『夜の人々』

今年最後のブルーレイ鑑賞は、『夜の人々』。

夜の人々 Blu-ray

夜の人々 Blu-ray

  • 出版社/メーカー: IVC,Ltd.(VC)(D)
  • 発売日: 2019/11/29
  • メディア: Blu-ray
1948年のアメリカ映画。
監督は、『理由なき反抗』『北京の55日』の巨匠ニコラス・レイ
製作は、『コンドル』(出演)のジョン・ハウスマン。
音楽は、『眼下の敵』のリー・ハーライン。
主演は、『ベン・ハー』のキャシー・オドネルと、『ロープ』『見知らぬ乗客』のファーリー・グレンジャー
モノクロ、スタンダード・サイズ。
甘い音楽。
「この青年とこの娘 これは今まで正しく知られていなかった二人の真実の物語である」というクレジット。
キスする若い男女。
今度はいかめしい音楽に変わる。
荒野を疾走するオープンカー。
4人の男が乗っている。
車が停まり、一人の男を降ろし、他の3人が叩きのめす。
死んだのだろうか、この男を車に残し、3人は歩き出す。
3人の男は、若いボウイ(ファーリー・グレンジャー)と、二人の中年男――片目のチカマウとTダブ――だ。
彼らは刑務所を脱獄して、逃走しているのであった。
3人は20キロ先でガソリンスタンドを経営するチカマウの兄モブレーの基を目指すのだが、足をくじいたボウイは20キロも歩けない。
「隠れてろ」と言われ、物影に身を潜める。
夜になって、ボウイの傍にジープが停まる。
運転しているのは若い娘キーチー(キャシー・オドネル)。
彼女はモブレーの娘で、先に行った二人がボウイの基へ迎えに寄越したのであった。
車に乗り込むボウイ。
林の奥の小屋へ。
チカマウとTダブ、モブレー、Tダブの義理の姉(収監中のTダブの兄の妻)がいる。
チカマウ達は、1500ドルで中古車の手配をモブレーに頼む。
キーチーの母親(モブレーの妻)は、男と駆け落ちしたらしい。
3人の脱獄事件のことは、既に新聞に載っていた。
3人は銀行強盗を計画する。
ボウイは、殺人の濡れ衣を着せられていた。
彼は23歳。
刑務所に7年いたという。
モブレーは中古車を手配して戻って来るが、飲酒運転で車をぶつけてしまう。
重度のアル中であった。
ボウイの母親も男と駆け落ちしたらしい。
しかも、父親はその男に撃たれたと。
ボウイはカネが出来次第、弁護士に頼んでカタギになる決意をしている。
キーチーは、悪いヤツらと一緒にいる限り、カタギになるのは無理と心配する。
まあ、しかし、登場人物は全員、ロクでもないヤツらばかりだ。
翌朝、3人は銀行の下見に行く。
銀行の前で見張っていたボウイは、目の前の時計屋で、キーチーにプレゼントするための腕時計を買う。
釣り銭を切らしていた店主は、ボウイを連れて銀行へ。
ここで、銀行強盗を計画しながら、窓口に顔をさらしてしまうというミスに、観客は緊張するだろう。
詰めが甘過ぎる。
その後、3人はTダブの義姉の手助けで借りたアジトへ。
翌朝、銀行強盗決行。
ボウイは外で車を待機させ、運転手役であったが、昨日の時計屋の店主が彼を見付けて話し掛けて来る。
アチャーーーッ。
焦ったボウイは店主を殴ってしまう。
銀行から奪ったカネを持ったチカマウとTダブを乗せて、車は逃走。
3人は車を途中で乗り捨てて燃やし、別の車を盗んで乗り込む。
しかし、その車を電柱にぶつけてしまう。
警察がやって来る。
急いで逃げようとする彼らを怪しんだ警官は、署に連行しようとする。
チカマウは警官を撃って、強引に車を発進させる。
もう、やることなすこと、全部うまく行かない。
本当に、ロクでもない。
ボウイは怪我をしている。
チカマウはモブレーの店へやって来て、ボウイの看病をキーチーに頼む。
その代金としてキーチーにカネを渡すが、彼女は拒否する。
モブレーは喜ぶが。
この作品の中で、キーチーだけが犯罪者ではない。
だが、犯罪者に囲まれて暮らしていると、否応なく巻き込まれてしまうのだ。
正に、朱に交われば赤くなるである。
キーチーはボウイを看病する。
ボウイはキーチーに、先日、銀行の傍の時計屋で買った腕時計をプレゼントする。
チカマウが置いて行った革のバッグの中には、ボウイの分け前の大金が入っている。
ボウイはキーチーに、「このカネで弁護士を雇ってカタギになる」と告げる。
しかしながら、新聞を見ると、警官が撃たれた現場から、ボウイの指紋の付いた拳銃が発見されたと書かれている。
もうね、人生終了なんだが。
最初の殺人の濡れ衣が事実だったとしたら、気の毒な話しだが、そこから脱獄した時点で既に本物の犯罪者で、更に銀行強盗、警官を銃撃……もうどうしようもない。
抜け出せない犯罪の連鎖である。
キーチーも、止せばいいのに、こんな男に惹かれてしまった。
まあ、確かに、根は悪いヤツではなさそうに見える。
しかし、若い時は後先のことを考えないのだろう。
まあ、僕も分からんではないが。
明朝、ボウイはキーチーを連れて町を出る。
彼女と長距離バスに乗り込む。
途中、10分間の休憩でバスが停車する。
二人は下車して、安カフェでコーヒーを飲む。
カフェの目の前に結婚式場がある。
「あなたは悪い人じゃない。」
「お尋ね者と一緒だと、巻き添えに撃たれるぞ。」
まあ、日本だと、警官が発砲しただけでニュースになるが、アメリカなんか、犯人を平気で射殺するからな。
二人は、またバスに乗る。
しかし、発車するや、「キーチー、結婚してくれ」「いいわよ」「バスを停めろ!」
バスを降り、目の前の24時間営業の格安結婚式場に入る。
何で、24時間営業の格安結婚式場なんていうのがあるのか知らんが。
そして、二人の服装が、年齢に不釣り合いな立派な衣装である。
銀行強盗で得たカネで、立派な衣装を調達したのだろう。
この式場のオーナーの牧師が、また胡散臭い。
こんな夜中に、こんな場末で結婚式を挙げようとするカップルなんて、訳ありに決まっている。
ボウイとキーチーを、牧師が明らかに怪しむような目で見ている。
ボウイは、牧師に新車の手配を頼む。
現金で2700ドルと、仲介料として500ドルを要求される。
現在の貨幣価値だと幾ら位なのか知らんが、こんな若造がキャッシュで新車を買えるのもおかしいし、それを分かっていながら不問にして、更に高額の仲介料を要求する牧師。
もう、信仰心の欠片もなさそうである。
どう見ても、こいつも裏社会の人間だ。
この作品に出て来るのは、本当にこんなロクでもないのばかりで、もう絶望的である。
二人は、新車に乗ってハネムーンに出掛ける。
さあ、これからどうなる?
ここからは、多少メロドラマ調である。
と言っても、不幸の匂いしかしない。
本作は、ハリウッド映画とは到底思えないほど救いがない。
ネタバレになるので、詳しくは書かないが。
幾ら、こんな旦那を選んだキーチーの自己責任とは言え、余りにも悲惨である。
男女の逃走劇と言えば、真っ先に『俺たちに明日はない』が浮かぶが。
その20年も前に、こんな明日なき逃走が描かれていたんだな。
ブルーレイのパッケージには、「巨匠ニコラス・レイ、最高傑作」とある。
しかも、デビュー作らしい。
同梱されている解説には、デビュー作で最高傑作を撮ってしまったとして、オーソン・ウェルズと並べられていたが、確かに、それも頷ける出来映えである。
1974年には、ロバート・アルトマンが『ボウイ&キーチ』としてリメイクしているらしい。
機会があれば、これも見てみたい。
アルトマンも好きな監督の一人なので。

They Live By Night (1949)