『我等の仲間』

この週末は、ブルーレイで『我等の仲間』を見た。

1936年のフランス映画。
監督は、フランス古典映画の巨匠ジュリアン・デュヴィヴィエ
音楽は、『北ホテル』のモーリス・ジョベール。
主演は、『フレンチ・カンカン』『シシリアン』の大スター、ジャン・ギャバン
共演は、『泥棒成金』のシャルル・ヴァネル
モノクロ、スタンダード。
このブルーレイに収録されているのは、2015年に復元されたオリジナル・バージョン。
画質は良い。
明るいテーマ曲。
造花を作っている女達。
その一人ユゲットの婚約者マリオがやって来る。
警察がマリオの周囲を嗅ぎ回っているという。
だから、マリオは自分の部屋には戻れないと。
安宿「イギリス王」にはマリオの仲間ジャン(ジャン・ギャバン)が暮らしている。
失業中で宿代が払えない。
家主は「追い出してやる!」と息巻くが、彼らは他に行く宛てもないので、頑なに出て行かない。
そこへ、マリオが「かくまってくれ」と言ってやって来るが、当然ムリ。
近くのカフェにマリオが行くと、女房と別れたシャルルがいる。
マリオの状況を知って、シャルルは「かくまってやろう」と言う。
マリオは、ユゲットにコンパクトをプレゼントしたいが、カネがない。
タンタンは、店のUFOキャッチャー(!)でコンパクトを取る。
こんな時代のフランスにUFOキャッチャーがあったとは!
更に、店主がいないスキに、台を傾け、インチキをして、UFOキャッチャーで時計やら何やらを取りまくる。
そこへ、マリオと待ち合わせたユゲットがやって来る。
男達から彼女にプレゼントが渡される(どれもUFOキャッチャーの景品だが)。
マリオからは、彼女が欲しがっていたコンパクト(もちろん、UFOキャッチャーの景品)をプレゼントする。
マリオは寝る場所もないが、ジャンが「心配するな、オレの部屋に泊めてやる。」
そして、連中は「イギリス王」へ。
ロウソクの灯かりでトランプをする。
タンタンの声がデカイので、宿中に響き渡る。
そこへ、行商に出ていたジャックが帰って来る。
タンタンと買った宝くじが当たったという。
10万フラン!
まあ、この時代の10万フランというのが、現在の日本円に換算すると幾らくらいなのか分からないが。
この後、レストランを改築出来るくらいだから、何百万円ではないよな。
1億円くらいか。
で、この朗報を聞いて、大家もゴキゲン。
皆はジャンの部屋でワインで乾杯する。
賑やかなタンタンは、宿中の人達に声を掛けて、ジャンの部屋はさながらパーティー状態になる。
中には子連れで酒を飲む親も。
今の日本なら大問題になるだろう。
大らかな時代だ。
翌日、5人はくじを現金に引き換える。
彼らは、まずボロい靴を買い換える。
それから、スーツも新調。
5人は10万フランを一人2万フランずつ山分けする。
それぞれ、自分の夢を実現するのに使おうとあれこれ思いを巡らすが、結局、5人で組んで家を買おうということになる。
5人とユゲットは川をボートを漕いでさかのぼり、家事に遭って放置されていた山荘の廃墟を見付ける。
「ここを買って、レストランを作ろう!」
最初は、誰が誰かという人間関係が分かり難かったが、いつの間にかハッキリした。
登場人物それぞれのキャラクターがしっかりと描き分けられていて、物語に溶け込んでいる。
5人で協力して、ボロ家の改築を開始する。
ユゲットが彼らの食事を作る。
レストランの名前は、ユゲットが提案した「我らの家」に皆が賛同して決まった。
なお、原文では「chez nous」と言っている。
英語に直すと「at us」、つまり、「我々のところで」になる。
ちなみに、本作の原題「La belle equipe」は、英語に直すと「The nice team」、つまり「すばらしき仲間」くらいの意味だろう。
タンタンは給仕を担当。
マスターは全員。
「ここでは市民が大統領だ!」とジャン。
まるで、山本太郎みたいだな。
昨今、世界はトランプとか安倍みたいな独裁者が跋扈しているが、是非このセリフを聞いて欲しい。
山本太郎を過激派呼ばわりするネトウヨも多いが、彼の言っていることは間違っていない。
むしろ、これまでの永田町の政治家の論理が間違っていたのだ。
自由党が解散したのは残念で、しかも合流した国民民主党参院選が終わったら消滅してしまいそうなので、何とか山本太郎には頑張って欲しいと思っている。
話しが逸れてしまった。
さて、5人が一生懸命レストランを改築しているところへ、シャルルの別れた妻ジーナが訪ねて来る。
要するに、「分け前が欲しい」と。
この女は、男に色目を使う性悪女なのだが。
一方、ジャックはユゲットに気がある。
しかし、ユゲットはマリオの婚約者だ。
ジャンは、横恋慕は「全てが水の泡になる」とジャックを諭す。
家を完成させるのが第一だと。
ところが、皮肉なことに、結局はジャンも横恋慕で破滅することになるのだが。
その夜、大嵐がやって来る。
ガラス屋根は割れ、瓦は吹き飛ばされる。
全員で屋根に上がって、雨風が吹き付ける中、瓦が飛ばないように押さえる。
もちろん、皆ずぶ濡れだ。
この辺、全員の団結がよく描かれていて良い。
翌朝、ユゲットがやって来ると、ジャックの置き手紙があった。
彼は、ジャンの言葉で自分が身を引こうと決意し、旅に出ることにしたのだ。
嵐で壊れた屋根を修復しなければならない。
非常用に取って置いた貯金があるはずだ。
だが、2000フラン足りない。
何と、シャルルがジーナにせがまれて、渡してしまったのだと白状した。
ジャンは激怒し、「家を直すのに必要な金だ! 取り戻して来い!」と命じる。
シャルルは手切れ金のつもりで渡したので、「オレは行かない」という。
そこで、ジャンがジーナの部屋を訪ねる。
彼女はセクシーなモデルの仕事をしている。
「目当ては私でしょ」とジャンを誘惑するジーナ。
「その前に金を出せ。」
ジャンはジーナから金を取り戻して来たが、それでも未だ足りない。
そこへ、憲兵がマリオを捜しにやって来る。
仲間達は「知らない」と言い張る。
タイミングの悪いことに、ユゲットが大声でマリオの名を呼びながらやって来た。
仕方がないので、隠れていたマリオは顔を出した。
憲兵は、48時間以内の国外退去を命じる。
レストランの完成には間に合わない。
なお、マリオが何の罪を犯したのかは、作中では明らかにされない。
さあ、これからどうなる?
後半、仲間達は一人また一人と欠けて行く。
そして、ジャンとシャルルのジーナを巡る争いが起こる。
宝くじが当たって、貧困のどん底だった5人が共通の夢を見出し、物語は明るいトーンで進んでいたのだが。
最後は、全く予想外の結末を迎える。
結局、あぶくゼニは身に付かないということだろうか。
ちなみに、本作の中では、タンタンがジャワ語を喋れるという設定が出て来る。
ジャワ語って何だ?
僕は寡聞にして知らなかったが、調べてみると、インドネシアの地方語で、話者数は7500万人もいるらしい(なお、公用語インドネシア語)。
東京外大にも、インドネシア語学科はあるけど、ジャワ語学科はない。
しかし、母語話者数が世界13位だって。
日本語が9位、ドイツ語が10位、フランス語が11位だから、相当多いな。
世界には、僕なんかの聞いたこともない言語がまだまだたくさんあるということか。
アマゾンで調べたら、大学書林の『ジャワ語の基礎』という参考書は6000円もするんだな!
それにしても、大学書林の守備範囲の広さは恐るべしだ。

La Belle Equipe - Bande-annonce officielle HD

『みずうみ(湖畔、インメンゼー)』を原文で読む(第13回)

(テキスト24ページ、2行目〜)

So schrieb er sie genau auf, wie er sie selber gehört hatte.

so(副)それゆえ、だから
auf|schreiben(他)書き留める、メモする(過去:schrieb ~ auf)(過分:aufgeschreiben)(完了:haben)
genau(形)詳しい(比較:genauer)(最上:genauest)
wie(接)(従属接属詞/動詞の人称変化形は文末、ただし文でなく語句を結びつけることも多い)~のように、~のような(英:as)
selber(代)(指示代名詞/無変化)(自分)自身(=selbst)
hören(他)(人4格の)言い分(意見)を聞く(過去:hörte)(過分:gehört)(完了:haben)

Dann gab er die Blätter an Elisabeth, die sie in einem Schubfach ihrer Schatulle sorgfältig aufbewahrte; und es gewährte ihm eine anmutige Befriedigung, wenn er sie mitunter abends diese Geschichten in seiner Gegenwart aus den von ihm geschriebenen Heften ihrer Mutter vorlesen hörte.

dann(副)それから、そのあと(英:then)
geben(他)(人3格に物4格を)与える、やる(英:give)(過去:gab)(過分:gebeben)(完了:haben) ・du gibst、er gibt
das Blat(中)(1枚の)紙(複:Blätter)
an(前)(所属する場所・あて先)(4格と)~に、~へ
Elisabeth(女名)エリーザベト(複:なし)
in(前)(空間的に)(どこに)(3格と)~の中に、~の中で(英:in)
das Schubfach(中)引き出し(=Schublade)(複:Schubfächer)
die Schatulle(女)(鍵のかかる小さな)貴重品箱(複:Schatullen)
sorgfältig(形)入念な、綿密な、注意深い(英:careful)
auf|bewahren(他)(荷物など4格を)保管する、保存する(英:keep、store)
es(代)(人称代名詞)(あとに続くzu不定詞句・dass文などを受けて)
gewähren(他)(人3格に希望するもの4格を)与える、認める、許可する
anmutig(形)優美な、優雅な、気品のある
die Befriedung(女)満足(させること)、充足(複:なし)
wenn(接)(従属接属詞/動詞の人称変化形は文末)(時間的に)~するとき、~するときはいつでも(英:when)
mitunter(副)時々、時たま
abends(副)晩に、夕方に(英:in the evening)
die Geschichte(女)物語、話(複:Geschichten)
die Gegenwart(女)(その場に)居合わせること、出席(英:presence) ・in meiner Gegenwart 私の面前で
aus(前)(3格とともに)(内から外へ)~(の中)から(英:from、out of)
von(前)(3格とともに)(受動文の行為者)~によって、~から
schreiben(他)(手紙・本など4格を)書く、(曲4格を)作曲する(過去:schrieb)(過分:geschrieben)(完了:haben)
das Heft(中)ノート、帳面(英:notebook)(複:Hefte/3格のみ:Heften)
die Mutter(女)母、母親、お母さん(英:mother)(複:Mütter)
vor|lesen(他)(人3格に物4格を)読んで聞かせる、朗読する(aus)(過去:las ~ vor)(過分:vorgelesen)(完了:haben) ・du liest ~ vor、er liest ~ vor
hören(他)(音・声など4格が)聞こえる、(人4格の)声(足音)が聞こえる(過去:hörte)(過分:gehört)(完了:haben)/(zuのない不定詞句とともに)

Sieben Jahre waren vorüber.

sieben(数)(基数/無語尾で)7(の)(英:seven)
das Jahr(中)年(英:year)(複:Jahre)
vorüber(副)(時間的に)過ぎ去って、終わって

Reinhard sollte zu seiner weiteren Ausbildung die Stadt verlassen.

Reinhard(男名)ラインハルト(複:なし)
sollen(助動)(話法の助動詞)(zuのない不定詞とともに)~する運命だ(過去:sollte)(過分:sollen)(完了:haben) ・ich soll、er soll
zu(前)(3格とともに)(目的・用途)~のために
weit(形)(程度・事態が)進んだ、はかどった(比較:weiter)(最上:weitest)
die Ausbildung(女)(技能などの)養成、訓練、(専門的な)教育、修業(英:training)(複:Ausbildungen)
die Stadt(女)町、市(英:town)(複:Städte)
verlassen(他)(ある場所4格を)去る、あとにする(英:leave)(過去:verließ)(過分:verlassen)(完了:haben) ・du verlässt、er verlässt

Elisabeth konnte sich nicht in den Gedanke finden, daß es nun eine Zeit ganz ohne Reinhard geben werde.

können(助動)(話法の助動詞)(zuのない不定詞とともに)~できる、~する能力がある(英:can)(過去:konnte)(過分:können)(完了:haben) ・ich kann、du kannst、er kann
in(前)(状態)(状態の変化)(4格と)
der Gedanke(男)考え、思考、思想(英:thought)(複:Gedanken)
finden再帰)sich4格 finden(sich4格 in 事4格 ~)(事4格に)順応する
dass(接)(従属接属詞/動詞の人称変化形は文末)(先行する名詞の内容を表して)~という
es(代)(人称代名詞)(es gibt 人・物4格の形で)人・物4格が存在する、ある、いる
nun(副)今、今や(もう)、今度は(英:now)
die Zeit(女)(複なし)(経過する)時間、時(英:time)(複:Zeiten)
ganz(副)まったく、完全に、すっかり(英:completely)
ohne(前)(4格とともに/名詞はふつう無冠詞)~なしに、~を持たずに、~を使わないで(英:without)
geben(非人称)(es gibt 人・物4格の形で)人・物4格がある、いる、存在する(過去:gab)(過分:gegeben)(完了:haben) ・du gibst、er gibt
werde werden(~になる)の接1
werden(助動)(未来の助動詞)(他の動詞の不定詞とともに未来形をつくる)(未来・推量)~だろう(過去:wurde)(過分:geworden)(完了:sein) ・du wirst、er wird

Es freute sie, als er eines Tages sagte, er werde, wie sonst, Märchen für sie aufschreiben; er wolle sie ihr mit den Briefen an seine Mutter schicken; sie müsse ihm dann wieder schreiben, wie sie ihr gefallen hätten.

es(代)(人称代名詞)(生理・心理状態の表現で)
freuen(他)喜ばせる、うれしがらせる(過去:freute)(過分:gefreut)(完了:haben)
als(接)(従属接属詞/動詞の人称変化形は文末)~したときに(英:when、as)
der Tag(男)日、1日、1昼夜(英:day)(複:Tage) ・eines Tages ある日のこと
sagen(他)(事4格を)言う、述べる(英:say)(過去:sagte)(過分:gesagt)(完了:haben)/(引用文とともに)
sonst(副)いつもは、ふだんは
das Märchen(中)おとぎ話、メルヘン、童話(英:fairy tale)(複:Märchen)
für(前)(4格とともに)(利益・用途)~のために、~向けの
wollen(助動)(話法の助動詞)(zuのない不定詞とともに)~するつもりだ、~しようと思う、~したい(と思う)(英:will、want)(過去:wollte)(過分:wollen)(完了:haben) ・ich will、du willst、er will
mit(前)(3格とともに)~と(いっしょに)(英:with)
der Brief(男)手紙(英:letter)(複:Briefe/3格のみ:Briefen)
schiken(他)(物4格を)送る、届ける、送り届ける(英:send)(過去:schickte)(過分:geschickt)(完了:haben) ・an 人4格 einen Brief schicken 人4格に手紙を出す
müssen(助動)(話法の助動詞)(zuのない不定詞とともに)~しなければならない、~する必要がある、~せざるをえない(英:must)(過去:musste)(過分:müssen)(完了:haben) ・ich muss、du musst、er muss
wieder(副)(繰り返して)再び、また(英:again)
wie(副)(疑問副詞)どのように、どんなふうに、どうやって、どんな方法で(英:how)/(間接疑問文で/動詞の人称変化形は文末)
gefallen(自)(3格とともに)(人3格の)気に入る、気に入っている(英:find favour)(過去:gefiel)(過分:gefallen)(完了:haben) ・du gefällst、er gefällt
hätte haben(持っている)の接2/(間接話法の文で)
【参考文献】
みずうみ (対訳シリーズ)』中込忠三、佐藤正樹・編(同学社)
アポロン独和辞典』(同学社)

『フェイク』

この週末は、ブルーレイで『フェイク』を見た。

1997年のアメリカ映画。
監督はマイク・ニューウェル
製作は、『レインマン』(監督)のバリー・レヴィンソン。
音楽は、『カリートの道』『ハムレット(1996)』のパトリック・ドイル
主演は、『ゴッドファーザー』『セルピコ』『ゴッドファーザーPART II』『狼たちの午後』『スカーフェイス』『シー・オブ・ラブ』『ゴッドファーザーPART III』『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』『カリートの道』の我らが大スター、アル・パチーノと、『プラトーン』のジョニー・デップ
ジョニー・デップと言えば、学生の頃、ウィノナ・ライダー(今や万引き女優)目当てで観に行った『シザーハンズ』の印象が強かったが、こんな硬派な役も演じられるとは意外であった。
そう言えば、一昨年の年末に地元のシネコンで観た、ケネス・ブラナーの『オリエント急行殺人事件』にも出ていたな(失敗作だったが)。
共演は、『ゴッドファーザーPART II』のブルーノ・カービー。
トライスター・ピクチャーズ
カラー、シネスコ・サイズ。
穏やかなテーマ曲から始まる。
「この映画は事実を元にしている」という字幕。
1978年11月、舞台はニューヨークのブルックリン。
酒場で仲間の男達と車の話しをしているレフティー(アル・パチーノ)。
ウェイトレスが「あなた達って、その筋の人?」と笑いながら尋ねる。
普通、店員が客にそんなことを訊くか?
笑いながらごまかすレフティー達であったが、彼らは正にマフィアの一員なのであった。
カウンターには、そんな連中を黙って見詰める一人の若い男。
彼は、FBIの潜入捜査官で、本名はジョー・ピストーネ(ジョニー・デップ)というのだが。
彼の任務は、「ドニー・ブラスコ」という偽名を用い、身分を隠して、レフティー達のマフィア一味に潜入し、捜査することであった。
そのために、彼は自分の身分を「宝石鑑定士」と偽っている。
ジョーは任務のために、妻子とは離れて一人暮らしをしている。
夜は自室で筋トレし、公衆電話から奥さんに電話を掛ける。
本作は、この任務のための表の顔と、家庭を持つ裏の顔との合間で揺れ動く彼の描写が非常によく出来ていると思う。
翌朝、昨日の酒場にまたいるドニー。
レフティーが現われ、ドニーにダイヤの指輪を見せる。
「これを売りさばいて欲しい」と頼むレフティーに、ドニーは「この石はフェイクだ」と告げる。
「本物は輝きが違う」と。
本作の原題は「ドニー・ブラスコ」だが、「フェイク」というのは作品中の象徴的な言葉で、うまい邦題だと思う。
レフティーは「オレはこの街の顔だ」とドニーに強がってみせる。
だが、本作のレフティーは、うだつの上がらない枯れかけたオッサン・マフィアに過ぎない。
キャストの並び順は、アル・パチーノが上だが、本作の主役は明らかにジョニー・デップの方である。
タイトル・ロールだしね。
レフティーは、ドニーに車を運転させる。
レフティーはヘビー・スモーカーだが、ドニーはタバコが嫌いだ。
二人が向かった先は、レフティーに指輪を渡した男のところ。
この男は、レフティーに「8000ドルの価値がある」と言って指輪を渡した。
レフティーは怒り心頭だが、ドニーは「オレに話しを着けさせてくれ」と言って、この男をボコボコにする。
そして、騙した代償としてポルシェのキーを奪う。
この様子を見て、レフティーは「(ドニーの)腕っぷしは一人前だ」と感心する。
ドニーは愛車のキャデラックを運転しながら、「妻はカリフォルニアにいる」と語る。
レフティーは「お前は目が利く」と褒める。
ここで、ようやく観客に、ドニー(ジョー)がFBI捜査官であることが明かされる。
「ベンジャミン・ルッジェーロ(レフティー)との接触に成功」と報告書に刻む。
そうとも知らず、すっかりドニーに惚れ込んだレフティーは、翌日も彼と会う約束を交わす。
レフティーは、知り合いの床屋のオヤジにドニーの評判を聞く。
「あいつはいいヤツだ」と太鼓判を押すオヤジ。
レフティーは、自分の弟分として、ドニーを連れ歩く。
しかし、この様子は全て遠方から盗撮されているのであった。
レフティーは、マフィアの仲間や上層部にドニーを紹介して回る。
更に、自宅にも招く。
ドニーに幾ばくかの小遣いを渡し、「クリスマスなのにお前を一人にしておけない」と、自宅での食事に誘う。
レフティーは、慣れないのに料理を作って、大失敗をやらかす。
騙されているとも知らず、この振る舞いは実に滑稽で、レフティーの哀れさが際立つ。
アル・パチーノのファンとしては面白くないが、この冴えない中年を、本当に冴えないように演じているのも、またアル・パチーノなのである。
レフティーには美人の奥さんとヤク中の息子がいる。
知り合って間もない若造に、身の上をグチるレフティー。
きっと寂しいんだろう。
大ボスへの上納金に四苦八苦していることまで、洗いざらいブチまける。
ドニーに「お前はオレの片腕だ」と言って、盃を交わす。
まあ、僕も50歳が見えて来たので、取り引き先に見込みのある若い兄ちゃんがいたりすると、つい可愛がってやろうかなどと思ってしまうので、気持ちは分かる。
一方、ジョー(ドニー)は久々に自宅へ帰る。
3人の娘は誰もいない。
12歳の長女はボーイフレンド(!)の家へ行って帰って来ない。
下の二人の娘達は奥さんの実家にいるという。
奥さんのマギー(アン・ヘッシュ)は、ジョーが仕事ばかりで家庭を顧みないので大いに不満そうである。
夫婦間に険悪な空気が漂う。
と言っても、その夜は久々なので夫婦で大いに燃え上がって、激しく抱き合うのだが。
翌朝、娘達はパパと口を聞いてくれない。
食事を作り、掃除、洗車と、束の間のマイホーム・パパ。
マフィアの世界で見せている冷徹な顔とは裏腹な、家庭の問題で悩む男。
この部分は、レフティーの抱えているものと重なる。
ところが、謎の男がジョーの自宅にやって来る。
マギーにも何者なのか一切教えない。
実は、これがジョーのFBIの上司なのであった。
ジョーが不在の間に、マフィアの間で大きな動きがあったのだという。
レフティーに呼び出されたドニー(ジョー)。
「大ボスが殺された」のだという。
新聞にもデカデカと載っていたらしいが、自宅に帰って、新聞を読んでいなかったジョーは知らなかったのだ。
でも、自宅に帰っていたことはレフティーには言えない。
レフティーは、仲間のソニー・ブラック(マイケル・マドセン)に呼び出された。
マフィアの世界では、「呼び出し」を受けるとは、「殺される」可能性もあるということだ。
恐る恐る溜まり場の酒場に向かうレフティーとドニー。
彼らは、ソニー達とドライブすることになった。
空港に到着。
ドニーだけ車に残っているように言われる。
連中が真っ暗な倉庫の中へ入ると、ライオンがいる。
何と、大ボス亡き後、ソニーが親分に昇格し、レフティーは今後、その子分になるのだという。
まあ、FBIの潜入捜査官を信用してしまうくらいの人の良さだから、出世は出来んわな。
僕も他人のことは全く言えないが。
で、このライオンは、ソニーからレフティーへのプレゼントだという。
ワンコみたいにリードを繋いで、ライオンを連れて帰るレフティー。
これがCGとかスタントじゃないのがスゴイ。
帰り道で、ハンバーガー屋に寄って、タマネギ抜きのバーガーを40個注文するレフティー。
ライオンのエサだ。
ライオンはネコ科だから、タマネギは毒なんだな。
車の後部座席にはライオンが乗っている。
レフティーは、ソニーが昇格したのに自分は外されたことの不満をドニーにグチる。
とにかく、本作のアル・パチーノはカッコ悪い。
まあ、何度も言うが、それも含めて彼の演技なのだが。
ソニーレフティーやドニーは、飲み屋で景気良く踊っている。
その裏で、悪事も働く。
ジョー(ドニー)は、それを小型のビデオ・カメラで隠し撮りしている。
トラックの襲撃計画、コカインやマリファナ、時には殺人も。
現場にはドニー(ジョー)もいる。
これこそ、ミイラ取りがミイラというか、本職はFBI捜査官なのに、囮捜査のため、殺人現場を目の当たりにしても、何ら手を出せないのである。
このもどかしさ、葛藤。
ジョーは自分の部屋に帰って、家財道具に当たり散らす。
ソニー達は飲み屋で他の親分らに挨拶をする。
その合間に、ジョーはカフェで上司と落ち合う。
上司は、「作戦がうまく行っているので、合流したい」と言う。
ジョーの補佐役として、リッチーという男を組織に潜入させたいと。
「バレたら殺される」とジョーが訴えても、この決定は覆らない。
マフィアにせよ、FBIにせよ、組織というのは非情なものだということも、本作は訴えているのであろう。
ソニーレフティー、ドニーらは、怪しい日本料理店へ行く。
どうしてハリウッド映画の日本描写は、いつもこんなに怪しいのだろうか。
如何にもフジヤマ・ゲイシャみたいなおかしな格好の女性が、「いらっしゃいませ」と、ちょっとおかしなイントネーションで挨拶。
支配人らしき日系人の男が、「靴を脱いで下さい」「Japanese tradition」と英語で告げる。
ソニーらは従おうとしたが、ドニーは強硬に拒んだ。
何故なら、ドニー(ジョー)はブーツの中に、小型テープレコーダーを隠していたからである。
靴を脱ぐと、ソニーレフティーの目の前でそのことがバレてしまう。
それだけは絶対に出来ない。
しかしながら、ここからは日本人としては見るに絶えない場面なのだが。
ドニーは「戦争に勝ったのはどっちの国だ?」などというメチャクチャな理屈で靴を脱ぐことを拒否する。
我々日本人としては、畳に土足で上がることを許す訳には行かない。
支配人がそれでも靴を脱げというのは当然のことなのだが。
ソニーも最初は「いつの戦争のことだ?」と苦笑していたが、ラチがあかないのを見て取ると、奥の間へ支配人を連れて行き、ボコボコにする。
もうこれが、殴る蹴る、血が吹き出すの生々しさで、これが白人相手なら絶対にここまでやらないだろうと思うと、胸クソ悪くて仕方がない。
本作の暴力描写はかなり凄まじい。
後半には、スプラッターと同レベルの残酷なシーンもある。
で、そういう暴力にドニー(ジョー)も加担している訳だ。
自分の任務のために、何の罪もない一般市民である日本料理店の支配人をボコボコにするのである。
日本の警察がそんなことをしたら、絶対に許されない(と信じたい)。
だから、僕は国家権力が大嫌いなんだ。
こんなのが正義か?
もっとも、本作のジョーもそんなことは自覚していて、自室でその時の録音テープを聴きながら涙する。
そして、ジョーだけでなく組織のボスであるソニーも荒れていて、次第に物語は血生臭さを増して行くのであった。
さあ、これからどうなる?
後半は、いよいよジョーのやっていることは潜入捜査なのか、マフィアの一味に成り下がってしまったのか、境界線が分からなくなって来る。
それと共に、「いつバレるのか」というスリルが高まって行く。
余談だが、アメリカ人は、やっぱりビールはバドワイザーなんだな。
あんな薄いビールをよく飲めるな。
僕は最近、ビールはプレミアム・モルツしか飲まない。
ウィスキーは、この間、『セント・オブ・ウーマン』を見てから、ジャック・ダニエルだ。
でも、ちょっと高いんだよな。
うまいけど。
昔はブラック・ニッカだったんだが。
ブラック・ニッカは安いだけあって、飲み過ぎると頭が痛くなるんだ。

Donnie Brasco (1997) - Official Trailer HD

『星の王子さま』を原文で読む(第3回)

(テキスト6ページ、1行目~)

I

I(男)ローマ数字の1

Lorsque j'avais six ans j'ai vu, une fois, une magnifique image, dans un livre sur la forêt vierge qui s'appelait Histoires vécues.

lorsque(接)~の時に(英:when)
je(人称代名詞)(母音または無音のhの前ではj'となる/j'aime)(主語)私は、私が(英:I)
avai-→avoir
avoir(他)持つ、所有する(英:have)/(特質・年齢・尺度など) ・J'ai vingt ans. 20歳です。
six(数形容詞)(不変)6の ・six ans 6歳
an(男)~歳(英:year)
ai avoirの直・現在・1・単
avoir(助動詞)avoir+過去分詞(全ての他動詞、大部分の自動詞の助動詞となり複合時制を作る)(英:have)
voir(他)見る、見える(英:see)(過分:vu)
un(e)(形)(数形容詞)(基数)1つの(英:one)
fois(女)~回、~度(英:time)
un(e)不定冠詞)(不特定の)ある、1つの、1人の(英:a)
magnifique(形)すばらしい、見事な
image(女)絵、版画、写真、(映画・テレビの)映像
dans(前)(作品・記事)~に、で(英:in)
livre(男)本、書物(英:book)
sur(前)(主題)について、に関する(英:on、upon、above)
la(定冠詞)(女性単数)→le
le(定冠詞)(女性単数:la、複数:les)(普通名詞の前)(名詞が形容詞・補語・従節などによって特定化されるとき)(英:the)
forêt(女)森林、山林(boisがあまり深くない林をさすのに対し、forêtは深く広い森をさす)(英:farest)
vierge(形)未開拓の ・vierge forêt 処女林
qui(関係代名詞)(性・数不変)(先行詞を伴って)(主語として働き先行詞は人でもものでもよい)~するところの~
s'appeler(代動)~という名前だ
histoire(女)物語、話、ストーリー(英:history、story)
vécu(e)(<vivreの過去分詞)(形)体験された、実際にあった

Ça représentait un serpent boa qui avalait un fauve.

ça(指示代名詞)(中性)それ、あれ、これ(英:that)/(目の前のもの、状況や事柄を受けて)
représenter(他)表わす、描く、表現する(英:represent)
serpent(男)(動物)蛇
boa(男)(動物)ボア(南米産の大蛇)
avaler(他)飲み込む、(食物を)かきこむ
fauve(男)(猫科の)野獣、猛獣(ライオン・虎など)

Voilà la copie du dessin.

voilà(voirの命令法古形voi+là)(前置詞・副詞・動詞・指示詞の機能を兼ねる)(比較的遠い人またはものを指す)(voilà+名詞)あれが~だ
copie(女)写し、コピー(英:copy)
du(=de+le、前置詞deと男性単数定冠詞leの縮約形)(→de)~の、~から(英:of the、from the)
dessin(男)素描、デッサン(英:drawing、sketch)

On disait dans le livre: «Les serpents boas avalent leur proie tout entière, sans la mâcher. Ensuite ils ne peuvent plus bouger et ils dorment pendant les six mois de leur digestion.»

on不定代名詞)(不特定の人)人は、人々は(英:one、people、someone、we)
dire(他)言う、述べる(英:say)/(dire+直接話法)
les(定冠詞)(定冠詞le、laの複数形)→le
leur(所有形容詞)(女性不変)(所有・所属・関係)彼(女)らの、それらの(英:their)
proie(女)餌食(えじき)、獲物
tout(副)(tout+形容詞)まったく、非常に(英:all)
entier(形)(しばしばtout entier(ière)とtoutをつけて意味を強める)全体の、全部(残らず)の
sans(前)(sans+不定詞)~することなしに、~せずに
la(人称代名詞)(女性単数)→le
le(人称代名詞)(女性単数la、複数les)(名詞に代わる)(直接目的語)彼(女)を、それを(英:him、her、it)
mâcher(他)噛(か)む、咀嚼(そしゃく)する
ensuite(副)(時間)次に、それから、その後に(で)(英:then)
ils(人称代名詞)彼らは、それらは(→il)(男性名詞・女性名詞のまざった集合を指す場合もils、女性のみはelles)(英:they)
ne(副)(動詞に伴い、これを否定する)(他の否定語と併用される場合)~ない/ne ~ plus もはや~ない
peuvent pouvoirの直・現在・3・複
pouvoir(他)(pouvoir+不定詞)(可能)~することができる、~しうる(英:can、be able to、may)
plus(副)(否定表現)ne ~ plus もう~ない(英:no more、no longer)
bouger(自)身動きする、動く、移動する(英:move)
et(接)(列挙)そして、と(英:and)
dormir(自)眠る(英:sleep)
pendant(前)(時間)~の間(英:during)
mois(男)(期間として)1か月(英:month)
de(前)(種類・用途・目的)(英:of、from)
digestion(女)消化

J'ai alors beaucoup réfléchi sur les aventures de la jungle et, à mon tour, j'ai réussi, avec un crayon de couleur, à tracer mon premier dessin.

alors(副)(接続詞的に)それで、だから、従って
beaucoup(副)たいへん、非常に、いっぱい、大いに(英:much、many)
réfléchir(自)(surについて)熟考する、検討する
aventure(女)冒険
jungle(女)ジャングル、密林
à(前)à+名詞・代名詞/(手段・道具・媒介・準拠)~で、によって(英:to、at、in)
mon(所有形容詞)(所有・関係)私の(英:my)
tour(男)順番(英:turn、circumstance)
réussir(自)(réussir à+不定詞)(~すること)に成功する、うまく~できる(英:succeed)
avec(前)(手段・方法・用具)~を使って、でもって(英:with)
crayon(男)鉛筆(英:pencil) ・crayon de couleur 色鉛筆
de(前)(特徴・性質)~の、~らしい、~を持った(英:of、from)
couleur(女)(白黒に対して)色、カラー(英:color) ・crayon de couleur 色鉛筆
à(前)à+不定詞/(限定)~することに
tracer(他)(線で)描く
premier(形)(名詞の前)最初の、第1の、1番目の、初めの、1番前の(英:first)

Mon dessin numéro 1.

numéro un(同格として)ナンバーワンの、主要な、最大の

Il était comme ça:

il(人称代名詞)(主語)それは(ものを表わす男性名詞を受ける)(英:he、it)
était êtreの直・半過去・3・単
être(自)~(に)いる、ある/(状態)
comme ça そのように、こんな風な、そうなれば、では ・être comme ça そんなものだ

J'ai montré mon chef-d'œuvre aux grandes personnes et je leur ai demandé si mon dessin leur faisait peur.

montrer(他)見せる、示す、指し示す(英:show)/(montrer A à B)A(人)にB(何)を見せる
chef-d'œuvre(男)傑作(英:masterpiece)
aux=à+les→à
à(前)à+名詞・代名詞/(動詞の間接目的語)~に
grande personne(子供の言葉で)大人(=adulte)
leur(人称代名詞)(間接目的語3人称複数)→lui
lui(人称代名詞)(3人称・間接目的語)彼(女)に(英:to him、her、it)(複数:leur)
demander(他)尋ねる、問う、訊(き)く(英:ask、request)/(demander+間接疑問節)
si(接)(間接疑問節を導く)~かどうか(英:if)
fais-→faire
faire peur à ~(人)を怖がらせる、おびえさせる
【参考文献】
対訳 フランス語で読もう「星の王子さま」』小島俊明・訳注(第三書房)
クラウン仏和辞典 第7版』(三省堂

日本近代文学を文庫で読む(第4回)『金色夜叉』

今回は、尾崎紅葉の『金色夜叉』を取り上げます。
金色夜叉』を読んだことがなくても、主人公の貫一とお宮の名前なら、知っている人は多いでしょう。
UNICORNの『大迷惑』という曲の歌詞にも出て来ます。
僕は学生の頃、カラオケが大好きだったのですが、毎回、必ず誰かがこの曲を歌っていました(僕は歌いませんが)。
それはさておき、『金色夜叉』は、当然ながら、高校日本史の教科書にも載っています。
例えば、僕の手元にある『詳説日本史』(山川出版社)には、第9章「近代国家の成立」の「おもな文学作品」という一覧表の中です。
尾崎紅葉については、本文中に次のようにあります。

尾崎紅葉らの硯友社は、同じく写実主義を掲げながらも文芸小説の大衆化を進めた。

硯友社については、脚注に次のようにあります。

尾崎や山田美妙らを中心として結成され、回覧雑誌『我楽多文庫』を発刊した。

上にも出て来るように、『金色夜叉』は大衆小説です。
同作が読売新聞紙上で連載開始されたのは明治30(1897)年1月1日で、二葉亭四迷が初の言文一致体小説『浮雲』を発表してから10年も後ですが、こちらは古風な文語体で書かれています。
「言文一致」については、『精選日本文学史 改訂版』の脚注を見てみましょう。

話し言葉のとおりに文章を書くこと。二葉亭は「だ」調、美妙が「です」調、尾崎紅葉が「である」調を中心に試みた。

これは、高校の国語の授業で覚えさせられました。
言文一致運動を推進したはずの尾崎紅葉が、自分の集大成とも言える『金色夜叉』を文語体で書いたというのは、どういうことでしょうか。
なお、山田美妙の『夏木立』については、『詳説日本史』には載っていますが、現在日本で流通している紙の本は見当たりません。
さて、大衆小説のはずの『金色夜叉』が、いかめしい文語体で書かれている。
明治の人達は文語体に慣れているから、スラスラと読めたのでしょうか。
これについては、岩波文庫版『金色夜叉(下)』の「解説」に面白いことが書かれています。

その紅葉が心血を注いだのは、『金色夜叉』という芝居やシネマでは跡形もなくなる地の文である。たとえば、「前篇」第一章の冒頭、読売新聞紙上に新年と同時に登場したこの長篇小説、そもそもの第一頁は、まことに読みづらく、じつに分りにくい。その日の新聞読者にはどうだっただろう。元旦の屠蘇の酔も加わっている人は、この冒頭など読みとばしたにちがいない。

やはり、当時の人にとっても、既に文語体は読みにくいものであったということですね。
一方、当たり前ですが、会話の部分は口語体で書かれています。
これについて、同書の「解説」を見てみましょう。

紅葉は会話の場面を得意とし、自信をもっていた。おだやかな場面、愉快な、騒々しい場面、険悪な応酬、ひややかな対応、食いちがいの局面、男女の睦語、なんであれ会話の場面になると、紅葉の筆は東都の市井の日常をそのまま再現するごとき趣を呈し、はずみよく捗って、一場面が次の場面を孕みつつ、たちまち一場の景をなしてしまう。語りくどき、胸中を披露する人の長広舌が、ときに理に落ち、行きつ戻りつ停滞することがあっても、紅葉はそれはそれなりに高低緩急のバランスを失うことなく収めてしまう。

要するに、会話の部分が非常によく書けているということですね。
なので、地の文が多少難しくても、会話の部分を読めば、大体の筋は分かります。
内容に入って行く前に、尾崎紅葉について、簡単に見ておきましょう。
『精選日本文学史 改訂版』の脚注より引きます。

尾崎紅葉 慶應三(一八六七)年―明治三十六(一九〇三)年。小説家・俳人。東京都生まれ。本名は徳太郎。明治文壇の大御所と言われる存在として活躍した。

また、同書の本文には、次のようにあります。

紅葉は『二人比丘尼色懺悔』で名を挙げ、『伽羅枕』『二人女房』などを書いた。口語文体への意欲も見せたが、西鶴の影響を受け擬古文体を得意とした。『多情多恨』や『金色夜叉』には、紅葉の、新時代へ向けての精いっぱいの苦心がうかがわれる。しかし細かい心理描写の名文にもかかわらず、思想的な限界から真の近代文学の推進者とはなり得なかった。

『田村の[本音で迫る文学史]』(大和書房)には、もう少し詳しく紅葉について述べられているので、そちらも引用しておきます。

尾崎紅葉は、写実主義の流れに属し、江戸時代の井原西鶴の影響を受けて明治時代の世相を写し、『二人比丘尼色懺悔』によって当代随一の人気作家となった。ただ、その写実の姿勢が皮相的であったために、本質的に近代文学の深さを持たず、“洋装せる元禄文学”として批判もされた。また、その文体は女性的な美文であり、登場人物も、女性を描くことを得意としていた。
代表作に、未完に終わった『金色夜叉』がある。これは、金の力によって婚約者を奪われた書生が、その復讐のために金の鬼と化すという作品。これが江戸時代の道徳的な読み物であれば、ここで意志をまげずに立派な学者となって、後にその道徳的な力で裏切った女性を感化する、などという展開になるところであるが、そうはならないところに写実主義らしい面が出ている。
また、紅葉は、日本で初めての文学結社「硯友社」を組織し、同人雑誌『我楽多文庫』を出した。そして、多くの後進作家を育て、一時は「硯友社」の同人、すなわち、尾崎紅葉門下でなければ文壇に出られないほどの勢力があった。

僕は以前、「大学受験の時に、文学部志望にも関わらず、一切文学史の対策をしなかった」と書きました。
その理由は、単に覚えられなかったからなのですが。
受験対策の文学史が何故面白くないのか、考えてみましょう。
上の『田村の[本音で迫る文学史]』は、大学受験用の参考書です。
「面白参考書」というシリーズで、確かに、受験生が面白く勉強出来るように工夫されているのですが、限界もあります。
引用部分を見て下さい。
「その文体は女性的な美文であり」とあります。
しかし、紅葉の作品の引用は一行もありません。
普通の高校生は、まず尾崎紅葉の作品など読んだことがないでしょう。
僕も、大人になってから初めて読みました。
当然、高校の国語の教科書にも、紅葉の作品は載っていません。
これでは、紅葉の文体が女性的な美文であるかどうか、分かるはずがないでしょう。
仕方がないので、丸暗記するしかありません。
こんなのが、センター試験や私大の選択問題で、「次の中から正しいものを選べ」などと言って出題されます。
尾崎紅葉の文体は女性的な美文であり」と書かれていたら、正解なので、マークシートを塗りつぶす。
何だか、むなしくありませんか。
こんなの、勉強でも何でもありません。
だったら、作品自体を読むべきです。
話しが逸れてしまいました。
尾崎紅葉の略歴について、新潮文庫版の「解説」を参考に、もう少し詳しく述べておきます。
尾崎紅葉は1868(慶応3)年、江戸で生まれました。
1872(明治5)年、母と死別します。
寺子屋・梅泉堂(現・港区立御成門小学校)を経て、府第二中学(すぐに府第一中と統合し府中学となる。現在の日比谷高校)に進学するも中退。
漢学を学ぶ一方、三田英学校で英語を学び、大学予備門入学を目指しました。
1983(明治16)年、東京大学予備門に入り、詩作にふけります。
そして1885(明治18)年、山田美妙、石橋思案、丸岡九華らとともに文学史上に名高い硯友社を結成、回覧雑誌『我楽多文庫』を発刊します。
一方、大学予備門の学制改革により、1886(明治19)年に第一高等中学校英語政治科に編入
1888(明治21)年、帝国大学法科大学政治科に入学、翌年に国文科に転科し、その翌年退学しました。
この前年の末に、大学在学中ながら読売新聞社に入社し、以後紅葉の作品の重要な発表舞台は読売新聞となります。
以後、幸田露伴とともに明治期の文壇の重鎮となり、この時期は紅露時代と呼ばれました。
1895(明治28)年、『源氏物語』を読み、その影響を受けて心理描写に主を置き『多情多恨』などを書きます。
そして1897(明治30)年、代表作『金色夜叉』の連載が『読売新聞』で始まります。
貫一とお宮をめぐっての金と恋の物語は日清戦争後の社会を背景にしていて、これが時流と合い大人気作となりました。
以後断続的に書かれることになりますが、もともと病弱であったためこの長期連載が災いし、1899(明治32)年から健康を害しました。
療養のために塩原や修善寺に赴き、1903(明治36)年に『金色夜叉』の続編を連載(『続々金色夜叉』として刊行)しますが、3月、胃癌と診断され中断。
10月30日、自宅で亡くなりました。
それでは、ここで、『金色夜叉』のあらすじを簡単にまとめておきます。

前編
間貫一は、幼くして両親を亡くしたが、鴫沢隆三に引き取られて、高等中学校に通っている。
貫一は鴫沢家の美しい一人娘・お宮と憎からず想い合う仲である。
また、隆三も貫一を大学に行かせ、将来は鴫沢家の跡取りにするつもりであった。
ところが、正月のカルタ会で、お宮は大きなダイヤモンドの指輪を見せびらかす銀行家の御曹司・富山唯継に見初められ、心がなびく。
隆三も、財産のことを考えて、お宮を富山家に嫁がせようとする。
貫一は納得が行かない。
お宮は胃病をやわらげるために、熱海へ湯治に出掛ける。
貫一はそれを追って熱海に行く。
貫一はお宮の心変りが許せない。
許しを乞うお宮を足蹴にし、貫一は「一生お前を恨み、畜生として生きてやる」と宣言して、それっきり姿を消す。

中編
熱海でのお宮との別れから4年後、貫一は鰐淵直行の下で高利貸しをしている。
これまでの真人間としての生き方はきっぱりと捨てた。
美人高利貸しで人妻の赤樫満枝から言い寄られるも相手にしない。
満枝は、借金の身代わりのようにして赤樫に嫁がされたが、夫は高齢で病身のため、自由に振舞っているのであった。
貫一の金貸しとしての冷徹さは、同業者からも一目置かれるほどである。
ある日、田鶴見子爵邸内の小道で貫一はお宮とすれ違う。
貫一は驚き、憤りつつも目に涙を浮かべる。
お宮は恐ろしさと恥ずかしさで一杯である。
彼女は今では貫一をどれほど深く愛していたかを知り、自分が貫一にした仕打ちを後悔している。
しかし、お互いに声は掛けられない。
貫一は、学生時代の友人と言えども、取り立ての手を緩めない。
ある夜、しつこく迫る満枝を振りほどこうと、いつもと違う道を歩いていた貫一は、二人組の暴漢に襲われ、重傷を負ってしまう。

後編
貫一が暴漢に襲われた事件は、新聞によっては「鰐淵直行が襲撃された」として報じられる。
それを見た直行の一人息子・直道は父に「こんな商売からは足を洗って欲しい」と懇願するが、直行は笑って聞き入れない。
一方、お宮は貫一と別れて初めて、自分が如何に彼のことを愛していたかを知る。
もはや富山での裕福な生活には何の魅力も感じない。
日々後悔の念が募るのみである。
貫一の病室に、満枝が毎日見舞いと言っては訪ねて来て、貫一は大層迷惑している。
鰐淵も貫一と満枝の間には何かあるのではないかと勘繰っている。
ある日、いつものように満枝がいる病室に、お宮の父・鴫沢隆三が訪ねて来る。
隆三は「もう一度話がしたい」と言うが、貫一は「そんな人は知らん」と言って、会おうともしない。
鰐淵からカネを借り、連帯保証人に勝手に友人の父親の名前を書いたとして、私文書偽造で逮捕された青年がいた。
息子の将来を滅茶無茶にされたと憤る母親が、毎晩鰐淵の家を訪ねて来て、ある夜、とうとう火を放つ。
鰐淵家は全焼し、夫妻は焼死。
息子の直道は、病院から駆け付けた貫一に「父が汚い稼業で作った財産など自分は一銭もいらない。カネは全てあなたに譲るので、この仕事から足を洗って下さい」と言う。
貫一は何とも答えない。

金色夜叉
お宮は今になって貫一と別れてしまったことを大いに後悔していた。
夫・富山唯継は外出が多くなり、お宮の貫一への想いはますます募るばかり。
一方、貫一は鰐淵夫妻が焼死した後、その居宅を改装してそこに住まい、相変わらず高利貸しを続けている。
貫一の下へお宮から度々手紙が届くようになった。
おそらく詫びの手紙であろうが、貫一は開封すらしない。
とうとう思いあまってお宮が貫一を訪ねて来る。
だが、貫一は連れない。
そこへ満枝がやって来る。
お宮は来客なので帰る。
貫一は面倒なので家を飛び出すが、戻ると、満枝はまだいた。
彼女は、お宮と貫一の仲を疑う。
しつこく二人の関係について聞き出そうとする。
その夜、貫一の目の前で、お宮と満枝が言い争っている。
お宮は、貫一が満枝と親しそうなのが許せない。
そして、「いっそ私を殺して下さい」と言う。
お宮は満枝を刺し殺し、自分の喉を突き刺す。
血を流しながら必死に詫びるお宮を、貫一はとうとう許す。
けれども、お宮は家を飛び出す。
追う貫一。
水の流れに飛び込むお宮。
ようやくお宮の亡骸を見付けた貫一は、「これから俺はどうして生きてゆけばいいのか」と悲嘆に暮れる。
お宮の亡骸を背負う貫一。
ふと背中が軽くなる。
お宮は花びらと化して散って行った。
貫一が気が付けば、これは夢であった。

続続金色夜叉
貫一の胸はますます苦しくなった。
貫一は旅に出る。
西那須野の駅から車に乗り、夢で見たのと同じ風景に出合う。
宿で、同宿の男女が心中しようとしていたのを部屋に飛び込んで助ける。
男は店の金を使い込み、女は富山唯継に身請けの話が持ち上がっているらしい。
貫一は、見ず知らずの二人の借金を肩代わりする決心をする。

新続金色夜叉
貫一の下には相変わらずお宮から長文の手紙が届いている。
いつもは封を開けずに捨ててしまうのだが、ある時、貫一はとうとうその手紙を読む。
そこには、お宮の後悔の念が連綿と綴られていた。
さらに、お宮は自分の死をほのめかすような手紙も届く。
(未完)

金色夜叉』は、旧漢字、旧かなづかい、地の文は文語体で台詞は口語体という難物ですが、非常に読み応えがあります。
内容は、妙に古風なところもあって、明治の舞台装置に、江戸の情緒が乗っかっているような感じです。
有名な熱海で貫一がお宮を蹴る場面などは、紅葉自身が筆を走らせている様子が目に浮かぶほど、一気に読ませます。
貫一が高利貸しになってからの取立ての描写などは、まるで『ナニワ金融道』のようです(「まるで」の使い方が逆ですが)。
読んでいると、先の展開が気になって仕方がありません。
金色夜叉』の文庫版は、新潮と岩波から出ています。
新潮文庫

金色夜叉 (新潮文庫)

金色夜叉 (新潮文庫)

初版は昭和44年ですが、平成16年に改版されて、文字が大きく、読みやすくなっており、注もそれなりに充実しています。
旧漢字・旧仮名遣い、地の文が文語体、台詞が口語体という、いかにも原文一致運動の渦中に書かれた作品ですが、そこは日本語。
文章の勢いに乗って読み進めれば、結構理解出来るものです。
こういった古典は、まず読んでみることが大事だと思います。
理解は二の次です。
ましてや評論なんて、学者に任せておけば良いのですから。
さて、本書は新聞小説(読売新聞。連載開始は明治30年)らしく、読者を引き付けるために「これでもか」とばかり奇抜な展開に陥ります。
そのため、先が気になって仕方がありません。
文明開化の波に乗って、舞台背景は明治ですが、登場人物たちは江戸の情緒を引きずっています。
明治期の文学作品としては最も多くの読者に愛されたそうですが、批評家は「通俗的だ」と批判しているそうです。
600ページに及ぶ長編(しかも、作者病死のため未完)なので、奇抜な展開の連続も、次第に「またか」と思わされる部分はあります。
連載は好評だったのでしょう。
金色夜叉 前編』『同 中編』『同 後編』『続金色夜叉』『続続金色夜叉』『新続金色夜叉』とあります。
昨今のハリウッド映画も真っ青の続編ラッシュです。
しかし、紅葉は一貫して「人間にとって大切なのは、金銭よりも愛情である」ということを説いています。
もし完成していたら、大変な大河小説になったでしょう。
返す返すも残念です。
本作では、女性を指す時も「彼」という代名詞を使っています。
それから、余談ですが、当時の東海道線は三十余輌編成だったそうです。
今の東海道線は最大15両編成ですから、かなり長いですね。
車両一両あたりの長さは短かったのでしょうか。
貫一は中等(2等車)に乗ります。
現在のグリーン車です。
高等中学校に通っているくらいですから、庶民とは言えませんね。
あと、本版では、差別表現として1箇所伏せ字になっています。
今時、伏せ字なんて珍しくありませんか。
普通は、巻末に「本作には、今日の観点では差別的とされる表現があるが、作品の文学的価値に鑑み、そのまま掲載した」云々と書かれるところでしょう。
ちなみに、岩波版にはきちんと掲載されています(削除されたのは「エタ」)。
読んでいて気になったのは、当時の高利貸しの利息についてです。
詳しくは分かりませんが「天引三割の三月縛」と呼ばれるものでした。
例えば、100円を借りると、130円の証書を書かされます。
3ヵ月後には、30円の利息を払わなければなりません。これを年利に換算すると、120パーセントという高利です。
現在のサラ金の利息が年利20パーセント以下であることを考えると、これは大変な暴利だと言えるでしょう。
利息を約束の日に払えないと、先述の130円の証書を、更にその3割(39円)を上乗せした169円の証書に書き替えさせられます。
このようにして雪ダルマ式に借金が膨らんで行く。
おまけに、利息を耳を揃えて払えないと、延滞料、日当、車代(!)等といった名目で、3円、5円、10円と取り上げられ、しかもこれは利息の支払いには充当されません。
当時は、こんな恐喝まがいの行為がまかり通っていたのでしょうか。
本作では、このような金貸しのやり口が、『ナニワ金融道』も真っ青の生々しさで描かれています。
岩波文庫
岩波文庫版は、(上)と(下)に分かれています。
金色夜叉(上) (岩波文庫)

金色夜叉(上) (岩波文庫)

初版は1939年ですが、現在流通しているのは、2003年に出た改版です。
(上)には、「前篇」「中篇」「後編」が収録されています。
注や解説はありません。
金色夜叉(下) (岩波文庫)

金色夜叉(下) (岩波文庫)

(下)も、初版は1939年ですが、現在流通しているのは、2003年に出た改版です。
こちらには、「続篇 金色夜叉」「続続 金色夜叉」「新続 金色夜叉」の3編が収録されています。
はやり、注はありません。
解説は杉本秀太郎氏。
【参考文献】
詳説日本史B 改訂版 [日B309] 文部科学省検定済教科書 【81山川/日B309】笹山晴生佐藤信五味文彦、高埜利彦・著(山川出版社
精選日本文学史』(明治書院
田村の〈本音で迫る文学史〉 (受験面白参考書)』田村秀行・著(大和書房)

『嵐が丘』を原書で読む(第25回)

(テキスト26ページ、1行目〜)

Thereat began a feeble scratching outside, and the pile of books moved as if thrust forward.

thereat(副)その時
begin(自)(物事が)始まる、開始する
feeble(形)(声・光など)かすかな、微弱な
scratch(自)(つめなどを)ひっかく
outside(副)外に、外側に、外部に(⇔inside)
pile(名)(ものの)積み重ね、山(=mound)
move(自)(ものが)動く、揺れる、動揺する
as if ~ まるで~であるかのように(as if節の中では仮定法を用いる)
thrust(他)(副詞句を伴って)ぐいと押す、突っ込む ・thrust A forward Aを前に押し出す

I tried to jump up; but, could not stir a limb; and so yelled aloud, in a frenzy of fright.

try(他)(~を)努力する、やってみる、(~しようと)する(+to do)
up(副)(寝床から)起きて
stir(他)(~を)動かす
limb(名)(人・動物の胴体・頭部と区別して)手足(の1本)、肢(し)(腕・脚・ひれ・翼など)
so(副)(接続詞的に/and soとして)それゆえ、だから、それで
yell(自)叫び声をあげる、大声で叫ぶ、どなる ・yell in fear 怖くて大声をあげる
aloud(副)大声で ・cry aloud 大声で叫ぶ
in(前)(状態を表わして)~の状態に(で)
frenzy(名)(またa ~)逆上、乱心、狂乱、熱狂 ・in a frenzy of ~のあまり逆上して
of(前)(原因を表わして)~のため、~にも
fright(名)(またa ~)(急に襲う)恐怖

To my confusion, I discovered the yell was not ideal.

to(前)(結果・効果を表わして)(通例to a person'sに感情を表わす名詞を伴って)~したことには、~にも
my(代)私の
confusion(名)困惑、ろうばい
discover(他)(~が)わかる、(~を)知る、悟る、(~に)気づく(+that)
yell(名)(苦痛・恐怖などの)叫び声、わめき
ideal(形)観念的な、想像上の、架空の

Hasty footsteps approached my chamber door: somebody pushed it open, with a vigorous hand, and a light glimmered through the squares at the top of the bed.

hasty(形)急な、あわただしい、迅速な、即座の(=swift)
footstep(名)足音
approach(他)(~に)近づく、近寄る、接近する
chamber(名)(古)(特に)寝室
somebody(代)ある人、だれか
push(他)(~を)押して(~の状態に)する(+目+補)
with(前)(道具・手段を表わして)~を用いて、~で
vigorous(形)(動作・言葉など)活発な、激しい(=dynamic)
light(名)光、光線
glimmer(自)ちらちら光る、かすかに明滅する
square(名)四角いもの

I sat shuddering yet, and wiping the perspiration from my forehead: the intruder appeared to hesitate and muttered to himself.

sit(自)座る、腰かける(+doing) ・sit doing 座って~する
shudder(自)(恐れ・寒さなどで)震える、身震いする
yet(副)(進行形かそれ自体継続の意味を持つ動詞とともに肯定文で用いて)今(また)、今なお、依然として
wipe(他)(~(の表面)を)ふく、ふいて(~に)する
perspiration(名)汗(=sweat)
from(前)(出所・起源・由来を表わして)~からの
forehead(名)額(ひたい)、前額部(=brow)(人間の感情・性格を示す部分とされている)
intruder(名)侵入者
appear(自)(~(のよう)に)見える、(~と)思われる(+to do)
hesitate(自)ちゅうちょする、ためらう、二の足を踏む
mutter(自)(低いはっきりしない声で)つぶやく ・mutter to oneself ぶつぶつひとり言を言う
to(前)(行為・作用の対象を表わして)~に対して、~に
himself(代)(再帰的に用いて)(前置詞の目的語に用いて)

At last, he said in a half-whisper, plainly not expecting an answer,
‘Is any one here?’

at last 最後に、とうとう(=finally)
say(他)(人に)(~と)言う、話す、述べる、(言葉を)言う(+引用)
in(前)(道具・材料・表現様式などを表わして)~で、~でもって、~で作った
half(形)不十分な、不完全な
whisper(名)ささやき、小声 ・in a whisper 小声で
plainly(副)(文修飾)明らかに(~である)、~はあきらかである(=undoubtedly)
not(副)(不定詞・分詞・動名詞の前に置いてそれを否定して)(~し)ない
anyone(代)=anybody(代)(疑問文・条件節で用いて)だれか

I considered it best to confess my presence, for I knew Heathcliff’s accents, and feared he might search further, if I kept quiet.

consider(他)(~を)(~だと)みなす、考える(+目+補)
it(代)(形式目的語としてあとにくる事実上の主語の不定詞句・動名詞句・that節などを代表して)
confess(他)(罪・隠し事などを)告白する、白状する、打ち明ける
presence(名)存在、ある(いる)こと、現存(⇔absence)
for(接)(通例コンマ、セミコロンを前に置いて、前文の付加的説明・理由として)という訳は~だから(=as、since)
Heathcliff ヒースクリフ(Emily Brontëの小説Wuthering Heights(1847)の主人公/復讐の鬼)
accent(名)(複数形で)(独特な)話し方、言葉づかい、口調
fear(他)(よくない事態を気づかって)(~ではないかと)思う、気づかう、恐れる(+that)
might(助動)(直説法過去)(主に間接話法の名詞節中で、時制の一致により)(不確実な推量を表わして)~かもしれない
search(自)(副詞句を伴って)(人・ものを)(丹念に)捜す、捜し求める
further(副)(farの比較級)(距離・空間・時間が)さらに遠く、もっと先に
keep(自)ずっと(~の状態で)ある(+補) ・keep quiet 静かにしている

With this intention, I turned and opened the panels — I shall not soon forget the effect my action produced.

with(前)(原因を表わして)~のせいで、~のゆえに、~のために
this(形)この/(対話者同士がすでに知っているもの(人)をさして)
intention(名)意図、意向
turn(自)(通例副詞句を伴って)(~の方に)向く、振り向く、振り返る
open(他)(ドア・目・容器・包み・手紙などを)あける、開く(⇔close、shut)
panel(名)(パネルにはめこまれた)鏡板(かがみいた)、壁板、羽目板
effect(名)(原因から直接引き起こされる)結果(⇔cause)
action(名)(具体的な)行動、行為
produce(他)(~を)引き起こす、招来する

Heathcliff stood near the entrance, in his shirt and trousers; with a candle dripping over his fingers, and his face as white as the wall behind him.

near(前)(場所・時間などを表わして)~の近くに、~に近く
entrance(名)入り口
in(前)(着用を表わして)~を着て、身につけて
his(代)彼の
trousers(名)(複)ズボン
with(前)(付帯状況を表わす句を導いて)~して、~したまま、~しながら(名詞の後に前置詞付きの句・副詞・形容詞・分詞などの補足的要素を従える)
candle(名)ろうそく
drip(自)(液が)(~から)したたる
as(副)(通例as ~ as ~で、形容詞・副詞の前に置いて)(~と)同じ程度に、同様に、同じくらい(as ~ as ~で前のasが指示副詞、後のasは接続詞)
as(接)(as ~ as ~で同程度の比較を表わして)~と同じく、~と同様に、~のように、~ほど

The first creak of the oak startled him like an electric shock: the light leaped from his hold to a distance of some feet, and his agitation was so extreme, that he could hardly pick it up.

creak(名)(通例単数形で)キーキー(ギーギー)鳴る音、きしる音、きしみ
oak(名)オーク材の製品(家具など)
startle(他)(人を)びっくりさせる、跳び上がらせる
like(前)~のような、~に似た
electric(形)電気の
shock(名)(電流が体内に流れて起こる)電撃、感電
light(名)灯火、明かり
leap(自)(通例副詞句を伴って)跳ぶ、はねる、跳躍する
hold(名)(手で)持つ(つかむ、握る)こと(=grip)
to(前)(到達点を表わして)~まで、~に至るまで ・from A to B AからBまで
foot(名)フィート、フット(長さの単位/=1/3 yard、12 inches、30.48センチ/足の長さに起因した名称)
agitation(名)(人心の)動揺、興奮
so(副)(程度・結果を表わして)(so ~ that ~で)(順送りに訳して)非常に~なので~
extreme(形)(行為・手段など)極端な、過激な(⇔moderate)
that(接)(副詞節を導いて)(so ~ thatの形で程度・結果を表わして)(非常に)~なので、~(する)ほど
could(助動)(直説法(叙実法)で用いて)(過去形の主節の時制の一致により従属節中のcanが過去形に用いられて)~できる、~してよい
pick up(ものを)拾い上げる、拾う

‘It is only your guest, sir,’ I called out, desirous to spare him the humiliation of exposing his cowardice further.

it(代)(心中にあるかまたは問題になっている人・もの・事情・出来事・行動などをさして) ・It's me.(それは)私です。
only(副)ただ~だけ、~にすぎない
your(代)あなた(たち)の、君(ら)の
guest(名)(下宿・ホテルなどの)泊まり客、宿泊人
sir(名)(男性への呼び掛け)あなた、先生、閣下、お客さん、だんな
call out 叫ぶ
desirous(形)望んで、願って、欲しがって(+to do)
spare(他)(人に)(苦労・苦痛を)免れさせる(+目+目)
humiliation(名)恥、屈辱、不面目
of(前)(同格関係を表わして)~という、~の、~である
expose(他)(秘密・悪事などを)暴露する、あばく、(実態などを)明らかにする
cowardice(名)臆病、卑怯(ひきょう)
further(farの比較級)(程度が)さらに進んで

‘I had the misfortune to scream in my sleep, owing to a frightful nightmare. I’m sorry I disturbed you.’

have(他)(~を)経験する、(事故などに)あう
misfortune(名)(大きな)不幸、不運 ・have the misfortune to do 不幸にも~する
scream(自)(恐怖・苦痛などのために)叫び声をあげる(in)
in one's sleep 眠りながら ・talk in one's sleep 寝言をいう
owing to ~(前置詞として)~のために
frightful(形)恐ろしい、ものすごい、ぞっとする(ぎょっとする)ような(=terrible)
nightmare(名)悪夢
I'm I amの短縮形
sorry(形)すまないと思って、悪かったと(申し訳なく)思って、後悔して(+that)
disturb(他)休息(など)を妨げる、妨害する

‘Oh, God confound you, Mr. Lockwood! I wish you were at the — ’ commenced my host, setting the candle on a chair, because he found it impossible to hold it steady.

confound(他)(軽いののしりの言葉に用いて)(~を)のろう ・Confound you! こんちくしょう!、ええ、いまいましい!
Lockwood(名)ロックウッド
wish(他)(現在の実現不可能なことの願望を表わして)(~であればよいのにと)思う(+that)(thatは省略されるのが普通で、節内には(仮定法)過去形が用いられる)
commence(他)開始する、始める
host(名)(旅館などの)亭主
because(接)(副詞節を導いて)(なぜなら)~だから(である)、~なので
find(他)(~が)(~であると)知る、感じる、わかる(+目+補)
impossible(形)不可能な(+to do)
hold(他)(~を)(ある状態・位置に)保っておく(+目+補)
steady(形)(足場・基礎など)しっかり(固定)した、ぐらつかない、安定した(⇔unsteady) ・hold A steady ぐらつかないようにAを押さえる

‘And who showed you up into this room?’ he continued, crushing his nails into his palms, and grinding his teeth to subdue the maxillary convulsions.

show up(~を)はっきり見えるようにする
continue(他)(~と)(再び)話を続ける、引き続いて言う(+引用)
crush(他)(人・ものを)(~に)押し込む、詰め込む(into)
nail(名)(人間などの)つめ
palm(名)手のひら
grind(他)(歯などを)ぎしぎしこすり合わせる ・grind one's teeth 歯ぎしりする
subdue(他)(色・音・態度などを)やわらげる、緩和(軽減)する
maxillary(形)<maxilla(名)上あご、上顎(じょうがく)骨
convulsion(名)(通例複数形で)けいれん、ひきつけ

‘Who was it? I’ve a good mind to turn them out of the house this moment?’

I've I haveの短縮形
have(他)(しばしば目的語に形容詞用法のto不定詞を伴って)((~すべき(できる))用事・時間などを)もっている、与えられている
good(形)(強意語として)(通例a ~)十分な
mind(名)(+to do)(~する)意向、つもり ・have a good mind to do よっぽど~しようかと思う
turn a person out of ~(人を)~から追い出す、追い払う
this(形)(指示形容詞)(たった)今の、現在の、今~、当~

‘It was your servant, Zillah,’ I replied, flinging myself on to the floor, and rapidly resuming my garments.

servant(名)召し使い、使用人(=domestic)
Zillah ジラ(女子名)
reply(他)(~と)答える(目的語には答える内容がくるので、人称代名詞やletterなどの名詞は用いられない)(+引用)
fling(他)(fling oneselfで)激しく身を投げる、激しく体を動かす
myself(代)(再帰的に用いて)(再帰動詞の目的語に用いて)(再帰動詞とともに全体で自動詞的な意味になる)
on(副)(接触などを表わして)上に、乗って
rapidly(副)速く、速やかに
resume(他)再び着用する、再び用いる
garment(名)(複数形で)衣服、衣類

‘I should not care if you did, Mr. Heathcliff; she richly deserves it. I suppose that she wanted to get another proof that the place was haunted, at my expense — Well, it is — swarming with ghosts and goblins! You have reason in shutting it up, I assure you. No one will thank you for a doze in such a den!’

should(助動)(仮定法で)(条件文の帰結節で、I shouldで現在または未来の事柄についての想像を表わして)~だろうに
care(自)関心をもつ、かまう
richly(副)(richly deserveで)十分に、完全に ・richly deserve ~ ~も当然だ
deserve(他)(~の)価値がある、(~を)受けるに足る
suppose(他)(知っていることから)推測する、思う、考える(+that)
that(接)(名詞節を導いて)(~)ということ/(目的語節を導いて)/(同格節を導いて)
want(他)(人が)(~することを)欲する、(~)したい(と思う)(+to do)
get(他)(~を)(~から)(努力して)得る、手に入れる
proof(名)証拠(+that)
place(名)(通例単数形で/one's ~)家、住まい
haunt(他)(幽霊などが)(ある場所に)出る、出没する(しばしば受身)
at a person's expense 人をからかって、人をねたにして
well(間)(安心・あきらめ・譲歩などを表わして)やれやれ、まあいいや
swarm(自)(場所が)(~で)いっぱいになる(with)
with(前)(材料・中身を表わして)~で
ghost(名)幽霊、亡霊、怨霊(おんりょう)(英米の幽霊は夜中の12時に現われ、ニワトリの声を聞いて姿を消すとされ、その姿は生前のままで足もある)
goblin(名)ゴブリン(醜い姿をしたいたずらな(意地悪な)小鬼)
in(前)(範囲を表わして)~において、~内で
shut up(家を)閉ざす
assure(他)(人に)(~を)保証する、請け合う(=guarantee)(+目+that)
one(代)(既述の語と関係なく修飾語を伴って)(特定または非特定の)人、もの
will(助動)(話し手の推測を表わして)~だろう
for(前)(対象)(報償・返報を表わして)(好意・成果など)に対して、~の返報として ・thank A for B Bに対してAに感謝する
doze(名)(a ~)居眠り、うたた寝、仮眠
such(形)(程度を表わして)(名詞の前に直接用いて/強意的に)大した、すごい、途方もない、とんでもない
den(名)(野獣の)巣、穴、ねぐら、ほら穴
【参考文献】
Wuthering Heights (Penguin Classics)』Emily Brontë・著
嵐が丘(上) (光文社古典新訳文庫)小野寺健・訳
新英和中辞典 [第7版] 並装』(研究社)
リーダーズ英和辞典 <第3版> [並装]』(研究社)
リーダーズ・プラス』(研究社)

『ファントム・オブ・パラダイス』

この週末は、ブルーレイで『ファントム・オブ・パラダイス』を見た。

1974年のアメリカ映画。
監督は、『悪魔のシスター』『キャリー』『スカーフェイス』『アンタッチャブル』『カリートの道』の巨匠ブライアン・デ・パルマ
音楽はポール・ウィリアムズ
編集は、『キャリー』のポール・ハーシュ
主演は、ウィリアム・フィンレイ、ポール・ウィリアムズジェシカ・ハーパー
タイトルから判るように、元ネタは『オペラ座の怪人』である。
こういうロック・ミュージカルとしては、これまでに『ジーザス・クライスト・スーパースター』と『ロッキー・ホラー・ショー』を見た。
ジーザス・クライスト・スーパースター』は本格派だが、『ロッキー・ホラー・ショー』はカルト色が強い。
本作もカルト映画と言えるだろう。
ブライアン・デ・パルマ出世作で、タイトルだけは以前から知っていたが、見たのは初めて。
20世紀フォックス
カラー、ワイド。
まず初めに、伝説のレコード会社デス・レコードの社長スワンを紹介し、彼がロックの殿堂となるべき「パラダイス」劇場を建設しようとしていること、「この映画はその音を探し求める物語である」というナレーション。
タイトル・バックはロックを歌い上げる男。
ジューシー・フルーツ」というグループだ。
フィルビンという偉そうな太った男(レコード会社の社員)は、恋人とは別れたが、これから建設されるパラダイス劇場のことを考えている。
今日はそのオーディションであった。
ジューシー・フルーツの次は、ウィンスロー・リーチ(ウィリアム・フィンレイ)という、メガネを掛けた無名のミュージシャンがキーボードの弾き語り。
素晴らしい曲で、陰の声が部下のフィルビンに「この男の曲だけオープニングで使え」と命じる。
プロデュースするのはスワン(ポール・ウィリアムズ)だ。
ただし、この時点ではスワンは未だ姿を見せていない。
ウィンスローはフィルビンに「今、作っている曲は300ページ以上の『ファウスト』の物語だ」と説明する。
無教養なフィルビンは『ファウスト』を知らない。
それでも、芸術を世に送り出すレコード会社で働けるんだから、皮肉な世の中だ。
フィルビンは「この曲はジューシー・フルーツに歌わせる」とウィンスローに告げる。
ウィンスローは「あんなチンピラに歌わせたくない」と激怒。
まあ、芸能界ではよくありそうなことだ。
例えは悪いが、来生たかおが『セーラー服と機関銃』の主題歌(『夢の途中』)を作った時も、自分で歌うつもりが、角川春樹の意向で薬師丸ひろ子が歌うことになった。
その後、『夢の途中』も大ヒットしたので良かったが。
僕は来生たかおはコンサートに行ったことがあるくらい好きだが、薬師丸ひろ子の合唱部出身の伸びやかな歌声も好きなので、「チンピラ」の例としては適切ではない。
ただ、作った本人に歌わせない例として真っ先に浮かんだので書いた。
で、1ヶ月後、ウィンスローはデス・レコードのスワンを訪ねるが、受付で門前払いされる。
諦め切れず、タクシーに乗ってスワンの屋敷へ。
中に入ってみると、めいめい歌っている女性がたくさんいる。
その中で、フェニックス(ジェシカ・ハーパー)という若い女性がウィンスローの作った曲を歌っていた。
「歌を教えるよ」と言って、彼女と仲良くなるウィンスロー。
今日はパラダイス劇場のオープニング曲のオーディションであったが、女性限定であった。
ウィンスローは追い出される。
女性達は別室に呼ばれるが、彼女達は歌う必要がなかった。
簡単に言うと、スワンの「喜び組」になることを求められるのである。
セクシャル・ハラスメントNo.1だな。
こういう「枕営業」的なことも芸能界ではよくありそうだ。
フェニックスはそんなつもりがなかったので、部屋を飛び出した。
ウィンスローは女装して潜入し、スワンに追い出される。
他の女たちはスワンに群がっている。
屋敷の前でメガネを落とし、はふはふの体でウィンスローが倒れていると、二人組の黒人警官がやって来る。
何故か、ウィンスローのカバンの中からヘロインが見付かる。
ウィンスローには全く身に覚えがなかったが、どうやらスワンに仕組まれたのであった。
ウィンスローは無実の罪で終身刑を命じられ、シンシン刑務所に送られる。
ここでは、「歯は衛生に悪い」と言って、全ての歯を抜かれ、金属の総入れ歯にされてしまう。
ここに入っているのは皆、無実の者達であった。
6ヶ月後、ジューシー・フルーツが歌う『スワンのファウスト』がヒットチャートを驀進していた。
自分が作った曲を横取りされたウィンスローは発狂し、トラックの荷台に紛れて刑務所を脱出。
デス・レコードの本社に乱入する。
そこで、レコードのプレス機に誤って挟まれ、顔を潰される。
コミカルに描いてはいるが、結構な残虐シーンである。
さらに、ガードマンに発泡され、川へ転落する。
ウィンスローは、一命は取り留めたものの、ふた目と見られぬ形相になってしまった。
復習に燃えるウィンスロー。
余談だが、最近よく日本語で「リベンジする」なんて軽々しく言うが、本来の「revenge」はこういう時に使う。
いよいよパラダイス劇場のこけら落としが迫っていた。
楽屋へ怪人が忍び込む。
ウィンスローだ。
中には水着のギャル達がたくさんいる。
ウィンスローは衣装部屋へ忍び込み、マントと仮面を奪い、自分の身に着ける。
そして、セットの車に爆薬をセットする。
車はジューシー・フルーツのリハーサル中に爆発。
ウィンスローはスワンに会いに行く。
「俺は顔と声を潰した。ヒドイ姿だ」とスワンに訴えるウィンスロー。
悪党のスワンはウィンスローに「オレと組まないか」と持ち掛ける。
「信用しろ」と言われて、逃げるウィンスロー。
オーディション会場にフェニックスが来ている。
スワンは彼女に「歌と交換に何ができる?」と迫る。
「では、君の声をくれるか」と言われ、歌うフェニックス。
「She's good!」
ウィンスローは舞台裏で彼女のために演奏している。
声が出ないが、スワンが彼に発声器を付けさせ、音声を合成して会話出来るようにした。
ちょうど、つんくが食道発声しているような感じだ。
スワンはウィンスローに「カンタータを書き直せ。主役はフェニックスだ」と命じる。
彼女を想うウィンスローは「書き直す。だが、勝手に編曲するな」と応じる。
スワンはウィンスローに分厚い契約書を示す。
そこには、「肉体・魂の全てを委ねる」と書かれていた。
ウィンスローは、そこに血のサインをする。
だが、それは悪魔の契約であった。
しかも、スワンには契約履行の意志は全くなかった。
さあ、これからどうなる?
なかなか独特な映画だが、最後まで一気に見せる。
ただ単に怪奇なだけではない。
デ・パルマの才能がほとばしっている。
後半、明らかに『サイコ』みたいなシャワー・シーンがある。
デ・パルマヒッチコックを尊敬しているらしいからな。
気の毒な主人公を演じたウィリアム・フィンレイは熱演だが、悪役ポール・ウィリアムズの怪演もスゴイ。
しかも、音楽も自分で作っているんだな。
何という才人だ!
しかし、日本にも悪徳プロデューサーといって思い浮かぶ人は何人かいるな。
名前を挙げるのは止めておく。

Phantom Of The Paradise (1974) - Official Trailer (HD)

日本古典文学を原文で読む(第2回)『古事記』

古事記』について
古事記』は、「日本最初の書」という栄誉に輝いているので、タイトルはほとんどの人が知っています。
けれども、実際に読んだことがある人は少ないのではないでしょうか。
かく言う僕も、今まで読んだことはありませんでした。
ただ、内容については、僕が中学生の頃によく読んでいた事典に日本の神話の章があったので、有名なエピソードなら分かります。
イザナギイザナミとか、天の岩戸、ヤマタノオロチ因幡の白ウサギ、海幸彦・山幸彦などです。
これらは、『古事記』の上巻に載っています。
一方、中巻の内容は、神武天皇から始まる天皇の歴史ですが、これは戦後教育ではタブーとされて来た部分なので、あまり知っている人はいないでしょう。
下巻になると、仁徳天皇から推古天皇までなので、日本史を勉強した人なら分かるかも知れません。
古事記』は人気があるようで、世の中には関連書が溢れています。
しかし、高校の古文の教科書には、『古事記』は載っていません。
前回、書きましたが、僕が受験生の時に持っていた(使った訳ではありません)駿台の『古典文学読解演習』という参考書には、1問目から『古事記』と『日本書紀』の問題文が載っていて、驚いたことがあります。
国文科に進むと、『古事記』を読まされるようです。
僕が在籍していた学部でも、当時のシラバスを見ると、3年生の「日本文学演習IIA」という授業が「『古事記』研究」となっていました。
もっとも、僕は英文科だったので、この授業は受けていませんが。
僕は、なぜ『古事記』を読んでみようと思い立ったのか。
前回も書きましたが、先日、僕の行き付けの喫茶店で、そこのアルバイトの某難関大学生の女の子が、岩波文庫の『古事記』を読んでいるのを目撃して、大いに刺激されたからです。
おそらく、国文科に在籍しているのでしょう。
古事記』は、当然ながら、日本史の教科書にも出て来ます。
山川の『詳説日本史』を引いてみましょう。

天武天皇の時代に始められた国史編纂事業は、奈良時代に『古事記』『日本書紀』として完成した。712(和銅5)年にできた『古事記』は、宮廷に伝わる「帝紀」「旧辞」をもとに天武天皇稗田阿礼によみならわせた内容を、太安万侶(安麻呂)が筆録したもので、神話・伝承から推古天皇に至るまでの物語であり、日本語を漢字の音・訓を用いて表記している。

なお、脚注には次のようにあります。

神話は、創生の神々と国生みをはじめとして、天孫降臨神武天皇の「東征」、日本武尊の地方制圧などの物語が律令国家の立場から編まれており、そのまま史実とはいえない。

僕の手元にある高校生用の文学史のテキストには、もう少し詳しく解説されているので、引いてみましょう。

古事記 三巻。太安万侶の撰録。和銅五(七一二)年成立。安万侶の序文によれば、天武天皇(六七二―六八六在位)が発意し、諸家の持つ帝紀(皇室の系譜や事績)と旧辞(物語風に伝承された歴史的事件や説話)の誤りを正し、稗田阿礼に命じて誦習させたものを、元明天皇(七〇七―七一五在位)の勅によって完成させたもの。上巻は神話で天地のはじめから神倭伊波礼毘古(神武天皇)の誕生まで。中巻は神武東征から応神天皇まで。下巻は仁徳天皇から推古天皇までを記す。漢字を用いた表記法に安万侶の苦心があり、本文は漢字の音と訓と交用、人名や歌謡は一字一音式の万葉仮名で記し、日本語の語法や音韻を忠実に表そうとしている。

テキストについて
それでは、実際に読むには、どのようなテキストがあるのでしょうか。
ここでは、現在の日本で流通している主な文庫版を取り上げたいと思います。
ビギナーズ・クラシックス

初版は平成14年。
編者は角川書店
この本は、『古事記』の中から主要な場面を選んで、現代語の「通釈」→原文(書き下し文)→解説の順に掲載されています。
とりあえずアウトラインをつかむには、この本を読めば十分です。
岩波文庫
古事記 (岩波文庫)

古事記 (岩波文庫)

初版は1963年。
改版は2007年。
校注は倉野憲司氏。
本書は、『古事記』の訓み下し文に脚注を施したもの、原文、解説、および歌謡全句索引から成っています。
もっとも、原文は漢文なので、そのままでは到底読めませんが。
講談社学術文庫
古事記 (上) 全訳注 (講談社学術文庫 207)

古事記 (上) 全訳注 (講談社学術文庫 207)

初版は昭和52年。
全訳注は次田真幸氏(元お茶の水女子大学名誉教授)。
この本は、『古事記』の原文を書き下し文に書き改め、適宜章段に区切り、一段ごとに現代語訳と注(語釈)、解説を記してあります。
1冊に原文(書き下し文)と現代語訳の両方が載っているので、便利です。
上巻は神代。
古事記 (中) 全訳注 (講談社学術文庫 208)

古事記 (中) 全訳注 (講談社学術文庫 208)

初版は1980年。
中巻は神武天皇から応神天皇まで。
古事記 (下) 全訳注 (講談社学術文庫 209)

古事記 (下) 全訳注 (講談社学術文庫 209)

初版は1984年。
下巻は仁徳天皇から推古天皇まで。
角川ソフィア文庫
新版 古事記 現代語訳付き (角川ソフィア文庫)

新版 古事記 現代語訳付き (角川ソフィア文庫)

初版は平成21年。
訳注は中村啓信氏(國學院大學名誉教授)。
訓読文、現代語訳、本文(漢文)、解説、索引という構成です。
これらが1冊にまとめられています。
河出文庫
現代語訳 古事記 (河出文庫)

現代語訳 古事記 (河出文庫)

文庫の初版は2003年。
ただし、元になった版は、1976年の『日本古典文庫1 古事記日本書紀』なのだそうです。
訳は福永武彦氏(詩人、小説家)。
文春文庫版
口語訳 古事記 神代篇 (文春文庫)

口語訳 古事記 神代篇 (文春文庫)

初版は2006年。
訳・注釈は三浦佑之氏(立正大学教授)。
古事記』の上巻に対応しています。
口語訳 古事記 人代篇 (文春文庫)

口語訳 古事記 人代篇 (文春文庫)

初版は2006年。
古事記』の中巻・下巻に対応しています。
岩波現代文庫
現代語訳 古事記 (岩波現代文庫)

現代語訳 古事記 (岩波現代文庫)

文庫の初版は2013年。
ただし、元になった版は1979年に、古川書房より古川選書として刊行されました。
訳は蓮田善明氏(文芸評論家、詩人、国文学者)。
原文読解
それでは、『古事記』本文の冒頭部分を読んでみましょう。
下に、「原文(書き下し文)」「現代語訳」を記しました。
書き下し文は岩波文庫版、現代語訳は岩波現代文庫版からの引用です。
また、書き下し文の下には、語注も付けてあります。
なお、原文は縦書きですが、ここでは、ブログの書式のため、横書きになりますが、ご了承下さい。

古事記

古事記(作品名)歴史物語。三巻。序文によると、天武天皇稗田阿礼(ひえだのあれ)に誦習(しょうしゅう)させた帝紀(=天皇ノ系譜)・旧辞(=伝承サレタ神話・伝説ナド)を元明天皇の命により太安万侶(おおのやすまろ)が撰録(せんろく)したもの。和銅五年(七一二)成立。上巻は天地開闢(かいびゃく)から鵜葺草葺不合命(うがやふきあえずのみこと)までを記す「神代」の巻。中・下巻は「人皇代」の巻で、中巻は神武天皇から応神天皇まで、下巻は仁徳天皇から推古天皇までを記す。歴史と神話・伝説が混交した文学的歴史書とでもいうべきもので、日本最古の書籍。

(訓み下し文)
(テキスト19ページ、1行目~)
別天つ神五柱

(現代語訳)
天地初発

(1)

天地初めて發けし時、高天の原に成れる神の名は、天之御中主神。次に高御產巢日神。次に神產巢日神。この三柱の神は、みな獨神と成りまして、身を隱したまひき。

天地(あめつち)天と地。乾坤(けんこん)。「天地の分かれし時ゆ(=天地ノ分カレタトキカラ)」
初(はじ)めて(副)最初に。初めて。
ひらく(自カ下二)始まる。起こる。「(和歌は)天地(あめつち)のひらけ始まりける時より出(い)できにけり」
(助動特殊型)今より前(過去)に起こったことをいう。以前~た。~た。
(名)ころ。時分。折。場合。
高天原(たかまのはら)(名)日本神話で、「天(あま)つ神」の住む天上の国。「葦原(あしはら)の中つ国」・「根の国」に対していう。「天地(あめつち)初めて発(ひら)けし時。高天原に成れる神の名は」
(格助)場所を表す。~に。~で。
なる(自ラ四)生まれる。生じる。
(助動ラ変型)動作・作用の完了した意を表す。~た。
神(かみ)(名)神話で、国土を創造し、支配した存在。神代に登場する神々。
(格助)下にくる体言の内容を示す。
名(な)(名)他と区別するために呼ぶことば。呼び名。名前。
(係助)特に掲示する意を表す。(主語のように用いる)。~は。
天之御中主神(あめのみなかぬしのかみ)高天の原の中心の主宰神。
次(つぎ)(名)あとに続くこと。また、そのもの。
(格助)時を示す。~(とき)に。
高御產巢日神(たかみむすひのかみ)以下の二神は生成力の神格化。
神產巢日神(かみむすひのかみ)
この 話題になっているものを指示する語。この。
柱(-はしら)(接尾)神仏を敬って数える。「二(ふた)柱の神、天(あめ)の浮き橋に立たして」
みな(名)すべての人や事やもの。
獨神(ひとりがみ)男女対偶の神に対して単独の神の意。
(格助)~の状態になる意を表す。変化の結果を示す。~と。
成(な)る(自ラ四)(それまでと違った状態やものに)なる。成長する。変化する。
ます(補動サ四)動詞の連用形に付いて、尊敬の意を表す。お~になる。お~なさる。
(接助)ある事が起こって、次に後の事が起こることを表す。~て、それから。そうして。
身(み)(名)からだ。
(格助)対象としてとりあげたものを示す。~を。
隠(かく)す(他サ四)見えないようにする。
たまふ(補動ハ四)動詞・助動詞受身の「る」「らる」、使役の「す」「さす」「しむ」の連用形に付いて、尊敬の意を表す。お~になる。お~なさる。

世界の始めに、高天原にお生れになった神は、アメノミナカヌシノ神、タカミムスビノ神、カミムスビノ神で、この三神は、みな独身の神で、姿は隠していられた。

(2)

次に國稚く浮きし脂の如くして、海月なす漂へる時、葦牙の如く萌え騰る物によりて成れる神の名は、宇摩志阿斯訶備比古遲神。次に天之常立神。

国(くに)(名)(天に対する)地。大地。⇔天(あめ)
わかし(形ク)生まれて間もない。幼い。
浮(う)く(自カ四)空中や水面などに、支えから離れて不安定な状態にある。浮かぶ。漂う。
脂(あぶら)(名)植物の種子などから絞りとった、水に溶けない液体、および動物の脂肪。
(格助)「ごと(し)」「まにまに」「から」「むた」などの形式語を下に伴う。
如(ごと)し(助動ク型)ある一つの事実と他の事実とが同類・類似のものである意を表す。~ようだ。~と同じ。
して(接助)連用修飾語に付いて状態を表す。~で。~といっしょに。
海月(くらげ)(名)海産の動物名。体は寒天質。「海月なす(=ノヨウニ)ただよへるとき」
-なす(接尾)(体言、まれに動詞の連体形に付いて)~のように、~のような、の意を表す。「くらげなす」
漂(ただよ)ふ(自ハ四)浮かんで揺れ動く。
(助動ラ変型)完了した動作・作用の結果が存続している意を表す。~ている。~てある。
葦牙(あしかび)(名)葦の若芽。
萌(も)ゆ(自ヤ下二)草木の芽が出る。芽ぐむ。
騰(あ)がる(自ラ四)成熟する。実る。芽が出る。
物(もの)(名)(形式名詞として)ある属性を有する実体や事柄を表す。
(格助)原因・理由を表す。~により。
より(格助)原因・理由を表す。~のために。~によって。
(接助)原因・理由を表す。~のために。~ので。
宇摩志阿斯訶備比古遲神(うましあしかびひこぢのかみ)葦の芽を神格化して生長力を現したもの。男性。
天之常立神(あめのとこたちのかみ)天の根元神。

次に、国がまだ稚く、浮いた脂のようで、水母みたいにふわふわしているとき、葦の芽の萌え上がる勢いでお生れになった神は、ウマシアシカビヒコヂノ神、アメノトコタチノ神である。

(3)

この二柱の神もまた、獨神と成りまして、身を隱したまひき。

(係助)ある物事にさらにもう一つの物事を添える。~もまた。
また(副)同じく。同様に。やはり。また。

この二神もまた独身の神で、姿は隠していられた。

(4)

上の件の五柱の神は、別天つ神。

上(かみ)(名)位置の高い所。うえ。上部。
件(くだり)(名)前に記した事項。前記の箇条。「上(かむ)の件(=上述ノ通り)」
こと-(接頭)(名詞に付いて)別の、他の、普通と違った、の意を表す。
天(あま)つ神(かみ)(名)天上にいる神。また、天から地上に下った神。

以上の五神は、天つ神のなかでも「別天神」と申し上げている。

神世七代

神世七代

(5)

次に成れる神の名は、國之常立神。次に豐雲野神。この二柱の神もまた、獨神と成りまして、身を隱したまひき。

國之常立神(くにのとこたちのかみ)国土の根元神
豐雲野神(とよくもののかみ)

次にお生れの神々は、クニノトコタチノ神、トヨクモノ神で、この二神もまた独身の神で、姿は隠していられた。

(6)

次に成れる神の名は、宇比地邇神、次に妹須比智邇神。次に角杙神、次に妹活杙神。次に意富斗能地神、次に妹大斗乃辨神。次に於母陀流神、次に妹阿夜訶志古泥神。次に伊邪那岐神。次に妹伊邪那美神。

宇比地邇神(うひぢにのかみ)以下の二神は、泥や砂の神格化。
妹(いも)(名)男性から妻・恋人・姉妹、その他いとしい女性を呼ぶ語。おもに妻・恋人にいう。
須比智邇神(すひぢにのかみ)
角杙神(つのぐひのかみ)以下の二神は、名義未詳。杙の神格化か。
活杙神(いくぐひのかみ)
意富斗能地神(おほとのぢのかみ)以下の二神は、居所の神格化か。
大斗乃辨神(おほとのべのかみ)
於母陀流神(おもだるのかみ)以下の二神は、人体の完備と意識の発生の神格化か。
阿夜訶志古泥神(あやかにねのかみ)
伊邪那岐神(いざなきのかみ)以下の二神は、たがいに誘い合った男女の神の意で、夫婦。
伊邪那美神(いざなみのかみ)

次にお生れの神々の御名は、ウヒヂニノ神、妹スヒヂニノ神、ツヌグヒノ神、妹イクグヒノ神、オホトノヂノ神、妹オホトノベノ神、オモダルノ神、妹アヤカシコネノ神、イザナギノ神、妹イザナミノ神である。

(7)

上の件の國之常立神以下、伊邪那美神以前を、幷せて神世七代と稱ふ。

より(格助)動作・作用の時間的・空間的な起点を示す。~から。
下(しも)(名)あとの部分。終わりのほう。
前(さき)(名)空間的に前の意。
あはす(他サ下二)一つにする。いっしょにする。集める。合計する。
神代(かみよ)(名)天地開闢(かいびゃく)から神武天皇の前までの神々が国を治めたという神話時代。
代(よ)(名)治世の期間。時代。年代。代。
(格助)言ったり、思ったりする内容を受けていう。引用の「と」。
いふ(自他ハ四)名付ける。呼ぶ。

以上、クニノトコタチノ神からイザナミノ神までを合わせて「神世七代」と申し上げる。

(8)

上の二柱の獨神は、各一代と云ふ。次に雙へる十神は、各二神を合はせて一代と云ふ。

上(かみ)(名)はじめ。冒頭。
各(おのおの)(名)みんな。各自。それぞれ。
ならぶ(自バ四)一列に連なる。そろう。かねそなえる。

初めの二神は一人でおのおの一代、あとのかたは二神ずつを合わせておのおの一代と申し上げている。
(蓮田善明・訳)

【参考文献】
駿台受験叢書 古典文学読解演習 古典とともに思索を』高橋正治・著(駿台文庫)
1995年度 二文.pdf - Google ドライブ
詳説日本史B 改訂版 [日B309] 文部科学省検定済教科書 【81山川/日B309】笹山晴生佐藤信五味文彦、高埜利彦・著(山川出版社
精選日本文学史』(明治書院
旺文社古語辞典 第10版 増補版』(旺文社)

『アルジェの戦い』

この週末は、ブルーレイで『アルジェの戦い』を見た。

1966年のイタリア・アルジェリア合作映画。
監督はジッロ・ポンテコルヴォ。
音楽は、『夕陽のガンマン』『続・夕陽のガンマン』『ウエスタン』『シシリアン』『エクソシスト2』『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』『アンタッチャブル』『ハムレット(1990)』の巨匠エンニオ・モリコーネ
監督は、ロベルト・ロッセリーニの『戦火のかなた』を観て映画を志したらしいが、そのことがうかがえる作風である。
僕は学生の頃、池袋の文芸坐で『戦火のかなた』を観たが(『無防備都市』との二本立て)、スゴイ映画だった。
『アルジェの戦い』は、ほぼ素人のキャストを使って撮ったという。
イタリアン・ネオ・レアリスモだな。
本作がベネチア国際映画祭で金獅子賞(グランプリ)を獲得した時、フランス代表団は、フランソワ・トリュフォーを除く全員が退席したらしい。
僕は、世界史の偏差値が29だったので、フランスによるアルジェリアの植民地支配の歴史もよく知らなかった。
さっき、世界史の教科書(『詳説世界史』)で調べたら、1830年シャルル10世が国民の不満をそらすためにアルジェリア遠征を実行して以来だという。
アルジェリア戦争アルジェリア独立は、『世界史用語集』に載っていた。
ついでに、アルジェリアの場所もよく分かっていなかったが、地図を見たら、モロッコの隣だな。
これくらいの基礎知識がないと、この映画を見ても、よく理解出来ないだろう。
昔、『カスバの女』という歌があって(実家にレコードがあった)、歌詞に「ここは地の果てアルジェリア」とあるが、本作の舞台は、まさにそこだな。
が、前置きはこれくらいでいい。
あとは、映画の力で最後まで引きずり込まれる。
僕は、本作はタイトルだけしか知らず、未見であったが、それほどスゴイ作品だ。
そして、想像していた内容とは大分違っていた。
もっと普通の戦争映画かと思っていたのだ。
モノクロ、ワイド。
1960年代後半の作品にしては、モノクロというのは珍しいが、これが効果を上げている。
記録フィルムのような迫真性を生む。
アルジェ、1957年。
パンツ1枚で座らされている中年の男。
彼を取り囲む兵隊達。
男はアルジェリア人で、ガリガリで震えている。
兵隊達は、男にフランス軍の軍服を着せる。
フランス兵のフリをして偵察をしろと命じたのだ。
泣きながら、「イヤだ!」と叫ぶ男。
しかし、抵抗しても無駄であった。
このオープニングで、本作におけるフランスとアルジェリアの力関係が一発で分かる。
フランス軍アルジェリア人の民間アパートに突撃。
住民を追い出す。
「アリ・ラ・ポワント、家を包囲した!」
数人で隠れている中心の青年がアリ・ラ・ポワントだろう。
フランス軍は、「組織は壊滅したので、無駄な抵抗は止めて出て来い」というのだ。
カリートの道』と同じように、結末を先に示す語り方。
続いて、アルジェ、1954年。
カスバのヨーロッパ人地区。
民族解放戦線(FLN)がアルジェリア人に呼び掛けている。
「フランス政府に対話を求める。アルジェリア人よ、共に闘おう!」
アリ・ラ・ポワントは街頭で賭博をしている。
警官に見付かって逃げるが、フランス人の男が嘲笑しながら足を出して転倒させる。
逮捕→連行→刑務所へ。
フランス人が住んでいる地区の立派な家並みと、アルジェリア人地区の貧しさ。
キレイな身なりをしたフランス人と、違法行為をしながら何とか生きているみすぼらしいアルジェリア人。
この対比!
刑務所では、「アラー・アクバル!」と叫ぶ男が連れて来られる。
所内のアルジェリア人達は、口々に「アルジェリア万歳!」と叫ぶ。
男がギロチン台に掛けられる。
窓のすき間からそれを見詰めるアリ。
この時代に未だギロチンがあったとは!
さすがフランスである。
本編が進むにつれて、どんどんフランス側の非人道的な行為が明らかになって行く。
5ヶ月後、出所したアリに少年が伝言する。
「カスバのカフェの主人は警察と通じている。警官を殺せ。」
アリは街頭で女から銃を渡され、フランス人警官を撃とうとするが、弾が入っていない。
命からがら逃げ、女を問い詰めるアリ。
リーダーのエル・バディ・ジャフィーは、アリに「君を信用出来るか、確かめたかった」という。
ジャフィー曰く、「警官を殺したら、フランスは必ず動く。その前に、味方を整理したい。」
アルジェリア人は、麻薬売買や売春等の不法行為で生計を立てている者が多い。
だから、まずは信用出来る人間かどうか見極めてから、組織を固めたいのだと。
何か、新左翼オルグみたいだな。
何本か見た連合赤軍の映画を思い出した。
1956年4月、FLNは麻薬・酒・売春を禁止し、違反者には厳罰を処すと決定。
アリは、昔は麻薬の取引仲間だった男を探し出し、「組織の命令だ。麻薬から手を引け」と迫るが、応じないので、その場で機関銃で射殺する。
この辺を見ていると、この組織も冷徹ではないかという気がする。
1956年6月10日、結婚式も簡略化される。
これが130年のフランス支配への抵抗の形だという。
1956年6月20日、警官を刺し、ピストルを奪うアルジェリア人の男。
警察署に突入して警官を撃つ男達。
車の中から警官に向けて発泡する男もいる。
組織が動き出したのだ。
警察署長は、「パリは警官を増やし、警備を強化しろというが、それで解決するとは思えない。」
署長は、病院に対し、「銃で撃たれた患者(アルジェリア人)の身元を報告せよ」と命じる。
組織を解明するためだ。
そして、当局はカスバを封鎖した。
道路には鉄条網が張られ、検問が行われる。
ただし、女性には触れない。
これが後に、アルジェリア側の抜け道になる。
1956年7月20日、オープン・カフェで警官を射殺する男。
街角で警官を射殺する男。
街角に隠した銃で警官を射殺する青年。
やっていることは「革命」を叫んだ連合赤軍と変わらないのだが。
連発するテロに、フランス人街では、「アラブは皆殺しにしろ!」という叫び声が上がる。
全然関係ないホームレスのじいさんがフランス人から寄ってたかってボコボコにされる。
同時多発テロの後のアメリカも、こんな感じだっただろう。
イスラムを見たらテロリストと思えと。
警察署長は秘かに対抗策を考える。
夜、部下を連れて車でテーベ街(アルジェリア人地区)へ行き、ダイナマイトを仕掛ける。
翌朝、レンガで出来たアパートは瓦礫と化し、多数の死傷者が出ていた。
必死で仲間を助け出そうとするアルジェリアの人々。
確かに、警官襲撃のテロも非道だが、それに対して、権力者側が民間人を大量に無差別で殺す。
正に、血で血を洗う戦いである。
マフィアの抗争と大差ない。
ただ、支配されている側が権力者に立ち向かうには、ゲリラ的手法しかないのも事実。
ベトナム戦争みたいだ。
アリ達は、「人殺しを許すな!」と大行進をする。
行進の波はどんどん広がりつつあったが、少年が「行っちゃダメだ! 皆殺しにされる!」と思いとどまらせる。
この恨みはFLNが晴らすという。
ジャフィーは、3人のアルジェリア人女性を美しく着飾らせ、西洋人風に変装させた。
そして、バッグの中に爆弾を持たせる。
女性なら怪しまれないからだ。
検問所で、身分証のない男性は逮捕されるが、女性はすんなりと通す。
一人目の女性は、魚市場で爆弾を受け取り、フランス人の集まるカフェへ。
植民地支配を受けた悲しさか、アルジェリア人も、フランス語は話せる。
フランス人がアルジェリア語を話すことはない。
今の日本の英語信仰は、正にこの国を自らアメリカの植民地に従っているのと同じことなのだが。
話が逸れた。
女性は爆弾入りのバッグを置いて、立ち去る。
二人目の女性はフランス人の集まるダンス・ホールへ。
生きるか死ぬかのアルジェリア人と比べて、フランス人の踊りにふける若者の優雅なこと。
三人目の女性(ジャフィーの妻)は空港へ。
30分後、3箇所で次々に爆発が起きる。
フランス人にも多数の死傷者が出た。
1957年1月10日、特命警視監より「反乱分子を一掃せよ」と、軍隊派遣の要請がなされる。
サングラスを掛け、長身のアイソップ・マチュー陸軍中佐が乗り込んで来る。
まるで、戦後日本にやって来たマッカーサー元帥のようだ。
中佐曰く、「1日平均4.2件のテロが起きているが、40万人のアラブ人のうちテロ行為を行なっている者はごく少数だ。それをあぶり出し、壊滅させる。」
中佐は、検問所を隠し撮りした映像を見る。
「この中にテロリストがいるはずだ。」
そして、組織の構造はピラミッド状になっているという。
中佐が黒板に書いた図は、ちょうどネズミ講の組織と同じだ。
末端の者は、上部の者の顔も名前も知らない。
幹部を探し出すには、尋問しかない。
さらに、「人道的配慮はしない」という。
これがヒドイのだが。
対象はカスバの全住民だ。
FLNが声明を発表する。
アルジェリア問題が国連総会の議題に上る。我々は勝利した。国際社会に訴えるために8日間のゼネストを行う。その間の攻撃は中止する。我々の団結力を示せ。」
「我々は勝利した」というのは、安田講堂の時計台から山本義隆も叫んだ言葉だが、全共闘は勝利しなかった。
違いは、一般国民を巻き込むことが出来たか否か。
民族の独立というのは、イデオロギーじゃないんだな。
カスバの全住民がゼネストに参加し、街は静まり返った。
これによって、フランスの敵は、ごく一部の組織分子ではなく、アルジェリア人全体になってしまったのだが。
さあ、これからどうなる?
後半は、いよいよ戦いが泥沼化する。
フランス軍は、アルジェリア人の組織をサナダムシに例える。
末端を幾ら切っても、頭(リーダー)が残っていれば、組織は再生するというのだ。
フランス軍は、組織の幹部を聞き出すために、拷問を行う。
更に、一般市民に平気で発泡する。
残虐行為を行なったのは、ナチスだけじゃないということだ。
最後に、冒頭のアリが隠れている所へフランス軍が突入して来るのだが。
何と、フランスの将軍が「見物」に来るんだな。
人の命を何だと思っているのだろう。
この映画は、終始ドキュメンタルで、感傷的な表現はない。
一方的に、お涙頂戴のように、アルジェリア人側に感情移入させるような描き方はしていない。
だからこそ、支配者側の残虐性が、よりリアルに浮かび上がって来るのだが。
本作を見ると、日本はつくづく平和だと思う。
でも、沖縄を見れば、本作と同じ問題を抱えていることが分かるはずなのだが。
ベネチア国際映画祭金獅子賞受賞。

La battaglia di Algeri - Trailer

『幸福な生活について』を原文で読む(第1回)

先日、『ガリア戦記』に続いて、『スキーピオーの夢』のテキストも読了しました。
TOEIC0点という、全世界で最低レベルの語学力しかない僕が、ラテン語の読解テキストを2冊も読み終えたのは、我ながら奇跡的です。
思い起こせば、僕の在籍していた学部には、初級から始まって、中級、上級とラテン語の講座がありました。
初級のクラスですら、数十人が選択しても単位を取得出来るのは数人だったそうですから、果たして上級までたどり着く学生がいたのでしょうか。
シラバスに載っているだけで、実は開講されていなかったのではないかなどと邪推していますが。
もちろん、選択しなかった僕には分かりません。
僕が在籍していた95年度のシラバスによると、プリニウスの『博物誌』やカトゥルスの詩を読んだようです。
それはさておき、自分で読もうとする場合、現在の日本で流通しているラテン語の読解テキストは、前述の『ガリア戦記』と『スキーピオーの夢』のほかには、大学書林から出ている2冊しかありません。
そのうち、僕はセネカの『幸福な生活について』を選びました。
語学は、少しでも触れていないと、忘れてしまうので。
セネカについて
セネカは、高校世界史の教科書にも出て来るので、名前くらいは知っている人も多いのではないかと思います。
ちなみに、『詳説世界史』には、次のように書かれています。

哲学の分野ではとくにストア派哲学の影響が強く、その代表者であるセネカエピクテトスの説く道徳哲学は上流階層に広まった。

では、セネカとはどのような人物だったのでしょうか。
『世界史用語集』(山川出版社)には、次のようにあります。

セネカ Seneca⑤前4頃~後65 ストア派哲学者で詩人。ネロの師となり、ネロ即位後は政治に関与。65年に自殺を強いられた。多数の悲劇作品や道徳書簡を残した。

これだけではよく分からないので、『はじめて学ぶラテン文学史』(ミネルヴァ書房)を引いてみましょう。

ルーキウス・アンナエウス・セネカ(Lucius Annaeus Seneca. 前4頃-後65)
セネカ。スペイン、コルドゥバ出身。騎士階級の生まれで、ネロー帝の家庭教師を務め、帝即位後は絶大な権力と財を手にするが、最後はそのネローの命令により自殺を強いられた。偽作とされる作品も含めて10編の悲劇の他、「倫理論集」と総称される哲学的著作12編、『倫理書簡集』122通、『自然研究』全5巻が伝存する。

余談ですが、僕の在籍していた学部には、フランス文学史、ドイツ文学史ロシア文学史のクラスはありましたが、ラテン文学史はありませんでした。
それはともかくとして、ラテン文学史のテキストにも、この程度の記述しかありません。
困りましたね。
そこで、『幸福な生活について』を収録している、『生の短さについて 他二篇』(岩波文庫)の「解説」を見てみましょう。
ここには、かなり詳しくセネカの生涯が記されています。

セネカ(Lucius Annaeus Seneca)はスペインのコルドゥバ(現在のコルドバ)の裕福な騎士身分の家に三人兄弟の次男として生まれた。生年については確証がないが、前四年から後一年の間というのが最も蓋然性が高い。父はのちに息子たちの求めに応じて仮想演説集成とも言うべき弁論の指南書『論判演説集』、『説諭演説集』を著した修辞学者(同姓同名で、大セネカと通称)で、母はヘルウィア。兄ノウァートゥスは、後年改名し、アカイア総督ガッリオー(一般にはガリオ)の名で聖書(『使徒行伝』一八・一二)にも登場する。弟メラは叙事詩人ルーカーヌスの父。セネカ自身は、おそらく教育や将来のために、生後まもなく叔母の腕に抱かれてローマへ移り、青年期には、ローマの有為な青年の例に漏れず、兄とともに「中央広場(=法廷=弁論家)と名誉ある公職の道を歩む準備をして」(大セネカ『論判演説集』二・四)、弁論術や法律などを学ぶが、「経験していない病気はない」(『倫理書簡集』五四・一)と述懐するほどの生来の蒲柳の質から、むしろ好んでピュータゴラス派のソーティオーンやストア派のアッタロス、またストア哲学にピュータゴラースの思想を加味して独自の哲学をローマで唱導していたセクスティウスの弟子ファビアーヌスなどに師事して、哲学に傾倒した。

三十歳前後(二五年頃)には、喘息とも肺結核ともされる病が昂じ、エジプトの叔母のもとで五年余の療養生活を余儀なくされた。

事情は不明ながら、叔父ガレーリウスのエジプト領事離任にともなって帰国の途についたが、難船し、叔父は溺死したものの、セネカ自身と叔母は危うく難を逃れた(三一年)。その後、叔母の支援を得て、「名誉ある公職の階梯(cursus honorum)」の第一段階の財務官に当選し(三四/三五年頃)、数年後には次の階梯の公職(造営官もしくは護民官)に就任、順調に名誉の階梯を昇った。この頃までにはすでに弁論家として、また著作家として名声嘖々たるものがあったらしい。元老院議会に列席し、見事なセネカの演説を聴いていた皇帝カリグラがその才に嫉妬してか、危惧を抱いてか、セネカを亡き者にしようとしたという先述の出来事はこの時期のものである。セネカは捨て置いても肺病で余命幾許もないという愛人の取りなしをカリグラが聞き入れたため、セネカは事なきを得た。
その後の十年ほどは不幸の連続であった。三九(もしくは四〇)年の父の死、四一年の一人息子の死、二十日も経たないその直後の、生涯最大の危機――コルシカ島への流刑――である。この年、帝室では狂帝カリグラが暗殺され、クラウディウスが帝位を継いだが、その妃で、希代の悪女メッサーリーナが画策した帝室の陰謀に巻き込まれ、セネカはカリグラの姉妹ユーリア・リーウィッラとの姦通の嫌疑をかけられた。

にもかかわらずセネカは断罪された。もっとも、姦通罪は極刑の可能性があったものの、なぜかクラウディウス元老院に「宥恕を請い……命乞いまでしてくれた」(同一三・二)おかげで、財産没収をともなわない追放(relegatio)に減刑された。しかし、死一等を減じられたとはいえ、流刑地コルシカ島は、セネカの記すところ、「丸裸」で「不毛」で、「野蛮」で「気候不順」な「荒蕪の地」である。その環境は劣悪、惨めなものだったに違いない。しかも一人息子を亡くした直後、将来を断たれたセネカにとって、精神的状況はなおさら厳しかったであろう。

流刑は八年余の長きに及んだ。

苦難の転機は四九年に訪れる。その前年、メッサーリーナが姦通罪で処刑され、カリグラの姉妹アグリッピーナクラウディウスの後妻に迎えられた。彼女の連れ子ルーキウス・ドミティウス・アヘーノバルブスがのちの皇帝ネローで、彼女は、セネカの輝かしい学識と名声を買い、流刑赦免に尽力して、セネカを少年ネローの師傅として迎えた。この年、セネカは予定法務官にも任ぜられ、翌々年には兄もアカイア総督となり、再びセネカ家にも光が射し始める。五四年、クラウディウスが死去する。ネローにはブリタンニクスという、クラウディウスと先妻メッサーリーナの子で、帝位を争う強力なライヴァルがいたが、ネローを溺愛するアグリッピーナがわが子を皇帝にという歪んだ愛から毒殺したというのが真相らしい(スエートーニウス『皇帝伝』「クラウディウス」四四以下、タキトゥス年代記』一二・六六以下、ディオーン・カッシウス『ローマ史』六〇・三四・三以下参照)。

ネローの師となったセネカはネローを善導し、クラウディウスの死後、アグリッピーナの思惑どおりネローが皇帝になってからも、補弼的存在として、盟友の近衛隊長ブッルスと図り、のちに「ネローの五年」と讃えられる善政を実現させた。

その「ネローの五年」のあとの、セネカのネローに対する影響力の低下、ネローのセネカからの離反は、ネローが自我に目覚め、本性へと向かって自立志向を強めていく過程と軌を一にしている。母や、かつての師の容喙を疎み、ネローは二人と次第に距離を置くようになっていった。母子のあいだにはすでに、ネローによるブリタンニクス毒殺(五五年)以来、互いへの不信感から、陰に陽に凄まじい角逐が始まっていたが、ネローがポッパエアという愛人を作ったことで破局は決定的となり、ポッパエアに唆されたネローはついに刺客を送って母親を暗殺するに至る(五九年)。

ネローの犯罪は母殺しのみにとどまらなかった。妻のオクターウィア(クラウディウスとメッサーリーナの娘)を離縁、あまつさえ反逆と姦通の罪を着せて処刑までしている(六二年)。二年後の六四年には「ネロー放火犯説」の消えないあのローマの大火があり、それに続く、ペテロ、パウロの殉教をはじめとするキリスト教徒のおびただしい迫害死、その他名もなき人々の無数の死があった。

六五年、大火のあとの騒然としたローマで、ネロー暗殺を謀るピーソーの計画が発覚し、事実上の隠棲生活を送っていたセネカではあるが、陰謀連座の嫌疑で捕えられ、ネローによって自決を命ぜられた。これには、暗殺計画の象徴的存在がセネカの甥の詩人ルーカーヌスであったという事情も大きく作用したであろう。セネカの自決は難渋し、まず血管を開き、さらに毒人参を仰ぎ、最後は熱湯の湯に浸かっての絶命だったという(同一五・六二―六四)。

壮絶な生涯ですね。
『幸福な生活について』について
『幸福な生活について』は、『詳説世界史』の「ローマ文化一覧表」にも載っているので、名前くらいは知っている人もいるのではないかと思います。
しかし、読んだことがあるという人は滅多にいないでしょう。
では、どのような作品なのでしょうか。
『詳説世界史』に載っているのはタイトルだけです。
『はじめて学ぶラテン文学史』には、タイトルすら出て来ません。
仕方がないので、また『生の短さについて』の「解説」から引用します。

本編は導入部(第一―二章)を除けば、ほぼ前半部(第三―一六章)と後半部(第一七―二八章)に分かれる。前半部は、「英知とは自然に悖らないこと、自然の理に従い、自然を範として自己を形成すること」というストア派の根本的な真理を示した上で、幸福、自然、理性、精神(魂)、善=徳の概念をめぐり、さまざまな角度からその関係性、そのあり方や定義が行なわれたあと、エピクーロス派の想定問答者を相手に、前半部の中心的主題である「徳と快楽」の問題が論じられ、徳こそ唯一の善(最高善)であり、それが精神(魂)の中にあることが示される。後半部は、理想の賢者、最高善を険峻な山に喩え、それを目指す者を誹謗中傷する者たちの不当さ、その無知と無自覚、無謀と悪意を指弾する前段(第一七―二○章)と、言行不一致の例として挙げられる富を象徴とする「外的な善」の位置づけの問題が論じられる後段(第二一―二六章)に分かれ、そのあとソークラテースの仮想の言葉に託して再び誹謗者たちの無自覚を叱責し、彼らを待ち受けている嵐に警鐘を鳴らす短い終章(第二七―二八章)が続く構成となっている。

難しそうですね。
僕は、『ツァラトゥストラ』も『善の研究』も途中で挫折したほど哲学の素養が全くないので、着いて行けるか自信がありません。
ただ、『生の短さについて』の「解説」によると、セネカの文体は「長文、複文をできる限り避け、論理の流れを示す繋辞を極力排する」「簡潔で力強い」ものだということなので、それを信じて挑戦してみます。
テキストについて
『幸福な生活について』のテキストは、前述のように大学書林から対訳が出ています。

幸福な生活について (大学書林語学文庫 3011)

幸福な生活について (大学書林語学文庫 3011)

初版は昭和37年。
訳注は山敷繁次郎氏。
本書の「はしがき」を少し引用してみます。

日本語を知らないのを承知でできるだけ直訳を試み、その間に学び知ったラテン文法上の断片的な知識を本文にあてはめ、自分で勝手に納得して作ったメモ、そのメモから適当に抜きとったのが本書の脚注です。ラテン語のことは何一つ知りませんので誤解、誤訳だらけだろうと心配しています

随分と自虐的ですね。
天下の大学書林からラテン語のテキストを出しておきながら、「ラテン語のことは何一つ知りません」はないでしょう。
本書は、左ページに原文、右ページに日本語訳、ページ下に脚注という、一般的な対訳本の構成になっています。
脚注は申し訳程度です。
原文には、『ガリア戦記』や『スキーピオーの夢』のテキストのようにマクロン(長音記号)が付いていないので、辞書を引く時、自分の頭の中で補完しなければなりません。
その点が、上級者向けと言えるでしょう。
どのくらいのペースで読み進められるか分かりませんが、頑張って読破したいと思います。
次回以降は、例によって、僕の単語ノートを公開するつもりです。
【参考文献】
1995年度 二文.pdf - Google ドライブ
詳説世界史B 改訂版 [世B310]  文部科学省検定済教科書 【81山川/世B310】』木村靖二、岸本美緒、小松久男・著(山川出版社
世界史用語集 改訂版』全国歴史教育研究協議会・編(山川出版社
はじめて学ぶラテン文学史 (シリーズ・はじめて学ぶ文学史)』高橋宏幸・編著(ミネルヴァ書房
生の短さについて 他2篇 (岩波文庫)セネカ・著、大西英文・訳