『チャイナタウン』

この週末は、ブルーレイで『チャイナタウン』を見た。

チャイナタウン [Blu-ray]

チャイナタウン [Blu-ray]

1974年のアメリカ映画。
監督はロマン・ポランスキー
ポランスキーと言えば、『ローズマリーの赤ちゃん』のようなオカルト映画から、『テス』のような文芸映画、さらに『戦場のピアニスト』のような真面目な戦争映画まで、幅広い作品を撮っているが、本作も代表作の一つである。
アカデミー賞に11部門でノミネートされたが、この年は『ゴッドファーザーPART.2』の一人勝ちとなったため、脚本賞ロバート・タウン)しか受賞出来なかった。
しかし、ミステリー映画らしく、緻密に計算された見事な脚本である。
主演は我らがジャック・ニコルソン
まだ若いので、頭頂部に髪の毛が残っている。
本作でも、強烈に癖のある個性的な演技を見せてくれる。
イージー・ライダー』ではアル中の弁護士を演じたが、本作では私立探偵を演じる。
で、この後、『カッコーの巣の上で』でアカデミー主演男優賞を獲るんだな。
ロマン・ポランスキージャック・ニコルソンと言えば、誰でも「ロリコン」を連想するだろうが、この作品でも、そういう要素はない訳ではない。
ヒロインはフェイ・ダナウェイ
60年代後半から70年代の偉そうな映画によく出ている。
俺たちに明日はない』から始まって、『タワーリング・インフェルノ』など。
そして、『ネットワーク』で、やはりアカデミー主演女優賞を獲る。
本作では謎めいた女の雰囲気をよく出している。
何か、時代背景から不幸な結末まで『俺たちに明日はない』に似ているな。
ジャック・ニコルソンフェイ・ダナウェイという役者のおかげで、アメリカン・ニューシネマを思い起こさせるが、この映画には、多分にそういう雰囲気も残っている。
ジャック・ニコルソンフェイ・ダナウェイをビンタする場面なんか迫真の演技だね。
そして、悪役として強烈な存在感を放っているのがジョン・ヒューストン
フィルム・ノワールの巨匠だが、俳優としても大いに活躍している。
僕は情けないことに『天地創造』くらいしか見ていないが。
本作は、冒頭のタイトルからフィルム・ノワールの空気が漂っている。
それに、まるで『日曜洋画劇場』のような、ジェリー・ゴールドスミスによるムーディーな音楽。
この人も、大作・話題作の音楽をたくさん手掛けている。
猿の惑星』『パットン大戦車軍団』『トラ・トラ・トラ!』『パピヨン』『カサンドラ・クロス』『オーメン』『エイリアン』…。
オーメン』では、確かアカデミー作曲賞を獲っていたな。
舞台が1930年代というのも、趣があって良い。
ジャック・ニコルソンのハットと、いつも変わるスリーピースのスーツが、とてもいい。
カネがあれば、僕もこんなスーツを仕立てたいと思わせる。
車は丸みのあるクラシックなフォルム。
街並みも落ち着いている。
こうした小道具や背景の一つ一つが、古典の風格を感じさせるのに貢献しているのだろう。
あと、タイトルの通り、中国人もよく出て来る。
さて、ストーリーだが、ミステリー映画なので込み入っているし、結末を明かす訳にも行かないので、簡単に書く。
ジェイク・ギテス(ジャック・ニコルソン)は、ロサンゼルスの私立探偵。
ある日、モーレイ夫人を名乗る女性から、夫の浮気調査を依頼され、市の水道局の幹部であるホリス・モーレイの尾行をすることになる。
貯水池に行ったり、海岸に行ったり、この尾行がなかなかスリリングだ。
ジェイクは遂に、モーレイが若い女性と密会しているところを屋根の上から盗撮することに成功。
この時のカメラもクラシカルでいい。
だが、モーレイの知らない内に、このスキャンダルは新聞にすっぱ抜かれる。
更に、本物のモーレイ夫人(フェイ・ダナウェイ)がやって来て、先に調査を依頼したモーレイ夫人は偽物だと分かる。
このモーレイ夫人も謎めいた雰囲気で、これから何か起りそうなことを予感させる。
そんな折、何とモーレイ氏が貯水池から水死体で発見される。
これは事件なのか、事故なのか。
ジェイクが独自に調査する中、ロサンゼルスの水道利権を巡る巨大な陰謀が浮かび上がる。
そして、モーレイ氏と密接な関係のあった影の実力者ノア・クロス氏(ジョン・ヒューストン)の存在。
クロス氏は、実はモーレイ夫人の父親であった。
ジェイクが真相に迫ろうとする度、彼の身には危険が降り掛かる。
小悪党にナイフで鼻を切られたりする(この時、鼻を切ったギャングは、ポランスキー本人が演じているとか)。
おかげで、全体の3分の1くらい、ジャック・ニコルソンは鼻に絆創膏を巻いている。
ミステリーなので、事件が起こる毎に、観客に「何だ、何だ?」と疑問に思わせ、引き込ませなければならないが、その点では本作は成功している。
最初は、全ての人が怪しく見える。
その中から本当に怪しいのは誰か、謎を解きながら、ストーリーに引き込ませる力が必要だ。
この映画は骨太で力強い。
真相は、結局最後まで見なければ分からない。
で、この作品を、映画史上に残しているのは、最後に明かされる設定のあまりの衝撃度によるのではないか。
そういう意味で、やはり脚本の勝利だとは言える。
詳しいことはここには書けないが。
監督と脚本家で、ラストを巡って対立したそうだが、最終的には、この結末で正解だろう。
ちゃんと伏線が張られている。
興味のある人は、自分で見て下さい。