『大空港』

この週末は、ブルーレイで『大空港』を見た。

大空港 [Blu-ray]

大空港 [Blu-ray]

1970年のアメリカ映画。
監督はジョージ・シートン
バート・ランカスターディーン・マーティンジーン・セバーグジャクリーン・ビセットジョージ・ケネディという、豪華なオールスター・キャスト。
後に「エアポート」シリーズとして、3本の続編が作られ、70年代パニック映画の元祖とされる。
いわゆる「グランドホテル」方式(映画『グランドホテル』で使われたような、同じ場所に様々な人物が集まって繰り広げられる群集劇)で、『ポセイドン・アドベンチャー』や『タワーリング・インフェルノ』など、その後のパニック映画もこの方式を踏襲している。
僕が最初に本作を見たのは、小学生の時か中学生の時か忘れたが、多分テレビの洋画劇場か何かだったと思う。
その後も何回か見返しているので、おそらく今回が4度目くらいではないだろうか。
飛行中のボーイング707に爆弾を持った男が乗り込むので、一応パニック映画に分類されているが、本作においては、これは全体の中のエピソードの一つに過ぎない。
むしろ、人間ドラマに重点が置かれている。
しかし、本作が大ヒットしたために作られた続編は、パニックシーンにのみ重点を置いた、内容のない映画になっている。
次作『エアポート'75』では、事故を起こすのがジャンボ機にスケールアップ。
主演はチャールトン・ヘストン
『エアポート'77/バミューダからの脱出』(未見)は、タイトル通りバミューダ海域に墜落。
主演はジャック・レモン
『エアポート'80』では、ついにコンコルドが登場。
主演はアラン・ドロン
先日亡くなったシルビア・クリステルも出ていて、おフランスな雰囲気の映画になっている。
いずれも、これでもかと言わんばかりの大スターが主演だ。
だが、いつも言うように、粗製乱造された続編に名作などあるはずがない。
さて、『大空港』の舞台は、吹雪で凍えそうな空港である。
この撮影は見事だ。
本当に大雪が降っているように見えるが、わざわざ冬場に撮ったのだろうか。
だとしたら、大変だ。
主役であるバート・ランカスターの空港長や、ディーン・マーティンの機長を取り巻くドラマは、奥さんとの痴話ゲンカや不倫相手の妊娠など、かなりメロドラマ調で、はっきり言って、あまり面白くない。
まあ、仕事熱心な夫に対し、職場にまで乗り込んで来て別れ話なんぞを切り出すヒステリーな奥さんを見ると、男として同情はするが。
むしろ、脇役たちの方が光っている。
ジョージ・ケネディ演じるベテラン整備士は、いつも葉巻をくわえ、仕事に命を掛けるタフガイだ。
タフガイと言っても、『ダイハード』のブルース・ウィリスのように人間離れしてはいない。
等身大の奮闘ぶりが、見る者の共感を呼ぶ。
さすが、この後の「エアポート」シリーズ全作に出演するだけのことはある。
ヘレン・ヘイズ演じる無賃搭乗常習者の婆さんは、毎度うまく監視の目をすり抜けて飛行機に乗り込む小狡さの一方、隣の人に余計なことをベラベラと話して捕まってしまうという抜けた所もある。
ふてぶてしいけれども、どこか憎めない、コミカルで愛すべきキャラクターだ。
彼女は、この演技でアカデミー賞助演女優賞を受賞。
ダイナマイトを抱え、高額の保険金を掛けて飛行機に乗り込む失業中の技術者・ゲレロを取り巻く人間模様は泣かせる。
彼はイタリア系なのだろう。
いつも仕事が続かず、子供を身内に預けて、貧しい生活を送っている。
彼は無口だが、明らかに挙動不審で、航空会社にマークされてしまう。
何も語らずとも目で演じる、大変味のある芝居だ。
その妻・イレーズもまた気の毒だ。
古びたカフェで働いている。
夫になけなしの金を渡すが、国内で仕事を探すと言っていたはずなのに、全く無関係なローマ行きの飛行機に乗ったことを知って不安におびえる。
夫が飛行中の機内のトイレで爆死し、命からがら空港に戻って来た乗客たちに、「夫が大変なことを…」とひたすら頭を下げて回る姿は、涙を誘う。
登場人物が多いので、それぞれの出演時間は短い。
けれども、その中でも、どういう背景を持った人間かということを簡潔に描き、ストーリーにうまく組み込んでいる。
2時間17分という、パニック映画としてはやや長い上映時間も、魅力のある人物のおかげで中だるみすることはない。
後のパニック映画は、形だけの人間ドラマしかなく、パニックシーンのみに重点を置いたものが多い。
本作のような風格を失ってしまったのは残念だ。
最後に、ジーン・セバーグと一緒に車に乗っているバート・ランカスターが、仕事の手順を訪ねて来た部下に「勝手にやっておけ!」と叫ぶのは、もちろん『勝手にしやがれ』に引っ掛けているんだろうな。