『フェイク』

この週末は、ブルーレイで『フェイク』を見た。

1997年のアメリカ映画。
監督はマイク・ニューウェル
製作は、『レインマン』(監督)のバリー・レヴィンソン。
音楽は、『カリートの道』『ハムレット(1996)』のパトリック・ドイル
主演は、『ゴッドファーザー』『セルピコ』『ゴッドファーザーPART II』『狼たちの午後』『スカーフェイス』『シー・オブ・ラブ』『ゴッドファーザーPART III』『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』『カリートの道』の我らが大スター、アル・パチーノと、『プラトーン』のジョニー・デップ
ジョニー・デップと言えば、学生の頃、ウィノナ・ライダー(今や万引き女優)目当てで観に行った『シザーハンズ』の印象が強かったが、こんな硬派な役も演じられるとは意外であった。
そう言えば、一昨年の年末に地元のシネコンで観た、ケネス・ブラナーの『オリエント急行殺人事件』にも出ていたな(失敗作だったが)。
共演は、『ゴッドファーザーPART II』のブルーノ・カービー。
トライスター・ピクチャーズ
カラー、シネスコ・サイズ。
穏やかなテーマ曲から始まる。
「この映画は事実を元にしている」という字幕。
1978年11月、舞台はニューヨークのブルックリン。
酒場で仲間の男達と車の話しをしているレフティー(アル・パチーノ)。
ウェイトレスが「あなた達って、その筋の人?」と笑いながら尋ねる。
普通、店員が客にそんなことを訊くか?
笑いながらごまかすレフティー達であったが、彼らは正にマフィアの一員なのであった。
カウンターには、そんな連中を黙って見詰める一人の若い男。
彼は、FBIの潜入捜査官で、本名はジョー・ピストーネ(ジョニー・デップ)というのだが。
彼の任務は、「ドニー・ブラスコ」という偽名を用い、身分を隠して、レフティー達のマフィア一味に潜入し、捜査することであった。
そのために、彼は自分の身分を「宝石鑑定士」と偽っている。
ジョーは任務のために、妻子とは離れて一人暮らしをしている。
夜は自室で筋トレし、公衆電話から奥さんに電話を掛ける。
本作は、この任務のための表の顔と、家庭を持つ裏の顔との合間で揺れ動く彼の描写が非常によく出来ていると思う。
翌朝、昨日の酒場にまたいるドニー。
レフティーが現われ、ドニーにダイヤの指輪を見せる。
「これを売りさばいて欲しい」と頼むレフティーに、ドニーは「この石はフェイクだ」と告げる。
「本物は輝きが違う」と。
本作の原題は「ドニー・ブラスコ」だが、「フェイク」というのは作品中の象徴的な言葉で、うまい邦題だと思う。
レフティーは「オレはこの街の顔だ」とドニーに強がってみせる。
だが、本作のレフティーは、うだつの上がらない枯れかけたオッサン・マフィアに過ぎない。
キャストの並び順は、アル・パチーノが上だが、本作の主役は明らかにジョニー・デップの方である。
タイトル・ロールだしね。
レフティーは、ドニーに車を運転させる。
レフティーはヘビー・スモーカーだが、ドニーはタバコが嫌いだ。
二人が向かった先は、レフティーに指輪を渡した男のところ。
この男は、レフティーに「8000ドルの価値がある」と言って指輪を渡した。
レフティーは怒り心頭だが、ドニーは「オレに話しを着けさせてくれ」と言って、この男をボコボコにする。
そして、騙した代償としてポルシェのキーを奪う。
この様子を見て、レフティーは「(ドニーの)腕っぷしは一人前だ」と感心する。
ドニーは愛車のキャデラックを運転しながら、「妻はカリフォルニアにいる」と語る。
レフティーは「お前は目が利く」と褒める。
ここで、ようやく観客に、ドニー(ジョー)がFBI捜査官であることが明かされる。
「ベンジャミン・ルッジェーロ(レフティー)との接触に成功」と報告書に刻む。
そうとも知らず、すっかりドニーに惚れ込んだレフティーは、翌日も彼と会う約束を交わす。
レフティーは、知り合いの床屋のオヤジにドニーの評判を聞く。
「あいつはいいヤツだ」と太鼓判を押すオヤジ。
レフティーは、自分の弟分として、ドニーを連れ歩く。
しかし、この様子は全て遠方から盗撮されているのであった。
レフティーは、マフィアの仲間や上層部にドニーを紹介して回る。
更に、自宅にも招く。
ドニーに幾ばくかの小遣いを渡し、「クリスマスなのにお前を一人にしておけない」と、自宅での食事に誘う。
レフティーは、慣れないのに料理を作って、大失敗をやらかす。
騙されているとも知らず、この振る舞いは実に滑稽で、レフティーの哀れさが際立つ。
アル・パチーノのファンとしては面白くないが、この冴えない中年を、本当に冴えないように演じているのも、またアル・パチーノなのである。
レフティーには美人の奥さんとヤク中の息子がいる。
知り合って間もない若造に、身の上をグチるレフティー。
きっと寂しいんだろう。
大ボスへの上納金に四苦八苦していることまで、洗いざらいブチまける。
ドニーに「お前はオレの片腕だ」と言って、盃を交わす。
まあ、僕も50歳が見えて来たので、取り引き先に見込みのある若い兄ちゃんがいたりすると、つい可愛がってやろうかなどと思ってしまうので、気持ちは分かる。
一方、ジョー(ドニー)は久々に自宅へ帰る。
3人の娘は誰もいない。
12歳の長女はボーイフレンド(!)の家へ行って帰って来ない。
下の二人の娘達は奥さんの実家にいるという。
奥さんのマギー(アン・ヘッシュ)は、ジョーが仕事ばかりで家庭を顧みないので大いに不満そうである。
夫婦間に険悪な空気が漂う。
と言っても、その夜は久々なので夫婦で大いに燃え上がって、激しく抱き合うのだが。
翌朝、娘達はパパと口を聞いてくれない。
食事を作り、掃除、洗車と、束の間のマイホーム・パパ。
マフィアの世界で見せている冷徹な顔とは裏腹な、家庭の問題で悩む男。
この部分は、レフティーの抱えているものと重なる。
ところが、謎の男がジョーの自宅にやって来る。
マギーにも何者なのか一切教えない。
実は、これがジョーのFBIの上司なのであった。
ジョーが不在の間に、マフィアの間で大きな動きがあったのだという。
レフティーに呼び出されたドニー(ジョー)。
「大ボスが殺された」のだという。
新聞にもデカデカと載っていたらしいが、自宅に帰って、新聞を読んでいなかったジョーは知らなかったのだ。
でも、自宅に帰っていたことはレフティーには言えない。
レフティーは、仲間のソニー・ブラック(マイケル・マドセン)に呼び出された。
マフィアの世界では、「呼び出し」を受けるとは、「殺される」可能性もあるということだ。
恐る恐る溜まり場の酒場に向かうレフティーとドニー。
彼らは、ソニー達とドライブすることになった。
空港に到着。
ドニーだけ車に残っているように言われる。
連中が真っ暗な倉庫の中へ入ると、ライオンがいる。
何と、大ボス亡き後、ソニーが親分に昇格し、レフティーは今後、その子分になるのだという。
まあ、FBIの潜入捜査官を信用してしまうくらいの人の良さだから、出世は出来んわな。
僕も他人のことは全く言えないが。
で、このライオンは、ソニーからレフティーへのプレゼントだという。
ワンコみたいにリードを繋いで、ライオンを連れて帰るレフティー。
これがCGとかスタントじゃないのがスゴイ。
帰り道で、ハンバーガー屋に寄って、タマネギ抜きのバーガーを40個注文するレフティー。
ライオンのエサだ。
ライオンはネコ科だから、タマネギは毒なんだな。
車の後部座席にはライオンが乗っている。
レフティーは、ソニーが昇格したのに自分は外されたことの不満をドニーにグチる。
とにかく、本作のアル・パチーノはカッコ悪い。
まあ、何度も言うが、それも含めて彼の演技なのだが。
ソニーレフティーやドニーは、飲み屋で景気良く踊っている。
その裏で、悪事も働く。
ジョー(ドニー)は、それを小型のビデオ・カメラで隠し撮りしている。
トラックの襲撃計画、コカインやマリファナ、時には殺人も。
現場にはドニー(ジョー)もいる。
これこそ、ミイラ取りがミイラというか、本職はFBI捜査官なのに、囮捜査のため、殺人現場を目の当たりにしても、何ら手を出せないのである。
このもどかしさ、葛藤。
ジョーは自分の部屋に帰って、家財道具に当たり散らす。
ソニー達は飲み屋で他の親分らに挨拶をする。
その合間に、ジョーはカフェで上司と落ち合う。
上司は、「作戦がうまく行っているので、合流したい」と言う。
ジョーの補佐役として、リッチーという男を組織に潜入させたいと。
「バレたら殺される」とジョーが訴えても、この決定は覆らない。
マフィアにせよ、FBIにせよ、組織というのは非情なものだということも、本作は訴えているのであろう。
ソニーレフティー、ドニーらは、怪しい日本料理店へ行く。
どうしてハリウッド映画の日本描写は、いつもこんなに怪しいのだろうか。
如何にもフジヤマ・ゲイシャみたいなおかしな格好の女性が、「いらっしゃいませ」と、ちょっとおかしなイントネーションで挨拶。
支配人らしき日系人の男が、「靴を脱いで下さい」「Japanese tradition」と英語で告げる。
ソニーらは従おうとしたが、ドニーは強硬に拒んだ。
何故なら、ドニー(ジョー)はブーツの中に、小型テープレコーダーを隠していたからである。
靴を脱ぐと、ソニーレフティーの目の前でそのことがバレてしまう。
それだけは絶対に出来ない。
しかしながら、ここからは日本人としては見るに絶えない場面なのだが。
ドニーは「戦争に勝ったのはどっちの国だ?」などというメチャクチャな理屈で靴を脱ぐことを拒否する。
我々日本人としては、畳に土足で上がることを許す訳には行かない。
支配人がそれでも靴を脱げというのは当然のことなのだが。
ソニーも最初は「いつの戦争のことだ?」と苦笑していたが、ラチがあかないのを見て取ると、奥の間へ支配人を連れて行き、ボコボコにする。
もうこれが、殴る蹴る、血が吹き出すの生々しさで、これが白人相手なら絶対にここまでやらないだろうと思うと、胸クソ悪くて仕方がない。
本作の暴力描写はかなり凄まじい。
後半には、スプラッターと同レベルの残酷なシーンもある。
で、そういう暴力にドニー(ジョー)も加担している訳だ。
自分の任務のために、何の罪もない一般市民である日本料理店の支配人をボコボコにするのである。
日本の警察がそんなことをしたら、絶対に許されない(と信じたい)。
だから、僕は国家権力が大嫌いなんだ。
こんなのが正義か?
もっとも、本作のジョーもそんなことは自覚していて、自室でその時の録音テープを聴きながら涙する。
そして、ジョーだけでなく組織のボスであるソニーも荒れていて、次第に物語は血生臭さを増して行くのであった。
さあ、これからどうなる?
後半は、いよいよジョーのやっていることは潜入捜査なのか、マフィアの一味に成り下がってしまったのか、境界線が分からなくなって来る。
それと共に、「いつバレるのか」というスリルが高まって行く。
余談だが、アメリカ人は、やっぱりビールはバドワイザーなんだな。
あんな薄いビールをよく飲めるな。
僕は最近、ビールはプレミアム・モルツしか飲まない。
ウィスキーは、この間、『セント・オブ・ウーマン』を見てから、ジャック・ダニエルだ。
でも、ちょっと高いんだよな。
うまいけど。
昔はブラック・ニッカだったんだが。
ブラック・ニッカは安いだけあって、飲み過ぎると頭が痛くなるんだ。

Donnie Brasco (1997) - Official Trailer HD