『トップ・ハット』

連休中は、ブルーレイで『トップ・ハット』を見た。

1935年のアメリカ映画。
監督はマーク・サンドリッチ
音楽は、『イースター・パレード』のアーヴィング・バーリンと、『キング・コング(1933)』『風と共に去りぬ』『カサブランカ』『三つ数えろ』『キー・ラーゴ』の巨匠マックス・スタイナー
主演は、『イースター・パレード』『バンド・ワゴン』『パリの恋人』『タワーリング・インフェルノ』の大スター、フレッド・アステア
我が家は、ミュージカルの有名作品は比較的見た方だと思うが、戦前の作品は多分初めてだと思う。
モノクロの作品はないから。
古くは、中学生くらいの時に、カトリーヌ・ドヌーブ主演の『シェルブールの雨傘』を、京都の映画館でリバイバル上映していたので、観に行った記憶がある。
しかし、『ダンスウィズミー』の三吉彩花ではないが、そもそもミュージカル映画が好きな訳ではない。
登場人物が突然歌い出すのには違和感があるが、もう慣れた。
本作の主演のフレッド・アステアは、僕は『タワーリング・インフェルノ』の老ペテン師の印象が強い。
タワーリング・インフェルノ』は何度も見ているが、最初は、彼がそんな大スターだとは知らなかった。
モノクロ、スタンダード・サイズ。
画質はやや甘い。
軽やかな音楽から始まる。
「ロンドン 小説家クラブ 創立1864年」という看板。
なお、原文では「小説家」は「Thackeray」となっているが、「サッカレー」では何のことか分からない人もいるだろうから、「小説家」という訳にしたんだろう。
シェイクスピアならともかく、サッカレーなんて英文科でイギリス文学史をかじった学生でもないと、日本では普通は知らないだろう。
僕は、大好きな映画『バリー・リンドン』の原作者として知っていたが。
で、このクラブでは「静かに!」という看板。
なお、この原文は「Silence!」であるが、これは今、僕が読んでいる『シェイクスピア物語』にも出て来る。
「クラブ内 規律厳守」。
爺さんばかりのサロンの中で、みんな黙って新聞を読んでいる。
その中に、ブロードウェイ・ダンサーのジェリー・トラヴァース(フレッド・アステア)がいる。
若い!
ジェリーが新聞をめくる音だけで、周りの爺さん達は過敏に反応する。
そこへ、舞台監督のホレース・ハードウィックがジェリーを迎えに来る。
ジェリーはハードウィックの公演に出るために、ロンドンに来たのであった。
その場で、ジェリーは突然、タップダンスを踊り出す。
新聞の音だけで過剰反応していた爺さん達は、心臓が飛び出さんばかりに驚く。
うまい伏線だったな。
トラヴァースはジェリーをホテルの自分の部屋に宿泊させる。
ジェリーは、部屋の中で歌いながらタップダンスを踊る。
下の部屋に泊まっていたモデルのデイル・トレモント(ジンジャー・ロジャース)がビックリする。
僕も大昔から、いつでも歌うクセがあって、今でも夜中に酔っ払うと、オフコースやらアルフィーやらを原曲のキーで歌い出すので、細君から「何時だと思っているの!」としょっちゅう怒られるのだが。
ウチのマンションは防音がしっかりしているのか、16年住んでいるが、クレームが来たことは一度もない。
しかし、デイルは怒ってハードウィックの部屋に押し掛けて来る。
応対したジェリーは、若くて美人のデイルを気に入って、口説こうとするのだが、彼女は全くつれない。
クレームを受けたジェリーは、防音のため、床に砂をまいてタップダンスを踊る。
翌朝、ジェリーはホテルの花屋で花を注文し、デイルの部屋に送らせる。
「会計はハードウィックに」。
外出しようとするデイルにジェリーが挨拶するも、つれない彼女。
彼女はホテルの前に馬車を待たせている。
当時のロンドンは、既にあの有名な2階建てバスも走っている車社会であったが、乗馬をするデイルは、わざわざ馬車に乗るのである。
いつの間にか、ジェリーが馬車に乗って、馬を操っている。
ロンドンの街中を走る馬車。
ジェリーは手綱を握りながらステップを踏む。
彼は馬車の停め方が分からない。
デイルは乗馬が趣味で、稽古に来たのであった。
そこへ、突然の雷雨。
雨宿りをしているデイルのもとへ、ジェリーが馬車で迎えに来る。
デイルは雷が怖い。
ジェリーは、「愛の火花が雷だ」とか、うまいこと言って、彼女の気を引く。
歌い出すジェリー。
そして、二人は一緒に踊る。
デイルは、デザイナーのアルベルト・ベディーニとイタリアへ行く予定だったのをキャンセルする。
秘かにデイルに好意を抱いていたベディーニは落胆する。
デイルは、「私達の関係はビジネスよ」と言う。
そして、彼女はホテルの滞在を伸ばす。
ところが、彼女はジェリーの名前すらも聞いていなかった。
ひょんなことから、彼女はジェリーとハードウィックの名前を逆だと勘違いしてしまう。
友人のマージの夫がハードウィックだと知ったデイルは、(奥さんがいるのに私に手を出したと思って)ジェリーを公衆の面前でビンタする。
「男なんて大嫌いよ!」
ホテルの支配人が、下の部屋の女性(デイル)が怒っているとハードウィックに伝えに来る。
部屋にジェリーを泊めていることを知られたくなかったハードウィックは、ジェリーに「隠れろ」と告げる。
代わりに、付き人のベイツ(エリック・ブロア)に「全て私の責任です」と言わせる。
ハードウィックはベイツに「下の部屋の女性のことを調べろ」と命じる。
本作の脚本で取り入れられている「勘違い」は、文章で書いても、ちっとも面白さが伝わらない。
映画で見ると、非常にテンポ良く、うまく出来ている。
翌朝、デイルは車で出発する。
ジェリーが送った花は、部屋に捨てられていた。
ベイツがデイルの後を追い掛ける。
ジェリーは公演の開幕まで、あと1時間しかない。
で、ジェリーの公演が始まる。
第1幕は素晴らしく、観劇に来ていた小説家クラブの連中も拍手喝采
祝電も届く。
そこへ、マージ(ハードウィックの妻)から電報が届く。
「友人のデイル・トレモントと一緒にイタリアにいる」と。
それを知ったジェリーは、ハードウィックに「イタリアへ行こう! チャーター機を飛ばせばすぐだ!」と提案。
公演が終わり、万雷の拍手の中、心ここにあらずのジェリーは、ハードウィックと共にイタリアへ向かう。
とは言っても、イギリスからイタリアまで、当時のプロペラ機じゃあ、そんなにすぐには着かんだろう。
それに、相当高かったのではないか。
戦後に発表された松本清張の『点と線』ですら、飛行機に乗ることがトリックになるくらいだから、庶民には縁遠い乗り物だったに違いない。
で、当時は今のようにFacebookもインスタグラムもないから、相手の顔と名前を確認出来ないということもあったんだろうな。
現在では成立し難い設定だ。
イタリアでは、デイルがマージと会っている。
このイタリアが、屋内のつもりなのだろうが、あまりにセット然としていて、どこかの邸宅の庭くらいにしか見えない。
まあ、ヨーロッパでロケをするのも大変だっただろうからな。
デイルは、ジェリーにされたことをマージに話す。
「花を贈られた。」
「追い回された。」
しかし、お互い、名前を取り違えているため、マージはこれを自分の夫のハードウィックがしたことと理解する。
浮気に寛大なマージは、自分の中年の夫が、未だ若い女性に熱を上げるほど元気で、しかも、彼女から「魅力的だ」と言われて、喜ぶ。
「男なんてそんなもんよ。」
この感覚は僕には理解出来ない。
我が家なら即離婚だろう。
その頃、ジェリーとハードウィックはイタリアへ向かうチャーター機の中。
ハードウィックはジェリーに、自分の妻(マージ)のことを「謎めいた女性」と言う。
そして、過去の女性遍歴を語る。
まあ、これが後々、余計に話しをこじれさせるのだが。
さあ、これからどうなる?
ストーリー自体は予想通りの展開だが、こういう話しはこれでいい。
音楽とダンスが素晴らしい。
それから、華やかな社交界が舞台なだけあって、衣装がとても豪華である。
マーク・サンドリッチ監督、フレッド・アステアジンジャー・ロジャース主演のミュージカルは何本もあるから、他の作品も見てみよう。

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