『スカーフェイス』

この週末は、ブルーレイで『スカーフェイス』を見た。

1983年のアメリカ映画。
監督はブライアン・デ・パルマ
脚本はオリバー・ストーン
主演は我らがアル・パチーノ
ハワード・ホークスの『暗黒街の顔役』のリメイクである。
『暗黒街の顔役』は見ていないので何とも言えないが、本作は、独立した映画として十分鑑賞に耐え得る傑作に仕上がっている。
時は1980年。
カストロに歯向かったとして、キューバから何万人もの人々がアメリカに渡って来る。
その中には、刑務所上がりの者もたくさんいた。
顔に傷があり、殺人犯の印の刺青が手に彫られているトニー・モンタナ(アル・パチーノ)もその一人である。
アメリカ映画を見て英語を覚えたという彼は、冒頭から汚らしい四文字言葉を連発する。
明らかに移民の、下品なチンピラだ。
移民居住区で暴動が起きた日、彼は政治犯を殺害する(この暴動のシーンのエキストラの動きがちょっとイマイチ)。
そして、もっと大きな仕事を狙い、コカインの取り引きを請け負う。
小屋のようなホットドッグ店で働いていた彼は、店長に悪態をつき、仲間と共に店を辞める。
若い時は誰でも成り上がりたいと思うものだ。
僕も、渋谷の映画館でポップコーンを売っていた頃のことを思い出した。
マイアミには若いビキニ姿のお姉ちゃんがいっぱいいる。
麻薬の受け渡し場所に赴いたトニーは、見張り役がお姉ちゃんをナンパしている間に、あやうく殺されそうになる。
この時の拷問シーンは、映画史上に残る恐ろしさだ。
トニーの仲間は、風呂場で縛られたまま、敵にチェーンソーを突き付けられる。
飛び散る血しぶき。
イヤな音。
直接切っているところを見せる訳ではないのに、思わず目をそむけてしまう。
さすが、『キャリー』で鍛えたデ・パルマ監督だ。
このピンチを切り抜けたトニーは、麻薬王フランクの手下になる。
しかし、彼は、単なる部下の一人で終わろうとは思っていなかった。
ここからトニーの一大「成り上がり」ヒストリーが始まる。
まあ、あらすじを羅列するより実際に見てもらった方が早い。
3時間近い大作だが、長さは全く感じさせない。
僕は「人生」を描いた映画が好きだ。
映画における人生とは何か。
成り上がって、堕ちてゆく様を描くことだ。
僕がいちばん好きな映画は『バリー・リンドン』である。
あれこそ、正に「人生」を描いている。
ゴッドファーザー』も然り。
本作のトニー・モンタナは、チンピラである。
だから、やることなすこといちいち品が悪い。
ようやく手に入れた元ボスの情婦のエルヴィラ(ミシェル・ファイファー)にも呆れられてしまう。
ゴッドファーザー』のような格調の高さはない。
でも、こういう役でも成り切って演じてしまうアル・パチーノはさすがだ。
トニーの母親は貧乏暮しはしているけれど、息子が汚らしい商売で儲けたカネは一切受け取らない。
小汚いTシャツ姿から、明らかに高級そうなスーツを着るようになって、目の前に現れた息子をののしる母。
美容師になろうとしていた妹(メアリー・エリザベス・マストランニオ)は、そんな兄に憧れている。
兄は、妹にだけは純粋でいて欲しいと願う。
けれども、結局、血は争えないのか。
それが悲劇を生む。
あまり詳しく述べると結末が判ってしまうので書けないが、この辺りの家族の関係も、非常によく描かれている。
トニーは、育ちは良くないが、頭はいい。
うまく立ち回って、見事に成功する。
派手なスーツ、高級なクルマ、城のような豪邸、大理石の風呂。
そこで、自分の力を過信してしまった。
世界は自分のものだと思ってしまった。
彼は自らコカインに溺れる。
商売人はブツには手を出してはいけないはずなのに。
ものすごい量の白い粉を鼻から吸う。
ついには、コカインの山に顔から突っ伏す。
だんだん判断力が鈍ってきて、女は出て行き、仲間は離れる。
かと言って、冷徹にもなり切れない。
敵を殺害する時に、女子供を巻き込むことをためらう。
この一瞬の躊躇が仇になる。
トニーの、そんな人間臭いところが、彼をヒーローたらしめているのだろう。
それにしても、これほどの悪党がなかなか捕まらない。
警察も銀行も、みんな裏で彼らとつながっているからである。
汚らしい世界だ。
原子力村からカネをもらっている国会議員と同じだな。
ラストシーンは、有名だが、まるでゲームのようで、興醒めする。
(実際、ゲームにもなったらしい)。
あの、思わせぶりなターミネーターみたいな男は何なんだ。
これが残念な点だ。
音楽はジョルジオ・モロダー
いかにも80年代風の打ち込み音楽。
余談だが、僕は小学生の時に、ジョルジオ・モロダーが音を付けた『メトロポリス』を、大阪まで観に行ったことがある。
そうそう、『アマデウス』でアカデミー賞を獲ったF・マーリー・エイブラハムも出ていたな。
すぐ殺されてしまうけど。
あと、印象に残ったのは、中盤で芋洗坂係長(古い)みたいなピエロが蜂の巣にされて死ぬシーン。
かわいそうだった。
いつものように取り止めがなくなってしまったので、これで終わる。
アル・パチーノは、『ゴッドファーザー』『ゴッドファーザーPart.2』『スケアクロウ』『セルピコ』『狼たちの午後』などの傑作を連発した70年代前半以降、しばらく低迷期にあったが、本作で見事に復活したのであった。