『エル・シド』

この週末は、ブルーレイで『エル・シド』を見た。

エル・シド [Blu-ray]

エル・シド [Blu-ray]

1961年のイタリア・アメリカ合作映画。
1950年代から60年代前半にかけて量産された歴史スペクタクル映画の一つである。
監督はアンソニー・マン
彼は『スパルタカス』を、主演のカーク・ダグラスと衝突して降板した(そのあとを継いだのが、若きスタンリー・キューブリック)。
本作の後にも、同じサミュエル・ブロンストン製作、ソフィア・ローレン主演で『ローマ帝国の滅亡』というスペクタクル映画を撮っている。
あと、1953年に『グレン・ミラー物語』という伝記映画を撮っている。
僕は子供の頃、この映画のリバイバル上映を、母に連れられて観に行ったことがある。
エル・シド』の主演はチャールトン・ヘストン
十戒』や『ベン・ハー』で、「ミスター・スペクタクル」みたいなイメージがあるが、『猿の惑星』『ソイレント・グリーン』みたいなSFや、『大地震』『エアポート'75』みたいなパニック映画、更には『ジュリアス・シーザー』のようなシェイクスピア映画から、『黒い罠』ではオーソン・ウェルズと共演したり、演じた役の幅は広い。
ただ、「大根役者」という評判もあるが。
共演はソフィア・ローレン
イタリアの大女優だが、若い時はキレイだったんだなと思わせる(歳をとってからの顔は恐ろしくて二目と見られない)。
ただ、かなりキツイ顔だが。
まあ、そもそも役柄がキツイ役だからいいのか。
彼女は、『クォ・ヴァディス』の端役が映画デビューというし、前述のように『ローマ帝国の滅亡』にも出ていたから、スペクタクル映画の常連であるが、僕の中では何と言っても『ひまわり』が一番かな。
あれは素晴らしかった。
あと、『カサンドラ・クロス』にも出ていたな。
僕の母がハリウッドの歴史映画が大好きで、いつも口癖のように「スペクタクルが見たい」と言っていた(いや、本当は「スペクタルが見たい」と言っていたのだが)。
しかし、田舎町では、レンタル屋にも往年の名作映画などほとんど置いていなかった。
今では、ブルーレイの高画質に大画面のテレビで幾らでも大作映画を見ることが出来る。
母が生きていたら喜んだだろうに。
けれども、何を見ても結局「やっぱり『ベン・ハー』にはかなわんなあ」と言うのだが。
もちろん、『グラディエイター』みたいなインチキな映画は決して評価しないだろう。
ハリウッドの歴史映画は、古代ローマを舞台にしたものが多いのだが、『エル・シド』は珍しく、11世紀のスペインが舞台だ。
冒頭に、ほんの少しだけ時代背景の解説がナレーションで入る(字幕で2行程度)が、全く予備知識がないと何の事だか分からないだろう。
この時代のスペインは、大部分イスラム勢力に占領されていて、北部に追い込まれたキリスト教徒がレコンキスタ(国土回復運動)という名の争いを起こしていた、ということは、世界史の教科書にほんの半ページほどだけ載っている。
世界史は赤点スレスレだった僕でも、さすがにその程度のことは知っていた。
エル・シドは、世界史の教科書には出ていないが、スペインの伝説的英雄なのだそうだ。
ロドリゴ・ディアス・デ・ビバール(チャールトン・ヘストン)はカスティリア王国の貴族。
後に「エル・シド(「主人」の意味)」と呼ばれるようになる。
彼が婚約者シメン(ソフィア・ローレン)と会うために故郷へ急いでいる途中、ムーア人との闘いに巻き込まれる。
捕虜にしたムーア人の王を釈放したため、彼は反逆罪に問われる。
シメンの父親は伯爵で国の最高剣士。
一方、ロドリゴの父も元最高剣士。
シメンの父は国王フェルディナンド1世の面前でロドリゴの父を侮辱する。
ロドリゴは、シメンの父に謝罪を要求するが、反逆者に娘をやりたくないため、断る。
このため、ロドリゴとの間で決闘になる。
この最初の決闘シーンは、重そうな剣を持っているので大変そうだが、剣道部出身の僕から見ると、素人のチャンバラにしか見えない。
本来、剣は相手を斬るためにあるのだが、この二人は、相手ではなく、相手の剣を狙っている。
そのため、派手なチャンバラにはなっているが、実は何の効果もない。
それはさておき、到底勝ち目のなさそうな最高剣士への挑戦をロドリゴは制する。
しかし、父を殺された婚約者シメンの恨みを買う。
ロドリゴは、隣国との領土を掛けた一騎打ちに抜擢される。
「勝ったらシメンを妻にする」という条件を出し、王は認める。
この大きな槍を用いた一騎打ちのシーンはかなりの迫力だ。
広い闘技場で、馬に乗った両者が、互いに長い槍を相手に真っすぐ向けたままぶつかり合う。
そして、槍が折れても何本か代わりがあり、それが尽きるまで闘う。
今にも刺さりそうで、見ていて怖い。
ロドリゴは、この闘いを制して、シメンを妻にするが、彼女の愛は得られない。
それどころか、暗殺まで企まれる始末。
それでも、ロドリゴはじっと耐える。
フェルディナンド1世が死に、息子のサンチョ2世(兄)とアルフォンソ6世(弟)の争いが始まるが、ロドリゴは中立を保つ。
アルフォンソ王はサンチョ王を暗殺する。
ロドリゴは、アルフォンソが暗殺を首謀したのではないかと疑い、民の前で無実を宣誓するように強要する。
これがアルフォンソの怒りを買い、ロドリゴは追放される。
で、いつの間にやらシメンとは寄りが戻って、メロドラマ調になる。
こういうヒーロー映画のお約束だが、ヒロインとのロマンスのシーンになるとトーンが変わって一気に白ける。
まして、若い頃のソフィア・ローレンは、ただの気の強そうな姉ちゃんだ。
で、追放されている間に、民衆がロドリゴの元にどんどん集まり、彼はスペインのために立ち上がることを決意する。
でも、女のシメンは修道院にひっそりとかくまわれることに。
戦争では、いつも残された女子供は悲惨だ。
この後、王の許しを経て、双子の娘も生まれ、先に助けたムーア人の王達の協力も経て、イスラム教徒との最後の大決戦に挑む。
この決戦は、さすがにスペクタクルである。
間違いなくカネは掛かっている。
もちろん、CGではない。
馬と人が大量に出て来る。
この辺りの合戦シーンは、どうしても黒澤映画の影響を受けているんだろうなと思える。
だが、この手のスペクタクル映画のクライマックスは、やはり『ベン・ハー』の戦車競走のシーンには勝てない。
最後のシーンは、なかなか度肝を抜かれる。
と言うのは、普通の歴史映画と大分違って、伝説を映像化しているからである。
全体として、エル・シドの行動にどうも一本筋道が通っているように思えないところがあり、主人公に感情移入しにくい。
だから、伝記映画としてはイマイチだと思う。
そのためか、数あるスペクタクル映画の中の1本として埋没してしまったのだろう。
管楽器主体の勇壮な音楽を作ったミクロス・ローザは、『ベン・ハー』などで3度もアカデミー賞を受賞している。
本作は、70ミリ・スーパー・テクニラマという、当時最先端のワイド・スクリーン方式で製作されている。
まあ、当時の歴史映画の大作は、みんな70ミリで撮ってるわな。
それから、本ブルーレイ・ディスクは、録音レベルが一定していない(特に後半)ので、鑑賞する際は注意を要する。