『華麗なる賭け』

この週末は、ブルーレイで『華麗なる賭け』を見た。

1968年のアメリカ映画。
監督はノーマン・ジュイソン
主演は、我らがスティーヴ・マックイーンフェイ・ダナウェイ
編集に、監督になる前のハル・アシュビーが関わっているんだね。
オープニングには、ちょっとシャンソン調のメロディアスな主題歌が流れる。
ノエル・ハリソンの「風のささやき」。
この年のアカデミー賞主題歌賞を受賞している。
いい曲だ。
冒頭、デブのセールスマンが謎の部屋に呼び出され、強烈なライトで部屋にいるのが誰かも分からないまま、銀行強盗の指令を告げられる。
前半はサスペンス・タッチで非常に緊迫感があって良い。
銀行襲撃を命じられた数人のメンバーそれぞれの動きを、分割画面で同時並行的に写し出す。
今ではよく見られる演出だが、当時は斬新だったのだろう。
黒幕のトーマス・クラウン(スティーヴ・マックイーン)は大富豪。
何の仕事だか分からないが、実業家でもある。
普段は男臭い役ばかりのマックイーンが、スリーピースのスーツを着て、葉巻をくゆらせながら、ブランデーグラスを傾けたりする。
嫌味なほどキザだ。
これを「似合わない」と言う人も多いが、僕はそうは思わない。
さすが大スターだけあって、何をやっても様になる。
彼は余暇には、賭けゴルフやらポロやらチェスやらに興じ、グライダーを乗り回したり、オープンカーに若い愛人を乗せて海岸を走り回ったり、まあ、優雅な暮らしをしている。
この時代の日本人にとっては、遠い異国の大スターが、こんな浮世離れした生活をしているのを見ながら、ただ憧れを募らせたのだろう。
こんな何不自由ない暮らしをしながら、彼は裏で銀行強盗なんぞを企画する。
マックイーンで銀行強盗と言えば『ゲッタウェイ』もあったが、本作では、自分は電話で指令をするだけで、直接手は下さない。
しかし、完璧な計画通りに事は運ばれ、白昼堂々、大都会の銀行から260万ドルもの現金が奪われる。
しかも、小額紙幣ばかりなので、番号も不明。
トーマス・クラウンは、冒頭に出て来た運転手役のデブのセールスマンが郊外の墓地のゴミ箱の中に現金袋を入れて立ち去った後、これを取りに来て、まんまと現金を手に入れるのだ。
全てが完璧で、手掛かりも何も残されていない。
警察もお手上げである。
ただ、デブのセールスマンがひたすらオドオドと挙動不審に振る舞っているので、彼から足が付くのではないかという不安は抱かせる。
この辺りまでは、犯罪サスペンスとして非常によく出来ている。
ところが、若くて美人で頭が切れる保険調査員ビッキー・アンダーソン(フェイ・ダナウェイ)が出て来てから、展開がおかしくなる。
彼女は、常にイイ男を物色している。
トーマス・クラウンにも、イイ男として目を付ける。
しかしながら、その一方で、彼女の鋭いカンで、何故か今回の銀行強盗の犯人は彼だと、すぐにピンと来るのである。
ここは、ちょっと展開が早過ぎるし、説明も足りない。
そして、彼に「犯人はあなたね」と問い詰めると、もちろん彼は否定するのだが、通常なら、ここから、いつ、如何にして彼が犯人であることが証明されるのかに焦点が移るのが、犯罪サスペンスの定石だろう。
でも、本作はそこが曖昧なのである。
途中から、完全にフェイ・ダナウェイのファッションショー(毎度違った派手な衣装で登場する)とお色気混じりの、エセ恋愛映画になってしまう。
そうなると、前半、第一級の犯罪サスペンスを予感させていたのが、一気に失速して、見る方は興醒めしてしまうのだ。
で、彼女は犯人を追い詰めなければいけない立場なのに、彼を愛してしまい、心が揺れるという、まあ、ありがちな安っぽい2時間ドラマのように…。
けれども、彼女の心の揺れの描き方も何だか中途半端。
ラストは、ここには書かないけれども、予想通り。
前半が良かっただけに、かなり残念だ。
期待外れな一本と言えよう。
細君などは激怒していた。
スティーヴ・マックイーンフェイ・ダナウェイの出ている作品は何本も見たが、本作は、典型的な「最初にキャスティングありき」の映画だろう。
とは言っても、やっぱりマックイーンはカッコいいけどね。