『ミッドナイト・エクスプレス』

この週末は、ブルーレイで『ミッドナイト・エクスプレス』を見た。

1978年のアメリカ映画。
有名な脱獄映画であるが、恥ずかしながら未見であった。
脱獄を扱った映画は、思い付くままに挙げると、『抵抗』(ロベール・ブレッソン監督)、『穴』(ジャック・ベッケル監督)、『暴力脱獄』(スチュアート・ローゼンバーグ監督)、『パピヨン』(フランクリン・J・シャフナー監督)、『アルカトラズからの脱出』(ドン・シーゲル監督)、『ショーシャンクの空に』(これは名作とは言い難いが)等多数あって、一つのジャンルを形成している程である。
ミッドナイト・エクスプレス』の監督はアラン・パーカー
彼の代表作であろう。
僕は以前、近所のレンタル屋で、彼の監督した『ケロッグ博士』(あのコーンフレークを発明した人だとか)というマイナー映画を借りて見たことがあるが。
ミッドナイト・エクスプレス』の脚本はオリヴァー・ストーンである。
実話を基にした本作の脚本で、彼はアカデミー賞の脚色賞を受賞している。
が、事実とかなり異なる点もあるらしい。
プラトーン』等で監督として名高い彼だが、他にも『スカーフェイス』なんかで脚本を手掛けている。
音楽はジョルジオ・モロダー
フリッツ・ラングSF映画の古典『メトロポリス』に音楽を付けた人である。
僕は小学生の頃だったか、このサウンド版『メトロポリス』を大阪の映画館まで観に行った。
彼は、この『ミッドナイト・エクスプレス』でアカデミー賞作曲賞を得ている。
主演はブラッド・デイビス
エイズが原因で41歳の若さで亡くなった彼の代表作である。
共演のランディ・クエイドデニス・クエイド(『ジョーズ3』等)の兄。
ジョン・ハートは、『エレファント・マン』でエレファント・マンを演じたり、『エイリアン』でエイリアンに寄生される乗組員を演じたりしている。
本作では、見事に別人に化けているが。
舞台は1970年、トルコのイスタンブール
美しい夕焼けから始まる。
主人公の青年ビリー(ブラッド・デイビス)は、裸の身体に、板チョコのような大麻樹脂を大量にテープで貼り付けている。
服を着て空港へ。
心臓の鼓動が響く。
税関のオッサンは、彼のカバンの中にあったフリスビーを知らず、質問する。
英語は通じない。
何でもないことでも、ビリーにとっては一々緊張のタネだ。
何とかパスする。
今度は飛行機の前に多数の警官がいる。
テロ対策のため、乗客一人一人にボディ・チェックが行われる。
ビリーは恋人と一緒に飛行機に乗るはずだったが、あっさり大麻樹脂を発見され、彼女を残して連行されてしまう。
ビリーは所持品を片っ端からシラミ潰しに検査される。
とにかく言葉が通じない。
連中はイスラム教徒なので、皆ヒゲを生やしている。
アメリカ人との異質性が強調されているのだろう。
ビリーは裸にされ、全身を調べられる。
羞恥と屈辱。
ようやく、通訳を読んで、取り調べが始まる。
当時、トルコではゲリラの爆破事件が相次いでいたため、取り調べ体制が強化されていたのだ。
更に、麻薬の取り引きも増えていた。
ビリーは、大麻樹脂を彼に売ったというタクシー運転手を探しに、市場へ連れて行かれる。
トルコの猥雑な市場。
彼は、スキを見て逃走する。
だが、結局捕まり、刑務所へ。
そこは、恐ろしく劣悪な環境であった。
看守の暴行は当たり前。
所内で麻薬が横行している。
ここにいる外国人の9割は麻薬で捕まったらしい。
でも、カネさえ積めば保釈されるとか。
トルコはヒドイ非文明国であるということを主張したいんだな。
タイトルの「ミッドナイト・エクスプレス」とは、「脱獄」を意味する刑務所用語でだそうだ。
ビリーは父親と面会する。
父親は金満弁護士を連れて来ていた。
カネの力で出所させようということらしい。
ビリーの父親は、かなりのブルジョワジーのようだ。
ところが、裁判では検事が「麻薬密輸者に厳罰を!」と熱弁を振るう。
あっさり出所出来るものだと思っていたビリーは、懲役4年2ヵ月の判決を受けてしまう。
何だか、ものすごく理不尽なように演出しているが、元はと言えば、身から出た錆である。
親が金持ちだからって、カネの力で何でも解決されてたまるか。
時折流れるジョルジオ・モロダーの音楽は、非常に近未来的である。
この刑務所では、誰も彼もイカレている。
まず、リンチが黙認されている。
かなりの無法地帯である。
ただ、一般の刑務所のように、労役に服しているようにも見えない。
所内の行き来も自由なようだし、彼らは一体何をして日々を過ごしているのか。
刑務所の中は、まるでスラム街のようである。
ビリーは仲間から、この刑務所の地下には大昔に掘られた坑道があり、そこから外に脱出出来るという話を聞いた。
仲間が脱獄を計画する。
だが、失敗して看守からボコボコにされる。
ビリーには、何故かホモの恋人が出来る。
この場面は、当時物議を醸したらしい。
全体の流れからは、必ずしも必要なシーンとは思えないが。
ビリーは模範的に(?)所内で暮らし、あと53日で出られるという日、裁判のやり直しを通告される。
麻薬犯罪の厳罰化の影響で、下手をすると終身刑になるかも知れない。
アメリカ人は、麻薬如きを重罪扱いするのは後進国だと言いたそうだ。
最高裁の法廷で、ビリーはここぞとばかりに悪態をつく。
刑務所への不満、裁判への不満、最終的にはこの国への不満まで、言いたい放題ブチまける。
あ〜あ、やっちゃったという感じ。
父親や弁護士の祈りも空しく、ビリーは懲役30年を言い渡される。
流れる涙。
この瞬間から、ビリーは仲間と共に本気で脱獄を企てる。
本作の脚本の省略のテンポは非常に良い。
さて、ビリー達が刑務所の壁の古い箇所を掘ってみると、ボロボロと崩れる。
夜中に仲間と奥まで行ってみた。
確かに通路はある。
ただ、先が行き止まりになっていた。
仲間と夜中に出て行ける程、監視は緩い。
通常の脱獄物だと、どうやって脱獄するかというのがサスペンスを生み出す重要な点だが、本作では、そこには重きが置かれていない。
脱獄のスリルよりも、理不尽なトルコの刑務所に対して文句を言うのが主眼だ。
行き止まりなので、日を改めて出直そうと戻る。
しかし、壁に穴を開けたことがバレてしまった。
さあ、どうする?
話自体は非常に分かり易い。
終盤近くに凄惨な暴力シーンがある。
主人公は、ちょっとブラッド・ピットに似ている。
仲間の麻薬野郎(ジョン・ハート)は、冴えないジョン・レノンみたい。
「ビリーはアメリカとトルコ外交の犠牲者」と言うが、さて、どうだろう。
これが濡れ衣なら同情するが、大量の麻薬を国外に持ち出そうとしたのは事実だしな。
オチは「ホントかよ?」って感じ。
事実は小説より奇なりかと思ったが、この部分はフィクションらしい。
僕としては、本作の人種差別的な視点が気に入らない。
オリヴァー・ストーン民主党支持じゃなかったのか。
アメリカから見れば、トルコなんて、アジアとヨーロッパのハズレの、異教の後進国なんだろう。
日本だって、同じようなものだと思われているに違いない。