『裏窓』

この週末は、ブルーレイで『裏窓』を見た。

1954年のアメリカ映画。
監督はアルフレッド・ヒッチコック
言うまでもなく、『北北西に進路を取れ』『サイコ』『鳥』などと並ぶ、ヒッチコックの代表作の一つである。
主演はジェームズ・ステュアート。
ヒッチコック作品の常連である。
余談だが、僕が昔、母に連れられて観に行った『グレン・ミラー物語』にも出ていたな。
僕が小学生の時、今は亡き新京極の京都ロキシーリバイバル上映をやったのだが、母がグレン・ミラー大好きで、「あんたも映画好きやったら、こんな有名な映画観とかんと恥ずかしいで」と言うので付いて行った。
今にして思うと、『グレン・ミラー物語』は映画好きなら観ておかないと恥ずかしいという程でもないのだが(単に母が観たかっただけだろう)、まあ面白かった。
後に、音楽の授業で「茶色の小瓶」やら「イン・ザ・ムード」やら「ムーンライト・セレナーデ」なんかが出て来た時に、予め知っていたので、役に立った。
話を『裏窓』に戻す。
ヒロインはグレース・ケリー
彼女もヒッチコック作品には何本か出ている。
それから、重要な役柄を演じたのがレイモンド・バー
彼は、『ゴジラ』第1作がアメリカで公開された時、新聞記者の役で出演した。
当時のアメリカでは、未だ日本映画が大々的に公開されることはなく、アメリカ人が受け入れやすいように、米人記者が東京でゴジラの出現を見た、という設定にされた。
その際に追加撮影された新聞記者のシーンに出ていたのである。
このバージョンは、後に『怪獣王ゴジラ』のタイトルで凱旋公開される。
また話がそれてしまった。
『裏窓』は、1950年代前半にもかかわらず、カラー作品である。
ヒッチコックは、どうやらカラーにこだわっていたようだ。
巨大なアパートのセット。
ドリフのコントで使われるセットを立派にしたような感じだ。
本作は、全編このセットの中で展開される。
こんな狭い空間だけで、観客を飽きさせない映画を作るとは、さすがだ。
カメラマンのジェフ(ジェームズ・ステュアート)は事故で足を骨折し、ギプスをはめて車椅子の生活で、自室から出られない。
楽しみは、向かいのアパートの部屋に暮らす人々の生活をのぞき見ることしかない。
窓から見える人間模様。
色んな住人がいる。
売れない作曲家、孤独な婦人、ベランダで寝ている夫婦、賢いワンコを飼っている女性、新婚のカップルなど。
下着姿でセクシーな尻ダンスを踊る女性なんかは、この時代としてはなかなか革命的なお色気シーンではなかろうか。
それにしても、窓全開で丸見えである。
「見て下さい」と言わんばかりだ。
ジェームズ・ステュアートはちょっと老けている。
それに、インテリ臭くて、あまりカメラマンには見えない。
彼にはリザ(グレース・ケリー)という恋人がいる。
グレース・ケリーは美しいねえ。
しかし、彼女はお嬢様で、いつもファッション雑誌を見ている。
彼女のことも顧みず、いつも危険なところに飛び込んで行くジェフには、不満を感じている。
ジェフも、会えばいつも結婚の話しかしない彼女を、ややわずらわしく思っている。
こんなに美人なのにねえ。
その上、お嬢様に対して、「俺の行くところにどこまでもついて来られるか」などと無理難題を吹っ掛ける。
ジェフは、言ってみれば、戦場カメラマンのようなこともやっているからだ。
だからこそ、骨折もした。
そして、彼女のことよりも、向かいのアパートをのぞくことに夢中である。
他人の部屋をのぞいていて、恋人は何とも思わないのかねえ。
ある日、ジェフはとうとうのぞき癖が高じて、ついに双眼鏡を取って見始める。
更に、カメラに大きな望遠レンズまで付けて。
これはもう犯罪だろう。
いつも口喧嘩の絶えなかった中年夫婦の病気の妻が姿を消した。
セールスマンらしき夫(レイモンド・バー)が怪しい。
彼はいつも長距離電話をしている。
自分のカバンに大きな包丁とノコギリを隠した。
バラバラ殺人?
窓を開けたままで殺人の証拠を見せびらかすかね。
運送業者が大きな箱を部屋から運んで行った。
死体が入っている?
いつも中庭で遊んでいたワンコが殺された。
死体を埋めた場所を掘っていたから?
まあ、誰も実際の殺人の現場を見ていないのだから、単なる思い込みに過ぎないのかも知れない。
実際、知人の刑事は全く相手にしない。
だが、最初は飽きれていたリザも、家政婦のステラも、次第にジェフが言うことを信じるようになる。
まさか、本当に殺人が?
ジェフは骨折で動けない。
これが、自分で現場を確かめることが出来ないもどかしさを生む。
彼を部屋に固定しておくための装置だ。
うまいこと考えたねえ。
状況証拠を積み重ねると、確かに殺人が行われていてもおかしくない。
でも、これは推理なのか妄想なのか?
ジェフは、「お前がやったんじゃないか」という手紙を書き、リザに届けさせる。
のぞきの上に脅迫まで。
これはもう立派な犯罪だろう。
たとえセールスマンが実際に殺人を犯していたとしても、ジェフの行為だって許される訳じゃない。
それでも、人間というのはそもそも他人の生活に興味があるものだ。
ヒッチコックのサスペンスの盛り上げ方は素晴らしい。
とうとう、リザとステラは中庭を掘ってみる。
おいおい、他人の庭を勝手に掘るなんて!
何も出て来ない。
ジェフは、セールスマンに電話をし、近くのホテルに呼び出す。
もちろん、自分は行けない。
ああ、リザは開いた窓からセールスマンの部屋に侵入してしまった。
そこへ、戻って来るセールスマン。
絶体絶命の危機。
仕方がないので、ジェフは「向かいのアパートで女性が男に乱暴されている」とウソの通報をする。
警察が来る。
事情が分かり、逮捕されるリザ。
あっ、セールスマンがこちらを見た!
さあ、どうする?
この先はネタバレになるので、止めておこう。
それにしても、このサスペンスフルな展開には引き込まれる。
本作は、キネマ旬報のベストテンには入っていないが、1955年の洋画興行収入の8位である。
当時の批評家はあまり評価しなかったが、観客には受けたということか。
批評家なんて当てにならん。
面白いけど内容がないって?
映画は、まず面白いことが大事だ。
本作は、今となっては映画史上に残る傑作の1本に数えられている。
ヒッチコックの作品は、正に映画の教科書だからな。