『間違えられた男』

この週末は、ブルーレイで『間違えられた男』を見た。

1956年のアメリカ映画。
監督は、『私は告白する』『裏窓』『泥棒成金』『ハリーの災難』『めまい』『北北西に進路を取れ』『サイコ』『鳥』『フレンジー』『ファミリー・プロット』の巨匠アルフレッド・ヒッチコック
脚本は、『西部戦線異状なし』のマクスウェル・アンダーソン。
音楽は、『地球の静止する日』『ハリーの災難』『めまい』『北北西に進路を取れ』『サイコ』『鳥』『タクシードライバー』のバーナード・ハーマン
主演は、『戦争と平和』『史上最大の作戦』『西部開拓史』のヘンリー・フォンダ
共演は、『サイコ』のヴェラ・マイルズ、『ナバロンの要塞』『アラビアのロレンス』『ローマ帝国の滅亡』のアンソニー・クエイル
ワーナーブラザーズ、モノクロ、ワイド。
ヒッチコックのナレーションから始まる。
「これは実際にあった物語である。」
「事実は小説より奇なり」ということが言いたいようだ。
舞台は1953年のニューヨーク。
紳士淑女が集まるストーク・クラブ。
華やかな音楽が流れる。
ベースを弾くのはマニイ・バレストレロ(ヘンリー・フォンダ)。
演奏が終わって、店を出る。
地下鉄に乗る。
車内で競馬新聞を読む。
カフェに寄る。
家へ。
配達された牛乳瓶を持って家の中へ入る。
時間は早朝である。
子供達は寝ている。
妻のローズ(ヴェラ・マイルズ)は歯が痛くて、眠れずに起きていた。
親知らずが4本あるという。
歯の治療に300ドル掛かるが、貧乏なミュージシャンが生計を立てるこの家にはカネがない。
300ドルとは、どれくらいだろうか。
後に、マニイの週給が85ドルと出て来るので、1ドル1000円として、30万円位か。
アメリカには保険がないので、異様に高い医療費だ。
で、カネがないので、ローズの保険証書を抵当に、保険会社からカネを借りることにした。
子供は男の子が二人。
さすがミュージシャンの息子だけあって、ピアノを練習している。
マニイが保険事務所へ行くと、女性事務員が奥でヒソヒソ話しを始めた。
以前、この事務所に押し入って、事務員に銃を押し付けた男と、マニイがソックリなのだという。
もちろん、マニイはそんなことはつゆ知らない。
父親の具合が悪いので、実家に寄り、それから帰宅。
家の前で警察が待ち伏せしている。
「これから警察署へ行って、事情を聞きたい」と。
マニイは妻に連絡したいと言うが、聞き入れてもらえない。
警察に着くと、彼は刑事から「連続強盗犯に人相が似ている」と聞かされる。
もちろん、マニイは無実だ。
「私じゃない。」
無実を証明するためにと、彼は警察の捜査に協力することになる。
警察の車に乗って、強盗に入られた店を何軒か回る。
マニイは、店に入って出るを繰り返すように指示される。
既に、完全に疑われているようだ。
彼は貧乏暮らしなので、幾らかの借金を繰り返している。
趣味で時々、競馬をする。
カネに困って強盗をする動機は十分だと警察は見ているようだ。
そんなことで疑われるのか。
僕は学生の頃、クレジット・カードで高級スーツを買いまくって、自己破産寸前まで行ったが、強盗なんかしなかったぞ。
庶民なら、誰だって生活は楽じゃないから、皆強盗をすることになってしまう。
マニイは警察で、犯人の渡したメモの通りに文を書かされる。
そして、「筆跡が似ている」と言われる。
ちゃんとした専門家の筆跡鑑定はないのか。
しかも、運の悪いことに、犯人と同じ所で綴りを間違えてしまった。
かなり不利だ。
面通しが行われる。
例の保険事務所の女事務員が来ている。
彼は「クロ」だと。
そりゃ、犯人に人相が似ているのだから。
マニイは留置されることになってしまった。
指紋を取られるシーンが重々しい。
ここまで、家に連絡も入れさせてもらえない。
連絡がないので、奥さんのローズは心配している。
彼は几帳面な性格で、少しでも時間に遅れる時は、必ず連絡するのだ。
夕方5時半に戻ると言って出て行ったのに、もう深夜である。
僕も、たまに連絡を忘れて細君から怒られることがあるが。
話しはマニイの目線でサクサクと進む。
かなり引き込まれる。
さすがはヒッチコックである。
ローズは心配してあちこちに連絡している。
夫は38歳だと。
老けた38歳だなあ(この時点で、ヘンリー・フォンダは既に50歳過ぎ)。
警察の人権無視は甚だしい。
疑わしい段階で、もう犯人扱いである。
奥さんに電話もさせない。
何か、周防正行監督の『それでもボクはやってない』を思い出した。
ついに、彼は格子の中に入れられてしまう。
逮捕だ。
もちろん、家族は無実を信じている。
翌朝、裁判所へ。
検事が尋問する。
保釈金が7500ドルと告げられる。
拳銃強盗だから、金額がデカイらしい。
300ドルの歯医者代に苦労している彼の家に、そんな大金がある訳がない。
奥さんが迎えに来ているが、話すことも許されない。
ついに手錠を掛けられて、独房へ入れられてしまう。
実に、ドキュメンタリー・タッチな作品である。
ロベール・ブレッソンの映画みたいだ。
それにしても、客観的な証拠は何もないのに、ただ顔が似ているというだけで犯人扱いである。
国家権力の横暴には、泣けて来る。
アリバイも調べずに逮捕だ。
で、マニイは、親戚が保釈金を用意して、何とか保釈される。
ここまでが前半だ。
後半は、夫婦でオコーナー弁護士(アンソニー・クエイル)の所へ相談に行き、弁護を引き受けてもらうことになるが。
奥さんもだんだん精神的におかしくなって来る。
緊迫感のある映画だ。
最後まで重い。
本作は宗教色が強いので、一応最後の最後に救いはあるが。
それにしても、実に見応えのある映画だった。