『キングコング』(1976)

この週末は、ブルーレイで『キングコング』(1976)を見た。

1976年のアメリカ映画。
映画史上に残る古典、1933年の『キングコング』のリメイクである。
監督は『タワーリング・インフェルノ』に続いて超大作を演出したジョン・ギラーミン
製作はイタリアの大プロデューサー、ディノ・デ・ラウレンティスフェリーニの『道』『カビリアの夜』、他にも『天地創造』『セルピコ』など、手掛けた作品は数知れず)。
主演はジェフ・ブリッジスジェシカ・ラング
ジェシカ・ラングは本作がデビューだが、誰でも知っている怪獣映画のリメイクで、有名プロデューサーに有名監督の超大作に大抜擢だから、どうにも、「偉いさんの愛人か?」などと勘繰ってしまう。
彼女は後にアカデミー賞を2回獲って、シェイクスピア映画(『タイタス』)にまで出演する演技派なのだが、この作品では映画デビューを夢見る頭の軽い新人女優(という、現実の本人と被ってしまいそうな役)を、いかにもそれらしく演じてしまったものだから、しばらく「キングコング女優」のイメージが消えなくて困ったという。
ジェフ・ブリッジスも、長髪で髭ぼうぼうと、まるで「金髪の麻原彰晃」にしか見えない胡散臭さだ。
物語は、この(あり得ない組み合わせの)二人のロマンスを中心に進行してしまう。
これに、資本主義批判的な、中途半歩に社会派の、何だかお説教臭いテーマなどを絡めて、どうにも冗長だ。
この手の映画にしては、2時間14分は長過ぎる。
オリジナルの『キングコング』って、もっと痛快な大冒険活劇だったんじゃないの。
それから、ジェシカ・ラングのお色気シーンがやたら多くて、子供を連れて行った親は困っただろう(何と言ったって怪獣映画だから、親子連れが多いに決まっている)。
細君も辟易していた(僕はそんなに辟易しないが)。
他の登場人物には、あまり魅力がない。
特に、パニック映画に付き物の悪役がイマイチだ。
もっと、憎々しいくらいでないと盛り上がらない。
単純すぎると言うか、計算高さも感じられないし、残忍さもない。
やっぱり脚本が良くないのかな。
ポセイドン・アドベンチャー』『タワーリング・インフェルノ』『ジョーズ』などの、一連の70年代の傑作と比べると、人間ドラマが全く成っていない。
実は、僕は5歳の時に母に連れられて、この作品を映画館で観ている。
もしかしたら、その後テレビか何かで見ているかも知れないが、記憶にないので、多分これが2回目の鑑賞だ。
母は「キングコングがものすごくうまいこと撮ってあったなあ。やっぱりアメリカは違うなあ」などと言っていたが、確かに、カネは掛かっているし、当時の最新の技術を駆使して撮っているので、特撮は今見ても楽しめるだろう。
まあ、ゴジラ映画史上最多の観客動員を記録した『キングコング対ゴジラ』(1962年。高島忠夫主演)などと比べると、キングコングの生物感はよく出ているだろう。
あのコングは死人みたいに肌がガサガサだった。
完全に怪獣プロレス映画だったし、ゴジラキングコングのどちらが勝ったのかをぼかす辺り(はっ、ネタバレ?)、「アメリカとの権利関係で色々と面倒だったんだろうな」などと、つまらんことも考えてしまう。
それはさておき、後に東宝の『キングコングの逆襲』(1967年)をリバイバルで観た時も、母は「うまいこと出来てるなあ」と感心していたので、そもそも感心しやすい人なのかも知れない。
キングコングの逆襲』は、かなりオリジナル版を意識して作っているような気がした。
カニコングなんていう、ロボットのキングコングメカゴジラの先駆け)は出て来るが。
天本英世の怪しげな科学者が印象深かった。
この映画でコングがよじ登るのは、東京タワーである。
何と言っても、日本を象徴する高い建物は東京タワーだろう(スカイ何ちゃらなんて…)。
話がそれてしまった。
1933年のオリジナル版の『キングコング』は、全編人形アニメで撮っていて、今見ると、味わいはあるものの、技術的にはなかなか厳しいものがある。
どうにも「古典的」過ぎるのだ。
まあ、円谷英二がこれを見て「『ゴジラ』を作ろう」と思い立ったくらいだから、本物の「古典」なのは間違いないのだが。
2005年のリメイク版は、わざわざ封切り時に観に行ったけど、これまた全編CGのオンパレードで、コメントをする気も起きない。
もうCGだけで中身がスカスカの映画を量産するのは、いい加減に止めて欲しい。
映画に対する冒涜だ。
そういう意味では、この76年版は、アナログの特撮技術を駆使できた、いい時代の作品だったのかも知れない。
だが、肝心のニューヨークに上陸するまでが長過ぎて、あんまり「大暴れ」という感じがしない。
怪獣映画の醍醐味は都市の破壊にある。
破壊シーンはちょっと物足りない。
何せ、最後の20分くらいしかないから。
この映画は、「実物大(全長12メートル)のコングを作り、それを機械仕掛けで動かして撮影した」と喧伝して話題になったものだが、このコングは、実際には機械の不具合でほとんど動かなくて、ニューヨークの群衆シーンでちょっと出て来るだけだ。
実際の撮影は、気鋭の特殊メイク・アーティスト、リック・ベイカーが、コングの着ぐるみを着て行なった。
ゴジラ』を始め、日本のお家芸の着ぐるみが、アメリカに渡って本家の『キングコング』で採用されたのだから、天国の円谷英二も感激していることだろう。
本作では、オリジナルのエンパイア・ステート・ビルではなく、今は亡き世界貿易センタービルにコングが登る。
エンパイア・ステート・ビルと違って、のっぺらぼうの長方形の箱で、何の趣もない。
ちなみに、ドクロ島で本来コングが闘うべき恐竜(日本の『キングコングの逆襲』にすら出て来た)が出て来なくて、大ヘビと闘うだけなのも、イマイチつまらん。
しかも、このヘビの動きが、技術の限界なのか、大きなヘビのおもちゃと一人相撲を取っているようにしか見えなくて、興醒めだ。
まあ、簡単に言えば、気合いを入れて作った割には、色々と残念な映画だということである。
やはり、リメイクは難しいということかな。
たまに、チャールトン・ヘストンの『ベン・ハー』みたいな怪物も生まれるが。
昨今なんか、映画にはリメイクと続篇しかないから、どうにかして欲しい。
遊星からの物体X』(元ネタ自体がリメイクじゃないか)とか『トータル・リコール』とか。
もう一切興味はないけどね。
本作はアカデミー賞特別賞(特殊効果)を受賞している。
また、1977年度の日本における洋画興行収入の1位である。
余計な情報だが、この年の洋画の興収は、以下、2位『遠すぎた橋』、3位『カサンドラ・クロス』、4位『ロッキー』、5位『サスペリア』。
ちなみに、日本映画の興収トップ3は、『八甲田山』『人間の証明』『八つ墓村』。
ついでに、この年の『キネマ旬報』ベスト・テンの一部。
洋画…1位『ロッキー』、2位『ネットワーク』、3位『鬼火』、4位『自由の幻想』、5位『惑星ソラリス』…。
邦画…1位『幸福の黄色いハンカチ』、2位『竹山ひとり旅』、3位『はなれ瞽女おりん』、4位『八甲田山』…。
映画ビジネスが変容し始めた時期だとは言うものの、娯楽映画も芸術映画も、まだまだ高いレベルを維持しつつ機能していたことが分かる。
いい時代だよな、全く。