『アルジェの戦い』

この週末は、ブルーレイで『アルジェの戦い』を見た。

1966年のイタリア・アルジェリア合作映画。
監督はジッロ・ポンテコルヴォ。
音楽は、『夕陽のガンマン』『続・夕陽のガンマン』『ウエスタン』『シシリアン』『エクソシスト2』『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』『アンタッチャブル』『ハムレット(1990)』の巨匠エンニオ・モリコーネ
監督は、ロベルト・ロッセリーニの『戦火のかなた』を観て映画を志したらしいが、そのことがうかがえる作風である。
僕は学生の頃、池袋の文芸坐で『戦火のかなた』を観たが(『無防備都市』との二本立て)、スゴイ映画だった。
『アルジェの戦い』は、ほぼ素人のキャストを使って撮ったという。
イタリアン・ネオ・レアリスモだな。
本作がベネチア国際映画祭で金獅子賞(グランプリ)を獲得した時、フランス代表団は、フランソワ・トリュフォーを除く全員が退席したらしい。
僕は、世界史の偏差値が29だったので、フランスによるアルジェリアの植民地支配の歴史もよく知らなかった。
さっき、世界史の教科書(『詳説世界史』)で調べたら、1830年シャルル10世が国民の不満をそらすためにアルジェリア遠征を実行して以来だという。
アルジェリア戦争アルジェリア独立は、『世界史用語集』に載っていた。
ついでに、アルジェリアの場所もよく分かっていなかったが、地図を見たら、モロッコの隣だな。
これくらいの基礎知識がないと、この映画を見ても、よく理解出来ないだろう。
昔、『カスバの女』という歌があって(実家にレコードがあった)、歌詞に「ここは地の果てアルジェリア」とあるが、本作の舞台は、まさにそこだな。
が、前置きはこれくらいでいい。
あとは、映画の力で最後まで引きずり込まれる。
僕は、本作はタイトルだけしか知らず、未見であったが、それほどスゴイ作品だ。
そして、想像していた内容とは大分違っていた。
もっと普通の戦争映画かと思っていたのだ。
モノクロ、ワイド。
1960年代後半の作品にしては、モノクロというのは珍しいが、これが効果を上げている。
記録フィルムのような迫真性を生む。
アルジェ、1957年。
パンツ1枚で座らされている中年の男。
彼を取り囲む兵隊達。
男はアルジェリア人で、ガリガリで震えている。
兵隊達は、男にフランス軍の軍服を着せる。
フランス兵のフリをして偵察をしろと命じたのだ。
泣きながら、「イヤだ!」と叫ぶ男。
しかし、抵抗しても無駄であった。
このオープニングで、本作におけるフランスとアルジェリアの力関係が一発で分かる。
フランス軍アルジェリア人の民間アパートに突撃。
住民を追い出す。
「アリ・ラ・ポワント、家を包囲した!」
数人で隠れている中心の青年がアリ・ラ・ポワントだろう。
フランス軍は、「組織は壊滅したので、無駄な抵抗は止めて出て来い」というのだ。
カリートの道』と同じように、結末を先に示す語り方。
続いて、アルジェ、1954年。
カスバのヨーロッパ人地区。
民族解放戦線(FLN)がアルジェリア人に呼び掛けている。
「フランス政府に対話を求める。アルジェリア人よ、共に闘おう!」
アリ・ラ・ポワントは街頭で賭博をしている。
警官に見付かって逃げるが、フランス人の男が嘲笑しながら足を出して転倒させる。
逮捕→連行→刑務所へ。
フランス人が住んでいる地区の立派な家並みと、アルジェリア人地区の貧しさ。
キレイな身なりをしたフランス人と、違法行為をしながら何とか生きているみすぼらしいアルジェリア人。
この対比!
刑務所では、「アラー・アクバル!」と叫ぶ男が連れて来られる。
所内のアルジェリア人達は、口々に「アルジェリア万歳!」と叫ぶ。
男がギロチン台に掛けられる。
窓のすき間からそれを見詰めるアリ。
この時代に未だギロチンがあったとは!
さすがフランスである。
本編が進むにつれて、どんどんフランス側の非人道的な行為が明らかになって行く。
5ヶ月後、出所したアリに少年が伝言する。
「カスバのカフェの主人は警察と通じている。警官を殺せ。」
アリは街頭で女から銃を渡され、フランス人警官を撃とうとするが、弾が入っていない。
命からがら逃げ、女を問い詰めるアリ。
リーダーのエル・バディ・ジャフィーは、アリに「君を信用出来るか、確かめたかった」という。
ジャフィー曰く、「警官を殺したら、フランスは必ず動く。その前に、味方を整理したい。」
アルジェリア人は、麻薬売買や売春等の不法行為で生計を立てている者が多い。
だから、まずは信用出来る人間かどうか見極めてから、組織を固めたいのだと。
何か、新左翼オルグみたいだな。
何本か見た連合赤軍の映画を思い出した。
1956年4月、FLNは麻薬・酒・売春を禁止し、違反者には厳罰を処すと決定。
アリは、昔は麻薬の取引仲間だった男を探し出し、「組織の命令だ。麻薬から手を引け」と迫るが、応じないので、その場で機関銃で射殺する。
この辺を見ていると、この組織も冷徹ではないかという気がする。
1956年6月10日、結婚式も簡略化される。
これが130年のフランス支配への抵抗の形だという。
1956年6月20日、警官を刺し、ピストルを奪うアルジェリア人の男。
警察署に突入して警官を撃つ男達。
車の中から警官に向けて発泡する男もいる。
組織が動き出したのだ。
警察署長は、「パリは警官を増やし、警備を強化しろというが、それで解決するとは思えない。」
署長は、病院に対し、「銃で撃たれた患者(アルジェリア人)の身元を報告せよ」と命じる。
組織を解明するためだ。
そして、当局はカスバを封鎖した。
道路には鉄条網が張られ、検問が行われる。
ただし、女性には触れない。
これが後に、アルジェリア側の抜け道になる。
1956年7月20日、オープン・カフェで警官を射殺する男。
街角で警官を射殺する男。
街角に隠した銃で警官を射殺する青年。
やっていることは「革命」を叫んだ連合赤軍と変わらないのだが。
連発するテロに、フランス人街では、「アラブは皆殺しにしろ!」という叫び声が上がる。
全然関係ないホームレスのじいさんがフランス人から寄ってたかってボコボコにされる。
同時多発テロの後のアメリカも、こんな感じだっただろう。
イスラムを見たらテロリストと思えと。
警察署長は秘かに対抗策を考える。
夜、部下を連れて車でテーベ街(アルジェリア人地区)へ行き、ダイナマイトを仕掛ける。
翌朝、レンガで出来たアパートは瓦礫と化し、多数の死傷者が出ていた。
必死で仲間を助け出そうとするアルジェリアの人々。
確かに、警官襲撃のテロも非道だが、それに対して、権力者側が民間人を大量に無差別で殺す。
正に、血で血を洗う戦いである。
マフィアの抗争と大差ない。
ただ、支配されている側が権力者に立ち向かうには、ゲリラ的手法しかないのも事実。
ベトナム戦争みたいだ。
アリ達は、「人殺しを許すな!」と大行進をする。
行進の波はどんどん広がりつつあったが、少年が「行っちゃダメだ! 皆殺しにされる!」と思いとどまらせる。
この恨みはFLNが晴らすという。
ジャフィーは、3人のアルジェリア人女性を美しく着飾らせ、西洋人風に変装させた。
そして、バッグの中に爆弾を持たせる。
女性なら怪しまれないからだ。
検問所で、身分証のない男性は逮捕されるが、女性はすんなりと通す。
一人目の女性は、魚市場で爆弾を受け取り、フランス人の集まるカフェへ。
植民地支配を受けた悲しさか、アルジェリア人も、フランス語は話せる。
フランス人がアルジェリア語を話すことはない。
今の日本の英語信仰は、正にこの国を自らアメリカの植民地に従っているのと同じことなのだが。
話が逸れた。
女性は爆弾入りのバッグを置いて、立ち去る。
二人目の女性はフランス人の集まるダンス・ホールへ。
生きるか死ぬかのアルジェリア人と比べて、フランス人の踊りにふける若者の優雅なこと。
三人目の女性(ジャフィーの妻)は空港へ。
30分後、3箇所で次々に爆発が起きる。
フランス人にも多数の死傷者が出た。
1957年1月10日、特命警視監より「反乱分子を一掃せよ」と、軍隊派遣の要請がなされる。
サングラスを掛け、長身のアイソップ・マチュー陸軍中佐が乗り込んで来る。
まるで、戦後日本にやって来たマッカーサー元帥のようだ。
中佐曰く、「1日平均4.2件のテロが起きているが、40万人のアラブ人のうちテロ行為を行なっている者はごく少数だ。それをあぶり出し、壊滅させる。」
中佐は、検問所を隠し撮りした映像を見る。
「この中にテロリストがいるはずだ。」
そして、組織の構造はピラミッド状になっているという。
中佐が黒板に書いた図は、ちょうどネズミ講の組織と同じだ。
末端の者は、上部の者の顔も名前も知らない。
幹部を探し出すには、尋問しかない。
さらに、「人道的配慮はしない」という。
これがヒドイのだが。
対象はカスバの全住民だ。
FLNが声明を発表する。
アルジェリア問題が国連総会の議題に上る。我々は勝利した。国際社会に訴えるために8日間のゼネストを行う。その間の攻撃は中止する。我々の団結力を示せ。」
「我々は勝利した」というのは、安田講堂の時計台から山本義隆も叫んだ言葉だが、全共闘は勝利しなかった。
違いは、一般国民を巻き込むことが出来たか否か。
民族の独立というのは、イデオロギーじゃないんだな。
カスバの全住民がゼネストに参加し、街は静まり返った。
これによって、フランスの敵は、ごく一部の組織分子ではなく、アルジェリア人全体になってしまったのだが。
さあ、これからどうなる?
後半は、いよいよ戦いが泥沼化する。
フランス軍は、アルジェリア人の組織をサナダムシに例える。
末端を幾ら切っても、頭(リーダー)が残っていれば、組織は再生するというのだ。
フランス軍は、組織の幹部を聞き出すために、拷問を行う。
更に、一般市民に平気で発泡する。
残虐行為を行なったのは、ナチスだけじゃないということだ。
最後に、冒頭のアリが隠れている所へフランス軍が突入して来るのだが。
何と、フランスの将軍が「見物」に来るんだな。
人の命を何だと思っているのだろう。
この映画は、終始ドキュメンタルで、感傷的な表現はない。
一方的に、お涙頂戴のように、アルジェリア人側に感情移入させるような描き方はしていない。
だからこそ、支配者側の残虐性が、よりリアルに浮かび上がって来るのだが。
本作を見ると、日本はつくづく平和だと思う。
でも、沖縄を見れば、本作と同じ問題を抱えていることが分かるはずなのだが。
ベネチア国際映画祭金獅子賞受賞。

La battaglia di Algeri - Trailer