『シシリアン』(1969)

この週末は、ブルーレイで『シシリアン』を見た。

1969年のフランス映画。
監督はアンリ・ヴェルヌイユ
代表作は『地下室のメロディー』。
音楽は、『夕陽のガンマン』『続・夕陽のガンマン』『ウエスタン』『エクソシスト2』『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』『アンタッチャブル』『ハムレット(1990)』の巨匠エンニオ・モリコーネ
僕は何と言っても、『ニュー・シネマ・パラダイス』が好き(サントラを持っている)。
主演は、『フレンチ・カンカン』のジャン・ギャバン、『フリック・ストーリー』『チェイサー』のアラン・ドロン、『モンパルナスの灯』『バラキ』のリノ・ヴァンチュラ
三大スター夢の競演である。
日本で言えば、ゴジララドンモスラが共演するようなものか。
共演は、『史上最大の作戦』のイリナ・デミック。
20世紀FOX
カラー、シネスコ
最初に、「私は泥棒について書く時、善悪について語らない。それは法の仕事」というチェーホフの言葉が字幕で出る。
護送車から次々と降りて来る手錠の男達。
哀愁に満ちたテーマ曲。
さすがエンニオ・モリコーネ
昔の映画は音楽がいい。
ここは刑務所。
殺し屋ロジェ・サルテ(アラン・ドロン)も降りて来る。
部屋で取り調べが始まる。
彼は11歳までしか学校に行かず、14歳から逮捕歴がある。
今回の逮捕容疑は、宝石店を襲撃して、警官二人を殺害したことであった。
ル・ゴフ警部(リノ・ヴァンチュラ)は、サルテに対決姿勢を示す。
警部というのは、正義のはずなのに、全然善人に見えない。
リノ・ヴァンチュラというのは、どうにも腹にイチモツを抱えていそうだ。
もうここで、物語の骨組みが判る。
うまい展開だ。
しかし、サルテが裁判所に入る際に、秘かに何かを彼のポケットに忍ばせた警官がいた。
サルテは、個室の護送車に乗せられ、ポケットから取り出したカギで手錠を外す。
何と、警官はグルだったのだ。
ポケットに入っていたのは、小型のドリル。
刃を替えると、電気ノコギリにもなる。
サルテは、走る護送車の中で、鉄製の床板を、小さな電ノコで切り始める。
不快な金属音。
もちろん、監視の警官がいる。
すごいサスペンスだ。
途中、護送車に付いて来る車が何台も現れる。
明らかに、組織的に仕組まれていることが分かる。
その中の一人は、サルテの妹だった。
彼女は、エンストのフリをして、護送車の前に立ちはだかる。
その間に、サルテは床板を外し、床伝いに仲間の車に乗り込む。
サルテを乗せた車は、ゲーム機器を販売するマナレーゼ協会に入って行った。
もちろん、ゲーム機器販売というのは仮の姿。
ここを仕切るヴィットリオ・マナレーゼ(ジャン・ギャバン)は、シチリア・マフィアのボスだった。
ジャン・ギャバンは、さすがに圧倒的な存在感がある。
サルテは、マナレーゼに莫大な価値の切手帳を手渡した。
今回の逃走劇は、マナレーゼの差し金だったのだ。
犯罪組織が切手を換金するというのは、『シャレード』にもあったな。
老齢のマナレーゼは、そろそろ引退して、故郷のシチリアに帰るつもりでいた。
そのために、せっせとシチリアの土地を買い漁っていた。
マナレーゼは、妻、長男アルド、次男セルジオ、長女、アルドの妻ジャンヌ(イリナ・デミック)、アルドの息子(つまり、マナレーゼの孫)と暮らしていた。
正に、『ゴッドファーザー』そのもののファミリーであった。
この中で、フランス人で派手好きのジャンヌは、明らかに浮いていた。
マナレーゼも内心では、この嫁を快く思っていないようだった。
まあ、これも後の重要な伏線だ。
一匹狼のサルテは、マナレーゼの基に居候することになる。
パリの街中にあるカフェ。
何故か、看板が「Shop、DRUG STORE」と英語で書かれているが、誇り高いパリの街で、そんなことがあり得るだろうか。
本作は、アメリカ資本で製作され、英語版も同時に作られている。
その関係のような気もするが。
ジャン・ギャバンは、英語版を作ると言われた時、「英語なんか喋れるか!」と吐き捨てたらしい。
日本でも、サムライのクセに英語のセリフを喋る映画に出た大物俳優がいたが。
で、このカフェにル・ゴフ警部が入る。
ここでは、サルテの妹が働いていた。
警部は彼女に警告する。
店の電話も盗聴しているし、彼女のことは常時尾行していると。
これがまた、後半への重要な伏線である。
場面変わって、夜。
ホテルへ踏み込む警部。
性欲の溜まったサルテは、このホテルの一室で、娼婦と寝ていた。
派手な銃撃戦の末、サルテはかろうじて逃走する。
で、サルテは、刑務所で同房だった技師から、ローマで行われている大宝石展の警備装置の地図を入手していた。
マナレーゼは、本心ではサルテのことを信用していないが、この大宝石展の襲撃計画に乗る。
マナレーゼは、旧知の仲であるニューヨーク・マフィアのボス、トニー・ニコシアとローマで会うことにする。
二人は、宝石展の会場の様子をうかがいに行った。
厳重な警備だが、確かに、サルテの入手した地図の通りに警報装置が配置されていた。
ニコシアは、さりげなく腕時計を会場に置いて来た。
すると、時計の音に反応して、警報が鳴り、警察が集結した。
そこで、マナレーゼは、会場を狙うことは諦め、2週間後に大宝石展がニューヨークへ移動する時に、飛行機ごと盗むという大胆な計画を立てる。
これには、ニコシアも同意した。
一方、ル・ゴフ警部は、サルテの偽造身分証を作った男を探していた。
そして、違法ポルノ写真家の所にたどり着く。
令状ナシで室内を荒らし回るという強引な捜査。
現在の映画では、こういう描写は絶対に出来ないだろう。
何もないと言い張る写真家だったが、マナレーゼが依頼した偽造パスポートを発見する。
「ネガを出せ」と言われた写真家は、顔写真を撮影したフィルムを、警部の目の前でわざと感光させる。
まあ、こういうのも、今ならパソコンのデータを削除したりするんだろうな。
映画の画としては、かなり味気なくなるな。
マナレーゼが関与していると知った警部は、彼の所へ。
すんでのところで、サルテは逃げる。
さあ、これからどうなる?
後半のハイジャックは、今見ると、かなり牧歌的だ。
まあ、よど号ハイジャック事件よりも前に作られた映画だからな。
今なら、スマホで写メを撮って、ツイッターで一瞬で世界中に拡散出来るから。
でも、全体としては、うまく作ってある。
見事なサスペンス映画だ。
主役の3人が、物語の進展に連れて、うまく絡んで行く。
本作を「B級映画」という人もいるが、そんなことはない。
大人の鑑賞にも耐える。
昔は、こういう映画がたくさんあった。
エンディングがいい。
味わい深く、余韻を残す。
如何にも、『日曜洋画劇場』で放映しそうだ。
未だ、フランス映画に力があった時代か。
1970年洋画興行収入7位(ちなみに、1位は『続・猿の惑星』)。