『ロッキー』

この週末は、ブルーレイで『ロッキー』を見た。

1976年のアメリカ映画。
監督はジョン・G・アヴィルドセン。
主演はシルヴェスター・スタローン
本作を見るのは、おそらく3回目くらいだろう。
僕は、別にスタローンのファンではないし、ボクシングにも全く興味がない。
スタローンの主演作の中で、映画館で観たのは『クリフハンガー』くらいしかないな。
ランボー』すら見たことがない。
僕は、正に小・中・高と、リアルタイムで『ロッキー』のシリーズが公開された世代ではある。
クラスの男子はみんな夢中になって映画を観に行った感想を語り合っていたが、僕は何の関心もなかった。
しかし、小学生の頃に近所の市立図書館で借りて読んだキネマ旬報の『映画史上ベスト200』という本の中で、本作のことが「すぐれた人間ドラマだ」と絶賛されていた。
単なるヒーロー映画だと思っていた僕は、ちょっと認識を改めて、この作品に興味を持った。
もしかしたら、小学生の時にテレビの洋画劇場か何かで見たことがあるのかも知れないが、よく覚えていない。
ちゃんと見たのは、多分数年前にDVDで見たのが最初のような気がする。
本作が成功したのは、実際に売れない役者だったスタローンが、自ら脚本を書いて映画会社に売り込み、やっとの思いで作品を完成させた現実と、作中のロッキーの姿が重なり合うからであろう。
三流ボクサーだったロッキーは、たまたまチャンスを得て、世界チャンピオンと対戦することになる。
(これ自体は出来過ぎた話かも知れないが。)
それまでボクシングではメシを食えず、高利貸しの取り立てを合間にやっていたようなロッキーが、このチャンスを何とかモノにしようとして、血のにじむような特訓をする。
早朝4時に目覚ましを掛け、生卵を幾つも飲み込み、街をひたすら走る。
美術館の大きな階段を駆け上がる。
片腕だけの腕立て伏せ。
レーニングに次ぐトレーニング。
狭くて、汚い部屋で、夢だけが生き甲斐だ。
チンピラ・ボクサーでありながら、ロッキーは根がいいヤツなので、周囲の人たちも、クセはありながらもロッキーに協力的だ。
恋人のエイドリアン(タリア・シャイア。『ゴッドファーザー』に次ぐ大役)の、最初は単なる内気なペットショップの店員(動物好きに悪い人はいない)だったのが、次第にロッキーに魅かれて献身的に尽くすようになるのがいい。
非常に月並みな言い方になってしまうが、ロッキーは彼女との愛のために闘い抜いたのだ。
彼女の兄貴のポーリーのちょっと抜けたところや、トレーナーのミッキーの多少屈折したところもいい。
登場人物のキャラクターがきちんと描き分けられている。
ロッキーはポーリーが働く精肉工場の冷凍庫で、生肉を相手に訓練する。
彼の手が肉からしたたる血で赤く染まる。
有名な『ロッキーのテーマ』などの音楽も、かつてのトレンディ・ドラマのように「これでもか」とばかり連発されることはない。
かなり抑えた使い方である。
だからこそ、効果的だったのだろう。
試合当日、最初は余裕をかましていたチャンピオンも、この挑戦者の意外な強さに一瞬たじろぐ。
そこからの死闘がスゴイ。
両者とも、顔をボコボコに腫らしても、まだ闘い続ける。
ロッキーは倒れても倒れても立ち上がる。
この見上げた根性には、不覚にも涙が出そうになる。
チャンスを自分のものに出来るかどうかは、本人の努力に掛かっているんだな。
僕も見習わねば。
ボクシングの映画なのに、実際の試合は、冒頭とラストのたった2回しかない。
そのため、最初の投げやりな闘いっぷりと、打って変わった命懸けの勝負との差が浮き彫りになる。
それだけロッキーが成長したということだろう。
この映画が、もしも大スターの主演だったら、多分ここまで面白い作品にはならなかっただろう。
当初、映画会社は、主演をポール・ニューマンロバート・レッドフォードアル・パチーノなどにすることを条件にしたが、スタローンが頑として首を縦に振らなかったそうだ。
無名の俳優、B級映画の監督、超低予算でも、脚本がすぐれていれば、傑作が出来るという見本である。
もちろん、無名だったスタローンに「何としてもこの作品を完成させてやる」という執念がみなぎっていたからこそ。
だから、僕はスターになったスタローンにもロッキーにも、一切興味はない。
従って、続篇は見ていないし、これからも見ることはないだろう。
本作の成功によって、「アメリカン・ニューシネマ」の時代は終焉を迎え、個人の可能性を信じた明るい作品がアメリカ映画の主流になる。
その意味でも、映画史上重要な作品であろう。
まあ、70年代中盤の『ジョーズ』『ロッキー』『スター・ウォーズ』辺りが大成功したことから、現代に至る「カネは掛かっているけど、中身はスカスカ」という映画の流れが始まったとも言えるが、そのきっかけとなった作品たちは、どれも偉大だったということだ。
一体どこでボタンを掛け違ったのだろう。
アカデミー賞作品賞、監督賞、編集賞受賞。