『アルカトラズからの脱出』

この週末は、ブルーレイで『アルカトラズからの脱出』を見た。

アルカトラズからの脱出 [Blu-ray]

アルカトラズからの脱出 [Blu-ray]

1979年のアメリカ映画。
脱獄映画の名作である。
監督はドン・シーゲル
主演はクリント・イーストウッド
つまり、あの『ダーティハリー』のコンビである。
僕が本作を見るのは多分3回目。
初めて見たのは小学生の時だろうか。
テレビの『日曜洋画劇場』か何かで放映された時だ。
公開時、大変な話題になったようで、その日は母が「スゴイ映画らしいで。絶対見なあかんわ」と色めき立っていた。
しかし、見終わった後、「えらい騒いでたさかい、どんなスゴイんかと思たら、何や全然やん。しょーもな」と酷評していた。
僕も、その時は確かにそう思った。
数年前、細君とDVDで見た時も、似たような感想だった。
だが、今回見たら、ちょっと感想が違う。
これは「見れば見るほど味の出る映画」なのかも知れない。
最初に見た時、「つまらない」と感じたのは、主人公の知能優秀なフランク・モリス(クリント・イーストウッド)の計画が、あまりにもうまく運び過ぎて、「ご都合的だ」と思ったからだ。
でも、これは実話なのである。
アメリカのサンフランシスコ湾に浮かぶアルカトラズ島。
ここにあるアルカトラズ刑務所は、これまで何十人も脱獄に挑んだが、誰も成功したことのない鉄の要塞であった。
ここに来る受刑者は、他の刑務所で脱走しようとしたり素行不良だったりで、最後に流れ付いた者ばかり。
ある大雨の日に運ばれて来たフランク・モリスもそうだった。
彼を始め、他の受刑者たちが何の罪でここにやって来たかは、ほとんど明かされない。
ただひたすら、淡々と脱獄の手口を描写して行くのである。
脇役たちは、なかなか個性豊かな面々だ。
誰かが「登場人物のキャラクターが弱い」などと書いていたが、そんなことはない。
そして、それぞれの人物たちの性格が浮かび上がるように、細かなところまで演出されている。
物語の重要なポイントに、一つ一つ伏線が張られている。
これは、何度か見てようやく気付いたことだ。
脚本は相当綿密に作られている。
冷徹な刑務所長を演じたパトリック・マクグーハンなど、本作が代表作の一つだ。
モリスを取り巻く人物たち。
ネズミをひそかに可愛がり、デザートに目がなく、食べ物と引き換えに色々な品物を用意してくれるリトマス。
白人を殺して捕まり、独房に入れられて自分でアキレス腱を切ってしまった図書係の黒人イングリッシュ。
絵を描くのが生き甲斐だという初老のドク。
「彼女」にしようとモリスに近付くが、殴られたため、モリスを恨み、復讐しようとして独房に監禁される大柄のウルフ。
母親が病気で死を目前にしているという、話好きだが神経のか弱い隣の部屋のバッツ。
前にいたアトランタの刑務所でモリスと一緒だったが、やはり脱獄に失敗してここに送られて来たアングリン兄弟。
いずれも、一度見ると忘れられない。
彼らはみんな、この地獄のような折の中から外へ出たいと思っているが、成功の見込みはないので、誰も脱獄に挑戦しない。
前半は、この刑務所の理不尽さがイヤと言うほど描かれる。
いかにも不味そうな食事。
ブツ切れのゆで過ぎたパスタに何のソースもかかっていない。
こんなもん食えないだろう。
正に「臭いメシ」だ。
にもかかわらず、嬉々としてそれを食べる受刑者。
真っ暗な独房に閉じ込められる恐ろしさ。
所長の一言で突然変わる方針。
受刑者の人権を無視した対応。
それでも、本作は登場人物たちに過剰に感情移入させようとしない。
これ見よがしにドラマチックな演出にしたり、音楽で盛り上げようなどとはしない。
カメラは、ひたすら地味にモリスらの行動を追って行くのみである。
その辺が、名作扱いされているけれども、実際はストーリー自体が破綻してしまっている『ショーシャンクの空に』などとの違いだ。
モリスは、偶然が重なって、何度も危機を切り抜ける。
毎度、危機が訪れる時の緊張感はスゴイ。
それを切り抜けてしまうから、僕の母は「つまらない」と感じたのだろう。
とは言え、先に書いたように、これは「実話」なのだ。
ウィキペディアを見ると、フランク・モリスが本当に脱獄のために掘った穴や、身代りに作った張りぼての人形などの写真が載っている(これ以上は、ネタバレになるので書かないが)。
モリスが所長の部屋に呼び出された時、彼は所長のデスクの上から小さな爪切りを持ち出す。
所長は神経質なので、爪切りを幾つも持っていて、いつも爪を切っているのだ。
排気口が屋上に繋がっていると聞いたモリスは、その爪切りで排気口の周りのセメントを削ってみる。
経年劣化と海の塩のために、ボロボロと崩れ落ちる。
彼は、少しずつこの穴を広げて行く。
その間にも、様々な工夫を編み出す。
周りの仲間達の協力もありがたい。
モリスは所長から目を付けられているが、それを如何にしてかわすのか。
知的で、寡黙で、男臭い役を演じさせたら、クリント・イーストウッドの右に出る者はいない。
70年代のイーストウッドは、正に『ダーティハリー』と本作だと言える。
本作をつまらないと感じるのは、ヒーローが派手な立ち回りやドンパチを演じる昨今のアクション映画と同列に見ているからだろう。
クリント・イーストウッドブルース・ウィリスは違うのだ。
それから、誰かが「女性は全く出て来ない」と書いていたが、そんなことはない。
中盤、面会に訪れたイングリッシュとバッツの家族が出て来る。
あと、アマゾンのレビューに、やたら「日本語吹き替えが収録されていない」という文句があった。
まあ、僕は洋画は基本的に字幕でしか見ないから関係ないが。
ルパン三世』の声優さんたちが吹き替えているんだな。
まあ、『ルパン三世』にもあまり興味はないが。
僕が昔、テレビで見たのはその吹き替え版だったのだろう。
アマゾンのレビューには、そんなことより、内容について書いて欲しい。