『サイコ』

この週末は、ブルーレイで『サイコ』を見た。

サイコ [Blu-ray]

サイコ [Blu-ray]

1960年のアメリカ映画。
監督はアルフレッド・ヒッチコック
この映画は面白い。
実際にあった事件を元にしている。
いわゆるサイコ・サスペンス映画の元祖である(サイコ・スリラーとかサイコ・ホラーとか、このジャンルにも色々あるらしいが、細かい定義はよく分からん)。
まあ、作品の性質上、あまり詳しくストーリーを書いてしまうのは問題だろう。
本作の公開時、途中入場と結末の口外が禁止されたとも聞くし(その上、ネタバレを防ぐために、スタッフ総出で原作を買い占めたとか…その甲斐あってか映画は大ヒット)。
だから、詳細は書かないが、とにかく冒頭から緊迫感の盛り上げ方が抜群にうまい。
映画が始まると、そのまま画面に釘づけになる。
さすが、ヒッチコックは「サスペンス映画の巨匠」と呼ばれるだけある。
ヒロインのマリオン(ジャネット・リー)は街の不動産屋に10年以上真面目に勤めている。
恋人のサム(ジョン・ギャビン)は、前妻への扶養費を払わなければならないので、結婚に踏み切れない。
二人は、サムが出張の時、マリオンの昼休みにホテルで密会することしかできない。
ある日、不動産屋に4万ドルの物件を現金で買うという客が現れる(軒先にちらっとヒッチコックが写っている)。
その日は金曜日。
客のカネを「銀行に預ける」と言って店を出たまま、マリオンは逃避行を企てる。
しかし、車で逃げる時に、不動産屋の社長に顔を見られてしまう。
さあ、どうする?
ドキドキするね。
身元が割れないように車中泊をしていたら、マッカーサーハードゲイみたいな警官に職務質問される。
若い女性が何もない場所で車の中で一人で寝ていたら、そりゃ明らかに怪しいわな。
ヒッチコックは不安な心理を表現するために、人物のアップを多用する。
テンポのいいカット割り。
不協和音満載の音楽。
マリオンは中古屋で車を取り換えるが、警官はずっとつけて来る。
彼女は場末のモーテルに泊まる。
新道が出来たため、この旧道沿いの宿には客が誰も来ないらしい。
宿を経営する青年ノーマン(アンソニー・パーキンス)は、彼女に好意を持ったようだが、息子と若い女との接触を嫌う母親が彼を罵倒する。
ノーマンは、鳥のはく製を作るのが趣味で、友達もおらず、精神病の母親の面倒を一人で見ている。
マリオンとノーマンは事務所の応接で一緒に食事をするが、どうにも息苦しい雰囲気が漂う。
そして、その夜。
シャワーを浴びていたマリオンは、何者かに刃物でメッタ刺しにされて死亡。
このシャワーシーンは有名だ。
昨今の映画のように、これ見よがしに切っている様子を描写したりしないが、カメラと小刻みな編集と音楽の効果で、とにかく怖い。
切り付けるザクッ、ザクッという音が未だに耳から離れない。
モノクロの画面に流れる血は、チョコレートソースなのだそうだ。
その方が濃く見えるからだろうか。
彼女は誰に殺されたのか。
去って行ったのは女のようだ。
嫉妬に狂ったノーマンの母親か?
ノーマンは、母親の殺人の証拠を消すために、マリオンの死体を荷物と一緒に車に乗せて、沼に沈める。
怪しんだ探偵(マーティン・バルサム)が動き出す。
あらすじを話すのはこの辺で止めておこう。
ここまでで半分くらいである。
前半は、会社のカネに手を付けたマリオンが如何にして逃げるかにフォーカスを当てているが、彼女が殺されてしまい、後半は一転、犯人探しへと移る。
ヒロインが中盤で死んでしまうのはちょっと驚きだが、作品の焦点のこの切り替えは鮮やかだ。
さて、主演のアンソニー・パーキンスが亡くなったのは92年なので、僕は浪人中だったが、死因がエイズということでセンセーショナルに騒がれたのを覚えている。
ジョン・ギャビンは『スパルタカス』でジュリアス・シーザー役だったなあ。
ちょうど同じ頃の作品だと思うが、あっちの頼りなさそうなシーザーと比べると、本作のサムはなかなか男らしい面も見せる。
マーティン・バルサムは『トラ・トラ・トラ!』で海軍大将の役だったな。
『サイコ』の結末については色んな意見もあるだろうし、サスペンスだけで内容のない映画という見方も出来ようが、やはり映画のテクニックでこれだけ観客を引き付けられるのはスゴイとしか言いようがない。
正に映画術の教科書のような作品だ。
昨今のCGしか見せ場のない映画などは、ぜひ本作のような古典を見習って欲しい。