『燃えよドラゴン』

この週末は、ブルーレイで『燃えよドラゴン』を見た。

燃えよドラゴン [Blu-ray]

燃えよドラゴン [Blu-ray]

1973年の香港・アメリカ合作映画。
監督はロバート・クローズ。
主演は、言うまでもなくブルース・リーである。
本作の世界的大ヒットにより、カンフー映画ブームが巻き起こった。
この後、1年で合計40本以上もの作品が公開されたそうである。
本作は日本でも大ヒットし、1974年の洋画興行収入2位(ちなみに、1位は『スティング』、3位は『パピヨン』)を記録した。
この年には、ブルース・リーの主演作品が本作を含め3本もベスト・テンに入っている。
ブルース・リーの後も、ジャッキー・チェンが出て来たり、少林寺映画が量産されたりして、この手の映画のブームは収まることがなかった。
ちょうど、僕が小学生の頃である。
周りにも、ハマっているヤツは多かった。
しかしながら、僕は一貫して、こういう類の映画には全く興味がなかったのである。
ただし、ブルース・リーに関しては、何かの本(多分、学校帰りにいつも立ち読みに行っていた本屋で読んだケイブンシャの大百科)で読んだことがあったので、多少の知識はあった。
アスピリンの副作用で『燃えよドラゴン』の公開前にして亡くなったため、本作の後の作品は再編集版だとか。
子供心に「アスピリンって怖いんだな」と思い、「日本でアスピリンじゃなくてバファリンしか売っていないのは危険だからだな」と丸っきり誤った認識を持ってしまった。
実際には、アスピリンも売っているし、バファリンアスピリンの一種である。
それはさておき、僕は上述のようにカンフー映画には全く興味がなかったので、これまで1本もまともに見たことがなかった。
と言う訳で、この『燃えよドラゴン』が生まれて初めてのカンフーである。
オリエンタルな音楽が流れる。
のっけから、ブルース・リーのキレのいいアクション。
「アチョーッ!」
本作のセリフは英語である。
しかし、微妙に役者の口の動きが合っていない。
アフレコか?
ラロ・シフリンによるテーマ曲はあまりにも有名。
ちなみに、彼は『暴力脱獄』や『ダーティハリー』の音楽も担当している。
タイトル・バックに流れるのは、当時の香港の風景だろうか。
高層ビルとバラックがあまりにも対照的である。
いかにもアジアン・テイストな人力車と英国風の2階建てバスがすれ違う。
それにしても、人々の身なりが貧しい。
ディア・ハンター』に出て来たベトナムのようである。
さすがブルーレイだけあって、画質は素晴らしいが。
ストーリーは至って単純で、要するにある少林寺の一門があって、ブルース・リーはその高弟。
一門の中に、ハン(シー・キエン)という裏切り者がいて、彼は犯罪組織を作った。
その組織に妹を殺されたと聞いて、リーは復讐を誓う。
折よく、リーはハンが主催する武術トーナメントに招かれる。
そこには世界中から武術の達人が集まっていた。
その一人、ウィリアムズ(ジム・ケリー)は具志堅用高のようなモジャモジャ頭。
黒人だけの少林寺の練習風景もあって、なかなか圧巻である。
ハンの手下オハラ(ボブ・ウォール)はキリストと浅原彰晃を足して2で割ったような感じ。
こいつらは、美女を麻薬中毒にして、世界中の金持ちに売っているらしい。
悪い奴らだねえ。
全体的に、雰囲気はいかにも70年代で、TVドラマの延長みたい。
ブルース・リーのスリー・ピースは、とてもいいスーツ。
彼はものすごく引き締まった身体をしている。
山下真司を細くしたみたい。
適宜挿入される見せ場のカンフー・シーンは『仮面ライダー』のショッカーとの対決シーンのよう。
ハリウッド資本だからセリフが英語なのだろうか。
アメリカでは、おそらくこのオリエンタルな雰囲気が受けたのだろう。
アメリカ人はゴルフ場に巨大な移動電話を持ち込んでいる。
正にブルジョワ階級である。
いい御身分だ。
それに対し、アジア人たちの貧しいこと。
豚と一緒に暮らし、ワンコまで痩せている。
木造船の群れが映し出される。
昔の中国はこんなイメージだった。
ブルース・リーは、船に乗って武術トーナメントの会場の島に渡る。
島に着くと、豪勢なパーティが催されている。
いかにもセットだが。
インチキなスモウ・レスラーもいる。
ウィリアムズは「シケたパーティーだぜ」と言うが、黒人には食べ物が合わないのだろうか。
夜になると、客人に女の手当てまである。
ホステスの中から好きな女を選べと。
至れり尽くせりだねえ。
それから、ハンの手下どもの訓練で、焼いた砂利の中に手を突っ込むというものがある。
熱そうだ。
ローバー(ジョン・サクソン)は、最初はわざと弱く見せ、相手にカネを賭けさせ、踏んだくるという、『ハスラー』のような賭けをしている。
裸の女やアヘンが出て来るので、正直なところ、あまり子供向けではない。
でも、当時の子供たちは夢中になったはずだ。
ブルース・リーが洞窟の中に作ったハンのアジトに潜入するシーン。
まるでドリフのコントのようである。
もちろん、ドリフの方が真似たのだろうが。
セットはウルトラ警備隊の基地のようだ。
そう言えば、ハンは科学特捜隊のキャップをふてぶてしくしたような顔をしている。
それにしても、アクション・シーンは、瞬間的な動きもさることながら、効果音が見事だ。
拳が風を切る音、相手に決まった時の音など。
現場では当然こんな音はしないだろうが、効果音の勝利だ。
ブルース・リーの潜入を許してしまったヘナチョコ警備が見せしめでやられるシーンなんか、とどめを刺すところは写さないけれども、音が生々しいもんね。
リーと顔に傷がある白人オハラとの対決。
迫力のあるアクションで、スローモーションを多用して、見せ場になっている。
ブルース・リーは、身体は細いのに、首がものすごく太いね。
本作に出演している役者たちは、みんな空手や柔道など、何かしらの武道でチャンピオンになったりした実績を持つ者たちだから、本物の迫力がある。
これは、その辺の役者がちょっと練習したくらいで出せるものではない。
だから、こんなに人気が出たのだろう。
ブルース・リーの表情なんか、神がかっている。
ちょっと哲学的なセリフもあるしね。
彼が哲学科に在籍していたからだろうか。
有名な彼のヌンチャクさばきもスゴイ。
まるでフィルムを早回ししているかのようだ。
ハンは義手である。
この義手を、金属の熊手に付け替えて襲い掛かって来るのだからコワイ。
最後のリーとハンの対決シーンは、鏡張りの部屋というアイディアもあって、ちょっと他のアクション映画では見られないようなレベルに昇華した。
まあ、作品としては、面白いけれど、内容はない。
いやあ、それにしてもブルース・リーにはカリスマ性があるね。
極限まで鍛えられた肉体。
魔法のような動き。
若くして死んだことを知っているから、余計にそう感じるのかも知れないが。