『ハロルドとモード 少年は虹を渡る』

この週末は、『ハロルドとモード 少年は虹を渡る』をブルーレイで見た。

ハロルドとモード/少年は虹を渡る [Blu-ray]

ハロルドとモード/少年は虹を渡る [Blu-ray]

1971年のアメリカ映画。
アメリカン・ニューシネマの1本である。
監督はハル・アシュビー
『チャンス』の監督だ。
いかにも、この人が撮りそうな映画である。
主演はルース・ゴードン。
ローズマリーの赤ちゃん』の怪しい隣人の役でアカデミー賞を撮った婆さんである。
もう一人はバッド・コート。
『いちご白書』にも出ていたな。
彼は童顔である。
この二人の、年齢差60歳以上のラブ・ストーリーだ。
と言うと、「どんな映画だ?」と思われるかも知れないが、これが変わった映画だけど、面白かった。
久々に面白い映画を見た、という感じだ。
冒頭、古びた家の中、階段を下りる人(少年)を追うカメラ。
顔は映らない。
この少年(ハロルド)が、いきなり首を吊る。
そこに母親が帰って来る。
少年が苦しんでいても、平然として、電話を始めた。
それも、警察や病院ではなくて、友人に。
シュールだ。
その後、家族での食事の場面。
少年は助かったようだ。
この母親が、いかに変であるかが分かる。
今度は、浴室が血だらけに。
少年は、医者のところに行っている。
『シャイニング』風の左右対称の構図。
続いて、墓地で誰かの葬式。
ここで少年は婆さん(モード)と出会う。
バックには、ポップスからクラシックまで、さまざまな曲が流れる。
ハロルドは、霊柩車を買った。
彼には自殺願望があるのだろうか。
今度はプールに浮いている。
教会に婆さんがいる。
年齢は間もなく80歳。
またも誰かの葬式。
ハロルドに声を掛ける。
二人とも、趣味は見知らぬ人の葬式巡りだとか。
ハロルドは、おせっかいな母親に無理矢理結婚させられそう。
未だ19歳なのに。
お見合い相手に提出するアンケートを、勝手に母親が答えている。
ハロルド、今度はピストルを取り出す。
彼がピストル自殺をしても、意に介さない母。
また、墓場で誰かの葬式にハロルドとモードがいる。
婆さんは、葬式なのに黄色いパラソルを差している。
向こうは土葬なので、葬式の日に墓に入るんだな。
婆さん、ハロルドを車に誘う。
「僕の霊柩車だ!」
この婆さんは車を盗むクセがあるのであった。
婆さんの家へ向かう。
この婆さんは、郊外に据えてある客車の中に住んでいる。
場面換わって、ハロルドのお見合い。
母が老けた女子大生を連れて来る。
ハロルド、今度は焼身自殺のフリ。
そして、オーメンのような不敵な笑みを浮かべる。
女子大生はドン引き。
本当に、ヘンな映画である。
ハロルドは、葬式に行かない時はビルの解体現場を眺めるのが趣味。
そこに婆さんを連れて行く。
あさま山荘事件の時のような鉄球がビルを破壊する。
その後、墓場へ。
同じ墓石がズラリと並ぶ墓場の画がスゴイ。
整然として、幾何学模様のようである。
この映画は、場面場面を切り取っても絵になっている。
婆さんは、とにかく車を盗んでばかりいる。
婆さん、ハロルドに思い出話をしながら泣く。
ハロルドは、自殺の繰り返しから一転して、とても楽しそうである。
婆さんと過ごす時間が。
ついに彼にも友達が出来た。
ハロルド、「音楽は宇宙の躍動よ」と言う婆さんの影響で楽器を練習し始める。
これがラストへの重要な布石となる。
ハロルドの母親は、彼の霊柩車を片付け、新しい車をプレゼントする。
ブルジョアだねえ。
カネが幾らあっても、息子は必ずしも幸せではないということか。
ハロルドは、その車を真っ黒に塗り、またも霊柩車風に改造してしまう。
再び婆さんとのデート。
婆さん、盗んだ車に街路から引っこ抜いた木を積んで、料金所を突っ切る。
警察を煙に巻く。
おちょくられている警官が笑える。
婆さんは、排気ガスにまみれた並木を、森に植えに行こうとしているのであった。
この後、ハロルドは軍人である叔父に無理矢理軍隊に入れられそうになる。
この場面では、軍人を痛烈に揶揄している。
いかにも70年代初頭だ。
更に、また別の女性とお見合い。
この女性は女優志望で、ジュリエットを演じたことがあるという。
ジュリエットのセリフを唱え始めると、ちゃんと弱強五歩格になっている。
ハロルドは、彼女の前でハラキリをする。
で、ダラダラとあらすじを書いているが、要するにこの話は何を言いたいのか。
自殺ごっこを繰り返していた少年が、婆さんと知り合ったことで、生と死の本当の意味を知る。
まあ、書いてしまえばこの1行で済むのだが、それをこういう風に料理した監督の手腕は素晴らしい。
僕の尊敬するスタンリー・キューブリックも生前、本作を好きな映画の1本として挙げていたそうだ。