『ルシアンの青春』

この週末は、ブルーレイで『ルシアンの青春』を見た。

ルシアンの青春 Blu-ray

ルシアンの青春 Blu-ray

1973年のフランス映画。
監督・脚本は、『恋人たち』『鬼火』『好奇心』の巨匠ルイ・マル
撮影は、『続・夕陽のガンマン』『ウエスタン』『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』のトニーノ・デリ・コリ。
編集は、『好奇心』のシュザンヌ・バロン。
主演はピエール・ブレーズ。
第二次大戦を舞台にした、ユダヤ人が出て来る映画と聞いたから、勝手に『さよなら子供たち』みたいな映画かと思っていたら、全然違っていた。
「ルシアンの青春」というから、甘ったるい青春映画かと思ったら、これもまた全く違っていた。
主人公ルシアンは、勘違い大馬鹿野郎である。
でも、誰でも若い時は何にも考えず、ただ流されるままに生きているということもある。
それに、あまりにも時代が悪過ぎたということもある。
そういう意味では、ルシアンも戦争の被害者ではあるだろう。
本作が描いているのは、フランスの恥部である。
こういう映画が評価されるのは、この国の懐の深さだろう。
戦争には当然、被害者としての側面と加害者としての側面がある。
日本だと、加害者としての側面を描こうとすると、すぐに「自虐史観だ!」とネトウヨが騒ぎ出すが。
カラー、ワイド。
「1944年6月、フランス南西部のとある小さな町で」という字幕。
要するに、連合軍が反撃を開始した頃だ。
農家の一人息子で17歳のルシアン(ピエール・ブレーズ)は、病院で清掃夫として働いている。
パチンコで木に止まっている鳥を打ち落としたりする野生児。
自転車を漕いで野道を走るルシアン。
軽妙なテーマ曲。
自宅に着くと、知らない家族が食事をしている。
要するに、自宅が人手に渡ったんだな。
さらに、父親はドイツ軍の捕虜となり、母親は村長の情婦となっていた。
どうでもいいが、フランスでは17歳の少年が朝から自宅でワインを飲むんだな。
ルシアンは、父親のライフルを持ち出して、ウサギを撃ったりする。
この腕が、後々役立つこともあるのだが。
ルシアンは学校へ行く。
着いて見ると、授業中。
田舎の学校だけあって、色々な年齢の生徒が一緒の教室で授業を受けている。
と言っても、ルシアンは既にこの学校を辞めていた。
学校の先生が実はレジスタンスの隊長で、ルシアンは先生に「レジスタンスに入りたい」と頼むが、拒絶される。
もっとも、ルシアンに大した考えがなかったことはすぐに分かる。
ルシアンは、庭でニワトリを追い掛け、捕まえて、素手で首を落とし、羽をむしって食べる。
これも、後の伏線だが。
ルシアンは、単に病院勤めがイヤになっていただけだった。
この頃、町にはドイツ軍がウロウロしていて、フランスの人々は、彼らを見掛けると直ちに物影に隠れた。
その夜、ルシアンがホテルの前でぼんやりと立っていると、一人の男に「スパイか」と声を掛けられ、中に連れて行かれる。
ホテル内では、パーティーが行なわれていた。
実は、ここはゲシュタポの本部で、その手先となったフランス人達が集まる場所であった。
自転車競走で有名な元選手のアンリに「飲んでけ」と言われ、ルシアンはいい気になって酒をあおる。
散々飲まされたルシアンは、学校の先生が偽名を使ってレジスタンスの隊長をやっているなどと、軽々しく喋ってしまう。
言ってみれば、共産党員が自民党の本部で党の秘密をペラペラと明かしてしまうようなものだが。
けれども、ルシアンは、レジスタンスもゲシュタポも、何なのかよく分かっていないようだ。
案の定、二日酔いで目覚めたルシアンは、アスピリンと共に栄養価たっぷりの朝食を勧められる。
そこへ、学校の先生が手錠をして連行されて来る。
先生はルシアンをなじるが、ルシアンは自分のせいだとはそれほど思っていないだろう。
ここには、毎日密告の手紙が何百通も届く。
しかし、ルシアンは彼らの華やかな生活に憧れて、仲間に加わることにした。
この辺が、特に考えもなく流されるままに生きる若者という感じだが。
それが彼の人生にとって重大な意味を持ってしまうのは、時代のせいなのだろう。
そもそも、現代でも、職業の選択なんて、ほぼ偶然の産物だ。
たまたま目の前にその仕事があったから、就いたに過ぎない。
ルシアンは銃の腕前がいいので、そこを買われた。
まあ、狩りをしていたからな。
ある日、ルシアンは仕立て屋のオルンの家へ連れて行かれる。
彼は金持ちのユダヤ人だ。
採寸をして、スーツを誂えると。
しかも、オルンに対しては、「もっとカネを払え」と。
しかし、こんなことをしている間にも、戦況は(ドイツにとって)次第に深刻になりつつあった。
ルシアンが本部に戻ると、例の先生が風呂桶の水に顔をつけて拷問されている。
ルシアンは秘かに通じ合っているお手伝いの女の部屋へ。
彼女はルシアンにささやく。
「戦争はアメリカが勝つわ。」
ゲシュタポの手口は、例えば次のようなものだ。
「ドイツ軍に脚をやられた」と言って、男が医者に手当てを求める。
しかし、実はケガというのはウソで、男はゲシュタポであった。
ルシアンが銃で医者を脅している間、連中は酒を飲みながら尋問し、調度品を奪う。
医者の息子が1年掛けて作ったという大きな船の模型を無惨に破壊し、自白を迫る。
まさに、フランス人にとっては、こうまでして卑劣な敵の軍門に下りたくはないだろう。
それでも、ルシアンはある種の権力を手に入れたことで、どんどん増長して行く。
「自分は何でも出来る」という、変な万能感を得てしまう。
若くて、頭も良くないルシアンには、状況を客観的に見ることが出来ないんだな。
それに、平時ならこういうことは起こらないだろうが、歪んだ力関係が出来上がっている時代だった。
何か、ルシアンの勘違いっぷりで、手塚治虫の『ユフラテの樹』を思い出した。
ルシアンは、オルンの家に仕立て上がった服を受け取りに行く。
「あんたはユダヤ人か?」と尋ねると、オルンは「ノン」と答える。
オルンには、フランスという名の美しい娘がいた。
彼女に目を付けるルシアン。
だが、オルンはゲシュタポの手先に娘を紹介したくない。
ルシアンはオルンからカネを回収する。
嘆くオルン。
フランスは買い出しに出掛けていた。
戦後の日本のヤミ市を思い起こさせるような長蛇の列に並んでいるフランス。
そこを通り掛かったルシアンは、フランスを見付けると、彼女の手を引いて先頭に連れて行く。
ブーブー文句を言う、並んでいる人々。
フランスも「あんた、あんまりだわ」と怒る。
が、そこでピストルを懐から取り出し、「ドイツ警察だ」と人々に告げる。
何という職権乱用。
しかも、未だ若くて女の扱い方も知らないルシアンは、こうすれば、彼女が自分になびくとでも思ったのだろう。
まあ、今の日本でも、受験勉強を必死で頑張って東大に入った男が、女の子の前で模試の偏差値を自慢する何ていう話しを聞くが。
まあ、でも、若い時はこんなもんだよな。
僕も散々、恥ずかしい思いをした。
で、ルシアンは「お嬢さんに会いに来た」と、オルンの家を訪ねる。
贈り物として、押収品の「最高級のシャンパン(実は模造品)」を半ダース、持って来た。
先の一件でルシアンを快く思わないフランスは、シャンパンが好物にも関わらず、飲もうとしない。
もっと露骨なのは、フランスの祖母(オルンの母親)で、ルシアンが「ティーカップに」注いだシャンパンを、口も付けずに捨てる。
オルン一家はパリ出身の裕福な家庭。
一方、ルシアンは田舎の農家出身だから、高級なシャンパンなど、飲んだことはおろか、見たこともないのだろう。
この対比は、滑稽でもあり、哀しくもある。
一種の階級闘争である。
家の中に、重苦しい雰囲気が漂う。
しかし、ようやくフランスも打ち解けて来て、ルシアンと話し始める。
学校を辞めたというルシアンに、何の気なく「何の勉強をしていたの?」と尋ねるフランス。
このひと言が、ルシアンの隠していたコンプレックスを爆発させる。
「僕は君達を逮捕できる!」と叫び出すルシアン。
いつの時代も、学歴コンプレックスというのは根深いものだ。
永山則夫みたいに、殺人にまで至る者もいる。
僕も、大学中退(実質高卒)だから、その気持ちは痛いほど分かる。
そこへ、家主が家賃の値上げを通告に来る。
それを、「ドイツ警察だ!」と、例の調子で追い出すルシアン。
家主は「ゲシュタポを家に迎えているとは!」と吐き捨てて、立ち去る。
ここまでが前半。
後半も、時代に翻弄されるルシアン達の姿が、冷徹に描かれる。
運命と言ってしまえばそうなんだろうけど、余りにも痛々しい。
最後に、ルシアンはお休みの挨拶を「Gute Nacht」とドイツ語で言う。
彼は、魂をドイツに売ってしまったのか。
まあ、こんな歴史があったから、フランスとドイツは仲が悪いわな。
大体、世界中どこでも、隣国同士は仲が悪い。
日本と韓国も然り。
かと言って、「仲が悪くなければならない」ということではない。
仲良くした方がいいに決まっている。
どうして、ネトウヨという人種は、そんな簡単なことすら分からないのだろうか。

Lacombe Lucien (1974) Bande Annonce VF [HD]