『不滅の物語』

この週末は、ブルーレイで『不滅の物語』を見た。

1968年のフランス映画。
監督は、『市民ケーン』『偉大なるアンバーソン家の人々』『黒い罠』『審判』『オーソン・ウェルズのフォルスタッフ』の天才オーソン・ウェルズ
原作は、『愛と哀しみの果て』のカレン・ブリクセン(アイザック・ディネーセン)。
ちなみに、衣装はピエール・カルダンらしい。
主演は、『恋人たち』『審判』『鬼火』『オーソン・ウェルズのフォルスタッフ』の大女優ジャンヌ・モローと、『市民ケーン』『第三の男』『黒い罠』『審判』『オーソン・ウェルズのフォルスタッフ』『007 カジノ・ロワイヤル』の名優オーソン・ウェルズ
カラー、ワイド。
甘美なテーマ曲が流れる。
貧しそうな街並み。
漢字の垂れ幕が多数、ぶら下がっている。
19世紀末のポルトガルマカオ
裕福な商人クレイ(オーソン・ウェルズ)が住んでいた。
彼の暮らしている豪邸は、町の名士デュクロから300ギニーの借金のカタに奪い取ったもの。
内装をことごとく破壊し、鏡だけを残した。
クレイは、この鏡と日々、向き合っていた。
彼は冷酷な男であった。
年齢は70歳で、通風を患っていた。
秘書のルヴィンスキーに帳簿を読むように命じる。
しかし、「飽きたから、他の書物を読め」と命じる。
そこで、ルヴィンスキーは預言者イザヤの書を読む。
「預言は嫌いだ。」
イザヤは1000年も昔の預言者である。
クレイは、この地へやって来る時、船乗りが語った「物語」を語り始める。
裕福な老紳士が船乗りに声を掛け、夕食に招く。
老紳士は3年前、若い女を嫁にしたが、子供が出来ない。
船乗りは寝室に案内される。
女性が寝ている。
老紳士は船乗りに5ギニー金貨を渡す。
ルヴィンスキーは、この物語を知っていた。
有名な話しなのだ。
クレイは言う。
「作り話しも預言もいかん。実話でなければ。よし、実話にしよう。」
とんでもない思い付きである。
カネさえあれば何でも実現出来るという傲慢な考えだ。
まあ、しかし、この映画のクレイ以外の登場人物は、貧困であるが故に、自己決定権のない者ばかりである。
クレイは、「実在の人物で、舞台はこの家で、この目で見届ける。船乗りは港の近くでわしが見付ける」と。
ルヴィンスキーには「女も探して来い」と命じる。
ルヴィンスキーは、翌日には女性を決めた。
同僚の愛人ヴィルジニー(ジャンヌ・モロー)である。
彼女も、この物語を知っていた。
それにしても、本作に登場するマカオの現地の人々は、本当に貧しそうである。
金持ちの道楽にふけっているクレイとの対比が痛々しい。
ヴィルジニーは、クレイのことを「古代ローマの皇帝ネロみたい」と評する。
ルヴィンスキーから提示された報酬は100ギニー。
しかし、彼女は秘書にビンタを食らわす。
彼女は、自分の身体を売って暮らしているのだが、やはりプライドはあるのだ。
「あれは父の家よ。」
ヴィルジニーは、クレイが追い出したデュクロの娘なのであった。
「あの家には行かない。」
彼女は、今や粗末な家に住んでいる。
クレイの目的は「不可能を可能にしたい。」
神をも畏れぬ傲慢さである。
ルヴィンスキーには、侮辱を侮辱とも思わぬ過去があった。
彼はポーランドユダヤ人の移民で、家族はホロコーストに遭っていた。
彼が一間の部屋に暮らしていると聞いて、ヴィルジニーは「一間!」と驚く。
貧しいヴィルジニーにさえも驚かれた。
そんなこと言ったら、日本の一人暮らしのワンルーム暮らしの人達は皆、ド底辺ということじゃないか。
ルヴィンスキーは、「旅費があれば、人生をやり直せる」と言う。
ヴィルジニーは、「100ギニーじゃダメ。300ギニーよ」と告げる。
それは昔、彼女の父親がクレイに借りていた金額であった。
「クレイはいい死に方をしない。」
二人とも、うなずくのであった。
まあ、そりゃそうだわな。
こんなオッサンが幸せな最期を迎えたら、余りにも不公平過ぎる。
それにしても、オーソン・ウェルズが演じる役柄は、不幸な結末の人物が多いなあ。
クレイが馬車に乗って街を走っていると、若い金髪の船乗りがいた。
デンマーク人で、名はポールという。
身なりは乞食同然だ。
だが、男前である。
クレイが声を掛けると、すぐに乗って来た。
自分の汚い格好で馬車が汚れるからと、馬車には乗らず、走って行く。
ポールは、クレイの家に着くと、余りにも豪邸で驚いた。
現地人の召し使いが多数いて、入れ替わり立ち替わり、豪勢な食事を運んで来る。
ポールは、ナイフ&フォークが用意されているのに、手で食う。
ヴィットリオ・デ・シーカの『自転車泥棒』の少年を思い出した。
クレイは、ポールに「友情は人を骨抜きにする。だから、相棒と手を切った」と、寂しいことを言う。
「わしには100万ドルの遺産がある。それを子供に残すのも悪くない」と。
要するに、「タネだけ寄越せ」ということだな。
クレイは、ポールに5ギニーの金貨を渡す。
「金貨は初めてか?」
でっかい金貨である。
今の日本円に換算したら、幾ら位だろう。
まあ。小判一両が4万円位らしいから、1ギニーを約1万円位と思っておけばいいのか。
ポールは、「人と口を聞くのは久し振りだ」と言う。
ポールが語るには、乗っていた船が海で沈没して、自分一人だけが無人島に漂着したのだと。
ロビンソン・クルーソー』みたいだな。
人生が一変する。
クレイは、「物語」をポールに聞かせるが、「その話しは以前、聞いたことがある」とのこと。
ポールは若い。
17歳らしい。
「朝まで一緒にいると、私の歳がバレる」とヴィルジニー。
当時のジャンヌ・モローの年齢は40歳だから、親子位の歳の差だな。
ポールは、デンマークへの土産に珍しい貝殻を集めていた。
しかし、大昔の中国じゃないんだから、こんな物には何の価値もない。
ポールは、船が欲しいのだという。
一旦、断って帰ろうとするものの、「船が欲しいんだろう」とクレイに言われて、引き返す。
人間、物欲のためにはプライドも捨てるということか。
ヴィルジニーはベッドの上に横たわっている。
「ここは父の寝室だった。我が家の不幸はあの顔(クレイの顔)を見た時から始まった。だから、私はあの顔を見ない。帰りに屋敷に火を放つ」と、物騒なことを言っている。
さあ、これからどうなる?
本作の場合、予めストーリーは示されている訳だから、登場人物の心理描写と、この「物語」が成就した後に何が起こるかに焦点がある。
しかも、結末は概ね、予測が着く。
大どんでん返しなどはない。
だからこそ、演出で観客を引っ張らなくてはいけないのだが、そこはさすがオーソン・ウェルズである。
短い作品だが、グイグイと引っ張る。
それにしても、オーソン・ウェルズの作品は、『市民ケーン』以外は皆、不遇だなあ。
ちなみに、ポールというのは、「いい船乗り」に付ける名前らしい。
ポール・マッカートニーリヴァプール出身というのは関係ないか。

The Immortal Story - Trailer