『イノセント』

この週末は、ブルーレイで『イノセント』を見た。

イノセント ルキーノ・ヴィスコンティ Blu-ray

イノセント ルキーノ・ヴィスコンティ Blu-ray

1976年のイタリア・フランス合作映画。
監督は、イタリアの巨匠ルキノ・ヴィスコンティ
撮影は、『ロミオとジュリエット(1968)』のパスクァリーノ・デ・サンティス
主演はジャン・カルロ・ジャンニーニとラウラ・アントネッリ
共演は、『ラストタンゴ・イン・パリ』のマッシモ・ジロッティ
ヴィスコンティに関しては、多少の思い出がある。
僕が浪人していた頃、近所のレンタル屋の名作映画コーナーに、ヴィスコンティの作品が並んでいた。
二十数年前の町のレンタル屋にヴィスコンティが置いてあったとはスゴイが。
僕は、その中から『地獄に堕ちた勇者ども』と『ルートヴィヒ』を借りて来た。
ものすごくエラそうな映画だと思ったからだ。
しかし、どちらも、途中まで見て挫折。
確か、『イノセント』もあったと思うが、こちらは借りた記憶はない。
大学では、映画研究会なんぞに顔を出していた時期もあるから、「ヴィスコンティくらいは知らないと」というような空気もあったが、結局、見る機会はなく。
大人になってから、『ベニスに死す』をDVDで見て、絢爛豪華な映像と、詩的な表現に感激した。
で、この度、ブルーレイの廉価版が出たので、購入したのだが。
それにしても、ヴィスコンティの遺作が1500円で買えるなんて、いい時代になったものだが、こんなに作品の価値が低くてもいいのか、複雑な気持ちになる。
テクニカラーシネスコ・サイズ。
甘美なテーマ曲。
僕はクラシックには全く詳しくないから、何の曲か分からないが、本作には、ショパンやらモーツァルトやらリストの曲が使われているらしい。
舞台は20世紀初頭のローマか。
時代ははっきりとは示されないが、馬車は走っているし、照明はロウソクだし、写真の代わりに肖像画が飾られている。
登場人物は皆、貴族だ。
衣装はものすごくきらびやかなものがとっかえひっかえ出て来る。
住まいなんかは、セットじゃなくて、実際の貴族の城かなんかを借りて撮ったのだろう。
僕の大好きな映画『バリー・リンドン』の美術も素晴らしいが、ヴィスコンティは平民のキューブリックと違って貴族出身なので、画面全体にそこはかと気品が漂っている(まあ、『バリー・リンドン』は平民が成り上がる映画だから、あれでいいのだが)。
で、フェンシングの稽古場へ、トゥリオ・エルミル伯爵(ジャンカルロ・ジャンニーニ)にお迎えがやって来る。
彼は、ピアノの演奏会に、愛人である未亡人の公爵夫人テレーザ・ラッフォ(ジェニファー・オニール)と同伴でやって来る。
前列には、トゥリオの妻ジュリアーナ(ラウラ・アントネッリ)がいる。
「あの人と一緒はイヤ」と、テレーザは、彼女に言い寄って来るステファノ・エガーノ伯爵(マッシモ・ジロッティ)と一緒に出て行く。
トゥリオはジュリアーナに声を掛けて帰る。
どこへ帰るかといったら、何とテレーザの所だ。
トゥリオは、テレーザに「妻との仲は表向きだ」と告げる。
しかし、テレーザは自由な女であった。
「私はエガーノと会うの」と彼女。
「いや、行かせない」とトゥリオ。
抱き合う二人。
何だかなあ。
有閑階級の色恋沙汰にしか見えんが。
ジュリアーナは、そんな夫の行動を不安がっている。
トゥリオは、明日から当分フィレンツェへ行くという。
彼はジュリアーナに「君は妹のような存在だ」と言い、妻に対して、テレーザのことを告白する。
「僕のわがままを聞いて欲しい」って、妻公認の浮気か。
当時の貴族は、結婚しても自由恋愛だったのか。
信じられん。
で、トゥリオは弟のフェデリコに「ジュリアーナと一緒にいてやってくれ」って。
弟に奥さんを押し付けるのか。
ジュリアーナは、不安で寂しくて、睡眠薬を飲んで倒れる。
フェデリコは、友人で作家であるフィリッポ・ダルボリオをジュリアーナに紹介する。
一方、テレーザと寝ていたトゥリオは、エガーノからの手紙を発見し、怒って破り捨てる。
更に、執拗にテレーザに言い寄るエガーノに、決闘を申し込む。
自由恋愛のくせに、嫉妬深いトゥリオ。
で、音楽を聴いているジュリアーナの基へ、トゥリオが戻って来る。
トゥリオがエガーノと決闘している間に、テレーザは出発してしまったのだという。
ジュリアーナに「彼女を忘れたい。力を貸してくれ」とトゥリオ。
「無理よ。私にはできないわ。」
何て都合のいい野郎なんだ!
トゥリオは、ジュリアーナへの献辞の入ったフィリッポの著書を発見。
フィリッポのことを罵倒する。
ジュリアーナはフィリッポの才能を称賛する。
競売に出掛けるジュリアーナ。
トゥリオは、彼女が香水を変えたことに気付く。
一方、トゥリオは競売でテレーザと会う。
ジュリアーナが帰宅すると、トゥリオはいない。
テレーザと抱き合うトゥリオ。
テレーザは彼に「奥さんはきっと浮気してるわ」と告げる。
自分の事は棚に上げて、不安になるトゥリオ。
トゥリオが帰宅すると、ジュリアーナはいない。
このすれ違い。
トゥリオがフェンシングの稽古場に行くと、フィリッポがいる。
二人の対決。
フィリッポがシャワーを浴びているのを眺めるトゥリオ。
この時、フィリッポのペニスが映る(無修正)。
一方、テレーザはトゥリオと外出したがる。
しかし、彼女がフィリッポのことを知っていると判り、不機嫌になるトゥリオ。
トゥリオは実家に帰ると、ジュリアーナがいる。
彼女は「部屋は別々に」と告げる。
トゥリオとジュリアーナは別荘へ行く。
ジュリアーナにキスをするトゥリオ。
抱き合う二人。
初心に戻ろうとする。
しかし、無理。
そりゃそうだろう。
実家へ戻る二人。
ジュリアーナは気分が悪い。
トゥリオの母は、「彼女はきっと妊娠しているわ」とトゥリオに告げる。
「なぜ?」とトゥリオ。
しかし、彼は目に涙を浮べている。
身に覚えがないんだな。
薬を飲んだジュリアーナ。
だが、何の薬か、トゥリオには隠す。
「妊娠したのは本当か?」
「本当よ。」
ジュリアーナは、「私が生きていられたのは彼(フィリッポ)のおかげよ」と言う。
「僕達は互いに自由な夫婦だった」と言いながら、彼女にキスをするトゥリオ。
しかし、気が立っている。
彼は、子供を堕ろさせようとするが、ジュリアーナは「できないわ」と拒む。
さあ、これからどうなる?
後半は、もちろん、ドロドロの展開になる。
とんでもない映画である。
トゥリオは無神論者で、これが作品のストーリーにも影響するのだが。
僕も無神論者だが、このオッサンには1ミリも共感出来ん。
本物のクソ野郎だ。
もしかして、無神論者の悲惨な運命というのもテーマなのか?
それにしても、貴族ってのは何をやっても罪に問われないのか?
どこが「イノセント」だ。
イノセントなのは赤ん坊だけじゃないか。
ヴィスコンティは、左半身麻痺の状態で、車椅子に座って、本作を演出したという。
その執念。
(セリフではなく)登場人物の表情の変化で心理を表現するのが素晴らしい。
人間性を深く描いた傑作だと言えるだろう。
シェイクスピアの『オセロ』じゃないが、人間はやはり嫉妬の生き物だということか。
登場人物には一切共感出来ないが。
貴族っちゅうのは、一体何をして暮らしているんだかねえ。
撮ったのがヴィスコンティじゃなくて、主人公が貴族じゃなかったら、ただのゲス不倫映画になってしまうところだが。