『逃走迷路』

この週末は、ブルーレイで『逃走迷路』を見た。

1942年のアメリカ映画。
監督は、『疑惑の影』『ロープ』『私は告白する』『裏窓』『泥棒成金』『ハリーの災難』『間違えられた男』『めまい』『北北西に進路を取れ』『サイコ』『鳥』『フレンジー』『ファミリー・プロット』のアルフレッド・ヒッチコック
主演は、ロバート・カミングスとプリシラ・レイン。
ユニヴァーサル、モノクロ、スタンダード。
ゴジラみたいな音楽で始まる。
画質は良い。
航空機工場から労働者が出て来る。
フライ(ノーマン・ロイド)という男が、自分の名前の書かれた手紙と共に100ドル札を落とす。
それを拾った主人公のバリー・ケイン(ロバート・カミングス)は、フライに届ける。
フライは「何故オレの名前が分かった?」といぶかしそうな顔をする。
このやり取りが、実は重大な伏線になっている。
工場から黒煙が漂って来る。
炎上。
フライは友人のケンに消火器を渡すが、消火に向かったケンは、あっと言う間に猛火に包まれてしまう。
バリーは警察から事情聴取を受ける。
彼がケンに渡した消火器は、件のフライから受け取ったものだった。
バリーは、ケンの母親に会いに行く。
当然ながら、母親は落ち込んでいる。
警察が、ケンの家にバリー・ケインを探しに来る。
実は、バリーには重大な容疑が掛かっていた。
消火器にガソリンが入っていたというのだ。
ただならぬ空気を察した母親は、警察には何も言わない。
バリーは、フライという男から消火器を受け取ったと警察に話したが、フライなんていう男はこの工場にはいないということであった。
警察に捕まる前に、フライを捜そうとするバリー。
彼は、ヒッチハイクしたトラックに載せてもらって逃げる。
事件の日、フライが落とした手紙の住所には「ディープ・スプリングス牧場」と書かれていた。
白バイがトラックを追い掛けて来る。
身を隠すバリー。
単に、トラックの片側のテール・ランプが消えていただけだった。
ヒッチコック映画にお決まりのサスペンス。
翌日、牧場に着いた。
バリーはフライの家を訪ねる。
チャールス・トビン(オットー・クルーガー)というロマンス・グレーの紳士が出て来るが、この家にはフライなんていないと言う。
しかし、実はトビンは嘘をついているのであった。
孫娘が投げた手紙の中に、フライからの電報が入っていたのだ。
そこには「ソーダ・シティへ行く」と書かれていた。
トビンは、フライのことを庇って、警察に連絡をしていた。
バリーは、とっさに馬を奪って逃げる。
さあ、どうなるかと思いきや、彼はあっさり警察に捕まってしまった。
だが、手錠のまま、橋の上から飛び降りて逃亡。
昨日、トラックに載せてくれた運転手が彼を助けてくれた。
本作は、全体的に外の場面でもセットを多用している。
雨が降りしきる中、バリーは1軒の山小屋を見付けた。
ここには、フィリップ・マーティンという盲目の紳士が一人で暮らしていた。
彼は、寒さに震えるバリーのために、暖炉に火を点ける。
彼は目が見えないから、バリーの手錠にも気付かない。
そこへ、姪のパット(プリシラ・レイン)がやって来る。
警官が脱走犯を捜しているとマーティンに告げる。
彼女の仕事はモデルであった。
ここへ来る途中、バリーは彼女が出ている看板を目にしていた。
彼女は、バリーの手錠に気付いて大騒ぎ。
実は、マーティンはバリーが手錠をしていることなど、既にお見通しであった。
でも、彼が罪人だとは思えない。
手錠を外すために、友人の鍛冶職人の所に連れて行ってやれとパットに頼む。
渋々引き受けたパットだったが、実は納得していなかった。
「警察へ行きましょう!」
さすがヒッチコックだけあって、そう一筋縄では行かない。
彼女が人を呼ぶために道路の真ん中で車を降りたスキに、バリーは車のファンで手錠の鎖を切る。
バリーとパットは、オーバー・ヒートで車を捨てた。
バリーは、パットには全く信用されていない。
夜になった。
二人が途方に暮れているところへ、サーカスの車が通り掛かる。
二人して、この車に飛び乗る。
中には、映画『フリークス』も真っ青の小人、ヒゲ女、シャム双生児等が乗っている。
当時は、こういう人達を強調しても、倫理的な問題で騒がれたりはしなかったのだろう。
警察が、サーカスの車を調べに来た。
二人は、優しい団長のお陰で、かくまってもらう。
ようやく彼女が彼のことを信じるようになった。
何か、話しが出来過ぎているような気もするが、人間の善意というものを、今よりは信じられる時代だったんだろうなあ。
若干のメロ・ドラマ臭はあるが。
二人は翌朝、ソーダ・シティへ。
ここは廃墟の町であった。
本作は、ロード・ムービー風でもある。
突然、廃墟のはずの家の中で、電話のベルが鳴る。
この家には、壁に覗き穴が空いており、部屋には、三脚と望遠鏡もあった。
覗いてみると、ちょうどそちらの方向に巨大なダムが見える。
そこへ、男が二人来る。
バリーはイチかバチかの賭けに出た。
「トビンの指令で、かくまってくれ。」
さあ、これからどうなる?
物語の後半では、次第に黒幕の巨大な陰謀が明らかになる。
上流階級が集まるパーティで、実は主催者はスパイだらけだったりする。
このシーンを見て、僕はあることを思い出した。
特定されても困るが、ちょっと書いてみよう。
以前、勤めていた出版社で、僕は広告担当だった。
広告代理店から、目黒の雅叙園でパーティをやるから来て欲しいと言われ、参加した。
まあ、僕のような貧乏学生(当時は、未だ学生社員のような身分だった)には似つかわしくない偉そうなパーティ。
名目は、「NPO法人の設立」だった。
会場前面の大スクリーンには、アフリカの難民か何かの子供の写真が映し出される。
だが、主催者は、実は大手テレクラ会社の社長だったんだな。
規制が厳しくなるから、その隠れ蓑に、慈善事業をやろうとしているのが見え見えだった。
そんなところに、誰とは言わないが、大物政治家やら、大御所の芸能人なんかも協力していた。
皆、派手なブランド物を身に着け、札束が飛び交う異様な雰囲気だった。
これじゃあ、ダシにされたアフリカの難民の子供達も浮かばれまい。
世の中には裏と表があるんだな。
こんなこと書いて、東京湾に沈められなければ良いが。
本作に登場するパーティは、僕が参加したのとソックリだ。
本作の黒幕トビンは、「民主主義は効率が悪い」と言う。
ちょうどファシストとの戦争中だったから、アメリカのプロパガンダ映画という側面もあるのかも知れない。
本作では、主役のバリーはカリフォルニアからニュー・ヨークまで、アメリカ大陸を横断する。
話しの展開はダイナミックだ。
クライマックスの自由の女神のシーンは、高所恐怖症には辛い。
CGもない時代に、こんな迫真の映像を撮ったのはスゴイ!
本作は、『北北西に進路を取れ』の原型らしい。
北北西に進路を取れ』が、既に古典なのだが、それに未だ元ネタがあるとは。
昨今のハリウッド映画がネタ切れになるのも、分かるような気がする。
今更、『インデペンデンス・デイ』の続編って、アホか!