『ファントム・オブ・パラダイス』

この週末は、ブルーレイで『ファントム・オブ・パラダイス』を見た。

1974年のアメリカ映画。
監督は、『悪魔のシスター』『キャリー』『スカーフェイス』『アンタッチャブル』『カリートの道』の巨匠ブライアン・デ・パルマ
音楽はポール・ウィリアムズ
編集は、『キャリー』のポール・ハーシュ
主演は、ウィリアム・フィンレイ、ポール・ウィリアムズジェシカ・ハーパー
タイトルから判るように、元ネタは『オペラ座の怪人』である。
こういうロック・ミュージカルとしては、これまでに『ジーザス・クライスト・スーパースター』と『ロッキー・ホラー・ショー』を見た。
ジーザス・クライスト・スーパースター』は本格派だが、『ロッキー・ホラー・ショー』はカルト色が強い。
本作もカルト映画と言えるだろう。
ブライアン・デ・パルマ出世作で、タイトルだけは以前から知っていたが、見たのは初めて。
20世紀フォックス
カラー、ワイド。
まず初めに、伝説のレコード会社デス・レコードの社長スワンを紹介し、彼がロックの殿堂となるべき「パラダイス」劇場を建設しようとしていること、「この映画はその音を探し求める物語である」というナレーション。
タイトル・バックはロックを歌い上げる男。
ジューシー・フルーツ」というグループだ。
フィルビンという偉そうな太った男(レコード会社の社員)は、恋人とは別れたが、これから建設されるパラダイス劇場のことを考えている。
今日はそのオーディションであった。
ジューシー・フルーツの次は、ウィンスロー・リーチ(ウィリアム・フィンレイ)という、メガネを掛けた無名のミュージシャンがキーボードの弾き語り。
素晴らしい曲で、陰の声が部下のフィルビンに「この男の曲だけオープニングで使え」と命じる。
プロデュースするのはスワン(ポール・ウィリアムズ)だ。
ただし、この時点ではスワンは未だ姿を見せていない。
ウィンスローはフィルビンに「今、作っている曲は300ページ以上の『ファウスト』の物語だ」と説明する。
無教養なフィルビンは『ファウスト』を知らない。
それでも、芸術を世に送り出すレコード会社で働けるんだから、皮肉な世の中だ。
フィルビンは「この曲はジューシー・フルーツに歌わせる」とウィンスローに告げる。
ウィンスローは「あんなチンピラに歌わせたくない」と激怒。
まあ、芸能界ではよくありそうなことだ。
例えは悪いが、来生たかおが『セーラー服と機関銃』の主題歌(『夢の途中』)を作った時も、自分で歌うつもりが、角川春樹の意向で薬師丸ひろ子が歌うことになった。
その後、『夢の途中』も大ヒットしたので良かったが。
僕は来生たかおはコンサートに行ったことがあるくらい好きだが、薬師丸ひろ子の合唱部出身の伸びやかな歌声も好きなので、「チンピラ」の例としては適切ではない。
ただ、作った本人に歌わせない例として真っ先に浮かんだので書いた。
で、1ヶ月後、ウィンスローはデス・レコードのスワンを訪ねるが、受付で門前払いされる。
諦め切れず、タクシーに乗ってスワンの屋敷へ。
中に入ってみると、めいめい歌っている女性がたくさんいる。
その中で、フェニックス(ジェシカ・ハーパー)という若い女性がウィンスローの作った曲を歌っていた。
「歌を教えるよ」と言って、彼女と仲良くなるウィンスロー。
今日はパラダイス劇場のオープニング曲のオーディションであったが、女性限定であった。
ウィンスローは追い出される。
女性達は別室に呼ばれるが、彼女達は歌う必要がなかった。
簡単に言うと、スワンの「喜び組」になることを求められるのである。
セクシャル・ハラスメントNo.1だな。
こういう「枕営業」的なことも芸能界ではよくありそうだ。
フェニックスはそんなつもりがなかったので、部屋を飛び出した。
ウィンスローは女装して潜入し、スワンに追い出される。
他の女たちはスワンに群がっている。
屋敷の前でメガネを落とし、はふはふの体でウィンスローが倒れていると、二人組の黒人警官がやって来る。
何故か、ウィンスローのカバンの中からヘロインが見付かる。
ウィンスローには全く身に覚えがなかったが、どうやらスワンに仕組まれたのであった。
ウィンスローは無実の罪で終身刑を命じられ、シンシン刑務所に送られる。
ここでは、「歯は衛生に悪い」と言って、全ての歯を抜かれ、金属の総入れ歯にされてしまう。
ここに入っているのは皆、無実の者達であった。
6ヶ月後、ジューシー・フルーツが歌う『スワンのファウスト』がヒットチャートを驀進していた。
自分が作った曲を横取りされたウィンスローは発狂し、トラックの荷台に紛れて刑務所を脱出。
デス・レコードの本社に乱入する。
そこで、レコードのプレス機に誤って挟まれ、顔を潰される。
コミカルに描いてはいるが、結構な残虐シーンである。
さらに、ガードマンに発泡され、川へ転落する。
ウィンスローは、一命は取り留めたものの、ふた目と見られぬ形相になってしまった。
復習に燃えるウィンスロー。
余談だが、最近よく日本語で「リベンジする」なんて軽々しく言うが、本来の「revenge」はこういう時に使う。
いよいよパラダイス劇場のこけら落としが迫っていた。
楽屋へ怪人が忍び込む。
ウィンスローだ。
中には水着のギャル達がたくさんいる。
ウィンスローは衣装部屋へ忍び込み、マントと仮面を奪い、自分の身に着ける。
そして、セットの車に爆薬をセットする。
車はジューシー・フルーツのリハーサル中に爆発。
ウィンスローはスワンに会いに行く。
「俺は顔と声を潰した。ヒドイ姿だ」とスワンに訴えるウィンスロー。
悪党のスワンはウィンスローに「オレと組まないか」と持ち掛ける。
「信用しろ」と言われて、逃げるウィンスロー。
オーディション会場にフェニックスが来ている。
スワンは彼女に「歌と交換に何ができる?」と迫る。
「では、君の声をくれるか」と言われ、歌うフェニックス。
「She's good!」
ウィンスローは舞台裏で彼女のために演奏している。
声が出ないが、スワンが彼に発声器を付けさせ、音声を合成して会話出来るようにした。
ちょうど、つんくが食道発声しているような感じだ。
スワンはウィンスローに「カンタータを書き直せ。主役はフェニックスだ」と命じる。
彼女を想うウィンスローは「書き直す。だが、勝手に編曲するな」と応じる。
スワンはウィンスローに分厚い契約書を示す。
そこには、「肉体・魂の全てを委ねる」と書かれていた。
ウィンスローは、そこに血のサインをする。
だが、それは悪魔の契約であった。
しかも、スワンには契約履行の意志は全くなかった。
さあ、これからどうなる?
なかなか独特な映画だが、最後まで一気に見せる。
ただ単に怪奇なだけではない。
デ・パルマの才能がほとばしっている。
後半、明らかに『サイコ』みたいなシャワー・シーンがある。
デ・パルマヒッチコックを尊敬しているらしいからな。
気の毒な主人公を演じたウィリアム・フィンレイは熱演だが、悪役ポール・ウィリアムズの怪演もスゴイ。
しかも、音楽も自分で作っているんだな。
何という才人だ!
しかし、日本にも悪徳プロデューサーといって思い浮かぶ人は何人かいるな。
名前を挙げるのは止めておく。

Phantom Of The Paradise (1974) - Official Trailer (HD)