『駅馬車』(1939)

この週末は、ブルーレイで『駅馬車』を見た。

1939年のアメリカ映画。
監督は、『怒りの葡萄』『わが谷は緑なりき』『荒野の決闘』『逃亡者』『アパッチ砦』『黄色いリボン』『幌馬車』『西部開拓史』の巨匠ジョン・フォード
製作総指揮は、『暗黒街の弾痕』『クレオパトラ』のウォルター・ウェンジャー。
主演は、『アパッチ砦』『赤い河』『黄色いリボン』『ホンドー』『アラスカ魂』『史上最大の作戦』『西部開拓史』『大列車強盗(1973)』『マックQ』『オレゴン魂』の大スター、ジョン・ウェイン
共演は、『キー・ラーゴ』のクレア・トレヴァー、『スミス都へ行く』『風と共に去りぬ』『素晴らしき哉、人生!』のトーマス・ミッチェル、『フランケンシュタインの花嫁』『怒りの葡萄』『十戒』のジョン・キャラダイン、『偉大なるアンバーソン家の人々』『荒野の決闘』のティム・ホルト。
映画史上有名な作品だが、恥ずかしながら未見であった。
まあ、西部劇がそんなに好きでもないというのはあるが。
ジョン・フォード監督、ジョン・ウェイン主演という黄金コンビの最初の作品だからな。
モノクロ、スタンダード・サイズ。
勇ましい音楽から始まる。
リマスター版と謳われているが、フィルムの傷などは修復されていないようで、画質はあまり良くない。
大峡谷を駆け抜ける馬。
ジェロニモ率いるアパッチ族が牧場を焼き討ちしたという。
アパッチ族とシャイアン族は敵同士。
アリゾナ準州トントからニューメキシコ準州ローズバーグへ向かう駅馬車は、正に危険なエリアを通り抜けなければならない。
トントに駅馬車が到着する。
馬を替える間、客は馬車から降りて休憩する。
当たり前だが、馬は生き物だ。
本作に出て来る駅馬車は6頭立て。
馬車は6人乗りだが、険しい道程なので、多頭立てでないと厳しいんだな。
それは、ストーリーが進んで行くうちにビジュアルで分かる。
本作の主要登場人物は9名。
序盤で、その9名がテンポ良く紹介される。
テンポが良過ぎて、最初は面喰らうが、登場人物のキャラクターが明確に描き分けられているため、すぐに把握出来るようになる。
娼婦ダラス(クレア・トレヴァー)と一緒にホテルから追い出される北部出身でアル中の医者ブーン(トーマス・ミッチェル)。
はるばるヴァージニアから来て夫のマロリー大尉に会いに行く貴婦人ルーシー。
小心者の酒商人ピーコックは、酒場でブーンと出会う。
ルーシーと目が合った南部出身の賭博師ハットフィールド(ジョン・キャラダイン)。
彼はルーシーの護衛を務めるという。
まずはこの5人が馬車に乗り込む。
馬車は狭い。
大人が5人も乗ったらいっぱいだ。
途中でジェロニモに遭遇するかも知れないと皆、ビビるが、結局、全員で出発することに。
御者(運転手)はバック。
その横に、カーリー・ウィルコックス保安官。
これで7人。
護衛の騎兵隊は途中のアパッチウェルズまでしか行けない。
そこからは、また別の騎兵隊がつくという。
出発してすぐに町はずれで銀行家のヘンリー・ゲートウッドが駅馬車に乗り込んで来る。
彼は5万ドルを横領し、ローズバーグへ逃げるつもりであった。
これがまた図体のデカいオッサンで、ただでさえ狭い駅馬車の中がものすごく圧迫感のある空間になる。
駅馬車が砂漠に差し掛かる頃、突然銃声が鳴り、「止まれ!」と立ちはだかる若い男。
脱獄囚のリンゴ・キッド(ジョン・ウェイン)だ。
「馬が脚を痛めたので、乗せてもらうぜ。」
6人乗りの馬車に7人目の客。
彼には500ドルの懸賞金がかかっている。
当然ながら、保安官のカーリーとは険悪な雰囲気に。
しかし、カーリーもバックもリンゴとは幼なじみであった。
そして、保安官も、父と弟をプラマー兄弟に殺されたリンゴがローズバーグへ向かうことは察知していた。
カーリーは、リンゴがプラマー兄弟と決闘しても殺されるに決まっていると考え、彼のライフルを取り上げて逮捕する。
ブーンはリンゴの弟を診療したことがある。
駅馬車は最初の中継地点であるアパッチウェルズに到着。
ルーシーの夫のマロリー大尉は昨晩、アパッチ族のところへ向かったという。
さらに、騎兵隊の護衛はここまでで、交代の部隊も出払っていて、いなかった。
このまま護衛ナシでローズバーグへ向かうか、引き返すか。
食事の席で決を取る。
はるばる夫に会うためにやって来たルーシーは「絶対に行きます!」
ダラスは「どっちでもいい。」
ハットフィールドはカードをめくって「行く。」
ブーンも「いずれは死ぬ運命だ」と、行くことに。
小心者のピーコックだけは「騎兵隊と一緒に戻りたい」と訴えるが。
カーリーは無理矢理バックに「うん」と言わせ、「リンゴも来い!」
多数決の結果、「前進だ!」
北部出身のブーンと南部出身のハットフィールドは折り合いが悪い。
リンゴは脱獄囚だが、ダラスには頼りにされている。
一方、上流階級のルーシーは娼婦のダラスを蔑んでいる。
ルーシーの護衛役を自認するハットフィールドは、実は昔、ルーシーの父親の連隊に所属していた。
人間関係が細かく描かれている。
「馬を替えた。行くぞ!」
銀行家のゲートウッドは、馬車の中で、帰った騎兵隊から始まって、国家権力に対して滔々と文句を垂れる。
まあ、僕も国家権力に対しては不平不満しかないが。
険しい道のりを延々と走っているので、ルーシーは気分が悪くなって来た。
本当に周りには何にもない果てしない荒野の中を走っている。
この時代は、これしか移動手段がなかったんだろうな。
窓から、前にいる御者に水筒を借りる。
こんな多人数なのに、水がこの水筒しかないのか。
アル中のブーンは、酒商人のピーコックが持っていた見本用の酒まで奪い取って飲んでしまう。
まあ、僕も気を付けないと、こんな風になってしまうかも知れない。
窓は開けっ放しなので、砂ぼこりが入り放題。
狭い馬車に7人も乗っているから、窓は開けておかないと、「密」になってしまう。
砂嵐が吹き荒れ、最前のバックとカーリーは大変だ。
何という過酷な道のりだろう。
新幹線に乗って、缶ビールを飲んでうたた寝している間に名古屋や大阪に着く現代日本とは比べるべくもない。
続いて、次の中継地点、ニューメキシコのドライフォークに到着。
けれども、護衛の騎兵隊はいなかった。
さらに、メキシコ人のクリスから、ルーシーの夫のマロリー大尉がアパッチとの戦闘で負傷したと聞いて、ルーシーはショックを受けて倒れる。
が、肝心な時に、医者のブーンは酔っ払っていて、役に立たない。
リンゴにブラックコーヒーの濃いのを4杯も頼んで、アルコールを吐き出し、酔いを醒まそうとする。
そこへ、インディアンの女性が現れる。
それを見て、「Savage!」と叫ぶピーコック。
現代では、大問題になるだろう。
そもそも、ヨーロッパから勝手にアメリカに渡って来て、先住民の土地を奪っていったのは白人の方である。
先住民は、それに対して必死で抵抗したのだ。
どっちが侵略者だよ!
このインディアンの女性は、メキシコ人クリスの妻であった。
彼女がいるから、先住民に襲われない。
ようやく酔いが醒めて、診療するブーン。
夜になり、外では件のクリスの妻がキレイな声で歌っている。
が、牛飼い達が逃げ出した。
そこに、コヨーテの遠吠え。
で、ここは伏線がなかったのでビックリするが、ルーシーは実は妊娠していて、出産するのであった。
仕事を終えたブーンは、また酒を飲む。
一方、外ではリンゴがダラスを口説いている。
リンゴは父親と弟をプラマー兄弟に殺されたが、ダラスも子供の頃、アパッチの襲撃を受けて家族を虐殺されたというトラウマがある。
リンゴは国境の先に牧場を持っている。
「そこで一緒に暮らさないか?」
「やめてよ!」
ダラスは、自分が娼婦であることをリンゴには明かせないのであった。
さあ、これからどうなる?
この後、川を渡ろうとしたら渡し舟がアパッチ族に焼かれていて、馬車に丸太をくくりつけていかだにし、馬は川を泳いで渡るというシーンがある。
馬は泳げるんだな。
そして、特筆すべきはクライマックスのアパッチ族の襲撃シーン。
馬の疾走感がとにかくスゴイ!
クロサワ映画を彷彿とさせるが、もちろん、ジョン・フォードを尊敬していたクロサワが真似たんだな。
疾走する馬車から前の馬へと飛び乗ったり、撃たれて落馬し、その上を馬車がひいて行く危険なスタント。
これは『ベン・ハー』だな。
一部、役者の出て来る箇所はスクリーン・プロセスを使っているが、ロケの部分のスピード感たるや。
このシーンだけで映画史に残る。
今なら全部CGだろう。
ラストの決闘のシーンも、銃声だけで実際に撃たれたところは見せない。
アカデミー賞では7部門にノミネートされたが、この年は強力なライバルがいて、作品賞始め8部門を『風と共に去りぬ』が持って行った。
アカデミー助演男優賞(トーマス・ミッチェル)、作曲・編曲賞受賞。

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