『旅情』

この週末は、ブルーレイで『旅情』を見た。

旅情 [Blu-ray]

旅情 [Blu-ray]

1955年のイギリス・アメリカ合作映画。
監督は、『戦場にかける橋』『アラビアのロレンス』『ドクトル・ジバゴ』の巨匠デヴィッド・リーン
主演は、『オレゴン魂』のキャサリン・ヘプバーン
共演は、イタリアの大スター、ロッサノ・ブラッツィ。
スタンダード・サイズ、テクニカラー
コミカルなテーマ音楽(なお、音楽のアレッサンドロ・チコニーニは『自転車泥棒』や『靴みがき』も担当した、イタリアの巨匠)。
走るオリエント急行から始まる。
この時代は、未だ電化されていないので、当然ながら蒸気機関車である。
車内では、アメリカの地方都市で秘書をしている独身で38歳(実際には、もっと老けて見える)のジェーン・ハドソン(キャサリン・ヘップバーン)が、3本ターレット・レンズの16ミリ・キャメラで車窓を撮影している。
一生懸命貯金をして、長期休暇を取って憧れのヨーロッパに来たらしい。
ヴェニスへ。
駅はものすごい人だかりである。
そして、イタリア語の嵐。
ジェーンは水上バスに乗る。
本作の前半では、彼女は16ミリ・キャメラでしきりに撮影している。
あらゆる建物に風格がある。
さすが、イタリアはローマ帝国以来の歴史の重みが違う。
ロケが素晴らしい。
まあ、本作はイタリアの観光映画とも言える。
彼女は、船(水上バス)で老夫婦と知り合う。
宿泊先は、彼女と同じフィオリーニ荘。
イタリアの人々は貧しそうである。
まあ、敗戦国だからな。
同じような時代だと思うが、『自転車泥棒』なんか、何度見ても号泣してしまう。
ヴェニスでは、アパートの上の階から、運河に向かってゴミを投げ捨てるんだな。
これは、ちょっと衝撃。
要所要所でチップを要求される。
フィオリーニ荘に着くと、「ボナ・セーラ!」という挨拶。
イタリア語で「こんばんは」の意味らしい。
部屋は高層階で、窓からの景色は素晴らしい。
ジェーンは、いわゆる「オールド・ミス」(死語)だけれども、実は心の奥底ではロマンスを求めている。
彼女は、アル中でもある。
何だかんだと、酒ばかり飲んでいる。
そして、人と付き合うのは苦手そうだが、一人になると、やはりさびしい。
浮浪児マウロは、ボートの中で寝ている。
彼は、生活のためにジェーンに英語で話し掛ける(要は、何か恵んでくれということ)。
ジェーンは、サン・マルコ大聖堂へ。
広場の中のカフェで、後ろの席に座っている男性が、じっと彼女のことを見ている。
彼はレナード・デ・ロッシ(ロッサノ・ブラッツィ)というのだが、視線を感じた彼女は、あたふたとその場を去る。
翌日、ジェーンはマウロの案内で観光地巡り。
彼(少年)はタバコを吸う。
今なら、絶対にカットされるシーンだ。
ジェーンは、『旅の指さし会話帳』みたいな本を持ち歩いている。
ウィンドーに飾られている赤いゴブレットにひかれ、骨董品店へ。
出て来た店の主人は、何と昨日の男性(レナード)だった。
このゴブレットは18世紀のもので、値段は1万リラだという。
で、1万リラを払おうとするジェーンに、レナードは「この国では、まず値切れ」とアドバイスする。
関西人みたいなもんだな。
もっとも、僕は京都出身だが、大阪の人のように、いちいち店で値段交渉なんかしないが。
面倒臭いし。
1万リラって、今の日本円で幾ら位だろう。
冒頭で、水上バスの運賃が20リラ、ゴンドラが1000リラと言っていたから。
バスが200円、ハイヤーが1万円だと考えると、1万リラは10万円位か。
10万円のグラスって!
結局、ジェーンはゴブレットを8700リラで買う。
翌日、彼女はまた例のカフェへ。
レナードがやって来るが、彼女を一瞥しただけで行ってしまう。
何かモヤモヤが残るジェーン。
イタリアの町では、人々はみんな昼寝をしている。
のどかなんだな。
マウロがジェーンの観光案内。
彼は、靴を買うカネもないのか、裸足である。
ジェーンは、再び骨董品屋を訪ねるが、あいにくレナードは留守であった。
16ミリ・キャメラで骨董品屋を撮影しようとしたジェーンは、過って運河に落ちてしまう。
間一髪の所でマウロが救い出したため、キャメラだけは無事だった。
この時代、おそらく、貧しい少年でも人を助ける前に手を伸ばす位、キャメラは高級品だったのだと思う。
幾ら位かは分からないが。
僕が小学生の頃、8ミリ・カメラに興味を持った。
もちろん、映画を撮りたいと思ったからだが。
当時の最高級機は、フジカのニューZC1000という機種で、4倍のスローモーションが撮れたり、10倍のズームレンズが付いていたりと、とにかくスゴイキャメラだった。
大学に入ってから、映画研究会に顔を出した時も、やっぱりこれが定番のキャメラだった。
僕が学生の頃には生産中止になっていたが、小学生の頃は未だ販売していて、25万円位だったと思う。
それが80年代前半なのだが、それから30年前の、レンズが3本付いた16ミリだから、幾ら位なのか、想像も付かない。
で、僕は先日、仕事で知り会った方がフジカのZC1000を持っていて、憧れのキャメラに触らせてもらったのだが。
話しが逸れてしまった。
ジェーンが運河に落ちたので、人々が集まって来た。
キャサリン・ヘップバーンは、この撮影で目に細菌が入って、感染症にかかってしまったらしい。
そりゃ、生ゴミをそのまま捨てているような運河だからなあ。
で、その夜、レナードはジェーンの泊まっているペンションにやって来る。
彼女を口説きに来たのだ。
イタリア男はチャラい。
「あなたは、本当はさびしがり屋だ」という。
図星。
で、一緒にコンサートに行く。
まあ、この後、大展開があるのだが。
とは言っても、所詮は一夏の恋である(ネタバレ失礼)。
イタリア男とアメリカ女じゃあ、どちらかが今の生活を捨てる覚悟がないと、ずっと一緒にいることは出来ない。
しかも、二人とも結構な歳だし。
ラスト・シーンは、どこかで何度も見たような展開だが、おそらく、この映画が元ネタなのだろう。
駅を発車する列車。
ギリギリになって駆け込んで来る恋人。
必死で追い駆けるも、なかなか届かない。
皆、ここからパクってるんじゃないの。
細君は、『戦場にかける橋』以外のデヴィッド・リーンの作品を、いいようには言わない。
相性が悪いんだな。