『オーメン』

この週末は、ブルーレイで『オーメン』を見た。

1976年のアメリカ映画。
エクソシスト』と並ぶ、オカルト映画の最高峰である。
僕が本作を初めて見たのは、確か小学生の時。
テレビの「日曜洋画劇場」か何かであった。
母はホラーやオカルトは大嫌いだったが、僕は学研の『ムー』なんぞを立ち読みしたりしていたので、興味津津だった。
僕が小学生の時、僕の中では、ホラー映画のトップはダントツで『オーメン』であった。
理由は「ちゃんと人が死ぬから」。
エクソシスト』と『オーメン』が大ヒットしたおかげで、70年代はホラーやオカルト映画が粗製乱造された。
それらの大半は、こけおどしとハッタリだけの、ひどい出来のものだった。
それらと比べると、『オーメン』はハッタリではなく、次々と重要人物が死んで行く。
何とまあ、今思えば不謹慎な理由だ。
当時の僕は、そういう観点から、『エクソシスト』はあまり好きではなかった。
もちろん、今ではどちらも大傑作だと思っているが。
この2作のスゴイところは、人間ドラマがきちんと描けているところだと思う。
そもそも荒唐無稽な設定の物語なのだが、一連の事件は現実に起こり得る出来事であり、連続して起こったのは単なる偶然で、それを「悪魔の仕業だ」と思っているのは単なる主人公の妄想かも知れない。
そりゃ、自分の子供を悪魔だと言う親を見たら、周りの人は「気が狂っている」としか思わないだろうから。
悪魔を信じる者にも否定する者にもリアリティのあるように描くことに成功して、この2作は名作になった(『ローズマリーの赤ちゃん』も『シャイニング』も、ホラーの名作はみんなそうだ)。
ちなみに、僕は悪魔の存在など、これっぽちも信じていない。
もちろんCGもない時代で、派手な見せ場はないけれども(有名な恐怖シーンは、みんなアナログの手作り手法で撮影されている)、一流の役者の確かな演技と、あとはカメラや編集、音楽で恐怖感を出すことに成功している。
エクソシスト』も『オーメン』も、もはやホラー映画の古典と言っていいと思うが、古典というのは、何度見ても色あせない。
僕は『オーメン』を、これまでに何度見たか分からない。
監督はリチャード・ドナー
本作で大ブレイクし、その後は『スーパーマン』『グーニーズ』『リーサル・ウェポン』シリーズなどを撮っている。
このブルーレイに付いている特典映像を見たが、本作はかなり緻密に計算されて作られている。
神父が、避雷針で貫かれる前の風のざわめき。
サファリ・パークで襲い掛かって来るヒヒの群れ。
血に飢えた山犬たち。
まあ、墓場のシーンは明らかにセットだが。
これらを撮るには、大変な苦労があったと思うが、その甲斐あって、いずれも映画史に残る名シーンに仕上がった。
彼はそれまでヒット作がなかったので、この作品に賭ける意気込みも強かったのだろう。
主演はグレゴリー・ペック
言わずと知れた名優である。
ローマの休日』『大いなる西部』『ナバロンの要塞』など、主演作は枚挙に暇がない。
アラバマ物語』ではアカデミー賞主演男優賞を受賞している。
彼が出演したことによって、作品に風格が生まれたと思う。
さらに、本作は、舞台をアメリカではなく、ロンドンやローマなど、ヨーロッパにしたことで、歴史の重みも画面の隅々に現れている。
彼はイギリス駐在の大使で、次期大統領も視野に入れているような役だが、大物役者が演じるだけに説得力がある。
彼の奥さんを演じたリー・レミックもいい。
最初に家政婦が自殺した時、息子を抱き締めて事件のあった方を見つめる恐怖の表情は、ポスターにもなったほど有名。
彼女が、物語の進行につれて段々と情緒不安定になって行くに従って、じわじわと観客の恐怖感も増して行く。
そして、何と言っても、ダミアンを演じたハーヴィー・スティーヴンスの不敵な笑みがいい。
「悪魔の子」にふさわしいたたずまいだ。
それから、ダミアン出生の秘密を探るカメラマン役のデビッド・ワーナーの存在感が素晴らしい。
実はシェイクスピア役者だとか。
彼は『タイタニック』でのディカプリオの敵役も印象的だったが。
彼が死ぬ有名なシーンは、人形と分かっていても怖いよ。
(細君は、本作を初めて見た後、ずっとそのシーンを「二度と見たくない」と言っていた。)
本作で特筆すべきなのは、やはり音楽。
黒ミサを連想させるような不気味なコーラス。
音楽が場面場面で縦横に演技をする。
音楽はジェリー・ゴールドスミス
映画音楽の巨匠で、手掛けた作品は『猿の惑星』『パットン大戦車軍団』『トラ・トラ・トラ!』『パピヨン』『チャイナタウン』『カサンドラ・クロス』と、映画史に残る大作・話題作がズラリ。
彼は、アカデミー賞に何と18回もノミネートされているが、受賞(作曲賞)したのは本作のみである。
それだけ、本作は音楽が物語る映画だったということだろう。
ホラー映画でアカデミー賞を受賞した作品と言えば、『ローズマリーの赤ちゃん』『エクソシスト』『オーメン』くらいしか思い浮かばない。
これらに『キャリー』『シャイニング』を加えれば、僕のホラー映画ベスト5になる。