『栄光のル・マン』

この週末は、ブルーレイで『栄光のル・マン』を見た。

1971年のアメリカ映画。
監督はリー・H・カッツィン。
主演は、我らがスティーヴ・マックイーンである。
フランスのル・マン郊外で行われる「ル・マン24時間耐久レース」を題材にした映画。
しかしながら、僕なんかはポルシェとフェラーリの区別も付かないくらい車音痴である。
大体、男の子は幼い内に鉄道派と車派に分かれると言うが、僕は完全に鉄道派であった。
小学生の頃、カウンタックの筆箱を買ってもらったことがあるが、僕にとっては、単なる筆箱以上の意味はなかった。
当時、筆箱はフタの数が多い程カッコイイことになっていて、同級生は五つくらいフタの付いたのを持っているのに、僕の筆箱には三つしかなかったのが悔しかった。
あと、学校帰りに、スーパーカーが展示されている店の前をいつも通ったが、「へえ」という以外に感想はなかった。
今考えても、あんな京都の郊外の町にスーパーカーを展示してどうするんだろう。
大人になってからも、免許は前にいた会社で取らせてもらったが、ずっとペーパードライバーだし、おおよそ僕の人生にクルマは似つかわしくないのである。
従って、『栄光のル・マン』なんていうのは、本来は僕なんかが見ても仕方がない映画なのだが、これがなかなか楽しめた。
本作は、自らもレーサーであったマックイーンが精魂込めて作ったプライベート・ムービーである。
クルマのことはよく分からなくても、思い入れの深さはひしひしと伝わって来る。
以前、ある大手書店チェーンの取締役に「作り手の思い入れのない本は絶対に売れない」と言われたことがあるが、映画にも同じことが言える。
これは、大スターのマックイーンだからこそ出来た映画で、今では絶対にこんなのは作れないだろう。
本作は、セミドキュメンタリー・タッチで進行し、ストーリーらしいものもない。
そのため、当初監督に起用されていたジョン・スタージェス(『荒野の七人』など)と衝突し、彼は途中降板した。
案の定、アメリカでは観客にアピール出来ず苦戦したが、日本では1971年洋画興行収入の3位というヒットになった(ちなみに、1位は『ある愛の詩』)。
同じ年に『バニシング・ポイント』も公開されている。
カー・アクションの当たり年と言えるだろう。
フランスの美しい風景を走る1台の車から本編は始まる。
マックイーンはカッコイイ。
男だ。
事故の回想。
手持ちカメラを多用した映像は、正にドキュメンタリーだ。
どうやら、主人公のマイケル・デラニー(スティーヴ・マックイーン)は、前年のレースで事故を起こし、相手のドライバーを死なせてしまったようだ。
しかし、今年もまたル・マンに出場する。
去年の事故で亡くなったドライバーの未亡人も会場に来ている。
会場はものすごい人が集まっている。
場内アナウンスでレースの解説。
本作はセリフもほとんどないため、このアナウンスが一種の狂言回しになっている。
世界各国からル・マンに参加者が集まり、国旗・国歌が乱れ飛んでいる。
マイケル・デラニーは去年、事故に泣いた。
今年は何としても雪辱を果たしたい。
レース開始前の緊張感は非常によく表現されている。
高まる胸の鼓動。
リズミカルな編集。
クルマは一斉にスタート。
猛烈なスピードである。
ル・マンのレースは1周約13キロ。
一般の道路を走る。
町の中をこんなスピードで走っていいのか。
カメラワークがスゴイ。
本物の迫力である。
300キロも出ているというクルマたちは、飛ぶような速さだ。
音楽がいかにも70年代風の味のある作り。
本作の音楽を担当したのは、『5時から7時までのクレオ』『シェルブールの雨傘』『華麗なる賭け』のミシェル・ルグランである。
クルマのスピードが余りにも速過ぎて、どれが主役の車かよく分からない。
あっという間にレーサー交代、燃料補給。
このレースは24時間耐久なので、レーサーは二人一組である。
マックイーンが休憩している合間に、ほんの少しだけドラマが挿入される。
レーサーを追うパパラッチがヒドイ。
雨が降り出した。
湯気を立てながら走るクルマ。
最初のトラブル発生。
どうやら、エンジンが潰れたようだ。
当たり前だが、レーサーだけじゃなく、クルマが重要ということか。
雨でスリップするクルマ続出。
本降りになって来た。
本作は、実際のル・マン耐久レースの映像を使用している。
本番で雨が降っていたということか。
この雨の中、時速300キロで走り続けるとは、大変だ。
撮影するのも大変な苦労だったと思う。
クルマがスリップして、事故。
事故が起きると、黄ランプが灯る。
雨用のタイヤに交換する。
タイヤ交換も大変そうだ。
車体に泥がはねまくっている。
映像から、舞台裏の様々な苦労が伺える。
時刻は夕暮れから夜へ。
既にリタイア組もいる。
マックイーンが軽い夕食をとる。
未亡人と、ほんの少しだけ会話。
大げさなドラマはない。
明け方になった。
レース開始から13時間目。
既に半分以上が脱落している。
相変わらず、狂言回しは場内放送である。
7番のクルマが事故で吹っ飛ぶ。
更に爆発、炎上。
血まみれで倒れるレーサー。
それに気を取られ、ついにマックイーンの乗った20番のクルマも事故を起こす。
スローモーションがスゴイ。
巧みな編集である。
マックイーンはかろうじて助かり、ヘリで運ばれる。
エンドロールを見ると、マックイーンも実際にクルマを運転したようだが、大スターが本当に事故を起こしたら、どうするつもりだったのだろうか。
実際、撮影で足を切断したレーサーもいたという。
この映画は、現代の『ベン・ハー』のようだ。
いつの時代も、大衆は車の競争にひかれるのだろう。
実は、この後、もう一展開あるのだが、それは書かないでおく。
ラストの抜きつ抜かれつのカー・アクションは、正に手に汗握る迫力。
いつも言うことだが、このクルマのスピード感は、CGでは絶対に出せない迫力である。
その内、みんなCGに飽きて、本物の良さが見直される日が来るのではないだろうか。