『地獄の黙示録』

連休中は、ブルーレイで『地獄の黙示録』を見た。

1979年のアメリカ映画。
監督はフランシス・フォード・コッポラ
僕は学生時代に、池袋の文芸坐で『ハート・オブ・ダークネス コッポラの黙示録』という、本作の製作過程を記録したドキュメンタリーを見た。
その時に、確か本編も併映されていて、そこで観たのが最初だと思う。
その後、DVDで2回くらい見ている。
しかし、今回見たのは、2001年公開の「特別完全版」(本ブルーレイには、初公開時の版と両方が収録されている)。
初公開版より1時間近く長く、全部で3時間20分ほどある。
しかし、息をもつかせない展開で、長さは感じない。
ストーリーらしいものはあまりなく、まるでドキュメンタリーのようだが。
本作の主演は配役表を見ると、カーツ大佐を演じたマーロン・ブランドがいちばん先頭に置かれているが、彼は最後の最後まで姿を見せない。
秘境に何年もこもっている役なのに、丸々と太っている。
頭は剃り上げられていて、とてもゴッドファーザーと同一人物には見えない。
マーロン・ブランドは大物らしく、監督の言うことを全然聞かなくて、コッポラは相当手こずったらしい。
配役表の2番目は、「映画史上最も狂った指揮官」とも言われるキルゴア中佐を演じたロバート・デュバル
しかし、彼も前半で一部しか登場しない。
彼は、戦争よりもサーフィンに夢中である。
いや、元サーフィン選手を部下に集め、戦場でサーフィンをするように命じるという本物の気違いである。
そのくせ、「朝のナパームの音は格別だ」というほど、戦闘が大好き。
ヘリ軍団で、ワーグナーの『ワルキューレの騎行』を大音量で流しながら空爆をするシーンは殊に有名。

何と好戦的な曲だろう!
このシーンは、まるで本物の戦闘を見ているかのような迫力で、製作費も製作期間も当初の予定を大幅に上回ってしまったことにも頷ける。
配役表の3番目は、ウィラード大尉を演じたマーティン・シーンで、彼が実質的な主役。
この配役表は、役者のキャリア順に並べただけだろう。
プラトーン』のチャーリー・シーンと並んで、親子二代のベトナム戦争映画主演を果たした。
冒頭、ウィラードがサイゴンのホテルに滞在しているシーンは、戦争の極限状態の心理をよく表現していると思う。
彼は、現実を忘れるために酒をしこたま浴びているが、緊急指令を命じられる。
軍の命令を無視して暴走したカーツ大佐を暗殺せよ、という極秘指令だ。
彼は、カンボジアの奥地に、原住民に自らを神とあがめさせる王国を築いているという。
そこへ行くためには、河川哨戒艇に乗って川をさかのぼり、カンボジアに入らなければならない。
ウィラードは数人の部下を従えるが、部下の前では極めて冷静である。
彼のナレーションは、本作の狂言回しだ。
ウィラードが川をさかのぼりつつ、先述のヘリ爆撃に始まり、女に飢えたアメリカ兵たちの慰安施設でプレイメイトのステージを見たり、指揮官のいない前線基地を訪れたり、フランス人の入植地に立ち寄ったり、様々なところを巡って行く。
そのたびに、部下が殺されたり、地元民を虐殺したりして、戦争の狂気があぶり出されて行く。
冒頭、チョイ役でハリソン・フォードが出ている。
気付かなかったが、ヘリの爆撃シーンでは、『フルメタル・ジャケット』で訓練教官を演じたリー・アーメイが出演しているらしい。
カンボジアでは、報道カメラマンの役で、デニス・ホッパーが出ている。
本作の登場人物は、みんな狂っている。
それはいいのだが、どうも最後のカーツ大佐の王国が、あまりにもインチキ宗教臭いというか、おどろおどろしくて、全体の中での意味付けがよく分からない。
元になったコンラッドの『闇の奥』は未読なので、何とも言えないが、こんな感じなのか?
牛の首を切り落とすシーンがショッキングだ。
ベトナム戦争の狂気を描こうとしたコッポラの意図はよく分かるし、全体の8割くらいは成功していると思うが、最後が何とも…。
ディア・ハンター』は、ベトナム戦争よりも、むしろロシアン・ルーレットの映画になってしまっているし、『地獄の黙示録』は、ベトナム戦争を題材にした現代の寓話(ただ、何をたとえているのかが分からないが)だろうか。
カーツ大佐の王国は、我々の目から見れば狂っているが、同様に、アメリカが行なった戦争も狂っているということなのだろう。
純粋にベトナム戦争そのものを描いた作品は『プラトーン』を待たなければならない。
だが、それでも、こういう映画は二度と撮れないだろう。
CGでは、本当の地獄は到底描けない。
ちなみに、劇場公開版は、大雨の中でプレイメイトと戯れるシーンと、フランス人入植者のシーンが、丸々カットされている。
カンヌ国際映画祭グランプリ、国際批評家連盟賞受賞。
アカデミー賞撮影賞、音響賞受賞。