『カラスの飼育』

この週末は、ブルーレイで『カラスの飼育』を見た。

1976年のスペイン映画。
監督はカルロス・サウラ
主演はアナ・トレント
彼女の『ミツバチのささやき』と並ぶ代表作だな。
ミツバチのささやき』は、学生の頃、ビクトル・エリセ監督の『マルメロの陽光』が公開された時に、どこかのミニシアターで『エル・スール』との2本立てを観た。
不思議な映画だったが。
彼女は目に独特の力があるが、子役で印象が強過ぎると、その後はなかなか難しいな。
で、『カラスの飼育』の共演は、『ドクトル・ジバゴ』のジェラルディン・チャップリン
チャップリンの娘である。
カラー、ワイド。
悲しげな音楽が流れた日。
アルバムに貼られた何枚もの写真。
「私が生まれた日」
「彼女は私だった 空(くう)の空(くう)…」
「母と私」
「いつも口が開いているマイテ」
夜、家の中。
愛人を連れ込んでいる父。
9歳のアナ(アナ・トレント)は目覚めて、階下へ。
愛人であるアメリアと鉢合わせする。
逃げるアメリア。
昼になって、父がベッドの上で死んでいるのをアナが発見する。
飲み残しの牛乳が入っているグラスを洗うアナ。
これが重要な伏線。
死んだはずのアナの母親マリア(ジェラルディン・チャップリン)が気付く。
本作は、母親役のジェラルディン・チャップリンが20年後のアナと二役を務めており、回想のような形式を取りながら、時間を行き来する。
これが、本作が評価された要因の一つ。
寝室でモルモットを飼っているアナ。
寝る。
彼女には、11歳の姉イレネと、5歳の妹マイテがいる。
朝、髪の毛をお手伝いのロサにとかされる三姉妹。
アナは、亡くなったマリアの十字架を着けている。
「ママはもういない。」
父親の葬式が行われている。
職業軍人だったので、軍人が多数、参列している。
姉妹は順に、父親の亡骸にキスをするよう促されるが、アナは拒む。
そこへ、アメリアがやって来る。
彼女は父親の知人ということになっているので、普通に葬式にも来るのであった。
アナと目が合う。
しかし、視線を避けるアナ。
晴れの日の外。
車椅子の祖母の傍にいるアナ。
祖母は喋れない。
屋上から、もう一人のアナが飛び降りる幻影。
『ベルリン天使の詩』みたいな目線。
アナ、物置へ。
缶に入った白い粉を舐める。
ペッ。
彼女は母親から、これは毒であると教えられていた。
20年後のアナ(ジェラルディン・チャップリン)の回想。
母は病死した。
原因は父。
母には音楽の才能があった。
ピアニストであったが、父と結婚して、家庭を選ぶ。
朝、三姉妹の食卓。
ナイフとフォークもロクに使えない姉妹達。
自転車泥棒』みたいだ。
叔母のパウリナがいる。
厳しいパウリナに険悪な雰囲気の三姉妹。
「お父さんの遺言により、私があなた達を教育します。」
お手伝いのロサは、アナに「お父さんは女に手が早かった」と話す。
自分も手を出されたことがあるらしい。
ムチムチのおばさんなのだが。
ここで回想。
父親がロサにちょっかいを出している場面に、マリアが出くわす。
これはちょっと可哀そうだな。
結婚しても他の女に手を出す男はイカン。
で、現在に戻り。
三姉妹が部屋で遊んでいる。
イレネは雑誌の切り抜きをしてスクラップ帳に貼っている。
アナはドーナツ盤のレコードをかける。
パウリナはお出掛け。
うるさいのがいなくなって、羽を伸ばす三姉妹。
一緒に踊る。
階下では祖母が独りぼっち。
アナが降りて相手をする。
イレネが「リサーチをしよう」と言い出して、パウリナの洋服やら下着やらを取り出して試着する。
化粧も。
ああ、年頃の女の子が如何にもやりそうなことだ。
イレネはヒゲを描き、アナと二人で、パパとママの夫婦ゲンカを再現。
子供は細かいところまでよく見ているな。
まあ、本作は、アナが如何に自分の周囲を子供ながら冷徹に見ていたかということなのだが。
で、マイテの入浴シーン。
これは、現在の日本の法律では児童ポルノということになってしまう。
カンヌで賞まで獲った作品を児童ポルノ扱いとは。
国家権力に断固抗議する!
で、パウリナが帰宅する。
アナは、アメリアがパパのベッドにいたと話すが、パウリナは信じない。
アナとパウリナの信頼関係のなさ。
二人の対決が冷ややかで恐ろしい。
子供をナメてはいかん。
で、20年後のアナの回想。
「子供時代が幸せとは思わない。母は当時、不治の病で寝込んでいた。妹と姉は叔父・叔母夫婦の所にいた。」
マリアがベッドでうめいている。
おそらく、末期ガンであろう。
僕も母親をガンで亡くしているので、よく分かる。
「死にたくない。」
夜、眠れないアナ。
階下におりると、マリアが書き物をしている。
「何時だと思ってるの。」
「ピアノを弾いて。」
「うん。」
母親の弾くピアノの甘美な調べを聴きながら、アナは寝てしまう。
そこへ父親が帰宅。
病気のマリアを放ったらかしにして夜遊び。
どうせまた女遊びだろう。
妻のことを思いやらず、話しを聞こうともしない。
険悪な雰囲気から、またケンカに。
「死にたい」とマリア。
さあ、これからどうなる?
まあ、本作は、言ってみれば、単なる家族間の人間関係を描いたドラマなのだが。
上に書いたような時間を自在に行き来する映画的語り口、子供の冷徹な目線、全体に鬱々と流れる「死」のトーンが評価された理由だろう。
あと、主演のアナ・トレントの幼いながらの強烈な存在感。
まあ、大人の男が本作が好きだと公言すると、ロリコン扱いされてしまいそうだが。
カンヌ国際映画祭審査員特別グランプリ受賞。

CRIA CUERVOS (Carlos Saura, 1976) Trailer