『私は告白する』

この週末は、ブルーレイで『私は告白する』を見た。

1953年のアメリカ映画。
監督は、『裏窓』『泥棒成金』『ハリーの災難』『めまい』『北北西に進路を取れ』『サイコ』『鳥』『フレンジー』『ファミリー・プロット』のアルフレッド・ヒッチコック
音楽は、『我が家の楽園』『スミス都へ行く』『ジャイアンツ』『ナバロンの要塞』『ローマ帝国の滅亡』のディミトリ・ティオムキン
主演は、『地上より永遠に』のモンゴメリー・クリフト
共演は、『十戒』のアン・バクスター、『波止場』『西部開拓史』『パットン大戦車軍団』のカール・マルデン
ワーナー、モノクロ、スタンダード・サイズ。
さびしげな音楽が流れる。
舞台はカナダのケベック州
「一方通行」の看板が次々に映し出される。
「→」の方向を辿って行くと、窓の開いた部屋。
中に死体が。
鮮やかなオープニングである。
走る人影。
教会の中に入る。
ローガン神父(モンゴメリー・クリフト)が、それを目撃している。
人影の正体は、この協会で働くケラー(O・E・ハッセ)だった。
彼は、ローガン神父に懺悔をする。
「告白します。私はビレットを殺しました。」
ビレットは弁護士である。
ケラーは、ビレットの家にカネを盗みに入り、ビレットが警察を呼ぼうとしたので殴った。
そうしたら、死んでしまったのだ。
ケラーはドイツからの移民で、苦しい生活をしている。
家に帰り、ケラーは妻に今夜の顛末を話す。
「ローガン神父が警察に話すのでは」と妻は心配する。
しかし、神父は告白の内容を他に漏らすことは出来ないのだ。
これが、後々にドラマを生む重要な伏線になっている。
翌水曜日は、ローガン神父が用事でビレットの家に行くことになっていた。
ケラーの妻は教会で働いている。
朝からビクビクしている。
ビレットの家の前に人だかりが出来ている。
そこへローガンがやって来る。
現場には、カネはそのまま残されていた。
ラルー警視(カール・マルデン)は、窓からローガン神父を見ている。
ローガンに一人の女性が話し掛ける。
ルース(アン・バクスター)だ。
「ビレットが殺されたから、私達は自由よ。」
一方、ケラーは、ローガンに「私は自首出来ない」と念を押す。
ケラーはドイツ移民だから、警察を恐れているのだ。
現場には、指紋等の手掛かりは一切残されていなかった。
今度は、犯行の夜に神父の姿を見たと証言する少女が現れた。
ケラーは、犯行の時に僧衣をまとっていたのだ。
警察はローガンを事情聴取のために署に呼ぶ。
ケラーは妻に、血の着いた法衣を洗わないように指示する。
ラルー警視はローガンに厳しく問い詰める。
「事件の翌朝、一体何の用でビレットの家へ行ったのか?」
「家の前で話していた女性は誰なのか?」
ローガンは、それに対して「答えられない」と言う。
事件の夜にどこにいたのかも「答えられない」と。
実にサスペンスを生み出す見事な展開だ。
ローガンには、神父としてケラーの罪を告白出来ないという枷がある。
観客は真犯人を知っている。
でも、ローガンの葛藤も分かる。
更に、もう一つ、謎の女性との間に何かがあるということも示されるが、その内容は観客には知らされない。
二重に、しかも違う切り口から、ドラマが生み出される構造になっているのだ。
警察は近隣の全ての教会に聞きこみをしたが、他の神父には全員、アリバイがあった。
ルースからローガン神父に「話しがあるから、会いたい」と電話が掛かって来る。
二人は船の上で会って話す。
二人の周りには、何人もの刑事が監視をしている。
ルースはローガンに言う。
「結婚して7年経つけど、あなたを愛している。」
それから後、検事が事情聴取のためにルースを呼び出した。
ルースは、「ローガンはあの夜、私と一緒にいた」と言う。
ルースは夫婦で赴く。
そこへ、ローガンも呼ばれる。
ローガンは、ルースに「何も話すな」と言うが、彼女は話す。
夫婦でやって来て、他の男と妻が会っていたと聞かされる夫は、たまらんだろう。
警察とか検事とかには、人権やプライバシーという感覚はない。
ルースが事件の夜にローガンと会っていたのは、ビレットに脅迫されたため、ローガンに助言を求めたからだった。
ビレットが脅迫したのは、ルースとローガンの関係についてだった。
ここから、回想シーン。
二人は幼なじみだった。
やがて、恋に落ちる。
結婚の約束をする前に、戦争が始まった。
ローガンは志願する。
その間に、ルースは今の夫と知り合い、結婚する。
典型的な、戦争が恋人同士の間を引き裂くパターンだが。
疑問なのは、ローガンが死んだという訳でもないのに、何故ルースは結婚してしまったのかということ。
まあ、夫は優しかったとは言っているが。
これは、彼女の認識が甘いんじゃないの。
で、戦争が終わって、ローガンが戻って来る。
ルースはローガンと会う。
この時点では、ローガンは彼女が結婚したということを知らない。
何故、彼女はそのことを言わなかったのだろう。
言えなかったのか。
二人が会っている所に、運悪く嵐が来る。
雨宿りに小屋へ駆け込む。
そのまま朝を迎える。
その家の主人はビレットだった。
朝になって、ビレットは二人を見付ける。
彼はルースのことを知っていた。
「あらあらあら、人妻がこんな所で密会かね」となる。
まあ、ちょっと説明的な回想シーンだけどね。
それから、ビレットはルースに付きまとうようになった。
で、ローガンはそれ以来、何年も彼女とは会っていなかったのだが。
事件の夜、ルースと会って、ビレットのことを相談され、「彼と会って、話しを付ける」と約束する。
翌朝、ビレットの家に行くと、彼は死んでいた。
何年も会っていないのに、ずっと何事もなく、ただ脅迫され続けているというのは、やや不自然な気もするが。
とにかく、ルースは一生懸命、事件当夜、ローガンにはアリバイがあるから、彼は無実だという話しをした。
ところが、この証言で、逆にローガンにはビレットを殺す動機があるということにされてしまう。
そして、ローガンは逮捕されるのであった。
国家権力の横暴は、断じて許し難い!
まあ、多少強引な部分もないではないが、シナリオのお手本のような映画である。
ラストは衝撃的だ。
実は、結末には色々あって、当初ヒッチコックが考えていたのとは違うらしいが。
これはこれで「あり」だろう。