この週末は、ブルーレイで『マラソンマン』を見た。
- 出版社/メーカー: パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン
- 発売日: 2013/04/26
- メディア: Blu-ray
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監督はジョン・シュレシンジャー。
代表作は、もちろん『真夜中のカーボーイ』である。
主演はダスティン・ホフマン。
『真夜中のカーボーイ』に続いて、再びジョン・シュレシンジャーとタッグを組んだ。
ダスティン・ホフマンは名優である。
パッと思い付くだけでも、上記の他に、『卒業』『パピヨン』『大統領の陰謀』『クレイマー、クレイマー』『トッツィー』『レインマン』等、いずれも映画史上に残る傑作ばかりに出演している。
共演はローレンス・オリヴィエ。
言わずと知れたシェイクスピア俳優。
これまた、出演作は思い付くだけでも、『ヘンリィ五世』『ハムレット』『スパルタカス』『空軍大戦略』『遠すぎた橋』等、歴史映画から戦争映画まで幅広い。
彼は本作の演技で、アカデミー賞助演男優賞にノミネートされている。
更に、もう一人のスターはロイ・シャイダー。
『フレンチ・コネクション』『ジョーズ』『オール・ザット・ジャズ』と、こちらも出演作はいずれ劣らぬ傑作揃い。
この三大スターが夢の競演を果たした作品である。
音楽で言えば、松任谷由美、小田和正、財津和夫の「今だから」、怪獣映画で言えば、ゴジラ、ラドン、モスラの『三大怪獣地球最大の決戦』に匹敵する豪華な競演だと言えるだろう。
本作は、ストーリーの核心をなかなか明かさない。
観客が少しずつ謎解きをしていくように仕向けている。
最初は、ひたすら走っているダスティン・ホフマンから始まる。
場所はニューヨーク。
爺さんが銀行の貸金庫から鍵のようなものを引き出す。
車(ベンツ)に乗るが、エンストを起こす。
彼は、どうやらドイツ人らしい。
後ろからもう一人、別の爺さんが乗った車がやって来て、「早く行け!」とせかす。
この爺さんは、どうやらユダヤ人らしい。
ドイツとユダヤの因縁めいたケンカが始まる。
のっけから物騒だ。
共産党の街頭演説を妨害する右翼の街宣車を見るようである。
この2台の車はどちらも調子が悪く、お互い口汚く相手を罵りながら走っている内に、ブレーキが効かなくて、オイル満載のタンクローリーに突っ込んでしまう。
大爆発。
ダスティン・ホフマンはこの事故に、マラソン中に出くわす。
どうやら、事故で死んだドイツ人の爺さんは、ナチスの戦犯の兄のようだ。
舞台は変わって、今度はパリ。
街ではデモ行進が行われている。
いいね!
ロイ・シャイダーが何か秘密の取り引きをするようだ。
とにかく、全編サスペンス・タッチで、全貌が分からないまま淡々と事件が展開して行くので、観客は緊張しながら見ていなければならない。
シャイダーがタクシーに乗った瞬間に、そばにあった揺りかごの中の人形が爆発する。
仕掛け爆弾だ。
でも、彼が何の取り引きをしていて、何が原因で事件に巻き込まれるのかは、この時点では全然分からない。
今度は、再びニューヨークのコロンビア大学。
ダスティン・ホフマンはここの学生らしい。
年齢的に、どう見ても学生ではないが。
彼の父親は、赤狩りにあって自殺したらしい。
またパリ。
ロイ・シャイダーがオペラ座で何かの受け渡しをする。
しかし、約束の相手は既に死んでいた。
翌朝、シャイダーはホテルの自室で片目の中国人(?)に襲われる。
何とか相手を倒したものの、彼も手にケガを負ってしまう。
彼は何かの運び屋をしているようだ。
そして、ニューヨーク。
ダスティン・ホフマンが図書館でナンパをしている。
相手の女性も老けていて、到底学生には見えない。
コロンビア大学の図書館は歴史の重みを感じるような素晴らしい内装である。
僕が学生時代に毎日通っていた文学部図書館は、鉄筋コンクリートで味気なかった。
見習って欲しい。
続いてはウルグアイ。
舞台は変わるが、話は展開しない。
ローレンス・オリヴィエが出て来る。
ドイツの新聞を読んでいるから、ドイツ人なのだろう。
ここまで、役者の名前で書いているのは、彼らの役名も何も未だ明かされていないからである。
またまたニューヨーク。
ダスティン・ホフマンが図書館でナンパした女性とデート。
彼女からフランス語を習っている。
彼女はスイス人らしい。
そして、走る。
ニューヨークは寒そうだ。
公園で、ホフマンと彼女は謎の男二人に突如襲われる。
今度はローレンス・オリヴィエが飛行機の中で頭髪を剃り、ハゲに変装してニューヨークへ向かっている。
ただでさえ目力があるのに、老眼鏡で更にギョロ目になっている。
深夜、ダスティン・ホフマンの部屋にロイ・シャイダーが突然やって来る。
何かと思ったら、シャイダーはホフマンの兄貴だった。
弟は、兄貴が関わっている陰謀めいたことについては何も知らないようだ。
翌日、兄貴と弟とその彼女の3人がレストランで食事をする。
その席で、彼女が実はスイス人ではなくドイツ人だということがバレてしまう。
一体、背景には何があるのか。
ドイツとかユダヤとかが深く関わっていることは何となく伺えるが。
ここまでで既に本編の半分(1時間)以上は過ぎているのだが、未だに全体像はさっぱり見えて来ない。
だからと言って、つまらないことはなく、観客も次から次へと押し寄せて来る謎解きに参加させられている感じ。
夜、ローレンス・オリヴィエとロイ・シャイダーが会っている。
この二人は何か関わりがあるのか。
シャイダーは「家族は巻き込むな」と言うが、オリヴィエははぐらかす。
と思ったら、オリヴィエがシャイダーを刺す。
シャイダーが弟であるダスティン・ホフマンの部屋まで血だらけになりながらやって来る。
だ弟に何かを言おうとして、そのまま死んでしまう。
警察が来た。
ホフマンは完全に容疑者扱いである。
そこへ、シャイダーの同僚という男がやって来る。
兄はCIAの関係者で、何かの取り引きにも関わっているらしい。
更に、犯人は必ず弟のところへ来るから、捜査のおとりになって欲しいと頼まれる。
果たして、ホフマンの入浴中、誰かが来た。
ホフマンはドアを占めるが、『シャイニング』のように壊される。
彼は拉致され、謎のアジトへ連れて行かれる。
そこへローレンス・オリヴィエ登場。
彼はナチスの戦犯の残党で、歯医者だった。
ホフマンに「安全か?」としきりに尋ねながら、歯の拷問を行う。
ホフマンが気を失ったところへ、兄の同僚が助けに来る。
まあ、この先にも二重三重の謎解きがあるのだが、この辺で止めておこう。
兄貴が最後にわざわざ弟の部屋に来たから、彼が巻き込まれてしまう羽目になったのだが。
オリヴィエによる歯の拷問シーンは有名だが、直接的な描写はない。
でも、誰でも歯医者で痛い思いをしたことがあるから、それがかえって想像力をかき立てるのだろう。
この作品は、観客も騙し合いに参加しているようなもので、どこまでが本当で、どこからがウソか分からない。
どんでん返しの連続だが、実は巧みに伏線が張ってある。
だから、ずっと注意が引き付けられ、緊張の糸を緩められない映画である。
それにしても、タイトル通り、ホフマンはひたすら走り続けるので、撮影は大変だっただろう。
ニューヨークの街は寒そうだが、都会の美しさが感じられる。
この辺は、さすが『真夜中のカーボーイ』の監督である。
それでも、最後まで解けない謎は残るが。
原作者も監督も出演者もみんなユダヤ系ということで、ナチスに対する怨念を感じる。
ユダヤ人とドイツ人の間の、何とも言えない不穏な空気。
この辺は、日本人にはなかなか分かり難いところだが、昨今の中国や韓国との関係に置き換えれば想像出来るか。
人種対立というのは、目の前に突き付けられると、やはり気分のいいものではない。
本作では、人間の欲望の深さは、よく描かれていると思う。
特に、オリヴィエの演技には鬼気迫るものがある。
1977年度キネマ旬報読者選出ベストテン外国映画4位。