『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』

この週末は、ブルーレイで『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』を見た。

1992年のアメリカ映画。
監督はマーティン・ブレスト
脚本は、『カッコーの巣の上で』のボー・ゴールドマン。
編修は、『トッツィー』『愛と哀しみの果て』のウィリアム・スタインカンプ。
主演は、『ゴッドファーザー』『セルピコ』『ゴッドファーザーPART II』『狼たちの午後』『スカーフェイス』『シー・オブ・ラブ』『ゴッドファーザーPART III』『カリートの道』の我らが大スター、アル・パチーノ
共演は、『カリートの道』のジェームズ・レブホーン
アル・パチーノは、本作で念願のアカデミー賞主演男優賞を受賞した。
僕はこの映画を、大学1年の時、高校時代の友人と観に行った。
観終わった後、友人と顔を見合わせ、アル・パチーノの演技に感嘆の溜め息を漏らした。
その後も、DVDなどで何度か見返している。
確かに、アル・パチーノの演技は素晴らしい。
素晴らし過ぎて、彼の一人舞台である。
作品自体の出来としては、『ゴッドファーザー』『スケアクロウ』『セルピコ』『ゴッドファーザーPART II』『狼たちの午後』などとは比べるべくもない。
悪い映画ではないのだが、アル・パチーノアカデミー賞を獲ったということ以外に、映画史上に残るような作品ではない。
まあ、名門校内での格差(と言うより、階級闘争)を描いていて、その点は、個人的には興味深いのだが(ライアン・オニール主演の『ある愛の詩』とかロバート・レッドフォード主演の『追憶』みたいだ)。
僕の前の会社の同僚も、この映画が好きだったなあ。
「フー・アー!」って、本作のアル・パチーノの真似ばっかりやっていた。
ユニヴァーサル・ピクチャーズ。
カラー、ワイド。
穏やかなテーマ曲で始まる。
舞台はボストンの全寮制名門高校。
オレゴン出身のチャーリー・シムズ(クリス・オドネル)は全寮制の名門高校に奨学金で入学した苦学生
全寮制の名門高校というのは、イギリスではパブリック・スクールだな。
日本では、戦前の旧制高校が該当する。
要するに、金持ちの子弟の階級再生産装置だ。
級友は鼻持ちならない連中ばかりで、給費生の貧乏学生は彼らのソサエティーに馴染める訳がない。
この点が、本作の重要ポイント。
まあ、僕も浪人中は新聞奨学生だったし、大学も昼間働きながら夜間部に通った(そして、中退)ので、チャーリーの立場は痛いほど分かる。
違うのは、僕が成績優秀ではなかったということ。
それはさておき、校長は理事会から与えられた高級車(ジャガー)に乗って通勤している。
悪ガキ達は、感謝祭の休暇に、旅行に出掛けて盛大に遊ぶ計画で盛り上がっている。
チャーリーは、誘われても断り、アルバイトをしなければならない。
格差社会だ。
チャーリーのアルバイトは、旅行に出掛ける家族の留守中に、留守番をする家人の世話であった。
バイト先の家を訪ねるチャーリー。
この家の奥さんは普通の人だったが、叔父のフランク・スレード(アル・パチーノ)は大変気難しい人物であった。
姪夫婦がフランクを陸軍病院から引き取ったのであるが、チャーリーは離れに暮らしているフランクと面会する前に、この姪から、「サー(Sir)と呼ばないで」「質問をしないで」などと、事細かに禁止事項を挙げられて、不安になる。
真っ昼間からジャック・ダニエルをなみなみとグラスに注ぎ、ロックで煽る。
大声で暴言を吐く。
フランクは元陸軍中佐であった。
で、目が見えないのだが、アル・パチーノのこの盲人の演技が素晴らしい。
終始、目の焦点が合わないんだな。
これでアカデミー賞を獲った訳だ。
もちろん、それだけではないのだが。
フランクはジャック・ダニエルを煽りながら、葉巻をくゆらせる。
チャーリーが名門高校生と聞いて、「ジョージ・ブッシュの予備軍」と罵る。
チャーリーが「彼は違う高校だ」と返すと、「口答えは許さんぞ!」
チャーリーはクリスマスに実家に帰る旅費の足しのためにアルバイトをしなければならないのであったが、フランクは非情にも「下がれ!」と命じる。
フランクは、姪夫婦の家族も「出来損ない!」と切り捨てる。
チャーリーは、姪のところへ戻り、「僕、落第したみたいです」と弱々しい声で告げる。
この時、姪は幼い子供を風呂に入れている。
18歳未満の児童が衣服の全部または一部を身に着けていない姿態は、現在の日本の法律では、児童ポルノに該当する。
アカデミー賞を受賞したような作品を児童ポルノ扱いする国家権力は、断じて許さない!
姪夫婦は、間もなく旅行に出発することになっていた。
アルバイトの応募はチャーリーだけだ。
「口が悪いだけでとてもいい人なの。旅行がイヤだから。お願い(Please)、そばにいて」と懇願する姪。
チャーリーは、学校の図書館(立派な図書館だ!)で司書のバイトをしている。
ある愛の詩』みたいだ。
図書館の閉館間際に、試験のために貸出禁止の本を貸してくれと泣き付いて来た級友のジョージ・ウィリス・Jr.(フィリップ・シーモア・ホフマン)と、ある光景を目撃する。
同級生のハリー・ハヴマイヤーら3人が、ライトにはしごを掛けて、何かの細工をしているのだ。
そこへ、先生がやって来たので、チャーリーとジョージは必死でごまかす。
これが、後の事件の伏線となるのだが。
翌朝、昨夜の3人が放送室から、校長を侮辱する放送をする。
校長は古典に通じているらしい。
イリアス』を朗唱するという。
アメリカの名門高校で「古典」と言えば、ギリシア文学を指すんだな。
その割には、校内に刻まれている碑文は、ラテン語ではなく、英語で書かれていたが。
校長がいつものように、ライトの下に高級車を停めると、ライトにぶら下げられた大きな風船が膨らみ出す。
その風船には、理事長のケツ(ass hole)にキス(kiss)している校長のイラストが描かれている。
周りの生徒は、それを見て大笑い。
怒った校長は、その風船を針で突いて割る。
すると、風船の中から大量の白いペンキが校長と彼のクルマに降り注いだのであった。
校長は、昨晩現場を目撃していたというチャーリーとジョージを校長室に呼び出して尋問する。
「犯人は?」「言えません。」
校長は、事件解決のために全校集会を開くという。
そして、犯人が見付からなければ、退学を覚悟せよと脅す。
そうして、犯人ではなくて、目撃者が退学になるというのか。
おかしな話しだが。
校長はチャーリーに、「犯人を白状したらハーバードへ推薦してやる」とささやく。
アメとムチだな。
ジョージはチャーリーに、「友人を裏切るな」と忠告する。
とは言え、このジョージやらハリーやらは、金持ちのドラ息子で、どう考えてもチャーリーとは相容れない。
つまり、友人でも何でもないのだが。
僕も高校時代、新聞配達なんぞをする貧乏学生だったが、周りは下手に中流階級ばかりで、惨めな思いを散々した。
奴らは、何故か貧乏人を馬鹿にする。
自分で稼いだカネでもないクセに。
僕は「いつか見返してやる!」とばかり思っていた。
もちろん、そいつらのことは友達と思ったこともない。
で、チャーリーはバイト先のフランクの家へ。
フランクは、大きな声で電話をしている。
会話の中で軍隊用語「ASAP(as soon as possible」が飛び出す。
電話の相手は美人だという。
フランクのそばには、デブのニャンコがいる。
ちょうど旅行に出発するところだった姪の家族は、「酒は水で薄めて飲ませろ」と言い残す。
そして、フランクはダイヤルQ2にハマッているのだという。
Q2って、懐かしいな。
時代は変わった。
チャーリーがふとフランクに触れると、「今度オレに触ったら殺すぞ!」と、スゴイ剣幕。
「オレがお前に触る」のだ。
フランクは、スーツに着替え、肩章を着けて外出するという。
これから、タクシーに乗ってニューヨークへ行くのだと。
チャーリーにも同伴せよという。
「僕は行けません。」
僕はアメリカの地理に疎いので、ボストンとニューヨークがどれくらい離れているのか分からないが。
今、調べたら、数百キロくらいか。
要するに、日本で言えば、東京から大阪へ行くような感じかな。
しかし、結局、チャーリーも無理やり行かされるハメに。
飛行機のチケットは、2枚ともファースト・クラス。
革張りの椅子である。
僕は人生でたった一度しか飛行機(しかも、国内線)に乗ったことがないので、ファースト・クラスとエコノミー・クラスにどれくらい料金の差があるか分からないが。
今、調べたら、約4倍だとか。
ビジネス・クラスがエコノミーの2倍で、その更に2倍がファースト・クラス。
鉄道で言うと、昔の三等級制の時代の料金体系みたいだな。
フランクは、スチュワーデスの香水の銘柄が分かる。
この旅の間中、女の話しばかりするフランク。
「女好きなんですね」と笑うチャーリーに、フランクは、「この世で聞く価値のある言葉はたった一つ、『プッシー(pussy』だ」という。
周りの乗客はドン引き。
そう言えば、この映画を一緒に観に行った友人は、本作を『セント・オブ・コーマン/オメの香り』と呼んでいた。
ちゃんと意味のあるタイトルになっているのがスゴイが。
で、フランクが女の次に好きなのが、フェラーリだという。
これも、後半への重要な伏線。
「君の人生教育の始まりだ」とチャーリーの手を取るフランク。
このセリフは、説明的過ぎたかも知れない。
この作品を最初から最後まで見れば、正にフランクによるチャーリーへの人生教育なのだから。
戦争映画で「戦争反対」と言ってしまうくらい説教臭い。
で、ニューヨークに着いた。
ウォルドルフ・アストリアという超高級ホテルへ。
部屋に並んでいるミニチュア・ボトルの銘柄は「ジム・ビーム」や「アーリー・タイムズ」。
「安物ばかりだな。ジョン・ダニエルを並べさせろ」とフランク。
フランクは、ジャック・ダニエルのことを親しみを込めてジョン・ダニエルと呼ぶのだ。
「食事に行こう」と、リムジンに乗る二人。
帰りの時間を気にするチャーリーに、フランクは「ボストン行きの最終便に乗せる」と言う。
車内でフランクは、チャーリーに学校で何か問題があるのではないかと尋ねる。
フランクは、チャーリーの悩みなど全てお見通しである。
見えない目が見えるって、まるで『ニュー・シネマ・パラダイス』みたいだが。
高級レストランに入ると、セーター姿のチャーリーには店員がジャケットを持って来た。
ドレス・コードの厳しい店なんだな。
メニューを見ると、ハンバーガーが24ドルとある。
目を丸くするチャーリー。
まあ、貧乏人だから、こんな値段のレストランに入ったことがないのだろう。
僕もないが。
で、フランクはチャーリーに「ボストン行きの最終便には間に合わん」と告白する。
チャーリーは怒るが、フランクの計画の実行のために「盲導犬」が必要なのだという。
つまり、チャーリーは盲導犬なのだ。
その計画とは、高級レストランでうまいものを食べ、懐かしい兄貴の顔を見て、素晴らしい女を抱くというもの。
「オレを甘く見るな」というフランク。
チャーリーは、スイート・ルームのソファーに横になって寝る。
翌朝、チャーリーが目覚めると、フランクはスリー・ピースのスーツの仮縫いをしている。
これが、実に素晴らしいスーツだ。
僕も昔、分不相応に、オーダーでスリー・ピースを作ったことがあった。
最近は、オーダー(イージー)も随分と安くなった。
チェーンのオーダー・スーツの店が調布パルコに入ったので、僕も1着誂えてみた。
やはり、オーダーはいい。
秋になったら、またスリー・ピースを作ろうかな。
で、フランクはチャーリーに、「オレのが済んだら、君も1着誂えろ」と言う。
チャーリーは、休暇中に旅行先のジョージに連絡することになっていた。
電話をすると、ジョージは「見ざる聞かざるで通せ」という。
それを聞いたフランク。
チャーリーは「親には言わない」と言うが、フランクは「ジョージの親父がネジを巻きゃ、息子はスラスラ吐く」と。
チャーリーが階級上昇するためには吐かなきゃいかんと。
つまり、とっととチクッてハーバードへ行けということだな。
チャーリーの実家はオレゴンのコンビニだが、「今、吐かないと、田舎のコンビニ店員で一生終わるぞ」とフランク。
正に、人生の岐路だな。
こんな岐路はイヤだが。
チャーリーは、名門高校に奨学金で通うくらいだから、ハーバードにも普通に入れそうだが。
まあ、退学しちゃしょうがないがな。
それに、アメリカの大学入試は日本と違うから、校長の推薦が重要なんだな。
フランクは、「人間には2種類ある。立って戦う奴と逃げる奴。逃げる方が利口だ」という。
続いて、フランク達は郊外にいる実の兄貴の家をリムジンに乗って電撃訪問する。
明らかに歓迎されざる雰囲気。
兄貴や甥っ子夫婦らと食事をしながら、大声で女の話し(つまり、ワイ談)をするフランク。
他の者はウンザリしている。
険悪な空気。
ついに、甥っ子がブチまける。
フランクは、毒舌が災いして、将軍に昇進出来なかった。
自殺未遂を図ったこともあるという。
酔っ払って、手投げ弾のピンを次々に抜き、そのうちの一つが落ちて爆発し、視力を失う。
「彼はクソ野郎だ!」と叫ぶ甥っ子。
しかし、フランクは、チャーリーのことを「チャッキー(軽蔑的な呼び方)」と呼んだ甥っ子にブチ切れ、首を締める(死んではいない)。
歓迎されない場の空気をようやく読んで、フランクは「失礼するよ。」
去り際に、兄貴に「オレはクソ野郎だ」と一言。
さあ、これからどうなる?
後半、有名なタンゴのシーン。
相手を務めたガブリエル・アンウォーは、本作をきっかけにブレイク。
そりゃそうだろう。
大スターの相手役に抜擢されたんだから。
フランクは、「タンゴは人生と違い、間違わない」という名言(?)を残す。
ちなみに、葉巻は五番街ダンヒルで買う。
後半の全校集会では、船場吉兆みたいな場面もある。
金持ちの友人ジョージを演じたフィリップ・シーモア・ホフマンは本作がデビューらしい。
若くして亡くなってしまったが。
僕は全然注目していなかったが、件の高校時代の友人が彼のことを好きだと言っていた。
もう、本当に、アル・パチーノの存在感と演技力で見せる映画だ。
クライマックスの演説は、正に独壇場。
終わってから、「受けたぞ」と言う。
ただね、余りにもハリウッド映画的な展開なので、結構興醒めする。
いや、まあ、いい映画ではあるのだが。
アカデミー賞主演男優賞受賞(アル・パチーノ)。

Scent of a Woman Official Trailer #1 - Al Pacino Movie (1992) Movie HD