『コンドル』

この週末は、ブルーレイで『コンドル』を見た。

コンドル [Blu-ray]

コンドル [Blu-ray]

1975年のアメリカ映画。
監督はシドニー・ポラック
彼は『愛と哀しみの果て』でアカデミー賞を獲った。
ロバート・レッドフォードとよくコンビを組んでいる。
製作総指揮はイタリアの大プロデューサー、ディノ・デ・ラウレンティス
主演はロバート・レッドフォード
彼は民主党支持で、体制を常に批判する側であったから、70年代後半には、やたら政治色の強い映画に出ていた。
多くの作品で実質的には製作に強く関わっているのだから、彼自身の意向と言える。
いちばん有名なところでは『大統領の陰謀』か。
レッドフォードが出ている作品以外にも、この頃は『ネットワーク』とか『チャイナ・シンドローム』とか、サスペンスの形態を取りつつ社会を批判するような骨太の作品がたくさんあった。
この傾向は、日本映画でも同じである。
70年代の映画監督なんて、基本的にみんな左翼だった。
当時のキネマ旬報ベストテンに選ばれた作品を見ると、大抵何かしらの政治的主張がある映画だ。
映画業界全体が「反体制」であった。
しかし、世の中どこでどう間違ったのか、80年代半ば頃から、社会派の映画などほとんど姿を消してしまい、軽薄短小なパープリン映画ばかりになってしまった。
昨今など、格差社会が進行し、底辺に置かれる人達が増えているのに、彼らの多くは「ネトウヨ」などと言われて、体制に尻尾を振る犬と化している。
確かに、民主党政権があの体たらくだったから、今や左派などというのは諸悪の根源のような扱いだが、体制を批判する勢力が消えてしまったら日本の民主主義は一体どうなるのか。
今こそ、映画人は下痢ピーや橋の下を徹底的に糾弾すべきなのに、日本バカデミー賞など、桐島が部活をやめる映画が最優秀賞を受賞する始末である。
こんなの、単なる業界人の互助会に過ぎない。
「いや、見もしないで批判するな。これは素晴らしい作品だ」などとのたまう輩もいるが、人生は短いのだ。
何が悲しくて、桐島が部活をやめる映画を見るために時間とカネを費やさなきゃならん。
ハリウッドはハリウッドで、「日本よ、これが映画だ!」などと上から目線で押し付けて来るのは、全編CGだらけで内容の全くないバカ映画しかない。
もう、映画が文化だった時代は終わったのだ。
ああ、話がそれてしまった。
ヒロインはフェイ・ダナウェイである。
彼女も、60年代後半から70年代の重要な作品に出まくっている。
ただ、本作での彼女はどうだろう。
先週見た『華麗なる賭け』ほどファッションショーではなく、普通の女性を演じてはいたけれど、彼女の役に必然性はあるのか。
男臭い映画に花を添える役割だったとは言えないか。
誘拐されるのはいいとして、彼氏がいるのに、その誘拐した相手にいきなり体を許すとはどういうことか。
まあ、そうしなければ、彼女がその後、協力するという展開にはならないかも知れないが。
マックス・フォン・シドーの殺し屋は渋かった。
エクソシスト』の神父はえらい爺さんだと思ったが、あれは老けメイクだったんだな。
さて、本作はCIAという組織の腐敗堕落を描いている。
こんなものがアメリカでは合法的に活動しているというのが信じられない。
本作はフィクションだが、あながち荒唐無稽な話でもないらしい。
CIAの局員は普段、身分を隠して生活している。
主人公のコンドル(ロバート・レッドフォード)は、アメリカ文学史協会というところ(もちろん、カムフラージュ)で、各国の雑誌や書籍を収集し、分析している。
彼は、色んな語学にも関心が深いようで、漢字の研究なんかもしている。
ところが、ある日の昼間、突然武装した男たちに襲撃されて、ここにいた職員は全員射殺されてしまう。
コンドルだけは、たまたま裏口から昼食のサンドイッチを買いに行っていたため、難を逃れるが、この後、延々と追われる羽目になる。
頼りになるはずの組織の上司は何だか怪しく、どうやら、これはCIAの組織ぐるみの犯行であり、何らかの理由で彼らの存在が邪魔になり、この世から抹殺されることになったようだと分かる。
中盤までは、なかなかサスペンスフルな展開で、「どうなるのだろうか」と固唾を飲みながら見てしまうのだが、前述の、フェイ・ダナウェイとのベッドシーン辺りからちょっと甘くなる。
組織内で対立が起きていて、ややこしいことになっているようだが、この辺の説明も、ちょっと足りない感じ。
CIA全体に中東の石油絡みの利権があり、その核心に触れてしまう危険があったコンドルが狙われたというのは、着想としては非常に面白いのだが。
政府もマスコミもみんなグルで、コンドル一人が巨悪に立ち向かおうとしても、どうにもならないという絶望感だけは伝わって来るが。
娯楽映画か社会派映画にするか、見極めが甘かったような気がする。
全体としては、やや惜しい。
もちろん、問題作なのは分かる。