『狼たちの午後』

2012年最初のブルーレイによる映画鑑賞は『狼たちの午後』。

狼たちの午後 [Blu-ray]

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この作品を見るのは2回目である。
1975年のアメリカ映画。
監督は社会派の巨匠シドニー・ルメット
主演は、我らがアル・パチーノだ。
1972年に実際にあった銀行強盗事件を題材にしている。
そのためか、ものすごくリアルに見える。
本作はアカデミー賞脚本賞を受賞したのだが、脚本を書いたフランク・ピアソンはさぞかし、実際の事件を丹念に取材して忠実に再現したのだろうと思いきや、実際の犯人は面会を頑なに拒んで、一度も話を聞けなかったのだそうだ。
そして、本作に出てくる主役以外の登場人物の演技はほぼアドリブで、脚本の原型はほとんど留めていないのだという。
にもかかわらず、ここまで真に迫る物語が完成したのは、正に映画のマジックか。
銀行強盗という重い題材を扱っているにもかかわらず、この作品は極めてコミカルである。
特に前半など、大笑いの連続だ。
のっけから、3人組で押し入った強盗のうちの一人が「やっぱり自分はできない」と言って逃げ出してしまう。
首謀者のソニーアル・パチーノ)も、奥さんに言わせると「虫一匹殺せないような人」なのだ。
必死で銀行を占拠するも、素人臭さがプンプンと漂っていて、あっという間に警察に包囲される。
アル・パチーノが、『セルピコ』の後に、いや、さらには『ゴッドファーザーPart.2』でマフィアのドンを演じた後に、こんな等身大の青年の役を完璧にこなしてしまうのが恐ろしい。
相棒のサルは、その『ゴッドファーザー』で兄貴のフレドを演じたジョン・カザールである。
今度は打って変わって寡黙な演技で、しかし、しぐさと目だけで語ってしまう。
彼らを取り巻く気の強い女性銀行員たち、とぼけた刑事、やんやと喝采を送る野次馬たちも素晴らしい。
先に書いたように、彼らの演技は大半が偶然の産物なのだが、緻密な計算にも勝っている。
編集のテンポが良くて、全く飽きない。
こういう映画を撮れたのは奇跡だろう。