『サンセット大通り』

この週末は、ブルーレイで『サンセット大通り』を見た。

サンセット大通り [Blu-ray]

サンセット大通り [Blu-ray]

1950年のアメリカ映画。
監督はビリー・ワイルダー
音楽は、『レベッカ』『裏窓』のフランツ・ワックスマン
主演はグロリア・スワンソン
共演は、『戦場にかける橋』『カジノロワイヤル』『タワーリング・インフェルノ』『オーメン2/ダミアン』のウィリアム・ホールデン
他にも、バスター・キートンやらセシル・B・デミルが本人役で出ている。
有名な作品なので、タイトルはもちろん知っていたが、実際に見てみると、想像していたのとは全く違っていた。
最初は、恥ずかしながら、ミュージカル映画だと思っていたのだ。
ハリウッドの舞台裏を描いたという意味では、ロバート・アルトマンの『ザ・プレイヤー』に似ている部分があるかも知れない。
カメオ出演とか、殺人が絡んでいることとか。
不安気な音楽から始まる。
モノクロ、スタンダード・サイズ。
画質は良い。
若い男のナレーション。
ロサンゼルスのサンセット大通り、午前5時。
全速力で走るパトカーや白バイ。
ある大物女優が住む邸宅で殺人事件が起きた。
殺されたのは若いB級映画の脚本家。
プールに死体が浮いている。
銃殺されたようだ。
事件の発端は半年前にさかのぼる。
先に結論を示して、そこから回想するのは、キューブリックの『ロリータ』でも使っていた手法だな。
脚本家のジョー・ギリス(ウィリアム・ホールデン)は安アパートに住んでいる。
ウィリアム・ホールデンが若い!
彼は、借金のカタに自分の車まで取られそうな状態であった。
緊急に290ドルを用意しないといけない。
パラマウント映画に売り込みに行くが、重役はほとんど相手にしてくれない。
「あんたは『風と共に去りぬ』でも断るだろう」とイヤミを言っても空しい。
彼には、ジェイムズ・ジョイスのような才能はない。
余談だが、本作には、ちまちまと文学談義が登場する。
お茶を出しに来た脚本部のベティ・シェーファー(ナンシー・オルソン)という若い女性にまで、脚本が面白くなかったと言われてしまう。
ガックリしたジョーは帰り道、車に乗っているところを借金取りに見付かってしまい、追い掛けられる。
おまけに、タイヤがパンクしてしまった。
はふはふの体で飛び込んだ幽霊屋敷のような大きな邸宅。
「『大いなる遺産』みたいだ」とナレーション(ナレーションはジョーの声)。
屋敷の窓から、サングラスの老女がこちらを見て、ジョーに手招きをする。
入り口まで行ってみると、スキンヘッドの執事みたいなオッサンが「入れ」と言う。
老女の部屋に行くと、チンパンジーの死体が横たわっている。
どうやら、彼女が飼っていたチンパンジーで、死んでしまったので葬儀屋を呼んだ。
そこへジョーが来たので、葬儀屋と間違えたらしい。
彼が「人違いだ」と説明すると、老女は激怒して「出てお行き!」と言う。
彼女は、ノーマ・デズモンド(グロリア・スワンソン)というサイレント映画時代の大スターであった。
トーキーやテクニカラー全盛になった今となっては忘れられた存在で、恨み節が止まらない。
「昨今の映画は」というセリフは、既にこの時代からあったらしい。
彼女は、執事のマックス(エリッヒ・フォン・シュトロハイム)と二人で、この屋敷にひっそりと暮らしていた。
しかし、彼女は、ジョーが脚本家だと知って、俄然興味を持つ。
実は、彼女は自分がスターとして復帰することを夢見て、『サロメ』の脚本を書きためていた。
監督はセシル・B・デミルで、とまで言う。
この時点で、既に妄想っぽいのだが。
ジョーは、彼女から脚本の手直しを頼まれる。
膨大な量の手書きの原稿を読むと、これがトンデモナイ駄作であった。
しかし、ゴキゲンを損ねるとマズイので、とりあえずほめておく。
彼女は、何でも星占いで決めたがった。
ジョーのことは、「いて座だから信用出来る」って。
ウンザリしたが、ジョーは当座のカネ欲しさに、この仕事を引き受ける。
彼が自宅に原稿を持ち帰ろうとすると、「ここで書け」と言われる。
不気味だねえ。
執事のマックスは、完全に彼女の言いなりだ。
翌朝、ジョーが目覚めると、自分のアパートの荷物が全て、この屋敷の部屋に運び込まれていた。
ノーマに問い詰めると、滞納していたアパートの家賃まで払っておいた、と平然と言う。
脚本を手直ししろと言ったクセに、冗長な部分をカットしようとすると、「ここには意味がある」と烈火のように怒る。
やりにくいねえ。
彼女は、完全に妄想の世界に生きていた。
屋敷にはスクリーンがあって、自分が主演したサイレント映画を観せられる。
僕も、昔はホーム・シアターに憧れたものだ。
今なら、40インチのハイビジョン・テレビに、廉価のブルーレイ・ディスクがあるから、庶民でも大分その夢は叶えられるが。
この時代に、自宅にスクリーンがあるなんて、大金持ちだけだったんだろうな。
屋敷には時々、昔の俳優仲間がやって来て、カード・ゲームをする。
その中には、あのバスター・キートンがいる!
彼女は、完全に昔の思い出だけで生きているんだな。
で、ジョーがこの屋敷に無理矢理住まわされてしばらく経ったある日、借金取りが彼の車をレッカー車で持って行ってしまった。
車を取られたことを嘆いていると、ノーマは、ここには2万8000ドルの最高級のハンドメイド車があるから、としれっと言う。
で、高級車でドライブ。
運転は、もちろんマックス。
ノーマは、ジョーが上着を1着しか持っていないと聞いて、服屋に行く。
ビキューナの生地でコートを仕立てろと、店員に。
ビキューナって…。
僕は学生の頃、『メンズ・エクストラ』という金持ちのオッサン向けファッション雑誌を定期購読していたが、そこに「最高級生地」として紹介されていたのがビキューナだった。
雨の夜。
ジョーが寝泊まりしている離れの部屋は雨漏りがヒドイ。
そこで、本館のノーマの元夫の部屋へ移動した。
見ると、ドアのカギが壊されている。
マックスによると、ノーマの自殺未遂を防ぐために、医者が命じて、この屋敷の部屋のカギは壊され、刃物などの危険なものも取り上げられたと言う。
ノーマの正体が少しずつ明らかになって来て、いよいよジョーは気味悪くなって来る。
この辺の展開が素晴らしく良い。
ある日、屋敷でパーティーが開かれるというので、ジョーは先日誂えられたタキシードを着た。
しかし、楽団の他には、客など誰も来ない。
ジョーは、彼女と踊る羽目になってしまった。
ノーマは「誰にもジャマされたくない」「私を抱き締めて」と彼の耳元でささやく。
コワイね!
ジョーはブチ切れる。
そりゃそうだろう。
若い男が、いい歳こいた婆さんに好かれたら、たまらんわな。
そうしたら、何と彼女は「私の愛を拒むのね!」と叫んで、いきなりジョーをビンタ!
もう我慢ならん!
ジョーは、雨の降りしきる中、屋敷を飛び出す。
車もないので、ヒッチハイクをする。
行くアテもないが、友人達のいる所へ。
そこでは、賑やかに年越しパーティーが開かれていた。
先刻までの屋敷とは比べ物にならないくらい狭いけれども、人は立錐の余地もないほどギッシリ。
そこには、友人の恋人という、あのパラマウントの脚本部のベティもいた。
前回はジョーの脚本を酷評した彼女だったが、その中に、数ページだけ面白い箇所があったから、そこを膨らまして完成脚本にしましょうと言われる。
ああ、自由な下界の生活!
もう、あんな陰気臭い屋敷になんか戻りたくない!
ジョーは、荷物を送ってもらおうと、屋敷のマックスに電話をする。
すると、「奥様が手首を切られました」と告げられる。
森田童子か!
さすがのジョーも、飛んで帰る。
要するに、失恋したから自殺を図ったと。
こう言われると、「もう出て行かないから」と言わざるを得ないわな。
そして、最早ベティが屋敷にジョー宛てに電話をしても、取り次いでもらえないのであった。
コワイコワイ。
この後、ノーマは本当にセシル・B・デミルに脚本を送る。
セシル・B・デミル本人も登場する。
本作は、ある意味でホラーだ。
しかも、実によく出来ている。
結末は最初に示されているが、では、どういう顛末でそうなるのかと、観客は興味を持って見る。
ラストが皮肉でねえ。
いやあ、これは最後まで目を離せない傑作だった。
アカデミー賞美術監督・装置賞、脚本賞、作曲賞受賞。