するほどに
what(代)(関係代名詞)(関係詞節中beの補語に用いて)(~ある)まさにその人(もの)
before(副)(時を表わして)以前に、かつて、すでに

I had more wealth indeed than I had before, but was not at all the richer; for I had no more use for it, than the Indians of Peru had, before the Spaniards came there.

wealth(名)富、財産
at all(否定文に用いて)少しも(~である)
for(接)(通例コンマ、セミコロンを前に置いて、前文の付加的説明・理由として)という訳は~だから(=as、since)
have no use for ~ ~の必要(機会)はない
no more ~ than ~ ~でないのは~でないと同じ
Indian(名)アメリカインディアン
Peru(名)ペルー(南米大陸西岸の共和国/首都Lima)
before(接)~より前に、(~する)に先だって、~しないうちに
Spaniard(名)スペイン人
come(自)(人・ものが)(ある場所に)到着する、やってくる

It was one of the nights in the rainy season in March, the four and twentieth year of my first setting foot in this island of solitariness; I was lying in my bed, or hammock, awake, very well in health, had no pain, no distemper, no uneasiness of body; no, nor any uneasiness of mind, more than ordinary; but could by no means close my eyes; that is, so as to sleep; no, not a wink all night long, otherwise than as follows:

it(代)(非人称動詞(impersonal verb)の主語として)(特にさすものはなく、従って訳さないで文の形式的主語となる)(時間・日時を漠然とさして)
one(代)(単数形で)(特定の人(もの)の中の)一つ、1個、一人(of)
of(前)(部分を表わして)~の中の
in(前)(時間を表わして)~(のうち)に、~の間、~中
four(形)(基数を4)4の、4個の、4人の
twentieth(形)(序数の20番)(通例the ~)第20(番目)の
of(前)(距離・位置・時間を表わして)~から、~より
set foot in ~ ~に足を踏み入れる、~を訪れる
of(前)(of+名詞で形容詞句をなして)~の
solitariness(名)<solitary(形)寂しい
lie(自)(~の状態で)横になっている(+補)
or(接)(普通コンマの後で類義語(句)・説明語(句)を導いて)すなわち、言い換えれば
hammock(名)ハンモック
awake(形)眠らずに、目が覚めて(⇔asleep) ・lie awake 寝つけないでいる
well(形)健康で、丈夫で(⇔ill)
in(前)(範囲を表わして)~において、~内で
have(他)(病気などに)かかる(かかっている)、苦しむ
pain(名)(肉体的)苦痛、痛み
distemper(名)(心身の)病気、異状、不調
uneasiness(名)不安、心配
of(前)(関係・関連を表わして)~の点において、~に関して、~について
no(副)(notまたはnorの前に挿入的に用い、強意の否定を示して)いや、いな
nor(接)(否定の節・文の後に用いて)そしてまた~ない
any(形)(否定文で名詞の前に用いて)そしてまた~ない
more than ~ ~より多い、~で越える
ordinary(形)普通の、通常の(⇔special)
by no means 決して~しない(でない)
that is すなわち
so as to do ~するように
sleep(自)眠るように
not(副)(述語動詞・文以外の語句を否定して)~でなく
wink(名)まばたき
all night long ひと晩中、終夜
otherwise(形)異なって、違って(than)
than(接)(other、otherwise、elseなどを伴って/しばしば否定文で)~よりほかの、~よりほかには
as follows(~は)次のとおり(このfollowは非人称動詞で、関係する主節の主語のいかんにかかわらず常に3人称単数現在形で用いられる)
【参考文献】
Robinson Crusoe (Penguin Classics)』Daniel Defoe・著
ロビンソン・クルーソー (河出文庫)』武田将明・訳
新英和中辞典 [第7版] 並装』(研究社)
リーダーズ英和辞典 <第3版> [並装]』(研究社)

『夜の人々』

今年最後のブルーレイ鑑賞は、『夜の人々』。

夜の人々 Blu-ray

夜の人々 Blu-ray

  • 出版社/メーカー: IVC,Ltd.(VC)(D)
  • 発売日: 2019/11/29
  • メディア: Blu-ray
1948年のアメリカ映画。
監督は、『理由なき反抗』『北京の55日』の巨匠ニコラス・レイ
製作は、『コンドル』(出演)のジョン・ハウスマン。
音楽は、『眼下の敵』のリー・ハーライン。
主演は、『ベン・ハー』のキャシー・オドネルと、『ロープ』『見知らぬ乗客』のファーリー・グレンジャー
モノクロ、スタンダード・サイズ。
甘い音楽。
「この青年とこの娘 これは今まで正しく知られていなかった二人の真実の物語である」というクレジット。
キスする若い男女。
今度はいかめしい音楽に変わる。
荒野を疾走するオープンカー。
4人の男が乗っている。
車が停まり、一人の男を降ろし、他の3人が叩きのめす。
死んだのだろうか、この男を車に残し、3人は歩き出す。
3人の男は、若いボウイ(ファーリー・グレンジャー)と、二人の中年男――片目のチカマウとTダブ――だ。
彼らは刑務所を脱獄して、逃走しているのであった。
3人は20キロ先でガソリンスタンドを経営するチカマウの兄モブレーの基を目指すのだが、足をくじいたボウイは20キロも歩けない。
「隠れてろ」と言われ、物影に身を潜める。
夜になって、ボウイの傍にジープが停まる。
運転しているのは若い娘キーチー(キャシー・オドネル)。
彼女はモブレーの娘で、先に行った二人がボウイの基へ迎えに寄越したのであった。
車に乗り込むボウイ。
林の奥の小屋へ。
チカマウとTダブ、モブレー、Tダブの義理の姉(収監中のTダブの兄の妻)がいる。
チカマウ達は、1500ドルで中古車の手配をモブレーに頼む。
キーチーの母親(モブレーの妻)は、男と駆け落ちしたらしい。
3人の脱獄事件のことは、既に新聞に載っていた。
3人は銀行強盗を計画する。
ボウイは、殺人の濡れ衣を着せられていた。
彼は23歳。
刑務所に7年いたという。
モブレーは中古車を手配して戻って来るが、飲酒運転で車をぶつけてしまう。
重度のアル中であった。
ボウイの母親も男と駆け落ちしたらしい。
しかも、父親はその男に撃たれたと。
ボウイはカネが出来次第、弁護士に頼んでカタギになる決意をしている。
キーチーは、悪いヤツらと一緒にいる限り、カタギになるのは無理と心配する。
まあ、しかし、登場人物は全員、ロクでもないヤツらばかりだ。
翌朝、3人は銀行の下見に行く。
銀行の前で見張っていたボウイは、目の前の時計屋で、キーチーにプレゼントするための腕時計を買う。
釣り銭を切らしていた店主は、ボウイを連れて銀行へ。
ここで、銀行強盗を計画しながら、窓口に顔をさらしてしまうというミスに、観客は緊張するだろう。
詰めが甘過ぎる。
その後、3人はTダブの義姉の手助けで借りたアジトへ。
翌朝、銀行強盗決行。
ボウイは外で車を待機させ、運転手役であったが、昨日の時計屋の店主が彼を見付けて話し掛けて来る。
アチャーーーッ。
焦ったボウイは店主を殴ってしまう。
銀行から奪ったカネを持ったチカマウとTダブを乗せて、車は逃走。
3人は車を途中で乗り捨てて燃やし、別の車を盗んで乗り込む。
しかし、その車を電柱にぶつけてしまう。
警察がやって来る。
急いで逃げようとする彼らを怪しんだ警官は、署に連行しようとする。
チカマウは警官を撃って、強引に車を発進させる。
もう、やることなすこと、全部うまく行かない。
本当に、ロクでもない。
ボウイは怪我をしている。
チカマウはモブレーの店へやって来て、ボウイの看病をキーチーに頼む。
その代金としてキーチーにカネを渡すが、彼女は拒否する。
モブレーは喜ぶが。
この作品の中で、キーチーだけが犯罪者ではない。
だが、犯罪者に囲まれて暮らしていると、否応なく巻き込まれてしまうのだ。
正に、朱に交われば赤くなるである。
キーチーはボウイを看病する。
ボウイはキーチーに、先日、銀行の傍の時計屋で買った腕時計をプレゼントする。
チカマウが置いて行った革のバッグの中には、ボウイの分け前の大金が入っている。
ボウイはキーチーに、「このカネで弁護士を雇ってカタギになる」と告げる。
しかしながら、新聞を見ると、警官が撃たれた現場から、ボウイの指紋の付いた拳銃が発見されたと書かれている。
もうね、人生終了なんだが。
最初の殺人の濡れ衣が事実だったとしたら、気の毒な話しだが、そこから脱獄した時点で既に本物の犯罪者で、更に銀行強盗、警官を銃撃……もうどうしようもない。
抜け出せない犯罪の連鎖である。
キーチーも、止せばいいのに、こんな男に惹かれてしまった。
まあ、確かに、根は悪いヤツではなさそうに見える。
しかし、若い時は後先のことを考えないのだろう。
まあ、僕も分からんではないが。
明朝、ボウイはキーチーを連れて町を出る。
彼女と長距離バスに乗り込む。
途中、10分間の休憩でバスが停車する。
二人は下車して、安カフェでコーヒーを飲む。
カフェの目の前に結婚式場がある。
「あなたは悪い人じゃない。」
「お尋ね者と一緒だと、巻き添えに撃たれるぞ。」
まあ、日本だと、警官が発砲しただけでニュースになるが、アメリカなんか、犯人を平気で射殺するからな。
二人は、またバスに乗る。
しかし、発車するや、「キーチー、結婚してくれ」「いいわよ」「バスを停めろ!」
バスを降り、目の前の24時間営業の格安結婚式場に入る。
何で、24時間営業の格安結婚式場なんていうのがあるのか知らんが。
そして、二人の服装が、年齢に不釣り合いな立派な衣装である。
銀行強盗で得たカネで、立派な衣装を調達したのだろう。
この式場のオーナーの牧師が、また胡散臭い。
こんな夜中に、こんな場末で結婚式を挙げようとするカップルなんて、訳ありに決まっている。
ボウイとキーチーを、牧師が明らかに怪しむような目で見ている。
ボウイは、牧師に新車の手配を頼む。
現金で2700ドルと、仲介料として500ドルを要求される。
現在の貨幣価値だと幾ら位なのか知らんが、こんな若造がキャッシュで新車を買えるのもおかしいし、それを分かっていながら不問にして、更に高額の仲介料を要求する牧師。
もう、信仰心の欠片もなさそうである。
どう見ても、こいつも裏社会の人間だ。
この作品に出て来るのは、本当にこんなロクでもないのばかりで、もう絶望的である。
二人は、新車に乗ってハネムーンに出掛ける。
さあ、これからどうなる?
ここからは、多少メロドラマ調である。
と言っても、不幸の匂いしかしない。
本作は、ハリウッド映画とは到底思えないほど救いがない。
ネタバレになるので、詳しくは書かないが。
幾ら、こんな旦那を選んだキーチーの自己責任とは言え、余りにも悲惨である。
男女の逃走劇と言えば、真っ先に『俺たちに明日はない』が浮かぶが。
その20年も前に、こんな明日なき逃走が描かれていたんだな。
ブルーレイのパッケージには、「巨匠ニコラス・レイ、最高傑作」とある。
しかも、デビュー作らしい。
同梱されている解説には、デビュー作で最高傑作を撮ってしまったとして、オーソン・ウェルズと並べられていたが、確かに、それも頷ける出来映えである。
1974年には、ロバート・アルトマンが『ボウイ&キーチ』としてリメイクしているらしい。
機会があれば、これも見てみたい。
アルトマンも好きな監督の一人なので。

They Live By Night (1949)

『みずうみ(湖畔、インメンゼー)』を原文で読む(第15回)

(テキスト28ページ、1行目〜)

Nach halbstündigem Wandern kam man aus dem Tannendunkel in eine frische Buchenwaldung; hier war alles licht und grün, mitunter brach ein Sonnenstrahl durch die blätterreichen Zweige; ein Eichkätzchen sprang über ihren Köpfen von Ast zu Ast.

nach(前)(3格とともに)(時間的に)~のあとで、~ののちに(英:after)
halbstündig(形)(付加語としてのみ)半時間(30分)の
wandern(自)ハイキングをする、(野山を)徒歩旅行する(英:hike)
kommen(自)来る(英:come)(過去:kam)(過分:gekommen)(完了:sein)
man(代)(不定代名詞)(つねに単数)人は、人々は(日本語ではこのmanを訳す必要のない場合が多い)/(自分(たち)を指して)
aus(前)(3格とともに)(内から外へ)~(の中)から(英:from、out of)
die Tanne(女)(植)モミ(複:Tannen)
in(前)(空間的に)(どこへ)(4格と)~の中へ(英:in)
frisch(形)元気な、はつらつとした、生き生きとした(比較:frischer)(最上:frischest)
die Buche(女)(植)ブナ(の木)(複:Buchen)
die Waldung(女)森林(地帯)、林野(複:Waldungen)
hier(副)(空間的に)ここに、ここで(英:here)
all(代)(不定代名詞/語尾変化はdieserと同じ、ただし無語尾でも用いられる)(名詞的に)(中性単数形allesで)すべてのもの(こと)
licht(形)明るい、輝く
grün(形)緑(色)の、グリーンの(英:green)
mitunter(副)時々、時たま
brechen(自)(方向を表す語句とともに)(~から突然)現れる、出て来る(過去:brach)(過分:gebrochen)(完了:sein) ・du brichst、er bricht
der Sonnenstrahl(男)太陽光線、日光(複:Sonnenstrahlen)
durch(前)(4格とともに)(空間的に)~を通って(通して)、通り抜けて(英:through)
das Blatt(中)葉(英:leaf)(複:Blätter)
~reich(形容詞をつくる接尾)(~に富んだ) ・kinderreich 子だくさんの
der Zweig(男)小枝、枝葉(英:branch)(複:Zweige)
das Eichkätzchen(中)(動)ヨーロッパリス
springen(自)跳ぶ、はねる(über)(英:jump)(過去:sprang)(過分:gesprungen)(完了:sein)
über(前)(空間的に)(どこに)(3格と)~の上の方に、~の上方に(英:over)
der Kopf(男)頭、頭部(複:Köpfe/3格のみ:Köpfen)
von(前)(3格とともに)(空間的な起点)~から(英:from)
der Ast(男)(幹から直接出ている)(大)枝(英:Äste) ・von Ast zu Ast AからBへ

―Auf einem Platze, über welchem uralte Buchen mit ihren Kronen zu einem durchsichtigen Laubgewölbe zusammenwuchsen, machte die Gesellschaft halt.

auf(前)(上面との接触)(どこに)(3格と)~の上に、~(の上)で(英:on)
der Platz(男)(特定の)場所、位置(英:place)(複:Plätze)
welch(代)(関係代名詞/語尾変化はdieserと同じ、ただし2格はない/動詞の人称変化形は文末)(~である)ところの
uralt(形)高齢の
die Buche(女)(植)ブナ(の木)(複:Buchen)
mit(前)(3格とともに)(手段/材料)~で、~を使って
die Krone(女)冠、王冠(英:crown)(複:Kronen)
durchsichtig(形)透明な、透けて見える
das Laub(中)(総称として)木の葉(英:foliage)
das Gewölbe(中)ドーム、丸屋根(複:Gewölbe)
zusammenwuchsen→zusammenwachsen
zusammen|wachsen(自)(複数の人・都市などが)一体となる(完了:sein)
halt|machen(自)(立ち)止まる(完了:haben)
die Gesellschaft(女)(集合的)交友、仲間、同席者(複:Gesellschaften)

Elisabeths Mutter öffnete einen der Körbe; ein alter Herr warf sich zum Proviantmeister auf.

Elisabeth(女名)エリーザベト(複:なし)
die Mutter(女)母、母親、お母さん(英:mother)(複:Mütter)
öffnen(他)開ける、開く(英:open)(過去:öffnete)(過分:geöffnet) ・du öffnest、er öffnet
einer(代)(不定代名詞)だれか(一人)、何か一つ(英:one)
der Korb(男)かご、ざる(英:basket)(複:Körbe)
alt(形)年とった、高齢の、老齢の(英:old)(比較:älter)(最上:ältest)
der Herr(男)紳士、男性、殿方(英:gentleman)(複:Herren)
warf werfen(投げる)の過去
auf|werfen再帰)(sich4格 zu 人3格 ~)(人3格など)あつかましくも自称する(完了:haben)
zu(前)(3格とともに)(目的・用途)~として
der Proviant(男)(ふつう単)(軍)糧食(複:Proviante)
der Meister(男)(手工業の)マイスター、親方(資格試験に合格し、見習いを養成する資格がある)(英:master)(複:Meister

„Alle um mich herum, ihr jungen Vögel!“ rief er.

all(代)(不定代名詞/語尾変化はdieserと同じ、ただし無語尾でも用いられる)(名詞的に)(複数形alleで)すべての人々、皆
um(前)(4格とともに)(空間的に)~の周りに(を)、~回って(英:round、around)
herum(副)(umとともに)周辺に、周りに
jung(形)若い(英:young)(比較:jünger)(最上:jüngest)
der Vogel(男)(おかしな)やつ(複:Vögel)
rufen(他)(~と)叫ぶ、大声で言う(過去:rief)(過分:gerufen)(完了:haben)

„Und merket genau, was ich euch zu sagen habe. Zum Frühstück erhält jetzt ein jeder von euch zwei trockene Wecken; die Butter ist zu Hause geblieben, die Zukost müßt ihr euch selber suchen. Es stehen genug Erdbeeren im Walde, das heißt, für den, der sie zu finden weiß. Wer ungeschickt ist, muß sein Brot trocken essen; so geht es überall im Leben. Habt ihr meine Rede begriffen?“

und(接)(並列接続詞)~と~、~そして、および(英:and)
merket→merkt
merken(他)(事4格に)気づく、感づく(英:notice)(過去:merkte)(過分:gemerkt)(完了:haben)
genau(副)ちょうど、まさに(英:exactly)
was(代)(関係代名詞/動詞の人称変化形は文末)~すること(もの)(英:what)
sagen(他)(事4格を)言う、述べる(英:say)(過去:sagte)(過分:gesagt)(完了:haben)
haben(他)(zu不定詞句とともに)~するもの(こと)がある(英:have)(過去:habte)(過分:gehabt)(完了:haben)
zu(前)(3格とともに)(用途・目的)~のために
das Früstück(中)朝食(英:breakfast)(複:Früstücke) ・zum Früstück 朝食に
erhalten(他)(手紙・報酬など4格を)受け取る、もらう(英:receive)(過去:erhielt)(過分:erhalten)(完了:haben) ・du erhältst、er erhält
jetzt(副)今、現在(英:now)
jeder(代)(不定代名詞/語尾変化はdieserと同じ)(つねに単数)(名詞的に)だれ(どれ)も、みんな、すべて ・jeder von uns 私たちのだれもが
von(前)(3格とともに)(全体の一部)~の(うちの)
zwei(数)(基数/ふつう無語尾で)2(の)(英:two)
trocken(形)(パンなどに)何もつけてない(比較:trockner)(最上:trockenst)(格変化語尾がつくときはtrockn-) ・trockenes Brot バター(ジャムなど)を塗っていないパン ・das Fleisch4格 trocken essen ソースをつけないで肉を食べる
der Wecken(男)(小麦粉型の)細長い白パン(複:Wecken)
die Butter(女)バター(英:butter)(複:なし)
zu(前)(3格とともに)(場所)~に、~で ・zu Hause bleiben 家にいる
das Haus(中)家、建物(英:house)(複:Häuser)/(zu Hauseまたはzuhauseの形で)在宅している、家にいる ・zu Hause bleiben 自宅にとどまる
bleiben(自)(場所を表す語句とともに)(~に)とどまる、残る、滞在する(英:remain)(過去:blieb)(過分:geblieben)(完了:sein)
die Zukost(女)付け合わせ(サラダなど)(複:なし)
müssen(助動)(話法の助動詞)(zuのない不定詞とともに)~しなければならない、~する必要がある、~せざるをえない(英:must)(過去:musste)(過分:müssen)(完了:haben) ・ich muss、du musst、er muss
selber(代)(指示代名詞/無変化)(自分)自身(=selbst)
suchen(他)(人・物4格を)さがす、さがし回る(英:look for)(過去:suchte)(過分:gesucht)(完了:haben)
es(代)(仮の主語として)(このesは必ず文頭に置かれ、あとに続く実際上の主語が複数なら動詞の人称変化形もそれに従う)
stehen(自)(ある場所に)いる、ある(英:stand)(過去:stand)(過分:gestanden)(完了:haben)
genug(副)十分に、たっぷり(英:enough)
die Erdbeere(女)(植)イチゴ(の実)、ストロベリー(複:Erdbeeren)
in(前)(空間的に)(どこに)(3格と)~の中に、~の中で(英:in)
der Wald(女)森、林、森林(地帯)(英:woods、forest)(複:Wälder)
heißen(自)(~という)意味である、(~と)いう、(~と)いうことである(過去:hieß)(過分:geheißen)(完了:haben) ・du hieß/das heißt すなわち、つまり、ただし
für(前)(4格とともに)(目的・目標)~のために(英:for)
finden(他)見つける、見つけ出す、発見する(英:find)(過去:fand)(過分:gefunden)(完了:haben) ・du findest、er findet、ihr findet
wissen(他)(zu不定詞句とともに)(~するすべを)心得ている(過去:wusste)(過分:gewusst)(完了:haben) ・ich weiß、du weißt、er weiß
wer(代)(関係代名詞/動詞の人称変化形は文末)~する人
ungeschickt(形)不器用な、ぎこちない(比較:ungeschickter)(最上:ungeschicktest)
das Brot(中)(ふつう単)パン(英:bread)(複:Brote)
essen(他)(物4格を)食べる、食う(英:eat)(過去:aß)(過分:gegessen)(完了:haben) ・du isst、er isst
so(副)(ふつう文中でのアクセントあり)そのように、このように(英:so) ・so geht es そうしたものだよ
gehen(自)(事が)可能である、うまくいく(英:go)/(非人称のesを主語として) ・So geht es nicht. そうはいきませんよ。
es(代)(人称代名詞)(特定の動詞の主語として)
überall(副)いたるところで(に)(英:everywhere)
das Leben(中)(ふつう単)人生、生涯、一生(英:life)(複:Leben) ・im Leben 人生において
die Rede(女)話、話すこと(複:Reden)
begreifen(他)(意味・事情など4格を)理解する、把握する(英:understand)(過去:begriff)(過分:begriffen)(完了:haben)
【参考文献】
みずうみ (対訳シリーズ)』中込忠三、佐藤正樹・編(同学社)
アポロン独和辞典』(同学社)
新コンサイス独和辞典』(三省堂

『遊星よりの物体X』

この週末は、ブルーレイで『遊星よりの物体X』を見た。

遊星よりの物体X Blu-ray

遊星よりの物体X Blu-ray

  • 出版社/メーカー: IVC,Ltd.(VC)(D)
  • 発売日: 2019/11/29
  • メディア: Blu-ray
1951年のアメリカ映画。
監督はクリスティアン・ナイビイ。
製作は、『脱出(1944)』『三つ数えろ』『赤い河』の巨匠(監督)ハワード・ホークス
音楽は、『我が家の楽園』『スミス都へ行く』『疑惑の影』『赤い河』『見知らぬ乗客』『私は告白する』『ジャイアンツ』『ナバロンの要塞』『北京の55日』『ローマ帝国の滅亡』の巨匠ディミトリ・ティオムキン
主演は、『ダーティ・メリー/クレイジー・ラリー』のケネス・トビー。
共演は、『宇宙戦争(1953)』のロバート・コーンスウェイト、『放射能X』のジェームズ・アーネス。
僕は以前に、ジョン・カーペンター監督のリメイク版『遊星からの物体X』を何度か見たことがあるのだが、オリジナル版は見たことがなかった。
リメイク版の方がSFというよりホラーの趣きが強い。
聞くところによると、リメイク版の方が原作に忠実なのだそうだ。
「物体」が人間に擬態して、誰が人間で誰が擬態なのかが分からなくなる恐怖というのが軸にあったのだが、おそらく、50年代の技術では、その部分をうまく描写出来ないと考えたのだろう。
オリジナル版は、前半がSF、後半がモンスター映画といった感じになっている。
しかし、SF映画の古典として有名な作品であり、いつかは見たいと思っていたので、今回、見ることが出来て良かった。
モノクロ、スタンダード・サイズ。
不安げなテーマ音楽が流れる。
猛烈な吹雪の夜。
舞台はアラスカのアンカレッジ。
将校クラブに新聞記者のネッド・スコットがやって来る。
外はマイナス30度だという。
スコットがアメリカ空軍のパトリック・ヘンドリー大尉(ケネス・トビー)と握手をする。
ヘンドリーによると、北極探検隊から「不審な飛行機が墜落したので、至急調査されたし」という連絡が入ったのだという。
ヘンドリー、スコットらは早速、北極へ向かうことになった。
空軍機で北極の基地に到着。
飛行機にはワンコも乗っている。
基地に着くと、ヘンドリーは恋人のニッキ・ニコルソンと会う。
このニッキというのは、原作には登場しないらしく、本作でも単なるメロドラマ要員で、ストーリーには余り関与しない。
ヘンドリー、ニッキ、スコットらは、アーサー・カリントン博士(ロバート・コーンスウェイト)のところへ。
博士によると、墜落したのは2万トンの金属の塊で、すごいスピードで飛んで来て墜落したという。
この物体は、放射能を帯びていて、明らかに隕石ではないとのこと。
現地に向かう空軍機から見ると、雪の中に、まるでミステリー・サークルのように丸い鏡面が出来ている。
空軍機が着陸し、犬ゾリで現場に向かう。
この辺のロケは大変だっただろう。
現場へ到着すると、飛行機の翼のような物が熱で溶けて氷の中にめり込んでいる。
エンジンが超高温だったのだろう。
ものすごい放射能反応がある。
アメリカのSFを見ていて、いつも思うのは、放射能が充満しているところで、防護服も着ていないことだ。
氷の下に埋まっているのは円形の物体で、明らかに空飛ぶ円盤である。
しかも、謎の金属で出来ている。
ヘンドリーは、氷を爆弾で溶かすことにする。
スコットはこの事件に狂喜乱舞するが、ヘンドリーは「軍事機密なので報道はするな」と告げる。
本作は、軍人、新聞記者、学者がそれぞれの立場から対立するのも、見所の一つとなっている。
ダイナマイトを爆破させると、円盤の本体も大爆発を起こしてしまった。
エンジンの爆発のようだ。
「マズイ!」って、だったら最初から爆破なんかするな。
で、円盤の本体から少し離れた所で強い放射能反応がある。
氷の中に、人間のような形のものが埋まっている。
おそらく、円盤から脱出して凍ったのだろう。
斧を使って氷ごと取り出す。
犬ゾリに載せて基地へ。
基地の中では、氷が溶けないように、ヘンドリーが部屋の窓を割って外気が入るようにした。
そして、部下に4時間交替で見張るように命じる。
未知の物体が大気に触れたら、どうなるのだろうかと心配するカリントン博士。
ヘンドリーは、スコットに「新聞発表は待て」と釘を刺す。
保守的な軍隊とリベラルなマスコミのソリが合わないのは、古今東西変わらない。
で、ここは北極なので、ひとたび吹雪になると、通信が途切れて、陸の孤島状態になる。
上官からの指示は途中で切れている。
本作の中では、常にヘンドリーが独断で物事を進め、それが後に届いた上官からの指示と食い違っていることが多々ある。
軍隊組織というのは、これでいいのだろうか。
まあ、即座の判断が必要な場合に、不自由な通信で一々上官の指示を仰いでいられないのだろうが。
カリントン博士は、「物体の分析は不可欠だ」と主張する。
最初に物体の見張りに着いた者は臆病で、物体の不気味な目や手が耐えられないという。
しかし、この時点では、観客には未だ物体の姿は見せていない。
臆病な部下の哀願を聞いて、ヘンドリーは2時間交替に変更する。
寒いので、電気毛布が差し入れられる。
見張りの者は、氷の中の物体の目が見えて不気味なので、毛布を掛けて隠す。
ところが、この毛布が、電源の入った電気毛布だったんだな。
しばらくすると、温められて氷がどんどん溶け出す。
外のワンコが騒ぎ出す。
何かが出て来た。
見張りが必死で撃つ。
逃げる。
見張りはヘンドリーの基へ飛んで行き、「物体が出て来て、発砲したがビクともしない」と報告する。
ヘンドリー達が皆で行ってみると、氷の塊に人の形の跡が残っている。
ドアが開いているので、外に出たのだろう。
ヘンドリー達が窓から外を見ると、ワンコが人のような形のものに襲われている。
駆け付けると、物体は逃げた。
ワンコがやられている。
倒れたワンコのそばには、ちぎれた手が落ちている。
その手を、カリントン博士が分析する。
その組織は、とても死んだとは思えないものだった。
動脈がなく、まるで植物だ。
だから、銃撃しても平気なのである。
例えて言うならば、新種のニンジンだ。
要するに、植物が進化して、知能を持つようになったというのである。
一同は「信じられん…」。
すると、ちぎれた手が動いている。
物体は、血を主食にしており、血を求めてさまようだろう。
基地の人間の運命や如何に?
で、後半は、博士のマッド・サイエンティストぶりが明らかになって来る。
正直なところ、そんなに怖い映画ではない。
僕は、ジョン・カーペンターのリメイク版の方が怖くて好きだ。
本作は、昔のハリウッド映画らしく、幾ら怪物が出て来ても、根底のところで明るさは失わない。
軍人が主役だから仕方がないのだが、どうも軍隊が正義になってしまっているのが、僕は根が左翼なので受け付けない。
僕もマスコミの端くれなので、新聞記者に感情移入したいところだが、本作の新聞記者は結局、単なる目立ちたがり屋にしか見えない(特に、ラスト)。
科学が絶対ではないので、科学者が狂っているのはまあいいが。
まあ、でも、有名な古典なので、見て良かった。

The Thing From Another World (1951) Official Trailer #1 - Howard Hawks Horror Movie

『星の王子さま』を原文で読む(第5回)

(テキスト12ページ、1行目~)

Quand j'en rencontrais une qui me paraissait un peu lucide, je faisais l'expérience sur elle de mon dessin numéro 1 que j'ai toujours conservé.

quand(接)~する時に、~すると(英:when)
je(人称代名詞)(母音または無音のhの前ではj'となる/j'aime)(主語)私は、私が(英:I)
en(中性代名詞)(数形容詞+名詞、数量副詞+de+名詞などの場合、その名詞(de+名詞)に代わる)(英:some、any/of him(her、it、them)
rencontrer(他)(人と偶然)出会う(英:meet)
un(e)不定代名詞)(多くは関係詞節をともなって)~の人(英:one、a)
qui(関係代名詞)(性・数不要)(先行詞を伴って)(主語として働き先行詞は人でもものでもよい)~するところの~(英:who、whom/which、that)/(前置詞+qui)
me(人称代名詞)(1人称単数の(直接・間接)目的語人称代名詞。母音または無音のhの前ではm'となる)(間接目的語)私に、私から(英:me)
paraître(自)(paraître+属詞(不定詞))~のように見える、~と思われる(英:appear)
un(e)不定冠詞)(不特定の)ある、1つの、一人の(複数はdes)(英:one、a)
peu(副)un peu(肯定的)少し(英:a little、a few)
lucide(形)明晰(せき)な、明敏な、明快な
fais(-)→faire
faire(他)(行為・動作などを)する、行なう(英:make、do)
l'(定冠詞)/(代)le、laの母音字省略形
le(定冠詞)(女性単数:la、複数:les)(普通名詞の前)あの、その、いつもの(すでに出た名詞かあるいは周囲の事情などによって明らかな人・物・事実をさす)
expérience(女)試み(英:experience) ・faire une expérience de ~を試みる
sur(前)(対象)に対し、対する(英:on、upon、above)
elle(人称代名詞)(3人称女性形)(主語)彼女(たち)は(英:she、it)(複:elles)/(強勢形)(前置詞の後)
de(前)(手段)~で、~によって(英:of、from)
mon(所有形容詞)(所有・関係)私の(英:my)
dessin(男)素描、デッサン(英:drawing、sketch)
numéro(男)番号、ナンバー(英:number)
que(関係代名詞)(性・数不変)(直接目的語)(先行詞は人でもものでもよい)~ところの~(英:that、whom、which)
ai avoirの直・現在・1・単
avoir(助動詞)avoir+過去分詞(全ての他動詞、大部分の自動詞の助動詞となり複合時制を作る)(英:have)
toujours(副)常に、いつも、絶えず(英:always/still)
conserver(他)保存する、貯蔵する(英:preserve)

Je voulais savoir si elle était vraiment compréhensive.

voul-→vouloir
vouloir(他)(vouloir+不定詞)~したい、~することを望む(英:want、wish)(過分:voulu)
savoir(他)(物事を)知っている、分かる、自覚する(英:know)
si(接)(間接疑問文を導く)~かどうか(英:if、so/yes)
était êtreの直・半過去・3・単
être(自)(属詞を伴って)~である(英:be)
vraiment(副)本当に、実際に(英:truly、really)
compréhensif(ive)(形)(他人に対して)理解のある、寛大な(英:understanding)

Mais toujours elle me répondait :

mais(接)(対立)ところが(英:but)
répondre(自)(àに)答える(英:answer、respond)(過分:répondu)

« C'est un chapeau. »

c' 指示代名詞ceの省略形(e、éで始まるêtreの変化形の前で)
ce(指示代名詞)(中性)これ、それあれ(性・数による変化はない)(英:it、this、that)/(êtreの主語)c'est~ これ(それ、あれ)は~である/(話し手の指示する人、もの、ことを受けて)
est êtreの直・現在・3・単
chapeau(男)(縁のついている)帽子(英:hat)(複:chapeaux)

Alors je ne lui parlais ni de serpents boas, ni de forêts vierges, ni d'étoiles.

alors(副)(接続詞的に)それで、だから、従って(英:then)
ne(副)(母音または無音のhの前ではn'となる)(動詞に伴い、これを否定する)(niとともに)(ne ~ ni A ni B)AでもBでもない(英:not)
lui(人称代名詞)(3人称・間接目的語)彼(女)に/彼(女)らに((to)him、her、it/them)
parler(自)(parler de ~)~について話す、の噂をする、を論じる(英:talk、speak)
ni(接)(ne+動詞+ni A ni B)AもBも~ない(英:nor、neither ~ nor)
de(前)(母音または無音のhの前ではd'となる)(主題)~について(英:of、from)
serpent(男)(動物)蛇
boa(男)(動物)ボア(南米産の大蛇)
forêt(女)森林、山林(英:forest)
vierge(形)未開拓の ・vierge forêt 処女林
étoile(女)星(英:star)

Je me mettais à sa portée.

se mettre(代動)(ある場所・状態に)身を置く、陥る、行く、入る(英:put)
à(前)à+名詞・代名詞(空間)(方向・場所)~へ、に、で(英:to、at、in)
sa(所有形容詞)(女)彼(女)の、その
portée(女)(理解などの)及ぶ範囲、知的能力

Je lui parlais de bridge, de golf, de politique et de cravates.

bridge(男)(英語)(ゲーム)(トランプの)ブリッジ
golf(男)(英語)ゴルフ
politique(女)政治(英:politics)

Et la grande personne était bien contente de connaître un homme aussi raisonnable...

et(接)(列挙)そして、と(英:and)
la(定冠詞)/(人称代名詞)(女性単数)→le
grand(e)(形)大人になった、大きい(英:big、tall、great、large) ・grandes personnes 大人(子供から見ての)
personne(女)人、人間(男女を問わず個人としての人間)(英:person)
bien(副)(程度)非常に、大いに、大変(英:good、well)
content(e)(形)(~ de+不定詞)~してうれしい(英:pleased、satisfied)
de(前)(de+不定詞)(形容詞の補語)(理由・原因)
connaître(他)知り合う、知り合いである、交際がある(英:know)(過分:connu)
homme(男)男性、(一人前の)男(英:man)
aussi(副)それ(これ)ほど(英:also、as、too)
raisonnable(形)分別のある、聞きわけのよい

II

I(男)ローマ数字の1

J'ai ainsi vécu seul, sans personne avec qui parler véritablement, jusqu'à une panne dans le désert du Sahara, il y a six ans.

ainsi(副)その(この)ように、こうして(英:thus、so)
vécu→vivre
vivre(自)暮らす、生活する、住む(英:live)(過分:vécu)
seul(e)(形)唯一の、ただ1つ(ひとり)の、ただ~だけの(英:only、alone、sole) ・vivre seul ひとりで暮らしている
sans(前)(~+名詞)~なしに、(人を)同伴せずに(英:without)
avec(前)(同伴・携行)(人・動物)と一緒に、を伴って(英:with)
parler(自)(parler avec ~)(人)と話す、話し合う、相談する(英:talk、speak)
véritablement(副)本当に、実際に、まったく
jusqu'à→jusque
jusque(前)(母音の前ではjusqu')jusqu'à ~ ~まで/(時間)~まで(英:till、as far as)
panne(女)故障、(事故による)停止
dans(前)(地名とともに)~で(英:in)
désert(男)砂漠(英:desert) ・le désert du Sahara サハラ砂漠
du(=de+le。前置詞deと男性単数定冠詞leの縮約形)(→de)~の、~から(英:of the、from the)
le Sahara(固有)(男)サハラ砂漠
il y a(非人称)(時間)今から~前に(英:ago)
six(数形容詞)(不変)6の ・six ans 6年
an(男)年、年間、暦年(英:year) ・il y a trois ans 3年前に

Quelque chose s'était cassé dans mon moteur.

quelque chose不定代名詞)(複数不変)何か、あるもの(こと)、何事か(英:something)
se casser(代動)壊れる、割れる、折れる、切れる
dans(前)(場所)~の中に(で、へ)、において(英:in)
moteur(男)エンジン、発動機、モーター(英:motor、engine)

Et comme je n'avais avec moi ni mécanicien, ni passagers, je me préparai à essayer de réussir, tout seul, une réparation difficile.

comme(接)(理由・原因。この意味ではcommeで始まる従節が多くは主節に先立つ)だから、なので(英:as)
n' neの省略形(→ne)
avai-→avoir
avoir(他)(親族・人間関係)(肉親・友などが)いる、ある(英:have)
moi(人称代名詞)(1人称単数。jeの強勢形)私(英:me)/(前置詞の後で)
mécanicien(ienne)(名)(機械・車の)整備士、組立工、修理工
passager(ère)(名)(船・飛行機の)乗客
se préparer(代動)(se préparer à+不定詞)~に対して準備する、~しようとしている
à(前)à+不定詞/(目的・用途)~するための、用の(英:to、at、in)
essayer(他)(essayer de+不定詞)~しようと試みる、努める(英:try)
de(前)(de+不定詞)/(他動詞の目的語)(英:of、from)
réussir(自)成功する、出世する、(事柄が)うまく行く(英:succeed)
tout seul 独力で、ひとりで、ひとりでに
réparation(女)修理
difficile(形)困難な、難しい(英:difficult)

C'était pour moi une question de vie ou de mort.

pour(前)(主題・強調)~については、~としては、~に関しては、~はと言えば(英:for、towards、in order to)
question(女)(question de+無冠詞名詞)~に関する問題(英:question)
vie(女)生命、命(英:life) ・question de vie ou de mort 死活の問題
ou(接)あるいは、または(英:or)
mort(女)死(英:death)

J'avais à peine de l'eau à boire pour huit jours.

à peine(否定的)ほとんど~ない
de la(部分冠詞)→du
du(部分冠詞)いくらかの(男性形du、女性形はde la、男女性とも母音または無音のhの前ではde l'。非可算名詞(物質名詞・抽象名詞)の不特定な若干量を表わす)(英:some(of)、any)
eau(女)水、水道水、水道(=eau courante)(英:water)(複:eaux)
boire(他)飲む(英:drink)(過分:bu) ・boire de l'eau 水を飲む
pour(前)(目的)~のために(の)(英:for、towards、in order to)
huit(数形容詞)(不変)8の、8つの、8人の ・huit jours 1週間
jour(男)huit jours 1週間

Le premier soir je me suis donc endormi sur le sable à mille milles de toute terre habitée.

premier(ière)(形)(名詞の前)最初の、第1の、1番目の、初めの、1番前の(英:first)
soir(男)夕方、晩(英:evening)/(副詞的に)
suis êtreの直・現在・1・単
donc(副)それ故、従って(英:so、therefore、indeed
s'endormir(代動)眠る、寝つく(英:fall asleep)(過分:endormi)
sur(前)(位置)の上に(の)(英:on、upon、above)
sable(男)砂
à(前)(空間)(道のり・距離)~のところに(英:to、at、in) ・à 20 kilomètres de Paris パリから20キロのところに
mille(数形容詞)(不変)1000の(英:thousand)
mille(男)(英米の)マイル
de(前)(場所)~から(の)(英:of 、from)
tout不定形容詞)(単数)(tout(e)+無冠詞名詞)どんな~でも、あらゆる(英:all)
terre(女)地所、所有地、土地、領地(英:earth、land)
habiter(他)(に)住む(英:live、inhabit)

J'étais bien plus isolé qu'un naufragé sur un radeau au milieu de l'océan.

étais êtreの直・半過去・1(2)・単
bien plus その上、さらに
isolé(e)(形)孤立した、ぽつんと離れた(英:isolated)
qu'=que(母音または無音のhの前で)
que(接)(母音または無音のhの前ではqu'となる)(比較・結果・程度の表現で)~よりも(比較を表す形容詞・副詞とともに用いて比較対象を示す)(英:than、as)
naufragé(e)(名)遭難者、難船した人
radeau(男)筏(いかだ)(複:radeaux)
au milieu de ~ ~の真ん中に(で)
océan(男)大洋、大海、海洋

Alors vous imaginez ma surprise, au lever du jour, quand une drôle de petite voix m'a réveillé.

vous(人称代名詞)(2人称複数の人称代名詞。tu、te、toiの複数。ただし丁寧な呼び方として単数の相手に対しても用いる)(主語)あなたは、あなたたちは、君たちは(英:you)
imaginer(他)想像する、思い描く(英:imagine)
ma(所有形容詞)(女)→mon
surprise(女)驚き(英:surprise)(<surprendre)
au=à+le→à
à(前)(時間)(時点)~に、のときに(英:to、at、in)
lever(男)日の出(英:raise、lift) ・le lever du jour 日の出
jour(男)(夜に対する)昼、日中(英:day)
quand(接)~する時に、~すると(英:when)
un(e) drôle de ~ 奇妙な、おかしな~(冠詞の性・数はde以下の名詞に一致する)
petit(e)(形)(多くは名詞の前)(多くは所有形容詞を付けて、愛情・親しみ・軽蔑を表す)かわいい、いとしい(英:small、little)
voix(女)声、音声(英:voice)
m' meの省略形(母音または無音のhの前)
me(人称代名詞)(1人称単数の(直接・間接)目的格人称代名詞。母音または無音のhの前ではm'となる)(直接目的語)私を(英:me)
a avoirの直・現在・3・単
réveiller(他)(眠りを)覚ます、起こす

Elle disait : ...

dis(-)→dire
dire(他)言う、述べる(英:say)(過分:dit)(dire+直接話法)

« S'il vous plaît... dessine-moi un mouton !

s'il vous plaît どうぞ、すみません、お願いします(←もしそれがあなたのお気に召すなら)(英:please)
dessiner(他)(線で)描く、デッサンする(英:draw) ・Dessine-moi un mouton! 羊の絵を描いて。
moi(人称代名詞)(1人称単数。jeの強勢形)(肯定命令形の後でmeの代わりに)私を(に)(英:me)
mouton(男)羊(英:sheep、mutton)

― Hein !

hein(間投)(相手の言葉を聞き返す時)ええ?、何だって?

― Dessine-moi un mouton... »

【参考文献】
対訳 フランス語で読もう「星の王子さま」』小島俊明・訳注(第三書房)
クラウン仏和辞典 第7版』(三省堂

日本近代文学を文庫で読む(第6回)『にごりえ』

今回は、樋口一葉の『にごりえ』を取り上げます。
こちらも文語体なので、読んだことがあるという人はそんなにいないのではないでしょうか。
かく言う僕も、高校生くらいの頃には読んでみようとすら思わず、最近になってようやく読みました。
しかしながら、これが難物でした。
文語体の近代小説でも、『金色夜叉』のような漢文訓読調なら読み易いのですが、一葉の文体は、『源氏物語』のような和文です。
主語の省略が著しく、部分は分かっても、全体の流れが分かりません。
日本の近代文学の代表作を一通り読んでみたいと思って始めたこの企画ですが、お手上げなので、河出文庫から出ている現代語訳を読みました。
これで、ようやく内容が把握出来ました。
この本は、残念ながら絶版になっています。
僕はアマゾンの中古で買いました。
アマゾンのレビューでは、「統一感を持たせた真面目な現代語訳ではなく、一葉を読んだことすらない人間を含む個々の訳者に、各編を自由に担当させた、ぐちゃぐちゃな内容です」と酷評されています。
確かに、きちんと原文から直訳した文ではなく、作者の色が出過ぎている面はあるかも知れません。
ただ、とりあえず、原文では難解な一葉の作品の内容を知るには、こういった形もありではないでしょうか。
気になれば、また原文に戻れば良いのですから。
この本の「訳者後書き」に、『にごりえ』の訳を担当した伊藤比呂美氏が、一葉の原文が読みにくい理由を挙げていて、それが非常に的確だと思うので、引用してみます。

題名が、どれもこれも古いことばで、ひらがなをただ並べただけのような印象で(にごりえ、うつせみ、われから、大つごもり………)、クロスワードパズルやってるような感じで、意味の把握という点では、あいまいな気持ちにさせられてしまうのである。その、意味があるんだかないんだかといったあいまいさは、本文にもひきつづく。
本文は文語体である。旧かなづかひである。マルがなくてテンでつながっている。テンでつながったまま、行かえなしで、えんえんとつづいている。
主語が、あたしたちの感覚からすれば、必要以上に省略されている。そのくせ会話がおおいのである。でも会話にはカギカッコが使われていないのである。その上カギカッコがないから、会話にいちいち「といふ」「といふ」ということばがはさまってくる。「といつた」は使われず、動詞という動詞はほとんど現在形、などという西洋語の文法の概念をふりまわしてなんになる。ともかく合の手のような「といふ」「といふ」が、語りみたいな効果をうむのであるが、耳できく語りの聞きやすさとはちがって、目で、書いた文字で読む語りというのは、じつに読みにくいものなのだ。
会話は、あたしたちとあまりかわらない口語の日本語である。それなのに、少しずつことばの使い方はずれている。文法的なまちがいはないのに、ちょっと奇妙にきこえる。調子の悪いコードレス電話でしゃべっているような感じがする。

女たちの着ているものや髪型、どんな着物にどんな帯、それをどのように着こなしてと、くだくだしく説明してあるところ。呉服屋のジャルゴンを使われてるような感じで、わけがわからないから、共感もできない。階級や年齢によって着るものがきまっていた時代だからか、だから着てるものの説明がその女をえがくのに重要なのか、一葉が個人的にそういう描写がすきだったのか。

にごりえ』はお盆の前後のはなしで、あちこちに、お盆の関連用語がちりばめてある。ところが閻魔様から、鬼、悪魔、魔王とくると、もはや現代の耳には、お盆の関連語じゃないみたいに聞こえる。魔王といえばモーツァルトだし、悪魔といえばキリスト教で、どうも印象がちぐはぐだ。でも、辞書をひいてみたら、そのどれにも、もともと仏教用語とかいてある。

敬語も複雑である。あたしたちは、今、こんなに敬語は使わない。敬語を使わなくちゃいけない相手がいないのである。ここでは、娼婦が客に使う。妻が夫に使う。女が男に使う。

地は、文語体である。しかし、一葉の文語は、石炭をばはや積み果てつのような、西洋語からの直訳文語とはわけがちがう。語り手がいったいどこにいるのか、ときどき、はっきりしなくなる。ゆらゆら動いて入れかわることもあるし、ななめ上の方に、だれかもうちょっとスーパーな存在が居すわって、語り手がそっちの方をちらちら見返りながら語っていくこともある。この、ななめ上の空間からいつも語り手を見はっている存在は、明治以前にかかれたものには、ちょくちょく出てくる。あれはいったいだれなのか。

このように難解な『にごりえ』ですが、当然ながら、高校日本史の教科書にも載っています。
例えば、僕の手元にある『詳説日本史』(山川出版社)には、第9章「近代国家の成立」の「おもな文学作品」という一覧表の中です。
一葉については、本文中に、次のように書かれています。

底辺の女性たちの悲哀を数篇の小説に描いた樋口一葉も、ロマン主義の運動の影響下にあった。

『精選日本文学史 改訂版』の脚注には、次のようにあります。

樋口一葉 明治五(一八七二)年―明治二十九(一八九六)年。歌人・小説家。東京都生まれ。本名は奈津。中島歌子の萩の舎塾で歌を学び、半井桃水に小説の指導を受ける。

また、同書の本文には、次のようにあります。

はやく露伴に学んで作家となったのが樋口一葉である。『たけくらべ』『十三夜』『にごりえ』などの名作を生んだ。旧時代のしがらみの中で悲運に泣く女性を描いて傑出した才能を見せた。その流麗な雅俗折衷の文章によって写し出された微妙な心理や浪漫的詩情は、時代を越えてこの女流作家の名を高からしめている。極貧の中での日常や揺れる内面を伝える日記が、また優れた日記文学になっている。

『田村の[本音で迫る文学史]』(大和書房)でも、一葉について述べられているので、そちらも引用しておきます。

樋口一葉は、近代日本文学に初めて名を残す女性作家であるが、武士の誇り・男性的教養・貧窮生活といった要素を自身の内に持って、社会の中で虐げられる女性の立場を描いた作品を残し、やはり二十四歳の若さで世を去った。『にごりえ』『十三夜』『たけくらべ』などの作品は、社会の仕組みゆえに女性達が不幸になる様を描いており、後の女性作家たちのように世の仕組みそのものに挑戦するという面のないところが、まだ日清・日露戦争前の時代の小説として特徴的である。文体は、美文的な擬古文である。

前回も書きましたが、上の引用の中に「文体は、美文的な擬古文である」とありますが、本文の引用はありません。
これでは、本当に一葉の文体が美文的かどうかは分からないでしょう。
受験対策の虚しさです。
高校生の時は名前だけ覚えるにしても、大学に入ったら、出来るだけたくさんの文学作品を読むべきだと思います。
と偉そうに言っている僕は、学生時代は、映画ばかり観て、ロクに本は読まずに過ごしてしまったのですが。
樋口一葉について
さて、一葉の略歴について、岩波文庫版の「解説」をもとに、少し詳しく述べておきましょう。
樋口一葉は、明治5(1872)年3月25日(太陽暦では5月2日)、東京府の内幸町に父則義・母たきの次女として生まれました。
幼い時から読書に夢中になり、学問を好んでいたが、母たきの意見で学校教育を諦めなければならなくなります。
一葉の最終学歴は青海学校小学高等科第四級卒業というものです。
一葉が初めて明確に文学の道を歩み始めるのは、中島歌子の主宰する歌塾萩の舎に入門した時でした。
明治19年、一葉は14歳です。
萩の舎への入門は、作家一葉の誕生において大きな意味を持っています。
まず挙げるべきは、一葉の小説文体形成への影響です。
萩の舎では、和歌の教授のほかに、『源氏物語』などの日本古典の講義も行われていました。
一葉の文学的教養基盤は、彼女自身の読書と萩の舎での日本古典の摂取に多くを負っており、西洋文化キリスト教思想の影響を強く受けていた同時代の女性作家達とは対照的です。
さらに、作家一葉の誕生に具体的に関わったという点で、若き女性作家・三宅花圃の存在を看過することは出来ません。
一葉が作家の道を志した時、まず具体的な目標としたのは花圃でした。
一葉の初期作品には、花圃の影響が看取されます。
一葉は長兄泉太郎の夭折・父則義の病没などによって、樋口家の相続戸主となりました。
既に、姉ふじは他家に嫁ぎ、次兄虎之助は分籍されていたため、母たきと妹邦子の生活は全て戸主一葉の責任となったのです。
父則義が事業に失敗したため、樋口家は没落の一途をたどっており、貧窮の中で一葉達の前には安定した収入の道はありませんでした。
この時、一様は小説を書くことを選択したのです。
小説家となることを志した一葉は、明治24年、妹邦子の友人野々宮菊子の紹介で、当時「東京朝日新聞」の小説および雑報記者であった半井桃水に弟子入りしました。
親身になって一葉に助言・援助を与えてくれた桃水は、雑誌「武蔵野」を創刊し、一葉はその第1篇に第1作『闇桜』(明治25年3月)を掲載することが出来たのです。
明治25年、時に一葉は二十歳でした。
しかし、この頃、桃水との関係が萩の舎で醜聞として噂され、中島歌子や友人伊東夏子から忠告を受けた一葉は、桃水との交際を絶つことを決意します。
小説発表のつてを失った一葉に、三宅花圃は有力な文学雑誌であった「都の花」を紹介してくれました。
同雑誌に発表した『うもれ木』(明治25年11月)に注目した星野天如が「文学界」への寄稿を求め、一葉と「文学界」との関係が生じます。
作家的成熟に伴い、一葉の内面の苦悩・葛藤はより切迫したものとなっていました。
一方、生活は日に日に困窮を極めています。
この難局を打開するべく、一葉は文学を捨てて、商売を始める決意をしたのです。
明治26年7月20日、一葉は母たき・妹邦子とともに下谷龍泉寺町に転居し、小さな駄菓子屋を開きました。
当時の龍泉寺町は、吉原遊廓に寄生する廓者たちが軒の傾いた長屋にひしめく場所でした。
ここで一葉が目にした、女性たちが身を売る吉原遊廓という闇の空間、その場所に経済的に依存する周辺の町の人々の生活などが、作家としての彼女の社会認識を深化させ、後に「奇跡の十四か月」と呼ばれる創作の充実期をもたらすことになるのです。
明治27年5月、商売を廃業して本郷の丸山福山町に転居した一葉は、再び書くことへと向かいました。
明治27年12月に「文学界」に掲載した『大つごもり』を幕開けとして、一葉は近代文学史上に残る傑作の数々をほぼ1年あまりの間に集中的に執筆します。
どの作品も、それまで描かれえなかった明治近代の抑圧の中を生きる女性たちの姿を、所属する社会的な階層を越えて描き出したものでした。
そして、明治29年11月23日、一葉は結核のため、わずか24歳でその生を終えました。
にごりえ』について
にごりえ』は、明治28年9月、雑誌「文芸倶楽部」第一巻第九編に掲載されました。
発表当時から評判が高く、例えば、田岡嶺雲は、「一葉女史の『にごりえ』」(「明治評論」明治28年12月)で、その社会性を高く評価しています。
それでは、ここで、『にごりえ』のあらすじを、簡潔にまとめているウィキペディアから引用しておきましょう。

丸山福山町の銘酒屋街に住むお力。
お力は上客の結城朝之助に気に入られるが、それ以前に馴染みになった客源七がいた。
源七は蒲団屋を営んでいたが、お力に入れ込んだことで没落し、今は妻子ともども長屋での苦しい生活をおくっている。
しかし、それでもお力への未練を断ち切れずにいた。
ある日朝之助が店にやって来た。
お力は酒に酔って身の上話を始めるが、朝之助はお力に出世を望むなと言う。
一方源七は仕事もままならなくなり、家計は妻の内職に頼るばかりになっていた。
そんななか、子どもがお力から高価な菓子を貰ったことをきっかけに、それを嘆く妻と諍いになり、ついに源七は妻子とも別れてしまう。
お力は源七の刃によって、無理とも合意とも知らない心中の片割れとなって死ぬ。

不幸の多重奏です。
身につまされます。
商売女に入れあげて、転落する男。
現代で言うなら、キャバクラにハマってカード破産するようなものですね。
僕の学生時代の友人が、ソープ嬢に本気になっていました。
もちろん、相手は彼のことを客としか見ていないのですが、純情な彼にはそのことが分かりません。
僕は何度も「やめておいた方がいい」と言ったのですが。
カネの切れ目が縁の切れ目で、転落した男に商売女はもう用がありません。
それでも、男の方は未練タラタラ。
腑抜けのようになってしまい、仕事をする気もおきません。
妻子もいるのに。
おかげで、家族は貧乏暮らし。
奥さんが、いい加減に商売女のことは忘れてくれと諭すと、逆ギレ。
「出て行け!」と怒鳴り付けます。
もうね、奥さんが不憫で不憫で。
ここが明治時代の女性の立場の弱さで、奥さんが一度は「追い出されても行く所がありませんから」と謝りますが、もはや全く聞く耳を持たない旦那。
奥さんが幼い息子を連れて出て行っても、追い掛けようともしません。
そうして、最後は自分をこんな境遇にした商売女を恨んで殺し、自分も死ぬという。
現代でもありそうな話しです。
人間の業というか、性(さが)というものは、時代を経ても、変わらないものなんだなと感じさせられます。
岩波文庫版の「解説」が非常に簡潔にまとまっているので、そこから重要そうな箇所を引いておきましょう。

にごりえ』は、一葉作品のなかでも最も難解な作品とされる。その最大の原因は、ヒロインお力の設定にある。銘酒屋菊の井のお力は、「物思ふ」酌婦として描かれている。だがそのお力の物思いの内容が、明確に読者の前に示されることはない。それはお力自身が、自分が内面に抱える混沌を言語化することができないでいるからである。

お力の物思いの内実を<語ること>へ向かわせるべく登場するのが、新開地の銘酒屋には不釣り合いな上等の客結城朝之助である。「履歴をはなして聞かせよ」「真実の処を聞かしてくれ」という朝之助の再三の勧めに促されてお力が語った七歳の冬の思い出は、お力の<にごりえ>の生の原点をなすものである。だがそれに対して朝之助は、「お前は出世をのぞむな」「思ひ切つてやれ/\」と、酌婦としてのお力にふさわしい意味づけを行う。酌婦という境涯とは無関係に、一人の人間としていわば生存の不安をかかえているお力の内面は、やはり理解されることはなかった。この時お力は再び沈黙の中へと閉じこもっていかざるを得ない。
にごりえ』には二つの境遇の女性たちが登場する。酌婦、内実は私娼としてわが身を切り売りする女性たちと、妻・母として家庭の維持・存続をまかされ、家父長制度の内部を生きる女性たちである。菊の井の売れっ子酌婦お力は前者の代表であり、お力にいれあげたあげく落ちぶれてしまった源七の妻お初は後者の代表である。一見二つの境遇の女性たちの間には、はっきりとした境界線が存在するかのように見える。だが、母にして酌婦というお力の酌婦仲間の姿が描かれることによって、両者の間の境界はたやすく無化されてしまう。事実、身寄りもなく幼い息子太吉をかかえたお初が、源七から離縁されて生きていくすべは、自ら身を売る境涯へと落ちていく以外にはない。これもまた<にごりえ>の生の形であった。
お力の死に、語り手は自らは何ら説明を加えていない。彼女の死は、町の人々の噂に取り囲まれ、さまざまに語られている。最後まで酌婦お力は自ら語る存在ではなく、語られ、解釈され、意味を付与される存在であった。それが、社会の<にごりえ>を生きた一人の女性の生と死が象徴するものなのである。

文庫版について
現在、新刊で流通している『にごりえ』の文庫版は、岩波と新潮から出ています。
岩波文庫

にごりえ・たけくらべ (岩波文庫 緑25-1)

にごりえ・たけくらべ (岩波文庫 緑25-1)

初版は、何と1927年7月。
岩波文庫の創刊と同時です。
現在出回っているのは、1999年の改版。
にごりえ」「たけくらべ」の2篇を収録。
「注」と「解説」は菅聡子氏。
新潮文庫
にごりえ・たけくらべ (新潮文庫)

にごりえ・たけくらべ (新潮文庫)

  • 作者:樋口 一葉
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2003/01
  • メディア: 文庫
初版は昭和24年。
にごりえ」「十三夜」「たけくらべ」「大つごもり」「ゆく雲」「うつせみ」「われから」「わかれ道」の8篇を収録。
「注解・解説」は三好行雄氏。
【参考文献】
にごりえ 現代語訳・樋口一葉 (河出文庫)伊藤比呂美島田雅彦多和田葉子角田光代・訳
詳説日本史B 改訂版 [日B309] 文部科学省検定済教科書 【81山川/日B309】笹山晴生佐藤信五味文彦、高埜利彦・著(山川出版社
精選日本文学史』(明治書院
田村の〈本音で迫る文学史〉 (受験面白参考書)』田村秀行・著(大和書房)
にごりえ - Wikipedia

『嵐が丘』を原書で読む(第27回)

(テキスト28ページ、2行目〜)

Heathcliff gradually fell back into the shelter of the bed, as I spoke, finally, sitting down almost concealed behind it.

Heathcliff ヒースクリフ(Emily Brontëの小説Wuthering Heights(1847)の主人公/復讐の鬼)
gradually(副)徐々に、次第に、漸進(段階)的に
fall back(群集などが)後ろへ下がる
shelter(名)住まい、宿
as(接)(時を表わして)~している時に、~したとたんに
down(副)座って ・sit down 座る
almost(副)(動詞を修飾して)もう少しで、すんでのところで、~するばかりに
conceal(他)(ものなどを)隠す、見えないようにする
behind(前)~の陰に(隠れて)

I guessed, however, by his irregular and intercepted breathing, that he struggled to vanquish an access of violent emotion.

guess(他)(十分知らないで、また十分考えないで)推測する(+that)
by(前)(判断の尺度・基準を表わして)~によって、~に従って
his(代)彼の
irregular(形)不規則な、変則の
intercept(他)(逃亡などを)押える、(動きを)止める
breathing(名)(しばしば修飾語を伴って)息づかい
that(接)(名詞節を導いて)(~)ということ/(目的語節を導いて)
struggle(自)もがく、あがく、努力する(+to do)
vanquish(他)(感情などを)克服する
access(名)発作 ・an access of anger かんしゃく
violent(形)(言動・感情など)激した、憤激した ・violent passion 激情
emotion(名)(心身の動揺を伴うような)強い感情、感激、感動

Not liking to show him that I heard the conflict, I continued my toilette rather noisily, looked at my watch, and soliloquised on the length of the night:

not(副)(不定詞・分詞・動名詞の前に置いてそれを否定して)(~し)ない
like(他)(~を)好む、(~が)好きである(+to do)
show(他)(~を)明らかにする、証明する(+目+that)
conflict(名)葛藤(かっとう)(二つ以上の欲求が対立した心理状態)
my(代)私の
toilette(名)(婦人の)化粧、身じまい
rather(副)幾分、少々、やや
noisily(副)大きな音を立てて、騒々しく
look at ~ ~を見る、眺める、熟視する
watch(名)(携帯用の小さな)時計
soliloquize(他)独語する
on(前)(関係を表わして)~について、~に関する
length(名)(時間的な)長さ、期間(of)

‘Not three o’clock yet! I could have taken oath it had been six — time stagnates here — we must surely have retired to rest at eight!’

not(副)(述語動詞・文以外の語句を否定して)~でなく
three(形)(基数の3)3の、3個の、3人の
could(助動)(仮定法(叙想法)で用いて)(could have+過分で/条件節の内容を言外に含めた主節だけの文で/婉曲的に)~できただろうに、~したいくらいだった
take(他)(誓いを)立てる ・take oath 誓う
oath(名)誓い、誓約、誓言 ・take an oath 誓いをたてる
it(代)(非人称動詞(impersonal verb)の主語として)(時間・日時を漠然とさして)
six(代)(基数の6)6時
stagnate(自)(生活・心・仕事・人などが)沈滞(停滞)する
must(助動)(当然の推定を表わして)(must have+ppで過去についての推定を表わして)~したにちがいない
retire(自)退く、去る、引きこもる、立ち去る
rest(自)(横になったり眠ったりして)休む、休息する
at(前)(時の一点を表わして)~に
eight(名)(基数の8)8時

‘Always at nine in winter, and always rise at four,’ said my host, suppressing a groan: and, as I fancied, by the motion of his shadow's arm, dashing a tear from his eyes.

nine(名)(基数の9)9時
in(前)(時間を表わして)~(のうち)に、~の間、~中 ・in spring 春に
rise(自)起きる、起床する
four(名)(基数の4)4時
say(他)(人に)(~と)言う、話す、述べる、(言葉を)言う(+引用)
host(名)(害をもてなす)主人(役)、ホスト(役)
suppress(他)(うめき・あくび・感情を)抑える、(かみ)殺す
groan(名)うめき(うなり)声(=moan)
as(代)(関係代名詞)(前後の主節全体を先行詞として、非制限的に用いて)それは~だが
fancy(他)(~を)空想する、心に描く、想像する(+目+doing)
motion(名)(動いている状態・過程を示して)動き、運動
of(前)(主格関係を表わして)(動作の行為者、作品の作者を表わして)~が、~の
dash(他)投げつける ・dash away one's tears(手・ハンカチで)涙をさっとぬぐう
tear(名)(通例複数形で)涙
from(前)(分離・除去などを表わして)~から(離して)

‘Mr. Lockwood,’ he added, ‘you may go into my room; you’ll only be in the way, coming down stairs so early: and your childish outcry has sent sleep to the devil for me.’

Lockwood(名)ロックウッド
add(他)(言葉を)付け加える(+引用)
may(助動)(許可を表わして)~してもよろしい、~してもさしつかえない
you'll you willの短縮形
will(助動)(話し手の推測を表わして)~だろう
only(副)ただ~だけ、~にすぎない
way(名)(通例単数形で)(the ~、one's(a person's)~)通り道、行く手 ・in the way じゃま(障害)になって
come down(階上の寝室から)降りてくる
stair(名)(複数形で)階段(建物の階(floor)から階まで、または踊り場(landing)から踊り場までのひと続きの踏み段(flight of steps)をいう)・go down stairs 階段を下りる
so(副)(程度を表わして)それ(これ)ほど、そんな(こんな)に、これくらい
early(副)(時間・時期的に)早く
your(代)あなた(たち)の、君(ら)の
childish(形)子供じみた、おとなげない(=immature)
outcry(名)叫び(声)、どなり声
sleep(名)眠気
devil(名)悪魔、悪霊(キリスト教では悪の権化または誘惑者とされる/通例割れたひづめ、角、尾を持つとされている)

‘And for me too,’ I replied.

reply(他)(~と)答える(目的語には答える内容がくるので、人称代名詞やletterなどの名詞は用いられない)(+引用)

‘I’ll walk in the yard till daylight, and then I’ll be off; and you need not dread a repetition of my intrusion. I’m now quite cured of seeking pleasure in society, be it country or town. A sensible man ought to find sufficient company in himself.’

I'll I willの短縮形
will(助動)(意志未来を表わして)(1人称の主語に伴い、発話時の話者の意志を表わし、約束・諾否・主張・選択などを示して)~するつもりである、~しようと思う
daylight(名)夜明け(=dawn)
then(副)(しばしばandを伴って、前に続くことを示して)それから、その後で
off(副)(移動・方向を表わして)離れて、去って、走り出て ・be off 行ってしまう、出て行く
need(助動)~する必要がある
dread(他)(これからの事を)ひどく怖がる、恐れる
repetition(名)繰り返し、反復
intrusion(名)(話などへの)割り込み、じゃま
quite(副)(程度を表さない形容詞・動詞または最上級の形容詞などを修飾して)まったく、すっかり、完全に(=completely)
cure(他)(病気・病人を)治す、いやす(of)
of(前)(関係・関連を表わして)~の点において、~に関して、~について
seek(他)(~を)求める、得ようとする
in(前)(範囲を表わして)~において、~内で
society(名)社交、つき合い、交際(=company)
country(名)(the ~)(都市に対して)いなか ・town and country 都会といなか(対句なので無冠詞)
town(名)(the ~)(いなかに対して)都会
sensible(形)(人・言動など)分別のある、思慮のある、賢明な、道理にかなった ・a sensible man 物のわかった男
man(名)(修飾語句を伴って)(特定の仕事・性格などの)男性
ought(助動)(to doを伴う)(義務・当然・適当・必要を表わして)~すべきである、~するのが当然(適当)である、~したほうがよい
find(他)(探して)(人・ものを)見つけ出す
sufficient(形)十分な、足りる(⇔insufficient)
company(名)(時に複数扱い)仲間、連れ、一緒に過ごす人
himself(代)(再帰的に用いて)(前置詞の目的語に用いて)

‘Delightful company!’ muttered Heathcliff.

delightful(形)楽しい、愉快な
mutter(他)低い声でぶつぶつ言う(+引用)

‘Take the candle, and go where you please. I shall join you directly. Keep out of the yard, though, the dogs are unchained; and the house — Juno mounts sentinel there — and — nay, you can only ramble about the steps and passages — but, away with you! I’ll come in two minutes!’

where(接)~する所はどこに(へ)でも ・Go where you like. どこにでも行きたい所へ行きなさい。
please(自)(as、when、ifなどが導く従属節内で)好む、気に入る、したいと思う
shall(助動)(意志未来を表わして)(1人称を主語として、義務的感覚または強い決意を表わして)きっと~する
join(他)((待っている)人と)一緒になる、(~と)会う ・Wait there, and I'll join you soon. そこで待ってなさい。私もじきに合流するから。
directly(副)直ちに、すぐ(=immediately)
keep out of ~(~を)~の中に入れなさい、(~を)~から締め出す
yard(名)(家・建物に隣接した、通例囲まれた)庭、囲い地
though(副)(文尾・文中に置いて)でも、もっとも、やっぱり
unchain(他)(~の)鎖を解く
Juno ジュノー(女子名)
mount(他)(見張りを)(~に)立てる
sentinel(名)歩哨、哨兵
nay(副)(古)否、いや(=no/⇔yea、aye)
can(助動)(許可を表わして)~してもよい
only(副)ただ~だけ、~にすぎない
ramble(自)(副詞句を伴って)ぶらぶら歩く、あてもなく歩く
about(前)(周囲を表わして)~のあたりに、~の近くに
step(名)(複数形で)(ひと続きの)回段
passage(名)廊下(=passageway、corridor)
Away with ~!(命令法で)~を追い払え、取り除け ・Away with you! そこのけ!、立ち去れ!
come in 入る、入場する
two(形)(基数の2)2の、2個の、二人の

I obeyed, so far as to quit the chamber; when, ignorant where the narrow lobbies led, I stood still, and was witness, involuntarily, to a piece of superstition on the part of my landlord, which belied, oddly, his apparent sense.

obey(自)服従する、言うことを聞く
so ~ as to do ~するほどに(~だ)
quit(他)(場所などを)去る、立ち退く
chamber(名)(古)(家の)部屋、私室、室
when(副)(関係副詞)(非制限的用法で/通例前にコンマが置かれる)(~すると)その時
ignorant(形)(人が)(~を)知らないで、(~に)気づかないで
lobby(名)ロビー、(玄関)広間(=foyer)
lead(自)(副詞句を伴って)(道路などが)(~に)至る、通じる、(~を)通る
stand(自)(~の状態で)立つ(+補) ・stand still じっと立っている
still(形)静止した、じっとした ・stand still じっと立っている
witness(名)目撃者(to)
involuntarily(副)不本意に、心ならずも
to(前)(行為・作用の対象を表わして)~に対して、~に
piece(名)(不可算の名詞に伴って、まとまりのある数量を示して)一片、1個、1編、1節(of)
of(前)(分量・内容を表わして/数量・単位を表わす名詞を前に置いて)~の
superstition(名)迷信
part(名)(a part of ~で)(~の)一部(文)(通例この句は後に単数名詞を従える時は単数扱い、複数名詞の時は複数扱いにする)
landlord(名)家主
which(代)(関係代名詞)(非制限的用法で/通例前にコンマが置かれる)(主格・目的格の場合)そしてそれは(を)
belie(他)(実際の姿を)偽って(間違って)示す(伝える)
oddly(副)奇妙に、奇異に
apparent(形)外見上の、見かけの、一見~らしい
sense(名)思慮、分別、常識

He got on to the bed, and wrenched open the lattice, bursting, as he pulled at it, into an uncontrollable passion of tears.

get on to=get onto ~ ~(の上)にのぼる(あがる)
wrench(他)(ものを)ぎゅっとねじる、ひねる、ねじって回す(+目+補) ・He wrenched open the window. 彼はまどをこじ開けた。
lattice(名)格子(こうし)
burst into ~ 突然(~)しだす、突然(~の状態に)なる ・burst into tears わっと泣きだす
pull(自)引く、引っぱる(at)
at(前)(方向・目標・目的を表わして)~を(ねらって)、~に(向かって)
uncontrollable(形)制御できない、抑制しにくい、手に負えない(=unmanageable)
passion(名)熱情、情熱、激情

‘Come in! come in!’ he sobbed.

sob(他)(~を)すすり泣きながら話す(言う)(+引用)

‘Cathy, do come. Oh, do — once more! Oh! my heart’s darling, hear me this time — Catherine, at last!’

Cathy(名)キャシー(女性名/Catherineの愛称)
do(助動)(肯定文を強調して) ・Do tell me. ぜひ聞かせてください。
once more=once again もう一度(一回)
oh(間)(しばしば直後にコンマや!などを従える)(呼び掛けの前に用いて)おい!、ねえ!
heart(名)(感情、特に優しい心・人情が宿ると考えられる)心、感情
darling(名)あなた、君、ねえ、お前(夫、妻、恋人、(親から)子への呼び掛け/他人でも特に女性への親しみをこめた呼びかけに用いる)
hear(他)(~を)よく聞く、(~に)耳を傾ける
this(形)(指示形容詞)この/(近くの時・所をさして)・this time この時
time(名)(頻度を表わし、通例副詞句をなして)回、度 ・this time 今度
Catherine(名)キャサリン(女性名/愛称Cathy、Kate、Kitty)
at last 最後に、とうとう

The spectre showed a spectre’s ordinary caprice; it gave no sign of being; but the snow and wind whirled wildly through, even reaching my station, and blowing out the light.

spectre(名)(英)=specter(名)幽霊、亡霊、妖怪、お化け
show(他)(感情・態度・気配などを)表わす、(好意・感謝などを)示す
ordinary(形)普通の、通常の(⇔special)
caprice(名)気まぐれ、むら気
give(他)(印象・考えなどを)与える
sign(名)あらわれ、兆候、前兆(=indication)(of)
being(名)存在、実存(=existence)
whirl(自)(通例副詞句を伴って)渦巻く
wildly(副)乱暴に、荒々しく、激しく
through(副)通して、貫いて
station(名)位置、場所
blow out(明かりなどを)吹き消す
light(名)灯火、明かり
【参考文献】
Wuthering Heights (Penguin Classics)』Emily Brontë・著
嵐が丘(上) (光文社古典新訳文庫)小野寺健・訳
新英和中辞典 [第7版] 並装』(研究社)
リーダーズ英和辞典 <第3版> [並装]』(研究社)
リーダーズ・プラス』(研究社)

日本古典文学を原文で読む(第4回)『風土記』

風土記』について
今回は『風土記』を取り上げたいと思います。
古事記』や『日本書紀』は、「日本最古の書物」としてよく話題になるので中学生でも知っていますが、『風土記』の方は若干マイナーなのではないでしょうか。
実際に読んだことがある人となると、ほとんどいないと思います。
もちろん、僕もこれまで読んだことはありませんでした。
ものすごく大雑把に言うと、『古事記』は日本最初の物語、『日本書紀』は日本最初の歴史書、『風土記』は日本最初の地理書ということになると思います。
物語ではないので、事柄の羅列で、読んでも全く面白くありません。
「マイナーで面白くないなら、何で取り上げるのか」と思う方もいらっしゃるかも知れませんが、一応名のある古典なので、さわりくらいは読んでおいた方が良いと思うからです。
確かに、本作は高校の古文の教科書にも載っていませんし、いや、大学でも、文学部で卒論のテーマにでも選ばない限り、読むことはないでしょう。
僕が在籍していた大学のシラバスをざっと見ましたが、やはり、『風土記』関連の授業はありませんでした。
しかし、高校日本史の教科書には、名前だけ出て来ます。
山川の『詳説日本史』を引いてみましょう。

史書とともに、713(和銅6)年には諸国に郷土の産物、山川原野の名の由来、古老の伝承などの筆録が命じられ、地誌である風土記が編纂された。

なお、脚注には次のようにあります。

常陸・出雲・播磨・豊後・肥前の5カ国の風土記が伝えられている。このうちほぼ完全に残っているのは、『出雲国風土記』である。

簡単な記述ですね。
僕の手元にある高校生用の文学史のテキストには、もう少しだけ解説があるので、こちらも引いてみましょう。

風土記 地誌。和銅六(七一三)年の官命によって、諸国の国庁で作成した報告文書。国郡内の産物、土地の状態、山川原野の名の由来、古老の伝承などを記す。成立の年代は国によって異なり、現存する五か国(常陸・播磨・出雲・肥前・豊後)の風土記では『播磨国風土記』が最も古く、霊亀年間(七一五―七一七)以前と推定される。唯一の完全な形態を残す『出雲国風土記』は天平五(七三三)年の成立である。諸書に引用され、部分的に残ったものを風土記逸文と言い、山城国その他四十余国のものがある。

なお、『古事記』や『日本書紀』と同じく、原文は漢文です。
テキストについて
それでは、実際に読むには、どのようなテキストがあるのでしょうか。
ここでは、現在の日本で流通している主な文庫版を取り上げたいと思います。
角川ソフィア文庫版(全2巻)

初版は平成27年
中村啓信監修・訳注(各巻共通)。
本書には、現在伝えられている風土記の5ヵ国(常陸・出雲・播磨・豊後・肥前)と、諸文献に引用されて来歴した逸文と称されるものを採録しています。
5ヵ国の風土記については、訓読文、脚注、訓読文に対応する現代語訳、本文(漢文)を掲載。
逸文については、一部上記の構成とは異なる部分もあります。
さらに、各国末に解説。
現在、残っている風土記全体について、文庫で本文・書き下し文・現代語訳までを網羅しているのは、この角川ソフィア文庫版しかありません。
(上)には、「総解説」「常陸国風土記」「出雲国風土記」「播磨国風土記」を収録しています。初版は平成27年
(下)には、「豊後国風土記」「肥前国風土記」「逸文畿内東海道東山道北陸道)」「逸文山陽道山陰道南海道西海道)」を収録。
巻末には、「主要語句索引」も付いています。
講談社学術文庫版(全2巻)
講談社学術文庫からは、「出雲国風土記」と「常陸国風土記」が出ています。
出雲国風土記 (講談社学術文庫)

出雲国風土記 (講談社学術文庫)

初版は1999年。
全訳注は荻原千鶴(お茶の水女子大学教育学部教授)。
各章毎に訓み読し文、現代語訳、注、解説の順で構成され、巻末には原文がまとめて掲載されています。
一巻本なので、当然ながら、「出雲国風土記」については、上の角川ソフィア文庫版より詳しいです。
常陸国風土記 全訳注 (講談社学術文庫)

常陸国風土記 全訳注 (講談社学術文庫)

初版は2001年。
全訳注は秋本吉徳(清泉女子大学教授)。
余談ですが、僕は大学受験生の時、京都の駿台で秋本先生の古文の夏期講習を受けたことがあります。
関西弁で分かり易く解説して下さいました。
講談社から『風土記』の訳注を出されるような、こんな立派な先生の授業だったとは、当時は全く知りませんでした。
本書も、『常陸国風土記』と同じく、各章毎に訓み読し文、現代語訳、注、解説がありますが、原文(漢文)は載っていません。
平凡社ライブラリー
風土記 (平凡社ライブラリー)

風土記 (平凡社ライブラリー)

  • 発売日: 2000/02/15
  • メディア: 文庫
初版は2000年。
訳者は吉野裕。
本書は口語訳のみで、上の角川ソフィア文庫版や講談社学術文庫版のように、書き下し文や原文は掲載されていません。
ただし、口語訳については、風土記の現存するもの5篇と、現在知られる逸文のほとんど全てを収めています。
各章毎に詳細な注と、巻末には「解説」「風土記地名対照表」を収録。
現在、新刊書店で流通している『風土記』の文庫版は、以上の3種類しかありません。
原文読解
それでは、『出雲国風土記』本文の冒頭部分を読んでみましょう。
下に、「原文(訓読文)」「現代語訳」を記しました。
いずれも、角川ソフィア文庫版からの引用です。
また、書き下し文の下には、語注も付けてあります。
なお、原文は縦書きですが、ここでは、ブログの書式のため、横書きになりますが、ご了承下さい。
(1)

(訓読文)
(テキスト122ページ、1行目)
出雲国風土記

出雲国風土記(作品名)地誌。一巻。天平五年(七三三)成立。元明天皇和銅六年(七一三)の詔勅によって作られた。出雲国の国名の由来・地理の大略を記し、また国引き伝説・わに伝説など出雲系神話が数多く収められている。現存する五つの風土記のうち、唯一の完全なもの。「出雲風土記」とも。

(現代語訳)
出雲の国の風土記

(2)

国の大体は、震を首とし、坤を尾とす。

(くに)(名)行政上の一区域。
(格助)所属を表す。~のうちの
おほかた(名)全体のようす。大部分。
(係助)特に掲示する意を表す。(主語のように用いる)。~は。
ひむがし(名)「ひむかし」とも。ひがし。
(格助)動作の起点を示す。~を。~から。
はじめ(名)最初。はじまり。第一。
たり(助動タリ型)断定の意を表す。~だ。~である。
(自サ変)ある動作が起こる。ある状態となる。
(ひつじさる)(名)方角の名。「未」と「申」の間。南西。
をはり(名)末。果て。しまい。

国のおおよその地理は、東を起点として、西南を終点とする。

(3)

東と南とは山にして、西と北は海に属く。

(格助)いくつかの事柄を並列する。~と~と。
(みなみ)(名)「みんなみ」とも。方角の名。南方。
(係助)特にとりたてて区別する。~は。~の方は。
(やま)(名)山。山岳。
にして(断定の助動詞「なり」の連用形+接続助詞「して」)~であって。~で。
西(にし)(名)方角の名。日・月の沈む方向。
(きた)(名)方角の一つ。北。子(ね)の方角。
(格助)場所を表す。~に。~で。
つく(自カ四)触れる。接触する。くっつく。付着する。密着する。

東と南とは山地であって、西と北とは海に面している。

(4)

東西は、一百卅七里一十九歩、南北は一百八十二里一百九十三歩。

ひのたて 東。また、東西とも。⇔日の緯(よこ)
(いち)(名)数の名。ひとつ。
※距離の単位は、一里が約五三四・五メートル(三百歩が一里)。一歩が約一・七八メートル(六尺が一歩)。一百三十七里一十九歩は約七三・三キロメートル。
ひのよこ 西。また、南北とも。
※一百八十二里(さと)一百九十三歩(あし)…約九七・六キロメートル。

東西の距離は、百三十七里十九歩、南北の距離は百八十二里百九十三歩である。

(5)

(一百歩、七十三里卅二歩、得而難可誤)

※(一百歩、七十三里卅二歩、得而難可誤)…伝写の間に竄入した後世の注記と考えられる。

(百歩、七十三里三十二歩、得而難可誤)

(6)

老、枝葉を細しく思ひ、詞源を裁り定む。

おきな(名)男性の老人が自分をへりくだっていう語。わし。じじ。
こと(名)世の中に起こる事柄。現象。
すゑ(名)果て。しも。終わり。結末。
(格助)対象としてとりあげられたものを示す。~を。
くはし(形シク)つぶさである。細かい。
思ふ(おもふ)(他ハ四)考える。思案する。
こと(名)人のうわさ。評判。
もと(名)物事の起こるところ。はじまり。おこり。出どころ。原因。
ことわる(他ラ四)理非・道理を明らかにする。道理に基づいて判断する。
定む(さだむ)(他マ下二)決める。決定する。

この国の長老である私は、事柄のはしばしまで子細に思いめぐらし、言い伝えの本源を判断してまとめました。

(7)

亦、山野、濱浦の処、鳥獣の棲、魚貝、海菜の類、良に繁多にして、悉には陳べず。

(また)(副)同じく。同様に。やはり。また。
(はま)(名)海や湖に沿った平らな陸地。浜辺。
(うら)(名)海や湖が湾曲して陸地に入り込んだ所。入り江。
(格助)連体修飾語をつくる。
(ところ)(名)場所。
(とり)(名)鳥類の総称。
すみか(名)すまい。住居。
(うを)(名)魚類の総称。さかな。=魚(いを)
(かひ)(名)貝。また、貝殻。
(格助)(上代語)所属の意を表し、連体修飾語をつくる。~の。~にある。
もは(名)海藻。
(たぐひ)(名)種類。類。
まことに(副)本当に。まったく。
さは(に)(副)数多く。たくさん。
ことごと(名)事のすべて。全部。
には(格助詞「に」+係助詞「は」)~には。
陳ぶ(のぶ)(他バ下二)話す。言う。説明する。文章に書く。
(助動特殊型)打消の意を表す。~ない。

また、山、野、浜、浦などの様子、鳥獣の住んでいる様子、魚、貝、海菜の類など、ほんとうに多くて、すべてを数え上げることはできませんでした。

(8)

然はあれど止むことを獲ぬは、粗、梗概を挙げて、記の趣をなす。

(しか)(副)さように。そのように。そう。
あれど(ラ変動詞「あり」の已然形+接続助詞「ど」)(「~はあれど」の形で)~はともかくも。~はさておいて。
止む(やむ)(自マ四)続いたものが終わりになる。とまる。絶える。おさまる。
こと(名)わけ。事情。
(他ア下二)(用言の連体形に「を」「こと(を)」の付いた形に続いて)できる。可能である。
梗概 おおよそのところ
挙ぐ(あぐ)(他ガ下二)上げる。高くかかげる。
(接助)ある事が起こって、次に後の事が起こることを表す。~て、それから。そうして。
ふみ(名)文書。書物。
(おもむき)(名)心がそのほうに向いていること。意向。趣意。
なす(他サ四)あえて行う。行う。する。

そのようではありますが、やむを得ない事柄は、おおよそのところを列記して、報告の体裁を整えました。

(9)

八雲といふ所以は、八束水臣津野命、詔りたまひしく、「八雲立つ」と詔りたまひき。

八雲(やくも)(名)幾重にも重なっている雲。
(格助)言ったり、思ったりする内容を受けていう。引用の「と」。
いふ(自他ハ四)心に思っていることを他人に聞こえるようにことばに出す。言う。
ゆゑ(名)原因。理由。いわれ。事情。
八束水臣津野命 意宇郡の国引き神話に登場する神。古事記の系譜では大国主神の祖父神にあたる。
のる(他ラ四)言う。述べる。告げる。
たまふ(補動ハ四)動詞・助動詞受身の「る」「らる」、使役の「す」「さす」「しむ」の連用形に付いて、尊敬の意を表す。お~になる。お~なさる。
(助動特殊型)今より前(過去)に起こったことをいう。以前~た。~た。
-く(「あく」の「あ」が活用語の下に付いて音変化し、「く」だけが表示されているもの)活用語に付いて、その語を名詞化する。/連用修飾語として、下の会話文・引用文にかかる。~することに(は)。(四段・ラ変型活用の語にはア段の語尾、他の動詞型活用の語には連体形語尾「る」の「ら」となったもの、形容詞型活用の語には「~け」「~しけ」の形、助動詞「き」には「し」に付く。
八雲立つ(やくもたつ)(枕詞)雲が幾重にも立ちのぼる意から「出雲(いづも)」にかかる。

八雲といった理由は、八束水臣津野の命が、「八雲立つ」と、おっしゃった。

(10)

故、八雲立つ出雲と云ひき。

(かれ)(接)(上代語)(副詞「か」+ラ変動詞「あり」の已然形=「かあれ」の転。接続助詞「ば」を伴わずに順接の確定条件(原因・理由)を表す用法によるもの)それゆえに。だから。それで。そこで。さて。
出雲(いづも)(地名)旧国名。「山陰道(さんいんどう)」八か国の一つ。今の島根県東部。雲州(うんしゅう)。

だから、八雲立つ出雲と云った。

(11)

合せて神の社、三百九十九所。

合はす(あはす)(他サ下二)一つにする。いっしょにする。集める。合計する。
(かみ)(名)神話で、国土を創造し、支配した存在。神代に登場する神々。
(やしろ)(名)古代、その地を清め、壇を設けて神を迎え祭った所。神の降る所。
(ところ)(名)点。箇所。

合せて神の社は、三百九十九所である。

(12)

一百八十四所、神祇官に在り。

神祇官(かみつかさ)古代律令制において、神社の管轄を司った役所。
在り(あり)(自ラ変)(物が)ある。

百八十四所は、神祇官に登録されている。

(13)

二百一十五所、神祇官に在らず。

二百十五所は、神祇官に登録されていない。

(14)

九つの郡。

九つ(ここのつ)(名)数の名。九。
(こほり)(名)令制で、国の下に属する地方行政区画。郷(ごう)・里・町・村などを含む。のちの郡(ぐん)にあたる。

九つの郡がある。

(15)

郷六十二、里一百八十一、余戸四、駅家六、神戸七、里一十一。

さと(名)上代の地方行政区画の一つ。人家五十戸を単位としたもの。=里(り)。
あまりべ(名)「あまるべ」とも。上代の令制で、五十戸未満であるため、里を編成できずに余った戸の一群。「九つの郡(こほり)、郷(さと)は六十二、余り戸は四」(出雲風土記
駅家(うまや)(名)令制で、中央政府と地方との連絡のために、街道にそって三十里(=約一六キロメートル)ごとに置かれた馬・人足・食糧などを備えた施設。宿駅。=駅(えき)。
神戸(かむべ)(名)伊勢神宮をはじめ、朝廷が崇敬している神社に属して、租調庸(そちょうよう)の税をその神社に納める、神社付近の民戸。

郷は六十二、里は百八十一、余戸は四、駅家は六、神戸は七、里は十一。

(16)

意宇郡、郷十一、里三十三、余戸一、駅家三、神戸三、里六。

意宇の郡。郷は十一、里は三十三、余戸は一、駅家は三、神戸は三、里は六。

(17)

島根郡、郷八、里二十五、余戸一、駅家一。

島根(しまね)(名)(「ね」は接尾語)島。

島根の郡。郷は八、里は二十五、余戸は一、駅家は一。

(18)

秋鹿郡、郷四、里一十二、神戸一里。

秋鹿の郡。郷は四、里は十二、神戸は一、里。

(19)

楯縫郡、郷四、里一十二、余戸一、神戸一、里。

楯縫の郡。郷は四、里は十二、余戸は一、神戸は一、里。

(20)

出雲郡、郷八、里二十三、神戸一、里二。

出雲の郡。郷は八、里は二十三、神戸は一、里は二。

(21)

神門郡、郷八、里二十二、余戸一、駅家二、神戸一、里。

神門の郡。郷は八、里は二十二、余戸は一、駅家は二、神戸は一、里。

(22)

飯石郡、郷七、里一十九。

飯石の郡。郷は七、里は十九。

(23)

仁多郡、郷四、里一十二。

仁多の郡。郷四、里は十二。

(24)

大原郡、郷八、里二十四。

大原(おおはら)(地名)

大原の郡。郷八、里は二十四。

(25)

右の件の郷の字は、霊亀元年の式に依りて、里を改めて郷となす。

右(みぎ)(名)右側。右の方。
件(くだり)(名)前に記した事項。前記の箇条。
字(じ)(名)文字。
年(ねん)(名)一年。十二か月の期間。
式(しき)(名)律令(りつりょう)および格(きゃく)の施行細則。
に(格助)動作のよりどころを示す。~に。
依る(よる)(自ラ四)もとづく。由来する。原因となる。
改む(あらたむ)(他マ下二)新しくする。変更する。
と(格助)~の状態になる意を表す。変化の結果を示す。~と。
なす(他サ四)変える。

右に挙げた件の郷の字は、霊亀元年の式に従って、里を改めて郷とした。

(26)

其の郷の名字は、神亀三年の民部省の口宣を被りて改む。

其の(その)(代名詞「そ」+格助詞「の」)近い前に話題にのぼった事物であることを示す語。その。あの。
まな(名)(「ま」は正式、「な」は字の意)「まんな」とも。仮名(かな)に対して、漢字。
(格助)時を示す。
民部省 地方行政や国家財政を司る
被る(かがふる)(他ラ四)(上代語)(命令などを)受ける。=被(かうぶ)る。

その郷の名を記す漢字は、神亀三年の民部省の口宣を受けて改めた。
(橋本雅之・訳)

【参考文献】
旺文社古語辞典 第10版 増補版』(旺文社)
1995年度 二文.pdf - Google ドライブ
詳説日本史B 改訂版 [日B309] 文部科学省検定済教科書 【81山川/日B309】笹山晴生佐藤信五味文彦、高埜利彦・著(山川出版社
精選日本文学史』(明治書院

『天使の詩』

この週末は、ブルーレイで『天使の詩』を見た。

天使の詩  Blu-ray

天使の詩 Blu-ray

1966年のイタリア映画。
監督はルイジ・コメンチーニ
脚本は、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』のピエロ・デ・ベルナルディとレオ・ベンヴェヌーティ。
撮影は、『さらばバルデス』のアルマンノ・ナンヌッツィ。
主演は、『ハムレット(1947)』『間違えられた男』『ナバロンの要塞』『アラビアのロレンス』『ローマ帝国の滅亡』のアンソニー・クェイル
共演は、『バリー・リンドン』のジョン・シャープ、『軽蔑』のジョルジア・モル。
カラー、ワイド。
穏やかなテーマ曲。
舞台はフィレンツェ
黒塗りの公用車が邸宅に着く。
中に乗っているのは英国大使のダンカン(アンソニー・クェイル)。
二人の子供はお隣りに預けている。
ダンカンは妻を亡くした。
そのことを小学生である長男のアンドレアには話すことにした。
しかし、未だ学校にも行っていない次男のミーロは「母親はどこかに出掛けた」と思っている。
喪服を着たダンカンが車から降りる。
隣りの家の庭では、アンドレアがミーロを肩車して遊んでいた。
その家のドーラがやって来る。
ミーロが「ママは?」と尋ねると、「まだお留守よ」と答えるドーラ。
一瞬、アンドレアの表情が曇る。
アンドレアとミーロが自分の家に戻って来る。
ダンカンが出迎える。
ミーロがママのことを父に尋ねる。
ダンカンはママの代わりに子供達の世話をさせるべく、家庭教師のルイザを雇っていた。
しかし、このおばさんを気に食わないミーロは、ルイザの膝を蹴っ飛ばす。
アンドレアを自室に呼ぶダンカン。
それにしても、広い家だ。
アンドレアに、涙を抑えながら「ママは病気が悪くなって亡くなった」と告げるダンカン。
聡明なアンドレアは既に察していた。
ダンカンは「ミーロには言うな」とアンドレアに釘を刺す。
その後、シャワーを浴びて出て来たアンドレアは、思わず、「ママ、タオルは?」と叫んで、我に返る。
ダンカンは毎日、公務で領事館に行っていた。
学校からアンドレアが帰って来る。
やんちゃなミーロは、ルイザの言うことを全く聞かず、家の中で暴れ回っていた。
アンドレアが、部屋からロケット花火を飛ばすところをミーロに見せる。
ミーロには熱があった。
ルイザは熱があるのに遊んでいる兄弟を厳しく責めた。
それにしても、ここは自然の風景が美しい。
アンドレアは、近くの湖に倒れている木の枝にぶら下がって遊んでいた。
夜、寝室のベッドでダンカンがミーロに絵本を読み聞かせていた。
アンドレアは、「ミーロには熱なんかなかったのに、ルイザが無理矢理寝かせた」と父に告げる。
兄弟は、ルイザのことを「魔女だ!」とまで言い放つ。
アンドレアは、「明日の柔道の試合を見に来て欲しい」とダンカンに頼むが、ダンカンは「仕事で行けない」と言う。
翌日、柔道の試合が行われていた。
アンドレアが出て来ると、どこからともなく、「英国人!」という声が。
本作は、結構人種差別の描写がある。
まあ、製作者側が差別をする意図ではなく、現実に差別があるということを描きたかったのだと思うが。
最近の日本でも、外国人に対する差別がヒドイ。
で、アンドレアが試合で優勢なところへ、ダンカンがやって来る。
父が来たことが気になって、アンドレアは試合に負けた。
その夜、アンドレアはダンカンを、「試合の時、勝ってたけど、パパが来て気が散ったから負けた」と悔しそうになじる。
まあ、その気持ちは分かる。
ダンカンは夜、子供達が寝静まった後、一人で自分の部屋にこもって、妻の肉声のテープを聞いている。
妻の顔は出て来ない(絵は出て来る)が、若くて美しい女性だったようだ。
まあ、僕も万が一、妻に先立たれたらと考えると、胸が潰れそうになるが。
その夜は雷が鳴り響いていた。
兄弟の寝室では、ミーロが雷を怖がっていた。
ミーロにママのことを訊かれても、答えられないアンドレア。
雷を怖がって眠れないミーロ。
そこへ、ダンカンがやって来る。
ダンカンが「お休み」と告げると、突然、ミーロが「ママは死んだ!」と叫ぶ。
「喋ったのか?」とダンカン。
「喋ってない!」とアンドレア。
ダンカンは、アンドレアが約束を破ったと思い込み、ミーロを寝室から連れ出す。
一人残され、ショックのあまり呆然としたアンドレアは、ママの部屋へ行く。
「どうしてパパは信じてくれないの?」とママの肖像画に話し掛ける。
ママは微笑んだまま、何も応えない。
翌日、ミーロが庭の高い所に昇っている。
アンドレアが載せたのであった。
それを見たルイザが怒る。
アンドレアは、自転車で庭をグルグル回っている。
ルイザに遮られ、倒れて、自転車が壊れてしまう。
ルイザは激怒して、アンドレアをビンタ。
アンドレアは、「ママなら喜んでくれた。」
ミーロは、「あの人を追い出す。」
この、母親を亡くした喪失感が切ない。
アンドレアはミーロを肩車して湖へ。
ミーロを載せてボートを漕ぐアンドレア。
ミーロがアンドレアに、「死ぬって何?」と尋ねる。
アンドレアは、「うまく説明出来ない。」
アンドレアは、いつもぶら下がっている倒木のところへやって来た。
「度胸試ししよう」とミーロに持ち掛けるアンドレア。
アンドレアは、倒木の枝にぶら下がり、「ミシッ」という音を三つ聞くまで我慢する。
これを「度胸試し」と呼んでいた。
ミーロは怖がって出来ない。
実は、これがラストへの重要な伏線なのだが。
二人は、家に帰ってきて、貯金箱を割る。
お金を持って、街へ買い出しに。
アンドレアが自転車で一人で行こうとすると、ミーロは「僕も一緒に行く!」と泣き出す。
「遠いから連れて行けないよ。」
結局、二人乗りで街へ。
所持金は合わせて5008リラ(?)。
店のウィンドーに、フィリップス製のラジオが展示されており、「16,000」の札が付いている。
それを横目に通り過ぎる兄弟。
二人は、今日がパパの誕生日だったので、パパのためにプレゼントを買おうとしていたのだ。
結局、街の写真屋(路上で営業)に頼んで、記念撮影をしてもらうことにした。
昨今は、携帯にカメラが付いているから、すっかり写真屋の仕事もなくなっただろうが。
多分、現像してプリントするまでに時間が掛かったのだろう。
2時間も経った。
急いで帰らないと、パパが先に帰って来てしまう。
帰りは上り坂だった。
二人乗りの自転車ではツライ。
そこにバスが通り掛かる。
アンドレアは、バスの縁につかまって、こがずに走る方法を思い付く。
しかし、そこへダンカンを乗せた公用車が通り掛かる。
「あれはアンドレアとミーロじゃないか!」
アンドレアは、「バスから離れろ!」と叫ぶ。
危険な行為をしたアンドレアを、ダンカンは厳しく叱り付けた。
「何をしてもいいが、ミーロを巻き込むな!」
そこへ、ミーロがプレゼントを持って来る。
包みを開けてみると、アンドレアとミーロの写真がフレームにキレイに収められていた。
喜ぶダンカン。
だが、アンドレアには厳しく叱り付ける。
「いちばんのプレゼントは、お前がいい子でいることだ。」
この辺の、上の子は厳しくされ、末っ子は甘やかされるという構図は、普遍的なものなのだろう。
僕は一人っ子なので、実感としてはないが。
結局、前の家庭教師は出て行って、新しい家庭教師がやって来た。
今度は若い女性だったが、二人とも、彼女を敵視していた。
そんな時、アンドレアはパパの部屋でママの声が入ったテープレコーダーを発見する。
何回も聴いているうちに、操作の仕方が分からず、間違って消してしまった。
さあ、大変!
これからどうする?
まあ、僕も亡くなった母の声がしばらく留守電に残っていたが、壊れて買い替えたので、もう聴くことは出来ない。
しかし、これは切ないねえ。
で、この先の展開が何とも言えない。
無邪気な弟が色々な事件を巻き起こす。
そして、無邪気であるが故に、救いがない。
ラストはめちゃくちゃ重いよ。
まあ、全体として見ると、美しい風景と、幼い兄弟のやり取りで、とても叙情的な作品には仕上がっているが。
でも、見た後は何とも言えない気持ちになる。
本作には、今なら絶対に許されないレベルの人種差別描写がある。
それから、これはどうでもいいが、イタリアの展望室付き特急セッテベロが出て来る。
名鉄パノラマカー小田急ロマンスカーの原型になった車両だ。
根が鉄道マニアなもので。

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