『原子怪獣現わる』

この週末は、ブルーレイで『原子怪獣現わる』を見た。

1953年のアメリカ映画。
監督はユージーン・ルーリー。
原作は、『華氏451度』のレイ・ブラッドベリ
特殊撮影は、円谷英二と並ぶ特撮の神様レイ・ハリーハウゼン
彼のデビュー作である。
主演はポール・クリスチャン。
夕陽のガンマン』『続・夕陽のガンマン』のリー・ヴァン・クリーフがチョイ役で出ている。
田中友幸が本作を見て、『ゴジラ』を思い付いたと聞いていたが、僕は未見だった。
今回、初めて本作を見て、映画史上の傑作だと信じて来た『ゴジラ』が相当部分、「思い付いた」どころか、本作から内容をそのままパクッているということが分かった。
配給はワーナー。
不安気な音楽が流れる。
海底の映像。
北極圏の秘密基地で核実験が行われる。
キノコ雲。
氷山が崩れる。
レーダーに謎の物体が映る。
トム・ネスビット教授(ポール・クリスチャン)は爆発後、現地に調査に行く。
それにしても、核実験場にマスクも付けないで行くとは!
当時のアメリカの核に対する感覚が分かる。
で、謎の恐竜が出現。
人形アニメなので仕方がないが、それにしても、動きが早過ぎる。
日本の『ゴジラ』が着ぐるみにして重量感を出したのは正解。
核実験で太古の恐竜が甦るというアイディアは、そのまま『ゴジラ』に踏襲される。
北極の氷山から出現するというのも、『ゴジラの逆襲』や『キングコング対ゴジラ』で。
トムと同僚は、吹雪の中で遭難する。
本作の音楽は重厚で、恐竜の鳴き声も重厚だが、とにかく動きが軽い。
まあ、最初の『キングコング』以来のアメリカのお家芸だな。
レイ・ハリーハウゼンだし。
本作のメイキング映像でレイ・ハリーハウゼンが触れていたが、昨今のCG技術の進歩は驚くべきものだろう。
ただ、何の味わいもないが。
同僚は雪崩に埋もれてしまったが、トムは救出される。
彼は「怪獣だ」とうわ言を言っている。
彼は、『ゴジラ』で言うと、宝田明の役どころだな。
治療のために、本国(アメリカ)へ戻る。
ニューヨークで入院。
精神科医がトムを尋問する。
他の者は何も見ていないのに、トムだけが「怪獣を見た」なんて言うから、精神を病んだと思われたんだな。
トムは「自分だって科学者の端くれだ!」と激怒。
今度は、洋上で船が恐竜に襲われる。
現在の目から見れば仕方がないが、ヒドイ動きである。
海の上で船が襲われるというのも、ゴジラ映画の定番だから、原点は本作だ。
で、トムは、船が洋上で恐竜に襲われたという新聞記事を見て、病院を抜け出す。
古生物学のエルソン教授(セシル・ケラウェイ)の所へ。
しかし、信じてもらえない。
エルソン教授は、『ゴジラ』で言えば、志村喬だ。
トムが退院すると、エルソン教授の助手で、美人のリー(ポーラ・レイモンド)が訪ねて来る。
彼女は、『ゴジラ』で言えば、河内桃子の役に当たる。
ただ、如何にもアメリカ映画だけあって、控えめな日本女性と違って、積極的だ。
彼女は、恐竜の出現を信じている。
多数の恐竜のイラストをトムに見せる。
「この恐竜だ!」
トムは、先の海難事故で生き残ったというカナダ人の船長に電話をする。
カナダだからか、何故かフランス語で話す。
だが、とっとと電話を切られてしまう。
船長は、先の事故以来、さんざんイタズラ電話を受けているので、ウンザリしているのだ。
それにしても、何故電話番号が分かるのだろう。
現在なら、個人情報保護云々で、一発でアウトだ。
で、トムは、わざわざカナダへ行く。
入院中のジェーコブという漁師を訪ねる。
彼は、「僕も恐竜を見た」と言う。
トムは、ジェーコブをニューヨークに連れて行く。
例によって、多数の恐竜のイラストをジェーコブに見せる。
彼が見たという恐竜が、トムのものと一致。
これは、1億年前に絶滅したリドサウルスというらしい。
エルスン教授は、これによって、恐竜の存在を確信する。
学者が、こんなに単純でいいのだろうか。
トムは、「これから怪獣が出現するから」と警備を要請するも、相手にされない。
そんなことをしている間に、リドサウルスは灯台に上陸する。
灯台に上陸するというのは、『ガメラ』だな。
エルスン教授は、「リドサウルスは貴重な生きた化石だから」と、攻撃に反対する。
ゴジラ』の山根博士(志村喬)も、ゴジラの攻撃に反対するんだな。
で、何とかして、リドサウルスを生け捕りにしようとする。
生け捕りにするのは、『キングコング』か。
リドサウルスは、海に潜って移動する。
これも、ゴジラと一緒だ。
本作では、恐竜が人を喰うシーンがある。
最初の『ゴジラ』のシナリオにも、人を喰うシーンがあったが、残酷なのでカットされたのだろう。
高圧線を襲うのも、『ゴジラ』と一緒。
エルスン教授が海底に潜って死ぬというのは、順番は違うが、『ゴジラ』で言えば、平田昭彦だろう。
で、リドサウルスはニューヨークに上陸して、破壊の限りを尽くす。
だが、とにかく動きが軽いので、全く迫力がない。
クレイ・アニメのよう。
本作は、かなり低予算で作られたらしいが、この点は、日本映画としては巨費を投じた『ゴジラ』の方が勝ちだろう。
最初の『ゴジラ』の特撮は、今見ても、よく出来ている。
で、リドサウルスの血液には、謎の病原菌が含まれていた。
警備をしていた兵士達が、次々に倒れる。
これは、放射能じゃないんだね。
何で病原菌なんだろう。
まあ、あらゆる怪獣映画は皆そうだが、無敵の怪獣を登場させるのはいいんだが、退治するのに苦労する。
要するに、強過ぎるから、話しにうまく結末が付けられないんだな。
クライマックスで登場するローラー・コースターは木製である。
そして、トム達は、放射性の武器を扱うのに、筒抜けのマスクを被っただけだ。
放射能に対する危機意識が、日本とアメリカじゃあ、全く違う。
日本では、アメリカに原爆を落とされた上に、水爆の被害にもあって、その上、原発事故まで起きているからな。
ネタバレになるので書かないが、ラストはあっけない。
こうして見ると、『ゴジラ』のかなりの部分が、本作から着想を得た(と言うより、パクリである)ことが分かる。
ただ、日本の『ゴジラ』は、敗戦国で作った映画だから、悲壮感が漂っている。
文明批判的な要素も、より前面に出している。
特に、最後の志村喬のセリフで締めた。
本作にも、人間ドラマ的な要素がもう少しあれば良かったのに。