『乱』

今週末はブルーレイ・ディスクで『乱』を見た。

乱 [Blu-ray]

乱 [Blu-ray]

1985年の作品である。
黒澤明監督最後の傑作。
僕がリアルタイムで観た初めてのクロサワ映画。
この作品が公開されたのは、僕が小学6年生の時だった。
「世界のクロサワ」が、自らの「ライフワーク」と銘打ち、国内だけでは製作費を調達できなかったため、日仏合作という形態を取った。
コッポラやルーカスといった映画人も製作に協力した。
これらのことから、当時、ワイドショーなどでも大変な話題になっていた。
製作費は26億円。
そのうち、6億円が衣装、4億円が劇中で炎上する城のセットの建設に使われたという。
後に、もっと製作費を掛けた時代劇の大作は何本か作られたが(『敦煌』45億円、『天と地と』50億円など)、映画的なスケールの大きさでは、到底『乱』にかなうものではない。
『乱』を「人間が描けていない」などと評する人がいるが、それは的外れな意見である。
この作品は「天の視線」で撮られているのだ。
原作はシェイクスピアの『リア王』であるが、ストーリーは概ね借用しているものの、それとは別に血で血を洗う戦国の世における人間の残酷さ、愚かさというテーマが強く打ち出されている。
もちろん、シェイクスピア作品の翻案としても、比類なき出来栄えだ。
僕は、この映画を観て、シェイクスピアに興味を持った。
そして、高校2年の文化祭で『リア王』を上演した(脚本・演出・主演)。
文化祭の演劇では、各クラスに与えられた制限時間が45分しかなく、まともに上演すれば3時間半は掛かる原作を大幅に削らなければならなかった。
その際に、大いに参考にしたのが、この『乱』である。
映画の公開に合わせて、本作のシナリオや絵コンテ集(黒澤明直筆)が出版されていた。
僕は、それらを近所の市立図書館から借りてきて、熟読した。
また、同じクラスの友人(「道化」を演じた)が本作のファンで、ビデオテープを持っていたため、彼の家に何度も通って鑑賞した。
そのようなことから、僕の『リア王』は、原作よりも『乱』の方に近かったかも知れない。
実際、今回ブルーレイを鑑賞していると、当時のセリフが鮮明に蘇ってきた。
それにしても、主演の仲代達矢の演技はスゴイ。
さすが、日本を代表する役者である。
仲代はシェイクスピア役者としても極めて高名で、ハムレットもオセローもマクベスも演じたことがある。
撮影時は、まだ50歳そこそこだったはずなのに、70歳の戦国武将に成り切っている。
仲代は、眼の力が強烈だ(そのうえ、メイクが輪を掛けて強い印象を放っている)。
さらに、アカデミー賞(インチキな日本アカデミー賞ではない)を受賞した衣装も素晴らしい。
合戦シーンは、当然ながらクロサワらしく大いなる見せ場となっているし、スペクタクルとドラマを完璧に融合させた、このような超大作は、もう二度と撮れないだろう。
3時間近くある映画なので、「半分ずつ二日間に分けて見よう」と言って細君と見始めたのだが、結局、中断する間もなく最後まで一気に見てしまった。