『フリック・ストーリー』

この週末は、ブルーレイで『フリック・ストーリー』を見た。

フリック・ストーリー [Blu-ray]

フリック・ストーリー [Blu-ray]

1975年のフランス・イタリア合作映画。
監督はジャック・ドレー。
原作は、実在の刑事ロジェ・ボルニッシュによるノン・フィクション。
音楽はクロード・ボラン。
主演は、『太陽がいっぱい』『冒険者たち』のアラン・ドロン
共演は、『男と女』ジャン・ルイ・トランティニャン、『007 サンダーボール作戦』のクローディーヌ・オージェ。
哀愁に満ちたテーマ曲と共に始まる。
雨で濡れた舗道を早足で歩く、国家警察局のロジェ・ボルニッシュ(アラン・ドロン)の足元のアップ。
彼の回想。
時は1947年。
ボルニッシュは恋人カトリーヌ(クローディーヌ・オージェ)との結婚を間近に控え、出来れば、大きな手柄をモノにして、係長ポストを獲得したいところであった。
彼は優秀な刑事である。
今日も、同僚の暴力的な取り調べでも自白しないレイモンという容疑者を、条件を付けて釈放した。
実は、暗黒街の大物であり、冷酷な殺し屋のビュイッソン(ジャン・ルイ・トランティニャン)が脱獄した。
ボルニッシュは上司から、「警視庁より先にヤツを捕まえろ」と命じられた。
警視庁と国家警察局は管轄が違うんだな。
先のレイモンはバーを営んでおり、ビュイッソンとも親しい。
レイモンの店にビュイッソンが来たら、連絡を寄こせ、と言って、ボルニッシュはレイモンを釈放したのである。
敏腕刑事と言っても、ただ厳しいだけではない。
アメとムチを見事に使い分けているのだ。
それにしても、ボルニッシュはものすごいヘビー・スモーカーである。
タバコを吸いまくっている。
そして、建物の中でタバコをもみ消す。
今の日本では考えられないだろう。
本作の舞台は戦後間もない頃なので、とにかく車がクラシックである。
更に、登場人物達の被っている帽子が古めかしい(しかし、趣がある)。
ビュイッソンは、幼い頃からアル中の父親に盗みを強いられて育つという、暗い過去を持っていた。
彼は、脱獄早々、いきなりホールに入ってアコーディオン奏者を撃つ。
かつて、彼を密告した者らしい。
ボルニッシュは、カトリーヌと『肉体の悪魔』を観に行く約束だったが、仕事が入った。
彼は、いつも仕事で忙しい。
ビュイッソンは、今度はブルジョワジーの集まる高級レストランを仲間と共に襲撃。
客の金品を強奪した。
車で逃げる彼らを追う2台の白バイ。
その内の一人は射殺されてしまう。
悪党どもは、レイモンの店へ行った。
レイモンは、約束通り、ボルニッシュに密告する。
ボルニッシュらは、ビュイッソンの仲間を尾行し、隠れ家を突き止めようとした。
途中、刑事と悪党が地下鉄に乗るが、このシーンは『フレンチ・コネクション』っぽかった。
悪党は、駅でドアが閉まるギリギリに降車する。
ボルニッシュは間一髪、仲間の刑事に後を付けさせる。
ようやく、彼らのアジトが分かった。
ボルニッシュ達は、建物の前で張り込む。
この時、無実のニャンコを無残にも蹴っ飛ばす刑事がいる。
動物虐待だ。
明け方、悪党どもはアジトの前をうろつく警察に気付いた。
「警察だ!」
突撃。
ビュイッソンは、高い建物の窓から向かいの家の屋根へ飛び下りて逃げる。
ボルニッシュも飛び下りたが、着地に失敗。
他の仲間達は捕まえられたが、ビュイッソンは逃がしてしまった。
仲間達は、なかなか自白しない。
ボルニッシュは、暴力的な取り調べに反対する。
彼の兄は、ゲシュタポの拷問で、戦争中に死んだからである。
暴力刑事とボルニッシュとの対比が鮮やか。
さて、ビュイッソンは、ちゃっかり逃げている。
他の知り合いの家でメシなんか喰っているよ。
そして、銃の弾と手榴弾を仲間から調達する。
一方、ボルニッシュは、腹を撃たれて入院しているビュイッソンの仲間のところへ取り調べに行く。
またも、タバコを巡るやり取り。
こうして、ボルニッシュは順番に取り調べを行なって行く。
今度は、ビュイッソンがレイモンの店へ行って、密告の復讐をする。
その合間も、ボルニッシュは、色々なところから地道に聴き取り。
ビュイッソンの方は、高架下で強盗。
このシーンは、ちょっと『フレンチ・コネクション』っぽい。
とにかく、ビュイッソンは撃ちまくり、殺しまくっている。
地道過ぎて、遅々として進まないボルニッシュの捜査と対照的である。
稀に見る、ゲームのような殺し方だ。
とても、実話だとは思えない。
正に、殺人鬼。
だが、結末は実にあっけない。
クライマックス・シーンがレストランでの食事なんていう刑事ものは、今では、なかなか作れないだろう。
本作は、殺人の場面以外は、実に静かで淡々とした語り口である。
それがいい。
ビュイッソンは、殺人鬼だが、高級紙を購読したりして、インテリ風でもある。
登場人物達の着ているコートが、何と立派なこと。
ボルニッシュも、何着もコートを持っているようだ。
まるで、アラン・ドロンのファッション・ショーである。
それにしても、音楽が素晴らしいね。