『スローターハウス5』

この週末は、ブルーレイで『スローターハウス5』を見た。

1972年のアメリカ映画。
監督は、『明日に向かって撃て』『スティング』の巨匠ジョージ・ロイ・ヒル
撮影は、『アマデウス』のミロスラフ・オンドリチェク。
主演は、『続・激突!/カージャック』のマイケル・サックス。
共演は、『スーパーマン』のヴァレリー・ペリン、『未知との遭遇』『アルカトラズからの脱出』のロバーツ・ブロッサム。
本作のタイトルは、僕が学生の頃、バイトをしていた映画館で、映画にものすごく詳しい先輩から初めて聞いた。
「『これは見ろ』という映画を挙げて下さい」と言ったら、本作の名前が出て来たのだ。
高校生くらいまでは、自分は映画に詳しいつもりだったが、上京して映画館で働いたり、大学の映画研究会に顔を出したりすると、周りが皆、詳しい人ばかりなので、自分なんか大したことがないということが分かった。
その中でも、この先輩は特別に詳しく、僕が目標にしている人だった。
当時、この先輩は24歳だったが、お気に入りの映画ソフトを、VHSで400本、レーザーディスクで50本も持っているという。
今のように、レンタルより安くDVDが買えるような時代じゃない。
それ以来、僕は映画ソフトを400本揃えることが目標になった。
しかし、学生の頃はカネがなく、バイトの給料が入って、何枚か中古CD屋(高田馬場にあったタイム)で買っては、給料日前に売るということを繰り返していたので、全く揃わなかった。
最近になって、ブルーレイ・ディスクが映画鑑賞料金より安く手に入るようになったので、また揃え始めた。
今度は売ったりしていないので、ようやく350枚くらいになった。
ただ、ブルーレイは全く流行っていないので、近い将来、かつてのレーザーディスクのように消えてしまいそうだが。
で、先輩に薦められてから四半世紀を経て、ようやく『スローターハウス5』を見たのだが、もっと早く見なかったことを後悔した。
ユニヴァーサル映画。
カラー、ワイド。
父親を呼ぶ女性が家の中から見える。
返事はない。
タイプライターで編集者に手紙を書くビリー・ピルグリム(マイケル・サックス)。
それによると、彼は時間から遊離した人間であり、過去や未来を飛躍するという。
ただし、それは彼の意志とは関係なく起こる。
突然、ドイツ軍がうごめく第二次大戦中のベルギーに飛ぶ。
雪の中、一人で道に迷う。
今日の午前中まで、ビリーはトラルファマドール星にいたというのに。
ビリーは、対独戦線でアメリカ兵に捕まる。
ビリーの職業は牧師であった。
ここは、作戦のリーダーである伍長も逃亡するほどの苛酷な戦場。
トラルファマドール星で一緒にいた美女(実はポルノ女優)モンタナ(ヴァレリー・ペリン)が「戦場への時間旅行はイヤでしょ」と言っていた。
そのことを戦場で思い出すビリー。
本作は、このように時間を行ったり来たりする。
しかし、編集が巧みなので、混乱することはない。
そして、行き来する時間はどれも人生のある場面なので、それが同時進行することによって、最終的にはビリーの生涯が一つに繋がるようになっている。
だから、本作をSFとして特別視しなくとも、一人の男の生涯を描いた作品として見ることも出来る。
で、ビリー達はドイツ兵に捕まる。
今度はビリーの新婚生活へ。
要するに、戦争が終わったら結婚するんだな。
それをほのめかすのは一瞬で、また戦時中に。
やはり、本作は第二次大戦中の悲惨な状況(特に、クライマックスのドレスデン爆撃)を描きたいのだろう。
戦時中の場面に一番重点が置かれている。
ドイツ軍の捕虜になったアメリカ兵達が歩いている。
ビリーは頻繁に、傍を歩いている足の悪い兵士の足を踏んでしまう。
ビリーはドイツ兵によって一人だけ列から外され、写真を撮られる。
そして、再び列に戻り、輸送用の貨物列車に乗せられる。
病院のベッドの上で目覚めると、母親がいる。
「ビリーは婚約した」と言っている。
戦争は終わったのだ。
また戦時中へ。
貨物列車の中は捕虜達が物のように押し込まれている。
ビリーの隣にいた足の悪い兵士が死んでしまう。
この兵士の友人だというラザロ(ロン・リーブマン)は、彼が死んだのはビリーのせいだと決め付け、復讐するという。
これがこの先の重要な伏線。
貨物列車が目的地に着き、捕虜達は降ろされる。
例のラザロがドイツ兵とケンカを始める。
彼は気が短く、好戦的なのだ。
言葉は通じないが、ケンカは出来る。
ビリーがシャワーを浴びていると、子供の頃へ。
子供の頃の裸のビリー。
これは、18歳未満の衣服の全部または一部を身に着けていない様態の描写なので、現在の日本の法律では児童ポルノに当たる。
SF映画史上の傑作とされている本作を児童ポルノ扱いするとは!
国家権力を断じて許さない!
話しが逸れてしまった。
少年ビリーはプールに放り込まれてしまう。
再び、第二次大戦中へ。
アメリカ軍の捕虜収容所に着いた捕虜達は、先輩達にグリークラブのような合唱で出迎えられる。
赤十字のミスで、毎月50箱のはずの物資が500箱送られて来るので、食事も豪勢だ。
が、ビリーは途中で気絶してしまう。
戦後の新婚生活へ。
庭で子犬と戯れるビリー。
ビリーが消防車を運転すると、走って飛び乗る子犬。
ビリーは子犬に芸を仕込む。
しかし、部屋にいた嫁の足元にオシッコをかけてしまい、彼女の逆鱗に触れてしまう。
その夜、家の外で落ち込んでいるビリーと子犬。
空から、青白く光る何かが接近して来る。
未知との遭遇か。
しかし、また去って行く。
再び、第二次大戦中へ。
ビリーがベッドで寝ていると、ラザロに絡まれる。
一方、親切にしてくれる同僚もいた。
ナチスや日本の世界侵略が許せなくて」陸軍に入ったという元教師のダービー。
本作では、日本や広島に3度も言及されている。
しかし、戦争という意味では、どちらが正義も悪もない。
戦後へ。
かなり時間が経って、ビリー夫妻も結構な中年になっている。
今日は結婚記念日。
ビリーは妻に、戦争中にドイツで手に入れたというダイヤをプレゼントする。
自宅のカギの壊れたトイレに入ると、息子がエロ本を持っている。
ビリーはそれを没収する。
開いてみると、ピンナップに、冒頭のトラルファマドール星で一緒にいた美女モンタナのヌード・グラビアが。
再び戦時中へ。
捕虜達はドレスデンへ移送されることになった。
捕虜の中でリーダーを決めることに。
ラザロとダービーの名前が挙がったが、ラザロが辞退し、ダービーがリーダーに選ばれる。
時代ははるか戦後へ。
老年に差し掛かったビリーがライオンズ・クラブのリーダーに選ばれる。
本作では、カットバックが多用される。
中年時代のビリー一家。
夜、ドライブイン・シアターで映画を観ている。
映画の中で、モンタナが裸で入浴するシーンが。
ビリーは一生懸命観ているが、妻や娘が「家族で観る映画じゃないわ!」と激怒。
再び、戦時中へ。
貨物列車で移送される兵士達。
再び、中年時代。
息子が墓石を仲間と倒して、現行犯逮捕されたと聞き、愛車のキャデラックで駆け付けるビリー。
戦時中へ。
ドレスデンの駅に列車が着く。
ダービーがドイツ兵に交渉するも、全く相手にされない。
本作では、ダービーの人柄の良さが強調される。
これが、後半への重要な布石。
ドレスデンは、歴史のある美しい街だ。
まあ、アメリカなんか新しい国だから、ヨーロッパのような歴史はない。
アメリカ兵達も、美しい街を眺めながらゾロゾロと歩く。
その時、ビリーは突然、道端にいたじいさんにビンタされる。
アメリカ兵が憎いのだろう。
中年時代へ。
妻の父親と一緒にカナダへ行くことになったビリー。
プロペラ機に乗るが、イヤな予感がする。
「この飛行機は25分後に墜落する!」と叫び、離陸を止めさせようとする。
が、操縦士にたしなめられる。
機内では、またグリークラブのような合唱。
そして、飛行機は墜落する。
戦時中へ。
捕虜達が連れて来られたのは、シュラハトホーフ・フュンフ(Schlachthof Fünf)と呼ばれる場所だった。
せっかくなので、少しドイツ語の解説。
die Schlachtは、第一義的には「戦い、戦闘」だが、「屠殺」という意味もある。
動詞だと、schlachtenで「屠殺する」。
der Hofは「館」。
ドイツ語は、二つ以上の名詞をつなげる時は、そのまま綴るので、「Schlachthof」になる。
Fünfは数詞で「5」。
つまり、英語にすると、スローターハウス5(Slaughterhouse-Five)だ。
要するに、「屠殺場5号」ということだな。
「屠殺場を宿舎にするなんて、ジュネーヴ協定違反だ!」と騒ぎ出す捕虜達。
中年時代へ。
雪の中に墜落した飛行機の残骸。
血まみれのビリーが「シュラハトホーフ・フュンフ」とつぶやく。
さあ、これからどうなる。
クライマックスのドレスデン爆撃というのは、日本で言えば、東京大空襲のようなものだろう。
連合軍は、正義の名の下に、何の罪もない一般市民を何十万人も殺したのである。
これが戦争の本質だ。
広島・長崎への原爆投下も、アメリカは正当化する。
だが、こんなのは、有色人種を使った新兵器の実験である。
日本人は、もっと怒るべきだ。
何で、戦後70数年も経つのに、未だにアメリカにへいこらとおべんちゃらを使っているのか。
あと、「南京大虐殺はなかった」とか言いたがる右翼。
自分達に都合の悪いことはなかったことにしたいんだろう。
本作は、「スローターハウス5」というタイトルから想像していた内容とは、全く違っていた。
僕は、ホラー映画か何かだとすら思っていたのだ。
本作の完成度は素晴らしく、SFを超越している。
一人の男の人生を描いた作品として見ても良い。
2001年宇宙の旅』もそうだが、優れたSFは、SFの枠にとどまらない。
カンヌ国際映画祭審査員賞受賞。

Slaughterhouse-Five Official Trailer #1 - Valerie Perrine Movie (1972) HD