『明日に向って撃て!』

この週末は、ブルーレイで『明日に向って撃て!』を見た。

1969年のアメリカ映画。
言うまでもなく、アメリカン・ニューシネマの代表作の一つである。
監督はジョージ・ロイ・ヒル
舞台は19世紀末のアメリカ。
西部劇ということになっているが、あまりそういう感じはしない。
実在の銀行強盗ブッチ・キャシディポール・ニューマン)とサンダンス・キッドロバート・レッドフォード)の物語(ただし、かなり脚色されているらしい)。
二大スター夢の共演である。
もっとも、レッドフォードは当時まだ無名で、本作の大ヒットにより、スターの仲間入りを果たすのだが。
極めてコミカルなトーンでストーリーは進む。
二人の悪党の性格の描き分けがよくできている。
頭脳派のブッチと、早撃ちのサンダンス。
お互いの短所を補い合い、二人はこの上ない名コンビだ。
しかし、ワル仲間であるから、実は相手の素性すら知らない。
彼らの名は、もはや全米に轟き渡っている。
ある時、彼らは他の悪党仲間と組んで、列車強盗を企てる。
このシーンは、派手な爆破やアクションもあって、なかなかの見せ場だ。
同じ列車を二度襲ったことによって、鉄道会社の社長の恨みを買い、彼らを仕留めるために編成された最強の保安官のグループに追われる羽目になる。
広大なアメリカの大自然の中を馬で逃げる二人。
かわしてもかわしても、追手は、どこまでもしつこく食い下がって来る。
この逃走が長く続くが、ワイドスクリーンを最大限に生かした、素晴らしいカメラ・ワークである。
アカデミー撮影賞も納得だ。
これは、チンケなテレビ画面で見たのではもったいない。
二人が崖の上から急流に飛び込み、流される場面もスゴイ。
とにかく、CGなんぞない時代であるから。
地元の保安官と裏でつながっていたりして、彼らを取り巻く人間模様も面白い。
そして、二人は追手から逃れるべく、サンダンスの恋人エッタ(キャサリン・ロス)を連れて、南米のボリビアへ向かうことにする。
エッタは教師だったが、職を投げ打って、彼らと行動を共にする決意をする。
途中で立ち寄ったニューヨークは大都会。
セピア調の静止画が延々と続くが、やがて、希望を胸に抱いた3人が列車でボリビアのとある駅に降り立った時、アメリカとのあまりの落差に愕然とする。
そこはド田舎だった。
駅はボロボロ。
駅前は、歓楽街のはずなのに、ブタが放し飼いになっている。
肌の浅黒い、英語の通じない貧民たち。
盗んだ金で着飾っているブッチたちとは大違いである。
ハンサムな主役の二人とみすぼらしい現地民の見事なコントラスト。
白人アメリカ人から見れば、スペイン系の移民など、見下す対象でしかない。
彼らは、銀行強盗で稼ごうとするが、言葉が通じない。
教師であったエッタが、ブッチとサンダンスにスペイン語を教える。
「俺たちは強盗だ!」「手を挙げろ!」と、紙切れを見ながら叫ぶのは笑える。
だが、悪事は長くは続けられない。
エッタは、呆れてアメリカへ帰ってしまう。
二人は、とうとう足がついて、警察に囲まれる。
見下していた連中なのに、立場が逆転するのだ。
さらに、軍隊までも出動。
軍隊は国家権力の象徴だ。
たった二人の小悪党のために、国家権力が大挙して押し寄せて来るのである。
誠に許し難い。
僕は思わず右手に拳を握り締めて振り上げた。
僕にとって、国家権力は絶対的悪である。
原発を再稼動させて日本人を集団自殺させようとしているsengokuや、消費税を上げることしか眼中にないドジョウには、どれだけハラワタを煮えくり返らせても足りない。
権力者どもは万死に値する。
また話がそれてしまった。
とにかく、これまで、さんざん二人に感情移入させておいて、この展開は秀逸だ。
しかも、勝手の分からない異国の地である。
彼らは、起死回生のために、正に必死で「明日に向かって撃つ」。
原題は『Butch Cassidy and the Sundance Kid』だが、これを『明日に向かって撃て!』という邦題にしたのは正解だった。
設定の似ている『俺たちに明日はない』と混ざりそうだが、テイストは大分違う。
ラストの『大人は判ってくれない』ばりのストップ・モーションは、映画ファンたちの語り草になっている。
主題歌の『雨にぬれても』は、誰もが一度は耳にしたことのある名曲。
この曲が流れる時に、雨は降っていないのだが。
アカデミー賞脚本賞、撮影賞、作曲賞、主題歌賞受賞。