『眼下の敵』

この週末は、ブルーレイで『眼下の敵』を見た。

1957年のアメリカ・西ドイツ映画
監督はディック・パウエル。
主演は、『史上最大の作戦』のロバート・ミッチャムと、『史上最大の作戦』『空軍大戦略』のクルト・ユルゲンス
以前、僕が勤務している会社で潜水艦の本を出した時、著者の方と弊社の社長が、潜水艦映画の大傑作として『眼下の敵』を絶賛していたので、「いつか見なければ」と思っていたが、ようやく見ることが出来た。
20世紀FOX
カラー、シネマスコープ
勇ましい音楽から始まる。
第2次大戦中の南大西洋
航行中の駆逐艦「ヘインズ」の艦上。
新しい艦長マレル(ロバート・ミッチャム)は艦長室から出て来ない。
艦長は民間出身なので、乗組員達は「素人艦長」と陰口を叩いていた。
しかし、前の艦長は魚雷にやられて長期間漂流したので、未だ復帰出来ないらしい。
今夜は嵐だという。
兵士達は、非番の時はトランプ遊びをしたりして、のどかな光景だ。
夜、レーダーに反応がある。
昔、『ウルトラマン』で科学特捜隊が使っていたのと同じような、古典的なレーダーだ。
急いで起きる兵達。
初めて艦長が艦長室から出て来る。
敵の正体は未だ分からない。
一方、敵(ドイツ)のUボートのシュトルベルク艦長(クルト・ユルゲンス)も、同じ頃、レーダーを見つめていた。
ドイツなのに、何故か英語を話している。
最初は、「ハリウッド映画だからな」と思っていたのだが、本作はアメリカと西ドイツの合作だ。
しかも、ネタバレになるが、最後の方で、アメリカの艦長がドイツの艦長に「英語は分かるか?」と尋ねるシーンがある。
それに対して、ドイツの艦長が英語で返事をするのだから、実に奇妙だ。
どうして、ドイツ人にはドイツ語を喋らせなかったのだろうか。
まあ、いいや。
お互い、未だ敵の正体をはっきりとつかめていないので、神経戦である。
一方、アメリカ側は、艦長のマレルが姿を現わして、初めて、彼が優秀な人物であることが判る。
アメリカ側は戦闘態勢に入った。
本作は、アメリカ側とドイツ側を交互に描く。
どちらか一方に加担しない。
普通、ハリウッド映画で第2次大戦を描くと、ドイツ側は悪者なのだが。
本作はアメリカ・西ドイツの合作だから、公平に描くのである。
ただ、タイトルは『眼下の敵』だ。
眼下の敵というのは、海の下にいる、つまり潜水艦のことだから、ドイツ側を指す。
ということは、このタイトルはアメリカ側から見たものだが。
それで、最初はちょっと戸惑った。
ドイツ艦内の表示はドイツ語で書かれている(セリフは英語なのに)。
Uボートのシュトルベルク艦長はベテランだ。
今回の任務を無事に終えて、早く帰国したがっている。
シュトルベルクの二人の息子は戦死した。
シュトルベルクは、第1次大戦の時には既に士官だったという。
彼は、「戦争から人間味が消えた」と嘆いている。
これは、唯一の友人であるハイニ士官(セオドア・ビケル)と艦内で酒を酌み交わしながら語ったことだ。
先も書いたように、敵であるドイツ側の人物像もここまで深く掘り下げた戦争映画は珍しいと思う。
アメリカのマレル艦長は、元貨物船の航海士であった。
貨物船はドイツの潜水艦の魚雷にやられた。
だから、やる側に回ったんだという。
新婚だった奥さんは、一緒に貨物船に乗っていて、死んでしまった。
これで、彼が如何にUボートに対して復讐心を燃やしているかが分かる。
ただ、戦争に対しては「任務を遂行するだけだ」と答える。
こうやって、アメリカとドイツの両方の艦長の人間像をしっかりと提示されると、どちらに感情移入したら良いのか、難しくなる。
そして、どちらかが最終的には死ぬことになるのかと思うと、緊張感が高まる。
ついに、アメリカ側は浮上したUボートを発見した。
ドイツ側もヘインズ号を発見する。
Uボートが潜航する。
ヘインズ号は、通常の戦術は取らなかった。
これに対し、シュトルベルクは「アメリカの艦長はよほどの利口かバカか」といぶかる。
艦内に、闘いの前の緊張が走る。
Uボートは魚雷を発射した。
だが、ヘインズ号は直前に方向転換をして、これを回避する。
ヘインズ号の艦内は「さすが艦長!」と沸く。
シュトルベルクは「敵の艦長は素人ではないな」と唸る。
あの至近距離で魚雷を外すとは。
Uボートは潜航する。
それに対して、ヘインズ号は爆雷を発射する。
その時に、爆雷士が一人負傷する。
Uボートは煙幕を張った。
けれども、位置はソナー音で分かる。
ヘインズ号とUボートが至近距離をすれ違う。
この緊迫感。
むやみやたらとは攻撃出来ないんだなあ。
ドイツ側には、イギリスの暗号を解読するという重要な任務があった。
だから、一時的に針路を変えても、また元に戻らないといけない。
一方、ヘインズ号の爆雷士は、指を切断するという大ケガを負った。
彼は、元時計工である。
もう、元の仕事には戻れない。
戦争の悲惨さが際立つシーンだ。
マレルが、この爆雷士を見舞う。
冷徹そうに見えて、意外と人間味があることが分かる。
マレルは、敵の動きを読んでいる。
シュトルベルクも、相手の裏をかく。
二人の優秀な艦長の息詰まる対決。
これは面白い。
昨今の戦争映画は、やたらとCGで派手な戦闘シーンばかりを描くが、大事なのは人間ドラマだ。
マレルは言う。
「殺そうとしている相手のことは知りたくない。」
これが戦争の本質だろう。
もっとも、本作は、57年という製作時期を考えると、ミニチュアの撮影も見事だ。
特に、潜水艦はスゴイ。
また、アメリカ海軍が協力して、実際の駆逐艦から投下したという本物の爆雷の爆発シーンはすさまじい迫力だ。
最後に、艦長同士が直接対決する。
そして、意外な結末が。
これは、戦争映画としては、かなり珍しいのではないか。
まあ、戦後の連合国側の視点から作ったという甘さはあるが。
余談だが、アメリカの兵士が非番の時に読んでいる本は、何とギボンの『ローマ帝国衰亡史』。
インテリだなあ。
一方、ドイツ兵が読んでいるのは、ヒトラーの『我が闘争』。
これを見て、シュトルベルクは苦笑いするが、これは戦後の視点だろう。
アカデミー賞最優秀特殊効果賞受賞。
58年の洋画興行収入6位(ちなみに、1位は『十戒』)。