『暴力脱獄』

この週末はブルーレイで『暴力脱獄』を見た。

暴力脱獄 [Blu-ray]

暴力脱獄 [Blu-ray]

1967年のアメリカ映画。
監督はスチュアート・ローゼンバーグ。
主演はポール・ニューマンである。
脱獄映画というのは、傑作が多いジャンルだ。
パッと思い浮かぶだけでも、『穴』『パピヨン』『アルカトラズからの脱出』などがある。
比較的新しいところでは、『ショーシャンクの空に』なんかもあったなあ(これは傑作とは言いかねるが)。
本作も、ポール・ニューマンという大スターを主演に据えているだけあって、ヒーロー映画であることは否めないが、単なるカッコイイだけの主人公ではなく、彼の孤高さがよく出ていて、観客の共感を呼ぶ作品となっている。
本作の成功は、やはり相棒のジョージ・ケネディの名演によるところも大きいだろう(彼は、本作でアカデミー賞助演男優賞を受賞している)。
ジョージ・ケネディは、60〜70年代を代表する名脇役
国際派の俳優として、日本映画にも出演したりしていた。
僕の父は、テレビの洋画劇場などで彼が出て来ると、「おお!」と画面を指差し、「わしはこいつをよう知っとるんじゃ」と言っていたものだ。
彼の出演作は、パッと思い浮かぶだけでも、『大空港』『大地震』『人間の証明』『復活の日』なんかがある。
髪の毛は薄いし、腹は出ているし、到底二枚目ではないけれど、よく響く低い声で、渋い雰囲気を醸し出す。
主役のルーク(ポール・ニューマン)は、戦争で勲章を得たこともある勇敢な男だが、クール過ぎて、世の中とうまく相容れない面がある。
ある晩、彼は酔っ払ってパーキング・メーターを壊してしまい、逮捕されフロリダの刑務所に収監される。
殺人や強盗とは違って、酔って物を壊すくらいなら、善良な一般市民でもやってしまいそうなことだ(僕も含めて)。
「それで懲役かよ」と、まず僕なんかは思う。
誠に国家権力は許し難い。
この刑務所では、主に肉体労働として、道路工事をさせられる。
これが過酷だ。
炎天下、上半身裸になり、(白人なのに)真っ黒になって、延々と作業が続く。
新人の中には、このキツイ労働に耐えられない者もいる。
脱落した者は、容赦なく狭くて真っ暗な懲罰小屋に入れられる。
しかし、ルークは不屈の精神でこの労働をやってのける。
最初は「反抗的だ」として、囚人たちの親分肌ドラグライン(ジョージ・ケネディ)に睨まれるルークであったが、ボクシングの試合で、何度殴られても立ち上がって向かってくる闘志によって、一目置かれるようになる。
カード・ゲームで涼しい顔をして相手を出し抜いたり、ゆで卵50個を時間内に食べる掛けに買ったりして、彼はますます仲間たちの尊敬を集める。
ゆで卵のシーンでは、腹筋の割れたポール・ニューマンの腹が、まるでタヌキの置物のように膨れている。
どんな演技だろう。
前半は、美しい風景の中で、過酷な労働はあるものの、仲間と共に、なかなか明るい雰囲気で日々を過ごしている様が描かれる。
ちょっとしたお色気シーンもあったりして、懲罰小屋に入れられる以外には、さほど辛いこともないように見える。
囚人たちも、自由時間には和気あいあいとしている。
だが、ルークの病弱だった母親が病気で亡くなり、彼は死に目に逢えない。
もちろん、葬式にも行けない。
彼は母親のことを思い、涙を流す。
そして、脱走を試みる。
追手の犬をまいて走りに走るが、彼はあっさりと捕まって連れ戻されてしまう。
足に鎖をはめられ、コミカルだった映画のトーンは、この辺りから一転、暴力的で暗くなってゆく。
看守たちは、脱走し、歯向かったルークが許せない。
彼の性根を叩き直し、二度と反抗できないようにしようとする。
が、彼はまたも脱走するのであった。
これ以上書くと、これから見る人の楽しみが減るので止めておくが、彼は最後まで反体制を貫き通すアンチ・ヒーローであった。
ルークとドラグラインとの友情も素晴らしい。
最後の回想シーンが余計な気はするが。
まあ、スター映画だから仕方がないか。
でも、ポール・ニューマンはハンサムだけど、トム・クルーズなんかと違って女々しくないのがいいね。
60年代の時代背景もあり、アメリカン・ニューシネマ的な空気が流れているので、昨今のハリウッド映画にうんざりしている人にもオススメできる作品だ。