『カサンドラ・クロス』

この週末は、ブルーレイで『カサンドラ・クロス』を見た。

1976年のイタリア・イギリス・西ドイツ合作映画。
監督はジョルジュ・パン・コスマトス
製作は、『軽蔑』『ドクトル・ジバゴ』の大プロデューサー、カルロ・ポンティ
音楽は、『猿の惑星』『パットン大戦車軍団』『トラ・トラ・トラ!』『パピヨン』『チャイナタウン』『オーメン』『エイリアン』『スタートレック』の巨匠ジェリー・ゴールドスミス
主演は、『エル・シド』『ローマ帝国の滅亡』の大女優ソフィア・ローレンと『ナバロンの要塞』『天地創造』のリチャード・ハリス
共演は、『地上より永遠に』『大空港』の大スター、バート・ランカスター、『北京の55日』『天地創造』『大地震』の大女優エヴァ・ガードナー、『バーバレラ』のジョン・フィリップ・ロー、『地獄の黙示録』『ガンジー』のマーティン・シーン、『ゴッドファーザーPART II』のリー・ストラスバーグ、『オペラハット』『1941』のライオネル・スタンダー、『タワーリング・インフェルノ』のO・J・シンプソン、『屋根の上のバイオリン弾き』のレイモンド・ラブロック、『第三の男』のアリダ・ヴァリ
何というオールスター・キャスト!
この時代のパニック映画はカネが掛かっているからな。
僕は本作の公開時には未だ4歳だったので、全く記憶がないが、かなりの話題作だったようで、母はよく知っていた。
僕が本作を知ったのは、小学生の頃、駅前の本屋で立ち読みしたケイブンシャの大百科(確か、「恐怖映画」か何かだった)に、「橋が落ちる映画」として『戦場にかける橋』と一緒に紹介されていたからだ。
何という組み合わせだ。
橋が落ちる以外に何の接点もないな。
で、ちょうどその頃、テレビの洋画劇場で放映されたので、母と一緒に見た。
期待していたのだが、クライマックスの列車落下シーンがあまりにミニチュア丸出しでショボかったので、母と共にガッカリした。
その後、大人になってからDVDで見たこともあるので、多分、今回が3回目だと思う。
件のシーンは、今見ると、確かにミニチュアだが、そこまでヒドくはなかった。
まあ、18型のブラウン管テレビで見るのと、40型の液晶ハイビジョン・テレビで見るのの違いだろうか。
カラー、ワイド。
不穏なテーマ曲から始まる。
ジュネーヴの国際保健機構本部。
走って来る救急車。
急患のようだ。
担架を急いで運ぶ二人の救急隊員。
突然、患者が警備員に発砲。
そして、二人の救急隊員は時限爆弾を設置し始める。
虫の息でセキュリティー・ボタンを押す警備員。
救急隊員(を装ったゲリラ)らは、「立ち入り禁止」の部屋に逃げ込む。
そこで発砲され、何かの黄色い液体が入った水槽が割れ、ゲリラたちがその液体を浴びる。
一人は撃たれて倒れるが、もう一人の男は窓から逃走する。
撃たれた男は集中治療室に運ばれている。
顔には、怪しい斑点が現われている。
アメリカ軍のマッケンジー大佐(バート・ランカスター)がやって来る。
一方、逃げた男は駅に到着。
パリ経由、ストックホルム行きの大陸横断特急に乗り込んだ。
国際保健機構の女性医師エレナ・シュトラドナー(イングリッド・チューリン)は、マッケンジーから、ゲリラはアメリカが秘かに培養していた伝染性の強い肺炎菌を浴びたと聞かされる。
逃げた男を隔離しなければ、ヨーロッパ中が汚染されると主張するエレナ。
駅では、色々な客が大陸横断特急に乗り込んでいた。
ユダヤ人の初老の腕時計売り、ヘルマン・カプラン(リー・ストラスバーグ)は2等へ。
黒人神父のハリー(O・J・シンプソン)は窓口で、「今日は1等が空いているので、2等料金で1等に乗れます」と言われ、1等へ。
明らかに大金持ち(兵器製造業者の社長夫人)のドレスラー夫人(エヴァ・ガードナー)は、若い愛人で登山家のナバロ(マーティン・シーン)と犬を引き連れて列車へ。
その頃、国際保健機構ではゲリラが死亡していた。
駅では、著名な神経外科医であるチェンバレン博士も列車に乗る。
更に、チェンバレン博士の元妻で、女流作家のジェニファー(ソフィア・ローレン)は、遅れて駅にやって来るが、走り出した列車に、カプランの手助けで何とか飛び乗る。
この頃の客車は、ドアが手動だったんだな。
僕も小学生の頃、山陰本線普通列車で、国鉄の旧型客車に乗ったことがあるが、ドアは手動だったので、走行中でも開けられた。
今では考えられない。
もしも、これで事故が起きたりしたら、マスコミにボコボコに叩かれる。
のどかな時代だったんだな。
本作に登場する大陸横断特急は、各国の車両の混成だからなのか、予算の都合なのかは知らないが、明らかに客車が旧型である。
この時代はこうだったのだろうか。
いや、幾らなんでも、看板特急なんだから、もう少しいい車両を使うと思うんだが。
まあ、いいや。
根が乗り鉄なもので。
それにしても、この時代のパニック映画はみんなそうなのだが、グランド・ホテル形式で、色々な登場人物のキャラクターが、実によく描き分けられている。
昨今のCG映画と違って、パニック映画と言っても、大部分が人間ドラマだったんだな。
若いカップルのスーザンとトム(レイモンド・ラブロック)は、仲間達と一緒にコンパートメントの中で歌っている。
ヨーロッパの鉄道は、乗り合い馬車から発展したから、コンパートメント・タイプの客車が主流なんだな。
チェンバレンは個室寝台へ。
部屋は偶然にも、元妻ジェニファーの隣であった。
その頃、列車に乗り込んだゲリラの男は、荷物室で発症していた。
そこには、ドレスラー夫人の飼い犬もいた。
このゲリラはスウェーデン人であった。
死んだ方のゲリラの持ち物の中には、ストックホルム行きの切符があった。
マッケンジーは、もう一人のゲリラが、おそらく大陸横断特急に乗ったと推測する。
列車の中では、ジェニファーがチェンバレンの部屋を訪ねて来る。
荷物室では、ノドが乾いたゲリラが、犬の水を飲んでいた。
マッケンジーは、エレナ医師に協力を求める。
伝染病を防ぐには、患者を隔離しなければならないが、もしゲリラが車内を歩き回っていたら、1000人もの乗客を隔離するのは難しい。
沿線にあるどの国も、患者の受け入れに同意しない。
列車と連絡も取れない。
焦るマッケンジー
列車の中では、チェンバレンがジェニファーの部屋を訪ねる。
彼女が結婚生活をネタに、暴露小説を書いたことを非難する。
しかし、何故かキスする二人。
ゲリラは、ハリー神父の前を通り過ぎた。
ドレスラー夫人は、個室寝台でタバコを吸っている。
今なら、寝台車は絶対に禁煙だろう。
で、若いツバメのナバロと抱き合う。
ゲリラは、食堂車のキッチンで蛇口から水を飲んだ。
明らかに異常な汗をかいているゲリラに、そこを通り掛かったチェンバレンが「大丈夫か? 私は医者だ」と声を掛けるが、ゲリラは無視。
そして、キッチンに置かれていたリゾットに嘔吐。
食堂車では、チェンバレンに腕時計を売り付けるカプラン。
その頃、マッケンジーは、列車をポーランドに送り込むことを決める。
真相は伏せて処理すると。
現在は使っていない線路を走り、カサンドラ・クロス(鉄橋)を越えて、収容所のあるヤノフへ向かう。
一方、食堂車では、さっきゲリラが吐いたリゾットが配られていた。
オエーッ!
リゾットなんて、見た目が吐しゃ物なんだから、分からないんだな。
要するに、犯人は車内で病原菌をまき散らしているということだ。
ドレスラー夫人、ナバロは、食堂車でチェンバレンと同席している。
若いカップルのスーザンとトムは、デッキで抱き合ってキスしていた。
その頃、マッケンジーは列車の乗客名簿を確認していた。
ドレスラー夫人は西ドイツの兵器業者の妻。
麻薬密売人(実はナバロ)もいる。
著名な医師のチェンバレン
その頃、マッケンジーの命令でヘリが列車を追跡していた。
列車は、停まるはずのバーゼルを通過する。
僕は、今まで地理を全く分からないで本作を見ていたが、先程、ネットで調べて、やっとバーゼルの場所が分かった。
僕は世界史が苦手で受験科目にするのを諦めたが、原因は地図を確認しなかったことにある。
で、ゲリラの男は、スーザンとトムの個室寝台のトイレに隠れていた。
スーザンが見付け、「痴漢!」と叫んだので、ゲリラは部屋を飛び出す。
一方、ジェニファーはチェンバレンに「列車の行き先が違う。しかも、警察が線路の周りを固めている」と告げる。
そこへ、チェンバレンに緊急電話が入ったと車掌(ライオネル・スタンダー)が告げに来る。
上空ではヘリが列車を追尾している。
電話は先頭(機関車の次)の荷物車にある。
電話はマッケンジーからだった。
「伝染病の保菌者が列車に乗っている。30歳くらいの中背のスウェーデン人だ」と。
チェンバレンは、さっきキッチンで見掛けた男だとピンと来た。
「さっきは生きていた。」
男は荷物室の中に隠れているのだが、チェンバレンはジェニファーと一緒に客車内を探しに行く。
見付からないので、荷物室へ戻って来たチェンバレン
世界中を行商で回って来たカプランは、スウェーデン語が出来ると言うので、チェンバレンが連れて来た。
チェンバレンは、荷物室に隠れていた男を発見。
顔に発疹が出ている。
チェンバレンはカプランに、男がどこに行って誰と接触したかを尋ねるように頼む。
ワンコも明らかに発症したような顔をしている。
ヘリから列車にカゴを降ろして、犯人を載せようとする。
列車が通過する線路の上の陸橋の柵には、「NE PAS TOUCHER」という看板が。
列車はフランス国内を走っているということだな。
文法をかじった程度の僕でも、これくらいのフランス語は分かる。
英語なら「DON'T TOUCH」だ。
で、ジェニファーが必死でカゴに手を伸ばすが、届かない。
危険な撮影だ。
CGのない時代だからな。
木にぶつかりそうになって、ヘリがカゴを引き上げる。
どうにかこうにか、ワンコだけはカゴに載せられたが、この先はトンネルが続くので、これ以上の作業は難しいと断念。
ゲリラの男は昏睡状態に陥った。
マッケンジーによると、この病気には血清はなく、感染率は60パーセントだという。
マッケンジーは、ニュールンベルクで列車を封印すると決めた。
ニュールンベルクがどこか知らなかったが、ドイツだな。
乗客には、しばらく作り話でパニックを防ぐという。
チェンバレンは、「とにかく医療班と薬を頼む」と告げた。
そんなことをしている内に、ゲリラの男は死亡した。
男が歩いたのは、列車の前半分の1等車だけだという。
チェンバレンは車掌に、「(1等車と2等車の中間にある)食堂車で通り抜けを防いで、2等を守ろう」と提案する。
最初の頃、ゲリラの男と接触していた女の子がくしゃみを始める。
ハリー神父と同じ部屋だ。
神父が彼女にハンカチを貸す。
まあ、こうやって病原体は拡がって行くのだ。
個室の洗面台で必死に手を洗うジェニファーに、チェンバレンは「手を洗ってもムダだ。呼吸を止めるしかない」と告げる。
空気感染だからな。
列車から運び出したワンコが国際保健機構に連れられて来た。
列車内では、車掌が車内放送。
「止むを得ない事情で行き先を変更します。テロリスト団体がフランスの鉄道に爆弾を仕掛けました。バーゼルとパリには停まりません。この列車に関してはno dangerです。」
もちろん、車内は大騒ぎになる。
ナバロは車掌に、「どうしてもパリに用事があるんだ!」と迫る。
しかし、どうにもならない。
後で分かるが、ナバロは麻薬の取り引きがあったんだな。
どうでもいいが、本作で列車が走っている線路は、みんな単線だな。
チェンバレンとジェニファーは、寝台個室でタバコを吸いながら、キスをする。
何度も言うが、今ではあり得ない。
若いカップルのスーザンが震え始めた。
その頃、国際保健機構では、犬から採った菌の増殖がずっと早くなっていた。
これはどういうことか?
マッケンジーは、ニュールンベルクで外に出ようとする乗客は射殺してもいいと告げる。
何故、罪もない一般市民を射殺?
まあ、この映画はアメリカ映画ではないから、アメリカを悪役に出来るんだな。
国家の機密を守るためには、個人の命なんかどうでもいいのか。
今のトランプ辺りなら、やりかねん。
で、とうとう乗客には本当のことが告げられる。
伝染病の蔓延を防ぐために列車を封印し、ポーランドのヤノフにある収容所に向かうと。
ユダヤ人のカプランは、戦時中にヤノフの収容所で妻と子供を殺された。
だから、ヤノフには行きたくないと言って、錯乱状態に陥る。
外は夜になっていた。
ニュールンベルクに列車が到着。
防御服を着た医療班が乗り込んで来て、車内を消毒する。
列車の窓には鉄板が張られた。
無理に外に出ようとする者には実力行使。
さあ、これからどうなる?
まあ、色々と言いたいことはあるが、クライマックスの落下シーン以外は、よく出来た映画であると思う。
僕はパニック映画が好きだ。
映画の中では面白いジャンルだと思う。
パニック映画の有名なものはハリウッド製が多いが、本作は貴重なヨーロッパ映画だ。
そして、鉄道を舞台にした映画にも傑作は多い。
密室なのでサスペンスを作り易いし、景色が変わるので飽きないから。
こういう大スターを集めた大作に客が入ったというのは、いい時代だったんだな。
今はアメコミかアニメしかヒットしないから。
なお、本作は『新幹線大爆破』のパクリで、本作のパクリが『皇帝のいない八月』らしい。
1977年洋画興行収入3位(1位は『キングコング』、2位は『遠すぎた橋』、4位は『ロッキー』。ちなみに、邦画の1位は『八甲田山』)。

The Cassandra Crossing - Trailer