『戦争のはらわた』

この週末は、ブルーレイで『戦争のはらわた』を見た。

1977年のイギリス・西ドイツ合作映画。
監督は『ワイルドバンチ』『ゲッタウェイ』のサム・ペキンパー
主演は『荒野の七人』のジェームズ・コバーン
共演は、『遠すぎた橋』のマクシミリアン・シェル、『海底二万哩』『北北西に進路を取れ』『ロリータ』『ローマ帝国の滅亡』等の名優ジェームズ・メイソン、『オーメン』『タイタニック』のデビッド・ワーナー等。
オープニングはナチス・ドイツ軍の記録フィルムから。
バックには子供が歌うドイツの童謡。
少しずつ記録フィルムから劇映画の世界へ入って行く。
1943年のロシア・タマン半島
戦場。
森の中で生々しく敵を突き刺す。
榴弾の爆発。
乱射。
スローモーションで繰り返される映像。
少年兵の死体。
ドイツ軍を描いているが、みんな英語でセリフを話している。
フランス戦線から志願して着任して来たシュトランスキー大尉(マクシミリアン・シェル)は、名誉欲が強く、鉄十字勲章を欲しがっていた。
シュトランスキーはプロイセン貴族で、鼻持ちならないヤツ。
この戦線を仕切っているのはブラント大佐(ジェームズ・メイソン)。
彼の副官がキーゼル大尉(デビッド・ワーナー)。
ブラントやキーゼルの信任が厚いのが、主役のシュタイナー軍曹(ジェームズ・コバーン)である。
彼は人格者である。
本作のメインは、シュタイナーとシュトランスキー(という名前のよく似た)二人の対決である。
シュタイナーの直属上官となったシュトランスキーはシュタイナーの直属上官となった。
本作では、血が飛び散る描写や爆破シーンなど、スローモーションが多用されている。
演出と言えばそうなのかも知れないが、本作は、なるべく戦争の真実を描こうとしているように思える。
シュタイナーは、戦場で出会ったロシアの少年兵を助ける。
シュトランスキーは「捕虜を取ることは許されない」と言うが、シュタイナーは押し切る。
最初の内は、あまりストーリーらしきものが見えて来ない。
シュタイナーとも信頼し合っているマイヤー中尉の誕生パーティーをみんなで行なったり、シュトランスキーによる部下へのホモの強要のような描写もある。
戦火の中の日常風景なのか。
やや観念的なセリフが続く。
シュタイナーは、ロシアの少年兵を逃す。
少年兵は、大切にしていたハーモニカをシュタイナーに渡す。
しかし、少年は目の前で撃たれてしまう。
これが戦争の実態なのだろう。
ここへ、敵の奇襲。
手持ちカメラが多用され、ドキュメンタリー風に撮られている。
爆破シーンはスゴイ。
戦闘振りはもうメチャクチャで、片っ端から銃が乱射される。
シュトランスキーは狼狽し、地下壕から出て防戦の指揮を執ることを拒む。
シュタイナーは負傷して、後方の病院へ送られる。
彼は病院で目覚めた。
脳しんとうで1週間眠っていたらしい。
彼は夢を見ていた。
腕や足がない、負傷した人々が多数いる。
現実と夢の交錯のようなシーンが続く。
結局、シュタイナーは完治を待たずに戦線へ復帰する。
彼は、戻ったら軍曹から曹長へ昇格していた。
鉄十字勲章を得るには有能なシュタイナーを味方につけた方が得策だと考えたシュトランスキーが、ブラント大佐に推薦したのである。
シュタイナーは、シュトランスキーの鉄十字勲章のためにサインをさせられそうになる。
「勲章なんて、価値のないタダの金属ですよ。」
「もし勲章ナシで戻ったら、家族に合わせる顔がない。」
「あなたは勲章に値しない。」
この二人のやり取りがいい。
さて、再びソ連軍の大攻勢が始まる。
空襲を受けて、陣地はほぼ壊滅する。
シュタイナーはブラント大佐に呼ばれる。
シュトランスキーについて大佐から質問されたシュタイナーは、「彼は勲章欲しさに戦死者の功績を横取りした」という真実を告げる。
シュトランスキーは、反撃の指揮はせず、現場にいなかったのだ。
そして、「私は全将校が嫌いです。みんな勲章に群がるハイエナだ」と捨てゼリフを吐く。
痛烈ですな。
ただ、本当に戦場で上官にこんなセリフを吐けるつわものがいたのかどうか。
戦局が悪化したので、退却が命じられる。
だが、シュタイナーの小隊には伝わっていない。
ソ連軍の戦車が攻めて来る。
猛攻に対して、こちらはなす術がない。
シュタイナーは対戦車地雷を使って善戦するが、本隊からはぐれてしまう。
形勢不利と見たシュトランスキーは策を弄して人事に働きかけ、一週間後には安全なパリへ異動できるよう内定をとりつける。
シュトランスキーは、目の上のタンコブのようなシュタイナーがいなくなって、勲章を手に入れるのであろうか。
ソビエト軍後方へ取り残され、味方から孤立したシュタイナー小隊。
ここから、彼らの苦難の道のりが始まる。
軍人の名誉欲を描いているのは、ちょっとキューブリックの『突撃』っぽい。
とにかく、戦争の生々しさを執拗に描いている。
ジェームズ・コバーンの歯並びがキレイ過ぎて、戦場ではちょっとヘンだが。
彼は、やっぱりヒーローだ。
彼が主演だからか、監督がサム・ペキンパーだからか、何となく「西部劇」のようなイメージもある。
ちなみに、本作のタイトルは訳すと『鉄十字勲章』だが、邦題は『戦争のはらわた』である。
確かに、生々しい戦争の描写から、うまいタイトルだとは思うが、どうしても『死霊のはらわた』を連想してしまう。