『大脱走』

連休中は、ブルーレイで『大脱走』を見た。

1963年のアメリカ映画。
監督は、『荒野の七人』のジョン・スタージェス
音楽は、『十戒』『荒野の七人』『アラバマ物語』の巨匠エルマー・バーンスタイン
主演は、『荒野の七人』『華麗なる賭け』『栄光のル・マン』『ゲッタウェイ』『タワーリング・インフェルノ』の大スター、スティーブ・マックイーン
共演は、『グラン・プリ』のジェームズ・ガーナー、『ハムレット(1996)』(出演)のリチャード・アッテンボロー、『荒野の七人』『ウエスタン』『バラキ』のチャールズ・ブロンソン、『007は二度死ぬ』のドナルド・プレザンス、『荒野の七人』『戦争のはらわた』のジェームズ・コバーン、『戦略大作戦』のカール・オットー・アルベルティ。
オール・スター・キャストである。
脱走モノの代表作として名高い作品だが、恥ずかしながら、これまで見たことがなかった。
これは、聞きしに勝る、素晴らしい映画だった。
これまで見る機会がなかったことを後悔した。
ユナイテッド・アーティスツ、カラー、シネマ・スコープ。
トクホのCM(何故か三船敏郎が出演)にも使われている有名なテーマ曲から始まる。
「これは実話である」「細部まで事実を再現している」という字幕。
第2次大戦下のドイツ。
スタラグ・ルフト北捕虜収容所にたくさんの捕虜を載せたトラックが到着。
捕虜達がゾロゾロと降ろされて来る。
ドイツ兵はドイツ語で喋っている(言葉の問題も、後々ストーリー上、重要な意味を持つ)。
収容所は鉄条網で囲まれ、厳重な見張りがいる。
仮設住宅のような木造の建物。
部屋の中には、木製の3段ベッドがある。
ここに集められた連中は、脱走の常習者で、皆、最初から逃げることを考えている。
当時、ドイツ軍は、脱走捕虜の再収容に頭を抱えていた。
それで、わざわざ常習者専用の施設を作ったのだ。
ここには、スポーツ、図書室、娯楽室があり、快適な生活を与えることで、捕虜が逃げないように配慮しているのであった。
で、マックイーン演じるヒルツが登場。
彼は、革ジャンを着こなしていて、全然捕虜に見えない。
実話に忠実な本作の中で、このヒルツの役だけは、マックイーンのために作ったらしい。
僕は脱獄映画が好きで、『抵抗(レジスタンス)』『穴』『パピヨン』『ミッドナイト・エクスプレス』『アルカトラズからの脱出』『ショーシャンクの空に』等、色々と見たが、本作は犯罪者ではなくて、捕虜なので、収容所の雰囲気も、そんなにギスギスとしていなくて、牧歌的と言うか、ユルイ部分もある。
ここでは、タバコが通貨のようになっており、皆、タバコを媒介として物々交換をして、欲しい物資を手に入れる。
このタバコも、後に重要な意味を持つ。
最初から、実に巧みに伏線が張り巡らされている。
グローブをはめて、一人キャッチボールをしていたヒルツは、早速、監視からの視覚を発見する。
オーストラリア人のセジウィックジェームズ・コバーン)や、ポーランド人のダニー(チャールズ・ブロンソン)は、タバコとコートを交換し、ちょうどこの収容所から他へ移動することになったロシア兵の集団に紛れようとするが、あっさりと発見される。
また、トラックの荷台の荷物の中に潜り込んだ者もいたが、すぐにバレた。
本作は群像劇で、有名な俳優がたくさん出ているから、最初は登場人物を顔で見分けているが。
実にキャラクターの描き分けがはっきりとしているので、すぐに物語の世界の中に入り込める。
収容所の所長とヒルツの静かな対決。
ヒルツは、これまでに17回も脱走を試みた。
ボールを立ち入り禁止区域に投げ込んだヒルツは、早速、所長から20日間の独房入りを命じられる。
収容所を描いた作品なのに、音楽は基本的に明るい。
前半、マックイーンは、主役なのに独房に入れられっぱなしで、余り出て来ない。
ヒルツは、独房の壁にボールをぶつけている。
隣の部屋には、スコットランド人のアイブスが。
二人の会話の中で、ヒルツがバイク乗りの名人だということが示される。
これが、後半の(ポスターにもなっている)有名なバイク・シーンの伏線だ。
ヒルツは、所内の床は砂と小石で出来ていることを確認する。
同じマックイーン主演の『パピヨン』では、独房の描写は凄まじかった。
あちらと比べると、本当にこの作品は雰囲気が明るい。
60年代と70年代の違いか。
とは言え、いつ帰れるかも分からない敵地にいる訳だから、自由を求める気持ちは、そりゃあ強いだろう。
さて、収容所に「ビッグX」と呼ばれるバートレット(リチャード・アッテンボロー)が連れられて来る。
彼は、集団脱走計画を立案し、当局から目を付けられていた。
「今度、脱走したら銃殺する」とまで言われる。
本作の捕虜達が比較的余裕をかましているのは、戦争捕虜は「ジュネーヴ条約」で守られているからだ。
だから、脱走しても、殺されたりしないで、また収容所に連れ戻されるだけ。
脱走すると重罪が加算される刑務所とは、ここら辺が違う。
まあ、ネタバレになってしまうので書かないが、その前提も本作の後半では…。
バートレットは、捕虜が脱走するのは義務だと心得ている。
彼は、集団脱走によって、国内各地にドイツ軍の兵力を散らし、第三帝国を撹乱するという壮大な計画をぶち上げる。
その数、250人。
夜、彼は皆を集めて作戦会議を行なった。
ここから、各自に役割が分担される。
これで、それぞれのキャラクターが際立つ。
「調達屋」のヘンドリー(ジェームズ・ガーナー)は、監視の目を盗んで、物資を調達する。
「トンネル王」のダニー(チャールズ・ブロンソン)は、ストーブの下を掘る。
普段はストーブが上に載っているから、調べられることはない。
余談だが、本作にはダニーがシャワーを浴びるシーンがある。
正に、「う〜ん、マンダム」だ。
「製造屋」のセジウィックジェームズ・コバーン)は、トンネル内が酸欠にならないように、空気を送り込むフイゴを作る。
彼らの計画がドイツ側にバレないか。
これがサスペンスを生む。
脱走映画の醍醐味だ。
で、ヒルツとアイブスが独房から出て来た。
「トンネルを掘って脱走する計画を今夜実行する」と言っていた二人だが、あっさり失敗して、再び独房送りになる。
他のメンバーは、その間に、着々と掘り続けていた。
眼光の鋭い収容所長は、出て来るだけでドキドキが盛り上がる。
どうでもいいが、調達屋は、一体どこから物資を手に入れているのだろうか。
本ディスクの特典映像によると、アメリカ兵には、家族から豊富な支援物資が届いたらしい。
映画なので脚色されているが、実際には、物資の調達係は何人もいた。
で、ヘンドリーは、ドイツ兵の監視係をコーヒーで手なずけようとする。
当時、ドイツではコーヒーが貴重だったらしい。
が、怪しまれて失敗。
それでも、彼の財布から、身分証を盗み取ることに成功する。
身分証は、「偽造屋」のコリン(ドナルド・プレザンス)が大量に写しを作った。
このドナルド・プレザンスは、『007は二度死ぬ』では、悪のドンを演じたのに、本作では全く正反対の役柄である。
コリンは気の毒な役だ。
ネタバレになるので書かないが、ずっと感情移入して見ていたので、最後には涙してしまう。
で、ダニーは、軍服を仕立てている。
自分達の軍服を仕立て直してドイツ軍の軍服を作ったり、普通の衣装を作ったりする。
このミシンや生地は、どうやって手に入れたんだろう。
そもそも、収容所内で、よくバレないようにそんな芸当が出来るな。
ヒルツは、二度目の独房から出て来た。
バートレットから脱走計画を聞かされたヒルツは、そこに加わるのを断る。
とにかく、これだけの大計画が実行出来たのは、こうして各人が相談出来る環境にあったということだな。
実際には、アメリカ人はその前に収容所を移動させられたらしいが。
ダニーがトンネルを掘っていると、途中で土が崩れて来た。
掘り易いということは、崩れ易いということだ。
何とか彼は助かったが、「支柱が必要だ」ということになる。
それぞれのメンバーは、自分の木製ベッドの羽目板を外し、それを支柱にする。
掘った砂を捨てる技術や、音を消すためにわざと部屋の前で集団で歌を歌ったり、知恵と工夫が涙ぐましい。
ヒルツは、ジャガイモを集め、それを蒸留して、酒を作った。
7月4日は独立記念日だからと、皆に酒を振る舞う。
何だか、収容所内であることを忘れてしまうような陽気さだったが。
彼らのドンチャン騒ぎの間に、部屋を調べられ、トンネルの存在がバレてしまう。
長年、故郷に帰ることを夢見ていたアイブスは、とうとう正気を亡くし、思わず鉄条網をよじ上って、射殺される。
これこそ、「見せしめ」であった。
相棒を失ったヒルツは、「今夜出る」と誓う。
ここまでが前半。
さあ、これからどうなる?
後半は、脱走を実行し、成功した者達の行く末を追う。
正に、見せ場の連続。
「これぞ映画」である。
結末は重い。
確かに、連合軍の立場から描いているから、ドイツを一方的に悪者にしているが。
そこは映画だから。
とにかく、戦争は悲惨だということだろう。
これは、立場の違いは関係ない。
いやあ、スゴイ映画だった。
こういう作品が出て来るのは、映画の黄金時代だったからだろう。
もう二度と、こんな映画は作れまい。
1963年の洋画興行収入3位(ちなみに、1位は『史上最大の作戦』、2位は『アラビアのロレンス』、4位は『クレオパトラ』)。