『巴里の女性』

この週末は、ブルーレイで『巴里の女性』を見た。

巴里の女性 A Woman of Paris [Blu-ray]

巴里の女性 A Woman of Paris [Blu-ray]

  • 発売日: 2016/12/22
  • メディア: Blu-ray
1923年のアメリカ映画。
監督・脚本・製作は、『キッド』の喜劇王チャールズ・チャップリン
音楽(1976年再公開時)もチャールズ・チャップリン
これがまた実にいい曲なのであった。
本作はサイレント映画だが、1976年にサウンド版が公開された。
主演は、『キッド』のエドナ・パーヴァイアンス。
共演はアドルフ・マンジュー。
キューブリックの『突撃』に出ていたな。
本作は、チャップリンの作品には珍しく、チャップリン自身が主演ではない。
チョイ役(駅のポーター)として、ほんの一瞬、出るだけである。
ヒッチコックみたいなもんだな。
また、喜劇ではなくて、シリアスなドラマである。
モノクロ、スタンダード・サイズ。
画質は良い。
軽やかな音楽が流れる。
最初に、「本作にはチャップリンは出ていない」ということと、「喜劇ではない」という断りの字幕が出る。
舞台はフランスの小さな村。
夜、マリー・サンクレール(エドナ・パーヴァイアンス)は自宅の部屋(2階)で、こっそりと荷造りをしている。
しかし、それを感づいた父親が彼女の部屋に外側からカギを掛ける。
外では、恋人のジャンが待っている。
ジャンはマリーの部屋の窓から彼女を連れ出す。
二人は結婚の約束をしていたが、互いの両親に反対されているため、駆け落ちして、パリで結婚式を挙げようとしているのであった。
ジャンはマリーを自分の家に連れて行く。
彼の母親は二人の結婚に理解があったが、父親が猛反対していた。
「娘を追い出せ」と憤る父親。
ジャンはマリーを連れて駅へ。
12時15分発のパリ行きの列車に乗るつもりであった。
夜だから、夜行列車だろう。
ジャンは「仕度をして来る」と言って、彼女を残して自宅に戻る。
結婚には反対の父親であったが、息子の決意が固いと知って、カネだけは渡す。
親心だろう。
次の瞬間、父親が死んでいる。
床に落ちたパイプで死を表現したシーンは、映画史上有名。
と言うより、本作には、映画史上に残る画期的なシーンが多数ある。
未だ『戦艦ポチョムキン』が公開される前だからな。
チャップリンは、喜劇役者としてだけではなく、映画作家としても天才だったのだろう。
発射の時刻が近付き、マリーが駅の公衆電話でジャンの自宅に電話をして来る。
「大変なことが起きたから、旅を延期しなくては」と告げるジャン。
マリーは、裏切られたと思って電話を切る。
まあ、この時代は携帯電話もないからな。
もう連絡は取れない。
駅に到着した夜行列車。
このシーンも、四角い穴を開けた板をライトの前に置いて、照明だけで表現した。
1年後、パリ。
レストランで、有閑紳士のピエール・レヴェル(アドルフ・マンジュー)が、マリーの隣の席に座る。
グルメなピエールはシャンパン・トリュフを注文する。
翌朝、マリーのアパートに友人のフィフィが訪ねて来る。
アパートと言っても、ものすごく広くて、しかも、お手伝いが複数いる。
要するに、マリーはパリで高級娼婦になったんだな。
一方、ピエールのオフィス。
新聞にピエールの婚約が発表されている。
しかし、ピエールはマリーに連絡し、今夜の食事に誘う。
マリーの友人のポーレットは、ピエールの婚約発表の記事をマリーに見せる。
驚くマリー。
一方、ピエールの婚約者はマリーの存在を気にしている。
その夜、カルチェ・ラタンでは、どんちゃん騒ぎのパーティーが開かれている。
友人がマリーにパーティーへの誘いの電話を掛けて来る。
それにしても、本作の登場人物は皆、スパスパとタバコを吸いまくっている。
画面が煙くて仕方がない。
今では考えられないな。
で、パーティー会場と間違えて別の建物に入ったマリーは偶然、ジャンと再会する。
彼の母親も一緒にいる。
マリーを見て、「おキレイになって」と、ちょっと皮肉めいたほめ言葉を漏らすジャンの母親。
ジャンは画家になっていた。
「私の肖像画を描いて」とジャンに頼むマリー。
翌朝、マリーの部屋を訪ねるジャン。
ジャンは腕に喪章を着けている。
それは「父親のため」だという。
「いつ亡くなったの?」と尋ねるマリーに、「君が村を出て行った日だ。」
ここで全てが判明する。
しかし、マリーがジャンに電話をして来た時に、「父親が死んだ」とすぐに言えば良かったんだな。
それでは、ドラマにならないが。
ジャンがマリーの肖像画を描いている。
マリーが覗いて見ると、きらびやかな衣装を身につけた今の彼女ではなく、故郷にいた頃の彼女の姿が。
これも、絵を見事に心理描写に使ったとして、映画史に残るシーン。
ジャンは、「愛してるよ、マリー。結婚しよう」と告げるが、彼女はそれに応えず、出て行ってしまう。
さあ、これからどうなる?
この後も、ジャンがマリーの部屋を訪ねた時、お手伝いが衣装ケースからうっかり落としてしまったシャツのカラーで男の存在を示したり。
マッサージをする女性の表情だけで娼婦同士の会話の下品さを表現したりと、映画史上画期的なチャップリンの名演出が光る。
そして、驚きの結末を迎える。
運命というのは皮肉だ。
最後がヒューマンなのがいい。
チャップリンの映画としてはややマイナーで、僕も今回、初めて見た。
チャップリンが出演していないということで、興行的には失敗したらしいが。
いい映画であった。
第1回キネマ旬報ベスト・テン「芸術的に最も優れた映画」1位。
「観客の皆さまへ 誤解を避けるため申し上げておきます。私はこの映画に出演しておりません。これは私の最初の喜劇でない映画です。チャールズ・チャップリン
「フランスのある小さな村」
「マリー・サンクレール 不幸な家庭の犠牲になった女性」
『部屋から出られないの。』
『今夜ぜひ会いたい。明日の事で話がある。』
「将来の計画を話し合って2人は家に戻る。」
『正午にパリに着いて夕方には結婚できる。』
『父が窓に錠をかけたわ。』
『娘さんが閉め出されています。』
『この男が今夜のベッドをお前にくれるよ。』
『もうやめて。』
『僕の家に来たまえ。母が君を泊めてくれる。』
『母を起こして君のベッドを作ってもらう。』
『お母様を起こさないで。』
『どうすればいいのか分からないわ。』
『心配ないよ。明日になれば、悲しみも忘れる。』
『お前だけに話がある。』
『あの娘をこの家から出しなさい!』
『なぜです。お母さんに話せば、きっと分かってくれる。』
『あの娘は閉め出されただけなんです。』
『私は出た方がいいわ。』
『12時15分のパリ行きがある。それに乗れる。』
『切符を買っといて。家に戻って仕度してくる。』
『急いで下さいね。』
『結婚する事に決めてるんです。許しておやりなさい。』
『もう二度とあの子の顔は見たくない。』
『あの子は金を持っとるのか?』
『出て行く前にさよならを言ってやって下さい。』
『ジャン、お父様にさよならを言いなさい。』
『早く! お医者を!』
『ジャン、まだ家を出ていないの?』
『とんでもない事になった。旅を延ばさなきゃならない。』
『ちょっと待って。』
「1年後 花の都パリ 運命がうつろいやすく女性が人生を賭ける街」
「ピエール・レヴェル 多くの女性の運命を操る有閑紳士」
「マリー・サンクレール 灰色の田舎から華やかなパリへ」
『パリで一番お金持ちの独身男性よ。』
『あの女性は誰?』
『パリで有名な大金持ちの独身女性のひとりさ。』
『彼女と一緒にいる男は?』
「ピエールは生活を楽しみ、料理にも造詣が深い。」
『香水の染みたハンカチは調理場ではお断りだ。』
「シャンペン・トリュフ トリュフは豚と紳士向けの珍味」
「翌日の朝早く マリー・サンクレールのアパート」
「フィフィ 友達で若く、人生を楽しんでいる。」
『あきれるわ、マリー。まだベッドの中なの?』
『起きなさい。ベッドで時間をムダにするなんて。』
『一体何があるの? こんなに早く起きて。』
『昨日から寝てないのよ。』
「ピエール・レヴェルが執務をするオフィス」
「ピエール・レヴェル 婚約を発表する」
『面倒な事になりませんか?』
『もう一人のレディは?』
『電話をしてくれ。』
『誰にです?』
『もう一人のレディだ。』
『マリー、今夜食事をつき合ってくれるかい?』
『もちろん、いいわよ。』
『彼女はまだ何も知らん。』
「ポーレット もう一人の友達」
「ピエール・レヴェル 婚約を発表する」
『マリーはこれを見たの?』
『人生ってこんなもんよ。』
『気にする事ないわよ。きっとうまくいくわよ。』
『だめよ、ピエール。私は今夜、出られないわ。』
『気分がよくないの。』
『あれを気にしてるんじゃないだろうね。』
『我々に何の関係もない。今までのままでいいんだ。』
『よくそんな事が言えるわね。』
『明日、君の気分がいい時に会おう。おやすみ。』
「その夜 カルチェ・ラタンで」
『マリー、友達のアトリエにいるのよ。来ない?』
『何が始まってるの?』
『友達が集まってパーティーをやってるのよ。』
『すぐ分かるわ。右岸だか左岸だかのアトリエよ。』
『驚いたな。』
『驚いたわ。』
『驚いたわ。』
「時は友情を裂き、よそよそしさが真の感情を覆い隠す。」
『おキレイになったこと。』
『あなたは画家になったのね。』
『じゃ、お願いね。私の肖像画を描くのよ。』
『ここよ。明日、来て下されば、細かい事を決められるわ。』
「翌日の朝」
『どのドレスがいいかしら?』
『どうしたの、ジャン、誰のために喪章をつけてるの?』
『父のために。』
『いつ亡くなったの?』
『君が村を出て行った日に。』
『隣の部屋の紳士に「いかがです」と聞いておいで。』
『お話してもムダよ。分かって頂けないわ。』
『そう決めつけるな。僕はよく分かってる。』
『あなたは賢すぎるのよ。』
『ただ…やりすぎぬように。』
『では銀色のドレスにする?』
「そして、マリーの肖像画が描き上がる日が来た。」
『あなた、くたびれない?』
『最後の仕上げをするまで画を見ない約束だよ。』
『なぜ昔を思い出させるの?』
『あの頃の方が君をよく知ってた。』
『愛してるよ、マリー。たとえどんな事があっても。』
『僕たちは結婚して新しい生活を始められる。』

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