『キング・コング』(1933)

この週末は、ブルーレイで『キング・コング』を再見した。

1933年のアメリカ映画。
監督はメリアン・C・クーパーとアーネスト・B・シュードサック
製作総指揮は、『風と共に去りぬ』『レベッカ』『白い恐怖』『第三の男』の大プロデューサー、デヴィッド・O・セルズニック
音楽は、『風と共に去りぬ』『カサブランカ』『三つ数えろ』『キー・ラーゴ』の巨匠マックス・スタイナー
主演は、フェイ・レイ、ブルース・キャボット、ロバート・アームストロング。
ゴジラVSコング』が緊急事態宣言のせいで公開延期になった。
その間に、先に公開された北米では、早くもブルーレイが発売されるらしい。
ゴジラ映画は、1984年の『ゴジラ』以来、ハリウッド版も含めて全て封切りで観ているので、残念だ。
まあ、内容には全く期待しておらず、最早単なる惰性であるが。
かつての東宝の『キングコング対ゴジラ』は、日米関係に配慮して、引き分けに終わったが。
今度の『ゴジラVSコング』は、予告編で見る限り、ゴジラ放射能火炎をコングが素手で受け止めたり。
ゴジラはコングにかなりボコボコにやられている。
まあ、ワクチンを一気に作り上げてコロナを抑え込んだアメリカに対して、日本の情けなさったらないからなあ。
現実世界でも、既に先進国とも呼べないような日本はアメリカから見下されているのだろう。
バイデンとガースーじゃあ、勝負にならん。
さて、僕は十数年前に『キング・コング(1933)』を一度、DVDで見ている。
その時は画質が悪かったので、よく分からなかったが、2年前に、高画質のブルーレイで見返してみて、改めて本作のスゴさを痛感した。
そして、今回、また見返してみて、見る度にその思いを強くする。
ものすごいイマジネーションである。
後の怪獣映画のお約束となる要素が全て含まれている。
謎の島、原住民の守り神、怪獣同士のプロレス、建物の破壊、鉄道の破壊、飛行機による攻撃など。
あの『ゴジラ』の第一作だって、本作を丸ごと真似ているではないか。
そして、特撮技術もスゴイ。
キングコング人形アニメーションだが、恐竜との闘いなど、非常に良く表現出来ている。
特に、多重合成の技術が素晴らしい。
奥(遠景)の人形アニメと手前(近景)の人間の実写との動きが完璧に一致している。
幾つもの素材を合成して作ったカットも多い。
非常に芸が細かい。
カメラワーク、カット割り、編集、全てが一致しないと、こんなにうまくは行かない。
アナログでこれを創るのは、想像を絶する大変さだったに違いない。
それから、コングの表情が実に豊かである。
まばたきをしたり、首をかしげてみたり、まるで、本当に演技をしているかのように見える。
人形アニメの動きの滑らかさは特筆に値する。
それに、音楽の被せ方が非常にうまい。
音楽によって臨場感を盛り上げる。
ゴジラ伊福部昭のあのテーマ曲でないと成立しないように、怪獣映画に音楽は極めて重要である。
約100分の上映時間のうち、80分間が髑髏島での出来事である。
後のコング映画と違って、コングを運ぶシーンは省略。
ニュー・ヨークは最後の20分間しかない。
しかし、短い分、非常にスピーディーでインパクトがある。
ニュー・ヨークのエキストラの数や、パニックになる群衆の描写もスゴイ。
コングがエンパイア・ステート・ビルに昇るシーンは、余りにも有名。
ちょうど、本作を見る前々日に、ハリウッド版の『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』をテレビで放映していたが。
昨今のCGには不自然な部分がたくさんある。
ゲームのようにチカチカとして、見るに堪えない。
人形アニメの動きの方が味があって良い。
90年近く昔の作品だと考えると、よくこれだけ臨場感のある映像が完成したものであると感嘆する。
どれほど手間が掛かっているのだろうか。
当時の観客は、これを観て驚愕したに違いない。
結局、如何に技術が進歩しても、あらゆる怪獣映画は本作のイマジネーションに到底及んでいない。
ついでに言うと、僕は『ゴジラ』シリーズを全作見たが、やはり第1作が一番偉大だ。
時々、「『シン・ゴジラ』は第一作を超えた」とか言う人がいるが。
そんな訳はないだろう。
まあ、確かに面白かったけど。
第1作は、志村喬が出ているからな。
重みが違う。
比較の対象にならない。
話しを『キング・コング(1933)』に戻そう。
モノクロ、スタンダード・サイズ。
迫力あるテーマ曲。
「そして預言者は言った。『そして見よ 野獣は美女の顔を見上げた、が その首を締めようと伸びた手はとどまり その目を鏡に野獣は抜け殻のようになった』古代アラビアの諺」という字幕。
ニューヨークの港。
映画撮影隊が船に乗って出発しようとしている。
率いるのは、映画監督のカール・デナム(ロバート・アームストロング)。
彼はジャングル映画で有名だった。
しかし、スタッフ達は、デナムの過酷な要求に「イカれている」と不満タラタラであった。
船には強力なガス爆弾を積んでいた。
保険会社にバレないように、急いで出発しなければならない。
撮影内容も目的地も一切知らせない秘密主義なので、女優も見付からない。
しかし、大衆は色気を求めているので、女優が必要だというのがデナムの信念であった。
「今までにない最高の映画を撮るんだ!」とデナム。
その夜、デナムは失業中でリンゴを万引きしようとしていた若い女性を助ける。
彼女の名はアン・ダロウ(フェイ・レイ)。
アンの顔を一目見て、デナムは「女優になれ」と告げる。
明朝6時に出港だ。
一方、船員のジャック・ドリスコル(ブルース・キャボット)は、船に女性が乗ることを快く思っていなかった。
船には中国人のコックや、小さなサルも乗っている。
行き先は船員にも告げられていない。
アンに対してぶっきらぼうな態度を取るジャックを見て、デナムは、実はジャックが彼女に惚れているということに気付く。
行き先は海図にも載っていない島であった。
島の周りを大きな壁が囲っているという。
古代文明によって築かれたようだ。
何か恐ろしいものがいて、それを閉じ込める目的だろう。
原住民が「コング」と呼んでいるものだ。
船員達は、「そんなものは原住民の妄想だ」という。
しかし、デナムは「実在している」と言う。
恐ろしいものだから、ガス爆弾が必要なのだ。
デナムは甲板でアンのカメラ・テストを行なった。
美女を見るために船員達が集まって来る。
デナムはカメラマンを信用していなかった。
自分の作品なので、自らカメラを回すのだ。
まるでキューブリックみたいだな。
船は進む。
海には濃い霧が立ち込めていた。
目的の島に近付く。
そこは「髑髏島」であった。
撮影隊が島に上陸する。
彼らは、島に築かれた巨大な壁に驚く。
そして、「コング、コング」という呪文が奥から聞こえて来る。
たくさんの原住民が何やら踊っている。
中央に座っている若い娘は生贄だろうか。
東宝の『キングコング対ゴジラ』にもこんなシーンがあったし、『モスラ』のインファント島もそうだな。
もっと言えば、初代『ゴジラ』の大戸島だってそうだろう。
土着的な要素が怪獣映画にはあるが、もちろん、その原型は本作にある。
さて、原住民達は撮影隊に気付いた。
酋長のような人物が近付いて来る。
船長が挨拶する。
「『出て行け』と言っている。」
船長は、何故か原住民の言葉を理解して、通訳をする。
「あの娘はコングの花嫁。我々のおかげで儀式が台無しだ。」
さらに、「金髪の女をコングに捧げる。買いたい。女性6人と交換しろ」という。
金髪の女とは、もちろんアンのことだ。
この女性蔑視は、今なら大問題になるだろう。
女性を売買することも問題なら、白人と原住民の価値がこんなに違うというのも大変な人種差別だ。
で、そんな要求は飲めないので、デナムは「明日、また来る」と言って、いったん引き上げる。
その夜、船上でジャックはアンのことを心配していた。
アンにとってはデナムは恩人だから、何でもするという。
ジャックはアンのことを愛していた。
愛を告白し、キスする二人。
その後、ジャックが目を離したスキに、原住民がカヌーでやって来て、アンを拉致する。
デナムは、船室から、島で松明の灯りがこうこうと灯っているのを見る。
一方、ジャックはアンがいないことに気付く。
心配でたまらない。
甲板に原住民の首飾りが落ちている。
やられた!
船内は大騒ぎになる。
船員が皆、銃を手にボートに乗り込んで島へ向かう。
アンは拘束され、原住民に囲まれていた。
台の上で両手を繋がれているアン。
原住民達は、アンを残して、大扉を閉めた。
今見ても、ものすごいセットと原住民の数である。
原住民は、大きなドラを打ってコングを呼んだ。
コング登場。
大きい。
ウィキペディアによると、身長18フィート(約5.4メートル)という設定らしい。
コングがアンをつかんで連れ去る。
船員達は銃を持って上陸する。
大扉を開けて壁の中へ。
夜が明けた。
大きな足跡がある。
それを追う船員達。
何と、太古の恐竜・ステゴサウルスがいる。
ステゴサウルスは、船員達を見付けると、こちらへ向かって来た。
船員達が必死で銃を撃つと、倒れるステゴサウルス。
今度は大きな川がある。
いかだを作って渡る船員達。
まるで川口浩探検隊みたいだな。
今度は、川の中からブロントサウルス登場。
いかだはブロントサウルスに襲われてバラバラになる。
このシーンは、水が出て来るので、人形アニメではないな。
実に、様々な特撮を組み合わせて撮っている。
船員達は泳いで川を渡る。
ブロントサウルスが追い掛けて来る。
必死で木に登った船員に襲い掛かるブロントサウルス。
そこへ、コング登場。
手にはアンがつかまれている。
木橋を渡る船員達。
コングはアンを地面に座らせ、丸木橋を揺さぶって、船員達を次々と谷底へ落下させる。
本作には、結構残酷描写がある。
戦前のことなので、検閲でカットされた場面もあるかも知れない。
円谷英二は本作を観て強い影響を受けたそうだが、日本ではいつ公開されたのだろうか。
さて、ジャックは、崖のくぼみに隠れている。
コングが手を伸ばして来るが、その手をナイフで刺すジャック。
そこへ、ティラノサウルス登場。
忙しいな。
アンに近付くティラノサウルス
アンの悲鳴を聞いて、ティラノサウルスと戦うコング。
もう、東宝の『キングコング対ゴジラ』なんか、まんまこれのパクリだな。
たくさんの恐竜が登場する本作は、コングの他は大蛇しか出て来ない1976年のリメイク版よりも、かなりにぎやかだ。
コングは、怪力でティラノサウルスのあごを裂く。
血が流れる。
何度も言うが、本作には、結構残酷描写がある。
コングもかなり凶暴だ。
ただし、アンにだけは優しい。
まさに、「美女と野獣」である。
ティラノサウルスに勝利したコングは、雄叫びを上げる。
このコングとティラノサウルスとの闘いは、非常に見事な出来栄えだ。
よくぞこれを人形アニメで撮ったものだ。
ウィリス・オブライエンというのはスゴイ人だな。
彼の技術を継承したレイ・ハリーハウゼンは、80年代まで人形アニメで映画を作っていた訳だから。
それと比較しても、全く遜色のないレベルだ。
そのわずか10年ほど後に、CGで『ジュラシック・パーク』が作られる訳だが。
僕は、『ジュラシック・パーク』を封切り時に劇場で観て、たまげた。
でも、本作の恐竜の描写は、『ジュラシック・パーク』に勝るとも劣らない。
CGも、『ターミネーター2』を初めて劇場で観た時には度肝を抜かれたが。
今は乱用し過ぎて、胸焼けがする。
映画全体が、CGという薬物を濫用して、廃人になりかかっているのではないか。
で、コングはアンを連れ去る。
主役だから当たり前だが、デナムとジャックは助かった。
さあ、これからどうなる?
本作を改めて見ると、後世に多大な影響を残した偉大な作品であることがよく分かる。
いや、とにかくスゴイ。
リメイクは、76年版も2005年版も両方観たが、どっちも全然ダメだな。
オリジナルには到底及ばない。

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